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Break The Spell (27)


こんばんは!ぞうはなです。
次で最後、と言っておいてがっぽり空きましたーー。すみません…
そして今回でおしまいです。長らくのお付き合い、ありがとうございました。
blue様、リクエストをありがとうございましたー。





「おはようございます!」

元気のいい挨拶の声が響く。
声の持ち主のタレントは通り過ぎるスタッフやタレントに挨拶をする際にはしっかりと頭を下げ、相手の目を見てにこりと笑みを浮かべる。一緒に隣を歩く女優は、ひとつため息をつくとぼやくように呟いた。
「ほんと、バカ丁寧なのは変わってないわね」
「何が?」
「別に」

きょとりと横を見たタレントはすぐにニヘリと表情を崩すとスキップせんばかりの軽い足取りになる。
「それにしてもモー子さんとお友達共演なんて、嬉しいな♪」
「お友達ったって、お互い出演ドラマがもうすぐ最終回で番宣で呼ばれただけじゃないのよ」
「えぇ~~、でも私たち"本当の親友"じゃない」
「はいはい、なんでもいいわよ全く。相変わらずお目出度いわねあんたは」
否定も皮肉も横を歩くキョーコには通用しないらしい。琴南奏江は苦笑気味に顔をゆがめると「ま、いっか」と口の中で呟いた。確かに隣でニコニコしている最上キョーコは、デビュー以来切磋琢磨しきつい上り坂を進んできた仲間に違いない。

「そろって卒業で問題ないな?」
つい数日前に受けた社長からの問いにも、素直に頷けた。自分がここまでやって来られたのはキョーコの存在も大きかったと思うと、先に卒業だなんて考えられなかった。だから一緒にラブミー部を卒業するのは奏江にとっても希望通りだ。キョーコにはそんなこと言わないが。
ただ、ラブミー部1号2号の称号がなくなることがちょっと寂しいなんて思ってしまったのは一時の気の迷いだろう。そうに違いない。

「あー、ふたりともおはよー。今日はトーク番組に一緒に出るんだったね。時間かぶるとは思ってたけど会えてよかった」
行く先から明るい声がかけられた。奏江が顔を上げれば、向こうからは満面の笑みの社と、その少し後ろには黒髪の俳優がこちらに向かってきている。ふたりのマネージャーを外れた社だが、いまだにかなり正確にスケジュールを把握し、あれこれ気にかけてくれ続けている。それはありがたいのだが、ただでさえも蓮のマネージャーとして忙しいのに大丈夫だろうかと心配にもなる。それも自分たちの後任のマネージャーが決まれば解決するのかもしれないが。

「おはようございます」
奏江とキョーコは揃って頭を下げるが、奏江が頭を上げたときには蓮は隣に並んだキョーコのすぐ前にいた。

いつの間に!?と驚くことも奏江はしない。蓮がこの隣の女性のためには恐るべき身体能力を発揮する事は既に知っている。先日初めて見たときはそれはそれは驚いたものだったが。
「今日は大人っぽくメイクしたんだね」
「あ、これドラマの役に合わせてるんです」
「なるほどね」
ふたりの交際はまだ公にはしないのだと言っていたが、無邪気な笑みを蓮に見せているキョーコ自身は分かっているのだろうか。この超人気俳優がここまで自分から近づいてここまで甘い笑みを向ける相手は、芸能界内外を広く見渡してみてもただ一人しかいないって事を。
「うんとてもキレイだ。撮影頑張っておいで…あとでまた連絡するね」
「んも~~、また…敦賀さんもちゃんとご飯を食べてから頑張ってくださいね」
うっすらと頬を染めたキョーコの頭に ぽんぽんと手を乗せて、一段と甘い笑みを残して蓮は去っていく。

「あんたそれで内緒にしてるつもり?」
言わないつもりだったが、キョーコまでもがつられて恥ずかしげな笑みを浮かべているのを見て、思わず言葉が口をついて出る。するとキョーコは慌てて表情を戻してまた奏江に並んで歩き出した。
「だ、大丈夫よ、他の人がいるときはちゃんとしてるから」
「私は"他の人"じゃないわけ」
「事情を知ってる人の前まで余所余所しくしなくていいよねって敦賀さんに言われたから…」
とはいってもここはテレビ局の廊下だ。幸いそばに他の人間はいなかったが、どこで誰に見られているかは分からない。大体、"事情を知っている人"だってなんだかんだで徐々に増えているではないか。
こうやってなし崩しに、その内誰の前でだって馴れ馴れしくするようになるのも時間の問題だろうか。それとも案外そういう方面には固いキョーコが頑張るだろうか。しばらく様子を見るのも他人事なら面白そうだ。


ふたりがスタジオへの道を進んでいると、後ろからキョーコの頭がぽかりと叩かれた。叩いたのは丸められたパンフレット…を持っている男だ。
「いたっ」
キョーコが立ち止まって振り返ると、そこには仏頂面のキョーコの幼馴染が立っている。

「まーたアホ顔で歩いてやがる、相変わらず芸能人の自覚ねーな」
「なによ、見てもいないくせに」
「へ、見なくてもわかるっつの。今あいつとすれ違ったばかりだからな。上っ面の笑顔で挨拶なんかしやがって、まあ相変わらずのペテン師だぜ」
「またあんたは…少しは先輩に対しての敬意を払いなさいよっ」

息をするようにテンポよく交わされる会話はさすが長い付き合いと言えるものだ。
キョーコは眉をしかめているが、音楽業界トップと言われている人気アーティスト不破尚に話しかけられてこんな顔をするのは、芸能界内外を広く見渡してみてもキョーコくらいだと、奏江は冷静に考える。

「あの男大丈夫なのかよ。また浮気するかもしれないぜ」
「"また"って何よ!あの人はそんなことする人じゃないわよ、あんたと違ってね」
「ああワリィ、あのなんとかって女優は本気だったんだな、振られてヤケになっておめーみてーな女でもなんかの慰みにって…」
「相変わらず阿呆が熟成されてるわね…人のことなんてどうでもいいからとっとと行きなさいよ!」
「へいへい…あ、これ、渡しとく」

尚は、手の中で丸まった紙を今思い出したと言わんばかりにそのままずいとキョーコの方へ突き出す。
「何これ」
「来月からドームツアーやるから。来るっていうならチケットを取ってやらねえ事もねえ。プラチナチケットになることは間違いないけどな」
「バカ、行かないわよ」
「2枚までならいい席取れるぜ」
「いらないってば。あんたのコンサートなんて興味ないし」
「あ、そ。まあ持っとけ」
「そんな大事なイベントあるなら、くだらない事してないで全力で準備しなさいよ。中途半端なことしてお客さんを失望させるんじゃないわよ」
噛み付くようなキョーコの言葉に、尚は口の端を少しだけ曲げて笑う。
「言われるまでもねえよ」
挨拶もなく言い捨てると尚はくるりと背中を向けて去って行った。廊下の角まで歩いた辺りで慌て顔の祥子が飛び出してきたところを見ると、どうやら尚は自分のマネージャーをまいてここに来たようだ。


「ったくあいつはいつまで経っても意味不明だわっ!」
ぶつぶつとキョーコは眉間に皺を寄せたまま怒っているが、横にいる奏江には尚の気持ちが分からなくもない。いや、普通なら勘付くだろう。キョーコが鈍すぎるのだ。あるいは自分を一度は捨てた幼馴染が自分を想うなんて、報われなくとも接点を持ち続けたいと未練たらたらだなんて、相手が少しでも自分のことを気にしてくれたら嬉しいと思うなんて、想像もしないのかもしれない。

けど別に、私がなんかしてあげる義理もないし。

奏江はごくごく冷たく結論を出すと尚の事には一切触れず、キョーコを促して歩き出した。

目指すスタジオはすぐそこだ。すでに撮影の準備は終わり、派手な装飾のされたトーク用のひな壇と椅子、ネームプレートなどが並べられ、司会者がスタッフと打ち合わせをしている。

周囲に挨拶しながらふたりが中に入ると、すぐに横から男がひとり駆け寄ってきた。
「京子ちゃん、奏江ちゃん、おはよう」
「貴島さん、おはようございます」
「おはようございます」
貴島秀人はキョーコが出演するドラマで共演しているため、キョーコ達と同じトーク番組に出演するのだ。

挨拶をすませると貴島はキョーコの顔を覗き込む。
「もう少しで撮影も終わって京子ちゃんに会えなくなっちゃうと思うと寂しいなあ」
「そうですね」
「お、京子ちゃんも寂しいと思ってくれてる?」
「ええ、今の撮影チーム、とても一体感があって温かくて好きでしたから、終わっちゃうとちょっと寂しいです」
爽やかに返事を返されて、がくり、と一瞬貴島の左肩が落ちたように奏江には見えた。しかし貴島はすぐに持ち直す。

「終わる前にさ、ふたりでささやかな打ち上げしない?京子ちゃん前に一緒に行ったあの青山の店のピザが美味しいって言ってたじゃん。実はあれを上回る店を見つけたんだよね」
「はあ」
キョーコは曖昧に返事をすると、少し困った顔で貴島を見つめる。それから少し逡巡して、恐る恐ると言った様子で言葉をひねり出した。
「あの、貴島さん…その、お誘いはありがたいんですけど、折角ですしピザのお好きな青田さんとか丸山さんとご一緒しませんか?」

共演者の名前を出されて貴島はしばし黙ったが、上目遣いで自分の反応をうかがうキョーコを見ながらすぐににっこりと笑顔を作る。
「うん、じゃあ皆で行こうか。明日の撮影の時に声かけるよ」
「ありがとうございます!」
ほっとして笑顔を作ったキョーコに、貴島は少しかがんで顔を近づけた。
「他の男と2人で出かけるの禁止されてるの?」

ぽそりと聞かれ、キョーコはあわあわと手を振り回す。
「いえっききき禁止とかそういうのではなくて、その、あの、じ……自主規制です!!」
顔を赤くしてそれでも言い切ったキョーコに、一瞬の間をおいて貴島と奏江が同時に吹き出した。

「自主規制ってあんた…!」
「分かった分かった、京子ちゃん、よく分かったよ…あはは、やられたな」
貴島は笑い、そのタイミングでADに呼ばれて「今日の収録もよろしくね」と言葉を残して去っていく。そろそろひな壇にマイクをつけた出演者が上がり始め、収録が始まりそうだ。

この子本当に怖い子よね…
なんだかんだでこの業界の人気者たちを惹き付けて…結構本気にさせてるのよね…
しかも全く本人に自覚がないところが危ないところだわ。
これからも新しい男が寄ってきそうだし、敦賀さんもこの先、苦労するんだろうな。
まあでもいいわよね、何年もこの子に寂しい思いさせて私もイライラさせた代償よね。

奏江はそんなことを考えながら小声でキョーコに話しかけた。
「まあなんにせよ、あんたとあの人がようやっとまとまって良かったわよ」
キョーコは赤面してしまった顔を落ち着けるように両手で頬を挟みながら情けない顔で奏江を見る。
「ようやっとって…」
「ようやっとよ。お互いになんか呪いでもかかってるのかって位近づかないんだもん。見てる方がイライラしてたんだからね」
「え」
「その状態でまさか敦…あの人がアメリカに行ってスキャンダルになるなんてホント最低だと思ったし」
「モー子さん…」
「帰ってきてからもモタモタしてたら、どっかで蹴飛ばそうかと思ったんだけどね。まあ良かったわ。一応あの人もそれなりの男だったってことで」

言い放ってキョーコを見れば、なぜだかキョーコは目をウルウルとさせて奏江を見ている。
「モー子さん……ありがとう!!」
「きゃっ!何なのあんた~!」
泣かせたかも、と焦った瞬間ひしりと抱き付かれて、奏江はうっかり払いのけるタイミングを逸した。
「そんなにずっと見てて心配してくれてたなんて嬉しい!!」
「バカキョーコ!ちょっとあんた、抱きつくならあの人だけにしなさいよ!」
「ううん、やっぱりモー子さんは一番の親友だわ!!」
「ん、もーーーーー!!」

奏江は絶叫し、2人にマイクをつけにきたADは傍らでオロオロし、貴島は「やっぱり京子ちゃんは京子ちゃんだなあ」と苦笑する。
しかし熱き抱擁は、奏江の渾身の張り手でキョーコが吹き飛ばされて終了したのだった。

(おしまい)

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