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Break The Spell (23)


こんばんは!
更新遅くなりましたー。





キョーコは困ったように考え込んでから、ふと顔を上げた。
「だったらせめて…アメリカに行く時くらいは…」
「あの時はあれが精一杯だったよ」

ふー、とついた蓮のため息はわざとらしいダメ息とは違う、苦悩の見えるものだった。
「考えたんだ、俺なりに色々とね。いっそのこと素直に俺の気持ちを白状しようかとも一度は思った。…けど、言えなかった。君の気持ちが全く分からない状態で賭けに出て、拒否されたらそれこそ立ち直れなさそうだったし」
「まさかそんな」
小さな声でそんな訳ないと呟くキョーコの頭を、蓮は笑いながらくしゃくしゃとかき回した。

「君は本当に分かってないね、君の小さい行動や言葉にどれだけ俺が振り回されてきたか……それにもしあの時、君が少しは俺のことを好きでいてくれたとしても…これからいなくなって連絡も取らないと宣言しているのに、そんな縛るような事できる訳もなかった。仕事も恋愛も、これからの可能性がたくさんある君だったから」

無言でキョーコは蓮を見つめる。その目が少し潤んでいるのを見つめながらも、蓮は続けた。
「けどね。全く何も言わないのもできなくて、だからやっぱりあれがあの時の俺の精一杯。必ず帰る、としか言えなかった。本当は待ってて欲しかったけど」
「……じゃあ、毎年誕生日に送ってくださった葉書も…?」
「そう。連絡は我慢してたけど忘れられたくはなかった。だから一方的に送れるものを選んだんだ。それくらいは許されるだろうと勝手に解釈してね。毎年12月に雑貨屋を回って君が好きそうなポストカードを選ぶのは、結構緊張したけど楽しかったかな」

キョーコの頬が真っ赤になる。口で何も言わなくてもその表情と反応で十分だと、蓮は笑みを浮かべた。
「だけど帰ってきた今ならちゃんと言える。色々遠回りもして人も傷つけて、とても誇れるような道ではないかもしれないけど…それでも君を諦めたくはない。君が誰かと幸せになるのを見守るだけじゃ、やっぱり嫌なんだ」
「つ…敦賀さん…」
「きっと俺の話を聞いて呆れたり、失望もしたと思う。なにしろコーンは妖精じゃなかったし、君のよりどころだと言うのにずっと秘密にしてた。それだけでも十分、君に責められることだと思う」
「いえそんなこと…そんなことありません」
「けど俺は今君にいい答えがもらえなくても諦めないつもりだ。だから、そういう意味では覚悟していてほしいな」
「覚悟って…」
「サーシャにはきちんと話をしてきた。俺の気持ちは変わっていないと」

キョーコは真顔になった蓮の顔を見つめた。
その顔はどこか思いつめているようで、ものすごく真剣に見える。きっとこうして長い時間をかけて話してくれたことはすべて真実なのだと思う。その内容は若干、キョーコにとってはキャパオーバーだったが。なにせ蓮の素性やここまでの経歴はキョーコの予想をはるかに上回っている。
「全部お話してくれて、ありがとうございます。きっと敦賀さんにとっては話したくない事だってあったと思います」
「いや…むしろ黙っていてゴメンね」
「いえ。誰だって振り向きたくない過去も、消し去りたいのについてまわる忌まわしい出来事も、多少なりともあります」
私だって、とキョーコは思う。
「けれど敦賀さんは全部乗り越えてこられたんですね。俳優としての道だって、決して簡単なものじゃないのに素性を隠してまで…私、失望するどころかますます尊敬してしまいます」

尊敬は、むしろいらないんだけどな、と蓮はどこかで思う。
尊敬なんて持ち上げられるより、対等に横に並びたい。そう考えながらキョーコの顔を見ると、なにやら少し難しそうな表情をしている。
「でもキョーコちゃん、なにか言いたい事がありそうなんだけど」

蓮に呼びかけられてキョーコはいきなり挙動不審になった。照れているような焦っているような表情を浮かべて視線があちこちをさまよい、やがて大きくため息をつく。
「ごめんなさい、やっぱりどうしていいか分からなくて」

蓮はどきりとした。
ここまではある程度キョーコからの手ごたえを感じていた。自分を待っていたと泣いたキョーコは明らかに好意を示してくれていたし、こちらからの告白とも言える言葉に対しても拒否はされていなかったと思う。それなのにまさか、キョーコは迷っているのだろうか。いや、それともどう断るかを模索していた?

いや、いや。
もしそうだとしても、ここで諦めたら元通りだ。
俺は決めたはずだろう、もしいい反応が返ってこなくても諦めないと。


ぐるりと思考をまわして短い間に動揺を収め、蓮は落ち着いた声を出した。
「どうしたの?何か不安な事があれば…」
しかしキョーコはふるふる、と首を振る。
「不安じゃないです!そうじゃなくて…ダメ、やっぱり慣れなくて…!」
「???」
真っ赤になって両手で顔を覆うキョーコは、どうやら蓮の想像とは違う次元で悩んでいるように見える。
「だって見た目は完全にコーンなのに…中身は敦賀さんじゃないですか!」
「え?」
「私本当、どうしていいのか分からないんです。もともとコーンと敦賀さんが同じ人だなんて思ってもみなかったから。でも今こうしていて分かります。やっぱり違うんです、見た目はコーンなのに、今私の目の前にいるのは敦賀さんで…なのに『キョーコちゃん』なんて呼ばれるともう、どうしていいのか…!」
「ああ」

蓮はようやくキョーコの言わんとしていることを理解した。
「確かに今は…俺はコーンではないね。けど俺の本来の性格はどっちかといえばコーンの方なんだ」
「え…?」
「さっきも話した通り、久遠ヒズリとしての暴走で俺は取り返しの付かない事をしてしまったから、日本に来てからはそれは全部『敦賀蓮』という人格の内側に封印したんだ。まるっきり違う人間ではないけど、闇の部分を覆い隠すようにしてた」
「はあ…」
「けどコーンは、昔君に会った、その時のままだ。だからゴメン、確かに混乱するよね。けど君のおかげなんだ、自分の全てを否定しなくてもいいと思えてきたのは」
「そう…なんですか?でも私何も」
「君は無意識だと思うけど、敦賀蓮としての俺に自信をくれただけじゃなくて、コーンとしても認めてくれた。だから俺は、少しずつ自分自身を許せる気になれたんだ」
「…敦賀さんは本当、ご自分に厳しすぎるんですよ」
「そんな事はないよ。けどこの3年間、アメリカでは少し久遠として過ごせた気もする」
「そうなんですか?」
「うん…役柄が無茶苦茶だった事もあるかな、だけどそんな気がするよ。…キョーコちゃんは、敦賀蓮である俺の方がいいのかな?」
「えっ…?」
キョーコはびっくりした顔で蓮を見た。

「なんとなく、コーンに接するときは君は親しげだったけど、完全に友達と言うか…だからその、恋愛感情は全くなかったかなと思って」
「…それはその、コーンとしてはそうかもしれませんけど、でも…」
相手は妖精なのだと、完全に信じていたのだ。その上子供のころは尚しか目に入っていなかったし、大人になってからは1回しか会っていない。そりゃあ、恋心を抱く隙間などなかった。けれど、今はまたちょっと状況が変わってきている。

「それとも、敦賀蓮にキョーコちゃんって呼ばれるのはいや?」
「い…嫌なんかじゃないです!!ただその…」
「ん?」
「顔が…にやけて崩れちゃいます」
蓮に覗きこまれて、すでに頬は熱いしキョーコは普通の表情を保つのが難しくなっている。必死に顔の緩みを押さえながらキョーコは答えたのだが、ふと見上げた蓮の表情の方が崩れている。
「…ひどいな」
「何がですか」
「そんな風に男が一番嬉しい言葉を言うなんて」
「そんなつもりはっ…!」
「うん、無意識なのがひどい」
蓮はキョーコの頭に手をやるとぐしゃぐしゃぐしゃ、とその髪をかき回した。それから両手でその頭を抱え込んでぎゅうと抱きしめる。

「まったく…今日は話だけをしようと思ったのに、触れないようにしようと思ったのに…」
「ちょっ…敦賀さん…」
「君のせいだよ」
蓮が頭だけを抱え込んでいたためキョーコは体を斜めに傾かせていたのだが、蓮が強制的にその体を抱き寄せてキョーコはソファの上を平行移動する。
あまりの強引さに目を白黒させたキョーコの耳元に低い声が飛び込んできた。
「グアムで会った時に聞いたよね。『キョーコ』って呼んでもいい?って」
「は…はいっ」
「あれ、今も有効?」
「…は……は…い」
「…キョーコ」

はうっ、とキョーコは息を呑んだ。
この強引さや手口はなんとなく蓮のものではないような気がしなくもない。いや、コーンにも蓮にも積極的に迫られた事などないのだから分かりはしないのだが。けどなんだか、キスをねだったコーンの事が思い出される。
「グアムで言ったときは真剣に聞いてくれてなかったかもしれないけど…俺は君を愛してる」
「こ、コーン…?」
「コーンでもあり、敦賀蓮でもあるけど、久遠ヒズリの言葉として聞いて欲しいな」
「は…はい……」
「それで、これまでの事を全部踏まえたうえで、俺と付き合ってもらえませんか?」
「ひゃっ…?つ、付き合う、ですか?」
「そりゃあ…告白したらやっぱり付き合いたいよ」
「は…はあ……あの、はい」
「いいのっ?」

がばっとキョーコの体を離してその顔をきらきらと光る笑顔で正面から見たのは、今度は確実にコーンのような気がする。
「ありがとう、キョーコちゃん」
「いえ、そんなお礼を言われるような」
「ひとつだけお願いしてもいい?」
「な、なんでしょう…?」
「明日から見た目が『敦賀蓮』に戻っちゃうんだけど、できればコーンに対するようにフランクに接してくれないかな」
「え……む、無理ですそんな先輩に」
「なんで?」
「なんでって、だから、敦賀さんは先輩じゃないですか、それなのにそんな」
「だって俺はコーンなんだよ?今までコーンには親しげにしてくれたじゃないか」
「いえだからって、敦賀さんだって分かっちゃったらそんなの無理です」
「…『敦賀さん』って呼び方もなんだかヤダ」
「やだって…」
「久遠って呼んでほしいな。呼びにくかったらコーンでもいいから」
「そんなっ、聞いた人がびっくりするじゃないですか」
「じゃあふたりきりの時だけ」

夜は更けていたが、社が聞いたら「ああハイハイ、仲がよろしい事でよござんすね」などとぼやきそうなくだらないやり取りは、しばらく続いたのだった。


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コメントコメント


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レン様の心キョコ知らず、、、

いつもと違って2人の絡みがなかなか始まらず、やきもきとしていました。
落ち着いて話が出来てドキドキ返事待ちのレン様のなのに、きょこちゃんはまったく違う所で悩んでいるとは、なんかほんとにきょこちゃんらしいです(笑)

暑い長い夏休み、お身体に気をつけてくださいね。
ずーとご飯を作ってる気がします^^;

ケロ | URL | 2015/08/02 (Sun) 23:16 [編集]


Re: レン様の心キョコ知らず、、、

> ケロ様

コメントありがとうございますー!
キョコさん、考え始めたら一直線ですし、蓮さんは肩透かし食らってガックリくること多そうです。
期待通りの反応が帰ってくる事の方が少なそうです。

夏休みって本当、食事の心配ばかりですよね…
お疲れ様です。
今年はかなり手を抜いてますが食中毒だけは避けたいものです…。

ぞうはな | URL | 2015/08/03 (Mon) 22:21 [編集]