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Break The Spell (24)


おこんばんは!ぞうはなです。
ほんの少し短めですが、きりのいいところで載せます。





「蓮~~、そろそろ降りてくれって」
「分かりました」

短い会話はロケ中のホテルの一室でなされた。
スーツを隙なく着こなした美形のマネージャーと、それを上回る美形の長身俳優のコンビは再結成されてから1週間が経っている。3年以上のブランクなど微塵も感じさせないツーカーのやり取りは現場ではおおむね好意を持って受け入れられていたのだが。

「お前この仕事すごい喜び勇んで請けただろう」
「なんでですか?仕事は仕事です、喜ぶだの悲しむだのはありませんよ」
「まあ仕事は仕事だろうけど、いい機会だもんなあ」
「社さん、回りくどい言い方は止めてはっきり言っていただいていいですよ」
「ううん、お前もう分かってるだろうからいちいち言わない」
「妙に突っかかりますね…」
「どうせそんなのどうでもいいくらい幸せだろうが」
「社さん……」
コンビが復帰してからこっち、蓮は若干のやりにくさを感じていた。
アメリカにいる3年の間、迷惑や心配をかけた自覚があるので蓮は受け入れているのだが、どうにも社の溜まりに溜まったうっぷんをどかどかとぶつけられているようでいつこれが落ち着くのかと考えると少しため息が出る。

しかし、社はにこりと笑顔を作るとやや突っかかり気味だった口調を改めた。
「まあでもよかったよ。俺だってへこんでるお前には何も言えないからな」
「またその話ですか」
「だってあっさりOKもらいやがってさ。よかったけど、キョーコちゃんが悩んだ分ぐらいお前もへこめば良かったんだよ」
「俺だってこの何年かは十分悩まされましたよ」
「へぇ~、…と、その本人来たぞ」
「本人って…俺が悩んだのはそれだけじゃありません」
「けど、インパクトは一番でかかっただろ?」
ぼそぼそと隣同士で会話をしながら撮影現場である吹き抜けのホテルロビーに降りた2人は、ロビー中央に作られた豪華な階段の下に共演者の姿を見つけた。


「おはよう、敦賀君。悪いね待たせちゃって。予想以上に前の仕事が押しちゃってさ」
「貴島君、おはよう。いやそれほど待ってない、大丈夫だよ」
親しげに話しかけて来たのは貴島だ。
黒いレザーのぴったりとしたスーツをまとった貴島と、ルーズなシルエットの白いジャケットとパンツを身につけた蓮は近づくと対照的だ。美形ふたりが並んで談笑する画に、周囲の女性スタッフからも思わず感嘆のため息が漏れる。

「そう?いやー、復帰早々一緒に仕事できて嬉しいな」
「俺も声かけてもらってありがたいよ」
「敦賀君が戻るって聞いた瞬間にこの企画立ち上がったらしいぜ。なにせ3年以上ぶりだもんな、このCMシリーズ」
「そうだね。とはいっても前回はオフィスのシーンだったのに今回はまただいぶ違うね」
「だなあ」

撮影準備に走り回るスタッフの中で雑談を続ける二人のもとに、華やかなピンクのワンピースを着た少女がひとり、近づいてきた。
「貴島さん、敦賀さん、橋本美久です。本日はよろしくお願いいたします!」
ぶん、と音が出そうな勢いで深々と頭を下げたのは、新人の若い女優だ。やや緊張した面持ちで挨拶に来た女優に、二人はそれぞれ言葉を返す。
「こちらこそよろしくね」
「美久ちゃーん、いいね、可愛く決まってるねぇ。頑張ろうね」
「は、はい、頑張ります!」
緊張を少しだけ和らげて笑顔を浮かべると、新人女優はマネージャーに促されて監督の元へと去っていった。その後姿を眺めながら、貴島が蓮に声をかける。
「初々しいねぇ。まだ16歳だって?京子ちゃんもDARK MOONのいっちゃん初め、あんな感じじゃなかった?」
「そうだったかもしれないね。やっぱり緊張していたのかな」
「美久ちゃんもこのCMで出世するといいな。そしたら彼女が大成したときに『あのCMのおかげで』って感謝されるかもしれないし。最初の頃の共演者って印象に残ると思わない?」
「はは。けどCMだと撮影は1日で終わっちゃうから印象はどうだろうね」
「そうか、やっぱり共演するなら連続ドラマの方がいいかな。いやでも1日でも印象深けりゃ…」
真剣な顔で腕を組んで考え込んだ貴島に、「変わってないね」と蓮はやや呆れ顔で呟く。すると貴島がふと顔を上げて蓮を見た。

「そいや敦賀君。今日の夜ヒマ?折角だからさ、飯食いに行かない?」
「…実は俺も、君を誘おうと思ってた」
「珍しいな、敦賀君がそんなこと言うの。俺、色々敦賀君に聞きたい事があって」
「うん、俺も話したい事がある」
「じゃ、決まりな」
少し後ろに立っていた社が何か言いたげに蓮を見たが、蓮もちらりと社を見返しただけで言葉は交わさない。簡単に約束は成立し、そして間もなくCM撮影は開始された。


「ここ、ここ」
店内を見回した蓮は軽く手を上げた貴島に気づくと、案内しようと声をかけた店員に礼を言って席の間を進んだ。
「おまたせ」
「いや、時間通り。さすがだね」
「しかし貴島君のチョイスとしては意外だね、この店」
「そう?だって君帰ってきたばかりでこういう日本の食に飢えてない?」
「まあ確かにこの系統はものすごく久しぶりだけど」

貴島があとからやってきた蓮を迎えたのは、都心の繁華街にある焼き鳥屋のカウンターだった。焼き鳥屋としてはやや高級な雰囲気の店内はすっきりとしたインテリアで洗練されてはいるものの、立地とメニューの内容、または平日の夜遅めという時間帯によるものか、周りは中年の男性が多い。
貴島と蓮の座る斜め前では板前が忙しく焼き鳥を焼いて香ばしい匂いが漂い、店員の元気な声と談笑する笑い声で店の中は騒がしい。

「変に静かな店より話がまわりに漏れないしさ」
「それはそうかもしれないね」
蓮は頷いて椅子に腰を下ろした。すぐにやってきた店員からおしぼりを受け取りながら「ビールを」と注文し、薄めの色がついたサングラス越しにさりげなく周りを見回す。
周りに気が付かれているのかどうか分からないくらい蓮と貴島に注意を払う人もおらず、確かに気兼ねなく話ができそうだ。

「敦賀君のマネージャーって復活したんだね。ずっと京子ちゃんについてなかった?」
「ああ、俺がアメリカにいる間は最上さんと琴南さんのマネージャーを担当してたんだ。俺が戻ってきて復帰してくれたよ」
「そっか、奏江ちゃんもか。確かに一緒にいるのを見たなあ。でもさ、そうするとこれからは京子ちゃんたちのマネージャーはどうなる訳?」
「社長と相談して、今候補を当たってもらってるところ」
「へーー。どうせなら美人マネージャーがいいなあ」
「なんで貴島君がそこに希望を出すんだ」
蓮は苦笑しながらおしぼりを置き、店員が持ってきたビールジョッキを受け取る。すでに半分くらい飲んでいた貴島もジョッキを上げて、蓮のジョッキに軽くぶつけた。

「分かってないな、敦賀君は。現場に美しい女性が多ければその方が楽しいだろうに」
「そんなもんかな」
「君はね、いいよ。放っといたってハリウッド女優が言い寄ってくるんだからさ。目が肥えちゃってそこらへんの素人なんてどうでもよくなるだろうけど」
「見た目で好きになるわけじゃないよ」
流れの中でさらりと言い放った蓮の言葉に貴島は反応した。
「じゃあ、何を重視するわけ?」
「…どうだろうね、あまり意識したことはないな」
「考えてみれば敦賀君の恋愛感なんて聞いた事ないよなー」

「焼き鳥盛り合わせと冷奴、お待ちどおさまです!」
店員がふたりの間にいくつかの皿を運び、そこを区切りとして会話は蓮の映画撮影へと移って行った。


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コメントコメント


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あら、ここで切れるの?って感じでした。

こんにちは。更新を首を長くしてお待ちしていました。これから本題に入ろうかというところで切れましたね。二人の会話内容が楽しみです。以前のバーと対照的な都心の焼き鳥やさん、いい感じですね。貴島さんが相手だとすると、大人の対応ですんなり話が進みそうだ、と思いました。どうもありがとうございました。また、更新お待ちしています。

genki | URL | 2015/08/04 (Tue) 15:13 [編集]


Re: あら、ここで切れるの?って感じでした。

> genki様

どうにも切れ目が難しい…てことで切れたところまでで載せちゃいました。
男2人がカウンターで焼き鳥をつまみながら焼酎をあおる。蓮さんぽくはないけどなんか楽しそうでいいですよね。
キョコさんきっと自分の事話されてるなんてこれっぽっちも思わず過ごしていますね…

ぞうはな | URL | 2015/08/06 (Thu) 22:01 [編集]