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Break The Spell (25)


こんばんはー!ぞうはなです。
なんとかかんとか続きです。





「やっぱもったいないってぇ。いやぁ、信じられないね」
貴島と蓮の前には3杯目、いや、4杯目か。焼酎の入ったロックグラスが置かれている。貴島はふるふると頭を振るとグラスの中身を飲み干し、ちょうど通りかかった店員に「同じのお代わり」とグラスを振りながら声をかけ、タンッと音を立てて机に置いた。

「世界的な女優に好かれてるのに手も出さないなんてさーー。ああ、もったいない」
「もったいないとは言うけどね…」
蓮は貴島に根掘り葉掘り聞かれ、アメリカでのサーシャとの付き合いを語ったところだ。もっとも蓮自身は何もない、と言い切っているのでそれほど語るべき言葉はないのだが、写真を撮られた経緯やその関係がどこまで進んでいたのかなどまで白状させられている。

「好意を持たれたって理由だけで手を出すのも…その後を考えたら不誠実だろう」
「それは敦賀君がサーシャに気持ちがないって前提だろ?大体、揺らがないわけ?あんないい女に好きだって言われて」
「気持ちは変わらなかったな」
「うっそぉ。もしかして、実は男の方が好きなの?」
「それはないと断言するよ」
蓮は苦笑気味に笑うと、こちらもぐいっとグラスの中身を飲み干した。ちょうど貴島の新しいグラスを持ってきた店員に尋ねられ、蓮もお代わりを頼む。

蓮も貴島も顔色は一切変わっていないが、かなり速いペースで焼酎を飲みすすめている。そのためか段々と二人の言葉は取り繕いのないものになってきているようだ。
「揺らがなかったのは、もう心に決めた人がいたからだって、そう思うよ」
「それって日本に置いてった彼女ってこと?」
「彼女でも、何かの約束をした人でもない。ただ俺の心に居座って、おそらく二度と出て行くことはないだろうと思う女性がいるだけだ。本人の知らないところでね」
「ひゅう。言い切ったねえ。ずばり、誰だよそれ?」
「…多分、貴島君が思いついた人で合ってるよ」
貴島はまじまじと蓮を見つめたまま、ゆっくりとグラスを傾けた。

「俺が思いついた子は一人しかいなくて…それが合ってるとすれば俺はあれこれ詰問されても殴られても仕方ないかな?なんて思うけど」
蓮は焼酎の新しいグラスを受け取ると、ちらりと横の貴島を見てからゆっくりと手の中でグラスを回す。
「いや…帰って来て相手に話を聞いて、それでちょっと君と話をしたくなった。もちろん詰問したりはしないよ。俺にそんな権利もない」
「なんだ、もう本人から話聞いちゃった?」
静かに頷いた蓮を見て、貴島は「あーあ」とわざとらしくため息をついた。
「だから敦賀君、いやに落ち着いてんのかー。もうちょっと引っ張りたかったのにな。あの子、バカ正直に事情を話しちゃっただろ?」
「弁解してくれた、て感じだったよ」
「何それ。誤解されたくなくて?やっぱり敦賀君のこと特別に思ってたってこと?」

あーー、と蓮が驚いたように自分を見るので、貴島は「なに、どうしたんだよ」と声をかけた。
「いや、なるほど、そういう捉え方もあるか」
「むしろ他に捉え方はないと思うけど…」
「いや、彼女俺に怒られると思って必死だったと感じたから」
「なんで敦賀君に怒られるの?」
「あの子はデビュー当時から恋愛を嫌悪してて、二度と恋愛なんてしないって俺に宣言したんだ。だからその宣言を破ることで、俺に怒られることを恐れてた。少なくとも以前はそうだった」
「なんじゃそりゃ…やっぱり君達の関係って変わってるよなあ」
「まあ俺は…単純に嫉妬してただけなんだけどね。彼女に近づく男に」
「何か今日は随分と素直だな、敦賀君」
感心したように貴島に顔を覗き込まれ、蓮は苦笑した。

「アメリカで全部吹っ切ってきたからね。誤魔化すのは止めたんだ」
「そうかあ…でも本当、俺はふたり見てて不思議だったんだよなあ」
貴島はグラスを持ったまま思い出すように顔を上に上げた。
「敦賀君にはなんとなくにおわすような事を言われたから、そうなのかなって思ったけど…あの子の言動からは君を尊敬してるってことしか伝わってこなかったんだよね。それで、敦賀君がアメリカに行った後会った時に様子を伺ったら、なんとなく違ってたんだよな」
「違ってたって?」
「急に大人びちゃったっつーか、なんかこう、ガードが一段固くなったっつーか。うまく表現できないけどね。だから俺、君がアメリカに発つ前になんかアクション起こしてたのかななんて思ったんだけど」
「いや……」
「じゃあやっぱり彼女の中でなんかあったんだろうな、君がいなくなることで」

蓮は無言でグラスを傾けた。それから貴島の横顔を眺めると重そうに口を開く。
「貴島君は…彼女の事をどう思ってる?この3年間、きっと君が一番彼女のそばにいたはずなのに…そう、君こそ彼女に手を出さなかった」
「だぁって、君とサーシャと違って、彼女は俺に惚れてないもん」
茶化すように言い返してから、貴島はふいと真顔になった。
「あの子は不思議だよな。俺も最初は結構軽い気持ちだったんだけどさ。ちょっと遊びじゃ手を出せないほど真面目で、ウブでさ。だけど俺の話でも真剣に聞いてくれて、なんでも一所懸命で話してるだけで元気が出るって言うか。その上たまにとんでもない事言い出したりするし、やる事はちょっとずれてるし、ありゃ本当に天然だよな」

貴島は軽く笑うとグラスの中身を喉に流し込む。
「いい子だよ。最近はいい女になってきた。…たまに見せる彼女の表情がなかったら、とっくの昔に本気で口説いてた……かな?」

にかりと笑う貴島に、蓮は呆気に取られたようにしばらく無言だった。
「結局口説いてないのか?」
「敦賀君は経験あるかなぁ。あの子に好意を見せても、気持ちいいくらいに空振りするぜ。あれは結構虚しかった」
「ああ…」
落ち込むように同意した蓮に、「同志か」と貴島は少し嬉しそうだ。
「ちょっとやそっとおだてても『もしかして?』なんて自惚れてもくれないし。たまに話の流れで敦賀君の名前が出ると一瞬辛そうな顔するし。攻めあぐねてる間に君が帰ってきちゃったよ」
「俺のせい?」
「…正確には違うな。結局俺はこの数年であの子を振り向かせられなかったってことかなぁ」
「そうか…」
貴島は蓮の表情を伺った。無表情に見えるが、サングラスの奥の目がうっすらと笑っているようにも感じられる。貴島は大きく振りかぶってバシリと蓮の背中を平手打ちした。
「で!どうなんだよ、吹っ切ったんなら当然、告白したんだろ?」
「ああ、まあね、気持ちは伝えた」
「それで、返事は?」
ぐい、と貴島が顔を寄せて、蓮は気持ち体を後ろに引く。

「うん、一応前向きな返事はもらえたけど」
「…なんでそう、はっきりしないかな」
「色々と事情があってね。しばらく時間はかかるだろう。まあ、焦らずゆっくり受け入れてもらえればと思ってる」
「よく分からないけど、たとえばサーシャとの事をまだ疑われてるとか?」
「あーー…そこはなんとか納得してもらったけど…他にもあれこれとね。女性関係ではないけど」
念を押した蓮に、貴島は憮然とした表情で腕を組む。
「ふん、どっちにしても俺は振られたってことか?」
「まだ彼女から全面的にOKの返事はもらえてないと俺は思ってる。今後の俺の行動次第、ってところかな?けれど君には伝えておきたかったんだ。俺は今後、彼女に受け入れてもらえるように努力する。たとえ君や他の男がライバルであっても、譲る気はない」
「宣戦布告って事?」
「ああ」

ゆっくりと頷いた蓮に、貴島はふっと表情を崩した。
「よく分かった。…けど、敦賀君を喜ばせたい訳じゃないけど、きっと君が勝つな」
「そうかな?」
「うん。言ったろう、攻めあぐねたって。今こうやって敦賀君と話してはっきりした。それはあの子が誰かをずっと追いかけていたってどっかで気がついてたからだよ。よかったな、敦賀君。あの子は君が帰ってくるのをずっと待ってた」
蓮は少し考え込むと、小さくため息をつく。
「そう言われると嬉しいけど…彼女には随分と長い間、辛い思いさせてしまったな」
「大丈夫だよ、俺が慰めてたから」
からからと笑う貴島をちろりと睨み、蓮はまた酒を飲む。

「そういえば、君のせいだね。あの子の切り返しがやたらとうまくなったのは」
「飲みこみいいよなー?しかも天性の女優だぜ、他の男もばっさりだった、いや気持ちいいくらい」
「余計なことしてくれたよね」
「なんで?もしかして敦賀君、やりこめられたのか?」
「…生きた心地がしなかったよ」
「はははは。なんだ、敦賀君案外尻に敷かれるタイプかもなー。2人の掛け合い見てみたかったな」
お代わり二つ!と店員を呼びとめた貴島は上機嫌で、蓮はやや渋い顔だ。

「当然ながらここは敦賀君のおごりだよな?」
「構わないけど、何が"当然"なんだ?」
「そりゃーほら、君幸せな人、俺傷心な人」
「……」
「ひどいな敦賀君、俺だって傷ついてるんだよ」
2人は翌日も仕事があるはずだったが、結局蓮は貴島の深酒にしっかりと付き合ったのだった。


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