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BALANCE (1)


おこんばんは!ぞうはなです。
さて、1つの話が終わったからとボヤボヤはしていられません。

次のリクエストは(まだ去年の2周年リクエストですが…)くろろ様からいただいたもの!
リクエストお題は「パラレルで、蓮さんが社会人もしくはスーツ。蓮さんがブラックな感じで。」という、リクエスト的にはやや黒い感じなのですが、お話にしてみたらどうにもシリアスにはなりそうになく…
ごめんなさい、どうもぞうはな宅ではキョコさんが走り出すとシリアスにならなーい!
(社さんが出てくると更にダメーー!)

もう諦めて、そのまま突っ走ることにいたします。
先にお断りしておきますが、ぞうはなは"その業界"についても無知のため、完全にご都合主義で書いております。実際とはかなり異なる点が多いと思いますが、ご了承ください。

では、くろろ様、お待たせいたしました。ご希望とは違う形になりそうですが、とりあえず、いってみます!





「ここか」

短く揃えられた口ひげをたくわえた中年の男が見上げたのは、何の変哲もない木造アパート。
無機質にまっすぐ伸びるベランダの手摺の内側には洗濯物が干されていたり、子供用の三輪車が置かれていたり。男はベランダの位置で目的の部屋の様子を確認すると今度は道をゆっくりと歩いてアパートの玄関側に回った。
2階建てのアパートは金属製の外階段がつけられ、その手摺は部分的に塗装が剥げて錆が浮いている。1階も2階も同じ配置で玄関ドアと明り取りの窓が並び、そのドアは蹴破れそうな安普請だ。
男は1階の横の塀にまとめて設置された郵便受けを覗き込んだ。

「まあ、住んでるのは間違いないな」
呟くように言うと、影のようにずっと付き従っている若い男を振り返った。若い男は中年男よりもかなり背が高いため、顔を見ようとすると見上げるような角度になる。
中年の男は光沢のあるグレーのだぼっとしたスーツを着込んでいるが、若い男の方はスリムな黒いスーツで、身長差もあいまって対照的な印象だ。ただ、2人とも一般的な会社員のたたずまいでない事は共通している。

「さて蓮、さっきも言ったが相手は若い女性だ。威圧感を出すような事はやめてくれな」
「はい、椹さん、分かってます」
「あと反対に、愛想良すぎても後で困るかもしれないぞ」
「逃げられる事はないから便利だって、前は仰ってませんでしたっけ」
「お前がいいならいいがな。昨日の熟女はしつこそうだったぞ?」

蓮と呼ばれた若者は長めの前髪に隠れた眉をわずかにひそめた。
「…まあ、なんとかします」
「さてと、じゃあお邪魔するかな」
男は手に持っていた書類をたたんでジャケットの内ポケットにしまいこむと、連れを促して鉄製の外階段を上り始めた。


「キンコン」

小さくベルが鳴る。
ばたばたと出かける準備をしていた最上キョーコは、カバンの中身を確認していた手を止めて顔を上げた。壁にかけられた時計を見ると、時刻は夕方の4時過ぎ。あと20分ほどでバイトに出かける時刻だ。

「はい」
答えながら玄関のドアに向かう。キョーコが住む築30年のアパートにはインターホンなどと言う高級なものはついていない。ついでにドアスコープもないので、キョーコは薄いドアの内側から大きめの声を出した。
「どなたでしょう?」
「LMEファイナンスの椹と言いますがね、ちょっとお話があるので開けてもらえませんか」

LMEファイナンス?

聞き覚えのない名前にキョーコは一瞬首をかしげる。しかし瞬時に数日前に訪ねてきた人物のことを思い出して、小さくため息を吐き出すとドアの鍵を開けた。


訪問先の部屋に通された椹はさりげなく相手と部屋の中の様子をざっと把握した。

目の前の小さなテーブルを挟んでやや怯えたように畳に正座しているのは、長い黒髪をひとつに束ねた少女。いや、書類上の生年月日から計算すればすでに成人している女性だ。化粧っ気がないからだろうか、その顔は少し幼げに見える。
服はシンプルな無地のトレーナーとジーンズ。アクセサリーの類はつけていないし、爪も短く切りそろえられてネイルなどはしていない。傍らに置かれたトートバッグもまた、シンプルで飾り気のないものだ。


…地味だな。

もう一度部屋を見渡しながら、椹は心の中で呟いた。
アパートのこの部屋は手狭だが外見から想像したよりすっきりしている。壁紙は割と最近貼りなおされたのか真っ白で、今椹が上がったこの玄関に面した部屋の奥にはあと2部屋あるようだ。置かれている家具は最低限で、掃除も行き届いて快適なのだが、女性らしい装飾や置物などがひとつもないことに若干の違和感を感じる。

「私はLMEファイナンスの椹と言うんだがね、今日なぜここを訪ねたか、分かっているよね?」
椹は胡坐をかいたまま柔らかい口調で話し始めた。目の前のテーブルに置かれた茶碗を片手で持ち上げると、熱いお茶をゆっくりとすする。
茶碗を元に戻してもキョーコが言葉を発しないのを見て、懐から1枚の書類を取り出してテーブルに広げた。
「君が1ヶ月半前に借りた金、初回の返済期限はとうの昔に過ぎてるんだ。返してもらえなければこちらも困るし、期限を延ばせば延ばすほど君も苦しくなるってことは分かるよね…最上キョーコさん?」

「……はい」
かなりの間を空けて、書類に目を走らせていたキョーコの口からようやく返事が返された。椹は小さく頷くと、書類を人差し指でとんとんとはじく。
「電話をしているうちに出てくれれば、我々もわざわざここまで押しかけるようなことはしなかったんだ。何で無視したんだね?」
「…電話、ですか……その番号、わかりますか?」
椹は少し怪訝な顔をして、もう一枚の紙を懐から取り出した。そしてそこに書かれた番号の数字を読み上げる。
数字を聞くと、キョーコはごく小さく息を吐き出した。

「ずっとかけていたのに出ないし、3日くらい前に解約されたみたいなのでね。ここに来させてもらったんだ」
「そうですね…すみません」
「まあ、こうして直接会えたからいいだろう。他の連絡手段は?」
「…ありません。この部屋は固定電話も引いてませんし」
「それはまいったね」

椹は顎を撫でながら少し考えると、斜め後ろに控えるように座っている蓮を振り返った。
「最上さんの担当はお前に任せようかな」
「…はい」
返事を聞いて椹は再度体をキョーコに向ける。
「今回のうちの返済担当の敦賀だ。今後はこれが君との窓口になる。念のため聞いておくが、今日返せる分はあるかな?いきなり全額は大きいから無理だろうけど」
「ごめんなさい、今日はちょっと…」
「来週では?」

即座に畳み掛けられて、キョーコは壁に掛けられた小さなカレンダーに目をやった。
「来週の初めにバイトの給料日がありますので、来週なら」
「ああそれならそうしよう。なに、慌てる必要はない。返す意志があるならこちらもそれでいいんだ」
「はい、必ずお返しします」
「うん、それ聞いて安心したよ。ああそれから、無理に急いで返そうとしなくていいから。もちろん利子もあるから早く返してしまいたいだろうけど、食べるものや住むところが無くなったらこの先苦しいからね」
「はい、お気遣いありがとうございます」
「来週の同じ曜日のこの時間でいいかな?」
「あー…この時間、バイトでいない事の方が多いので、できれば帰ってきてからの方が…あ、でもちょっと遅いんですけど」
「何時くらい?」
「11時くらい…です」

申し訳なさそうに言うキョーコに、椹はまたもや蓮のほうをちらりと振り向く。
「構わないな?」
「…そうですね、そちらの指定なら問題ないでしょう」

「じゃ、これは置いておくから、まあ返済のペースは来週こいつと話して決めてくれたらいいよ」
椹はキョーコに渡した書類を示し、お茶を飲み干すとよっこらしょ、と立ち上がった。
「お茶ご馳走さん」
椹は玄関でひょいと手を上げると、軽く黙礼した蓮を伴ってキョーコの部屋を後にする。

出て行く二人を深く頭を下げて見送ると、キョーコは頭を戻して深いため息をついた。閉まった玄関ドアをぼんやりと眺めたまましばらく立っていたが、はっと時計を見上げる。
「いっけない、行かなくちゃ!」
テーブルの上の湯飲みを台所のシンクにとりあえず突っ込んでトートバッグを引っつかむと、キョーコはバタバタと自分の部屋から出て行った。


「じゃあ、頼むな。まああの女は大丈夫だろう。脅す必要もなさそうだ。初めての取り立て相手としては最適じゃないか?」
椹と蓮はキョーコの部屋を出ると、近くの路上に停めた車に向かって歩く。椹はすでに次の訪問先のチェックを始めながらさらりと蓮に言った。
「俺一人で担当するって事ですね」
「ああ。真面目にこつこつ働いて無駄遣いしないタイプだ。逃げたりはしないだろうけど一応返せないときでも定期的に様子見はしてくれな」
「分かりました。けど、少し不思議ですね」
「ん?何がだ?」
蓮の言葉に椹は書類から顔を上げる。
「今の女性、俺も椹さんと同じように思ったんですけど、そもそもああいうタイプの人間は、金を借りる事もよしとはしないような」
「ああ、まあな。ただ、事情があれば別だろう」
「事情、ですか」
「そうだ。あの部屋、男と住んでそうだ。まあほぼ間違いなく金も男のためだろう…ああいや、男の方が主導で金借りたのかもしれないな」
「…なんとなくそれは納得がいきますね。彼女、自分が金借りた自覚なさそうでした」
「だがその割には落ち着いてたな。おそらく他にも借金があって、そっちの返済をすでにしてるかな?」
「調べますか」
「ああ、ざっと見といてくれ。どちらにせよ、こちらとしては貸した金が戻ってくればそれでいい。幸いあの子は返す意志はあるようだしな。まあ追い詰めないように、頼んだぞ」
「…わかりました」

キョーコが全速力で自転車のペダルを踏みこむのとは反対方向に向かい、2人の男は黒塗りの車に乗って走り去っていった。


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