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君の魔法 (19)


こんばんは!
どんどん寒くなってきました。

ご訪問ありがとうございます!
なんだかバタバタしていて遅くなりましたが本日も更新します。





「現在の事件が全て解決したら、自分のこれからについて、少し考えてみようかと思っています」

ヒズリは少し驚いたような顔でレンを見ていたが、ふむ、と一つ頷いた。
「ビーグール家の件で、やりにくさを感じたのか?」
「それは…全く無いとは言い切れませんが、あまり気にしてはいません」

ご丁寧にヒズリのところにまで、無名の奴にのさばらせるのは危険だと、忠告しに来る貴族はいた。実力のある者の脚を引っ張る暇があるなら自分の身を振り返れと一喝したのだが、風当たりが強いのは仕方のないことだろう。
しかしレンはそんな中傷には全く目もくれず、しっかりと職務に当たっている。ヒズリの目からも、それほど苦にしていないように見えた。

「俺は…あなたの息子という立場から抜け出して、自分の実力だけでやりたいと我侭を言って、レン・ツルガの名前をもらいました。…その選択が間違っていたとは、今も思っていません」
「腕試しは、できたか?」
「…試した、というと語弊がありますが、自分の実力だけでやっていくという目標は、徐々に達せられつつあります」
「私も、親の欲目を抜きにしても、お前はかなりの速さで自分の力をつけて、その地位を確立してると思うぞ?」
「ありがとうございます。しかし、最近何か違和感を感じるようになりまして」
「違和感と言うと?」
「ヒズリの名の元にいることを拒否する事は、逆の意味で俺が家柄と言うものに拘り過ぎているのではないかと」

そういう考えもあるか、とヒズリは顎をなでながら考えると、顔をレンに向けた。
「しかし私は、前から言ってる通り、お前はレン・ツルガであってもクオン・ヒズリであってもお前である事は変わらないと思うぞ」
その言葉を聞いて、レンはふわりと笑った。
「俺も最近、自然とそういう心境になってきた気がします。…今までは、理屈で分かってはいてもなかなか腑に落ちなかったのですが」
ヒズリはそんなレンを見て対照的ににやりと笑う。
「その急な心境の変化は、どこからきたんだ?」

う、とレンは一瞬言葉につまるが、ヒズリの顔を見る限りすっかり先を読まれているんだろうという気分になって、やや諦め気味に素直な気持ちを語った。
「急ではなく、ずっと考えていたことではあります。ただ……与えられた立場や環境に抗って自分の足で立とうと頑張る人に、影響を受けたのは確かです。そして、その人に対して本当の自分を晒してみたいと思ったことも」
「ほう。お前がそれほどに人に影響を受けるとは、珍しいな」
「自分でも、そう思います。それだけではなく、自分の知らなかった自分の情けない部分も結構思い知らされてます」
ため息混じりにレンは言った。どうも、自制できなかったり感情的に振り回されたりすることが最近多すぎる。

「そうだな、お前が職務中に動転するほどの影響を与える人間は今までいなかった。…父親としては少々妬けるかな」
ご冗談を、とレンは笑ったが、急にヒズリは表情を改め、声をひそめた。
「で、どうなんだ?色よい返事はもらったのか?」
「…なんでいきなりそうなるんですか」
「もしかして、まだ返事をもらえてないのか?」
「返事も何も、まだ意思表示すらしてません」
「……!!何をぐずぐずしている!昔の、あの手の早いお前はどこに行ったんだ!」
「人聞きの悪いこと言わないでください!そもそも誰が手が早かったんですか!…言っておきますが、あなたからキョーコには欠片も今日の話をしないでください。匂わすのもダメです!」

言ってから、はっとレンは気がついた。
ヒズリはにやにやとレンを見ている。
「大丈夫だ、俺もしっかり相手は分かってたからな。あの子以外は考えられん。本当にお前はキョーコが絡むと落ち着きをなくすな。…素直でいいぞ」

「失礼します!」
ドアを叩きつけてレンは部屋を後にしたが、ヒズリはドアを閉める直前のレンの耳が赤かったのを見て、しばらく愉快そうに声を上げて笑っていた。
「くくく…あれは、レンじゃないな。完全に、クオンの奴だ…」



男二人の会話の中心になっているとは露知らず、キョーコは城門へ続く石畳の道をのんびりと1人歩いていた。
上空にはぽっかりと浮かんだ満月が、白い光で夜の町並みを照らしている。

ツルガ様の顔をしっかり見るの、久しぶりだったなぁ~

キョーコはレンの言いつけ通り、1日しっかり休養したが、復活してみれば近衛隊は内部の不祥事に大騒ぎになっていて、レンもヤシロもあわただしく飛び回っていた。キョーコ自身もテンに捕まって、マリアとともに様々な教えや注意を受けている時間が多かった。

今日のレンは昼間もヤシロと事件の話をしていたし、夜までヒズリのところを訪ねたりもしていた。

少し疲れているように見えたけど、大丈夫かな…
でも、普段あまり食堂で食べてるところ見たこと無かったけど、今日はしっかり食べてくれてよかったな。美味しいって言ってくれたし…

そこまで考えて、ヒズリに言われた「私の息子なんかどうだ?」という言葉がよみがえる。

ヒズリ様の息子さん…話は何回か聞いたけど、どんな方なのかしら。…会った事も見た事もないのにいきなりそういう話って飛びすぎよね。ヒズリ様も冗談で言ったんだろうし。
それに、それに私は……

急にキョーコは立ち止まって、ぺたんとおでこを押さえる。レンの唇の当たった感触を、まじまじと思い出してしまった。

「なんで今それを思い出すの??」

元気になる魔法だと彼は言ったけど…

「ああもう、なんだか違う怖い魔法にかかっちゃう気がする…」
結婚なんかしないと、男になんて頼らないと、ずっと言い続けてきたのに、最近その話題が出ると頭を掠めるのはただ1人の男の顔だ。よりによってどうしてああも高嶺の花にそんな思いを抱いてしまうのか… 自分で恨めしく思う。

それもこれも全部レンが悪いのだ。とキョーコは今度は責任転嫁をしてみる。
あんな優しい顔で微笑みかけたり、力になりたいと言ったり、おでこにキ、キ、キキキスなんてされなければ、そんな気にならないのに!

「他の女性たちにもそれはもう麗しい笑顔で接してるし!もてるし、プレイボーイなのよねきっと!ああもう、だまされるところだったわ!」
無理やり結論付けて、キョーコはずんずんと歩き出した。そんな風に考えても、自分の気持ちが変わるわけではなかったのだが。

ふと、キョーコはぞっとする気配を感じて振り返った。夜の屋敷町は静まり返って道には誰もいないが、誰かに見られている気がする。きょろきょろしながらキョーコが警戒をしていると、すぐそばで声がした。
「やぁ、こんばんは」
ひゃあっ!と驚いて振り向きながら飛び退る。同時に剣の柄に手をかけているのは訓練のたまものだ。

「誰!? ……あなたは…」
月の光に照らされた青白い顔は、元々幻想的な男の顔をこの世のものではないように見せている。
「レイノさん?今までどこに?」

レイノはくくっと笑うと、キョーコに近づいてきた。思わず後ずさるが、遠慮なく間合いをつめる。
「人の多いところの方が見つかる可能性は下がる…」
「町にいたってこと?ミロクさんは?」
「そこだ」
レイノが指差した方向に、いつの間に来たのか、塀にもたれてこちらを見ている長髪の男が見えた。
「町だって、全部捜索したはずなのに…」
「あんなの、住民の協力あってのものだからな」
「誰かがかくまってたの?」
「ふん …適当に言うこと聞く人間なんて、いくらでも作れる」
レイノはつまらなさそうに言うと、ちらりとミロクを振り返った。
「俺はそんな話をしに来たんじゃない。キョーコ、お前に用事があるんだ」

キョーコ?今呼び捨てされた?ほとんど話した事もないのに!

「用事って、なんですか?」
剣の柄にかけた手を外さず、かなり警戒しながらキョーコは聞いた。しかし、次の瞬間レイノの目に射竦められたように体の自由が利かなくなった。

何これ?体が動かない…報告を聞いた、あれか!

キョーコは体に力を入れて頑張るものの、固まったまま指を動かすことも出来なかった。
するとレイノは顔に妖しい笑みを浮かべた。
「いい子だ…ここじゃ落ち着かないから、少しついてきてもらおうか」
今度は足が勝手にレイノのあとについて動き出す。

なんなのこれ!!どうしたらいいの?

キョーコは心の中で叫びながら、傍からみれば従順に、二人に続いて1軒の屋敷へ誘われるように吸い込まれていった。


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