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Break The Spell (22)


こんばんは!今日も遅い時間の更新ですが、推敲できていませんが、のせまーす。





蓮がキョーコに手渡した小さな冊子。
表に鷲の絵が描かれたその黒い冊子は、キョーコもどこかでちらりと見かけたことがあるものだった。
「パスポート…これ、敦賀さんのですね」
「うん。中見てみて」
「え、でも」
「俺が誰なのかが一番よく分かるから」
言いながら蓮はキョーコの座る助手席のライトをつけ、青に変わった信号に従って車を発進させた。

キョーコはおずおずとパスポートをめくり写真が載っているページを開く。
金髪碧眼のコーンの顔がまっすぐこちらを見ている。入出国の際にはパスポートの写真と本人を照合するわけだから、蓮が飛行機に乗るときには目の色も髪の色も生来のものにしなければいけないことがよく理解できた。

は…名前!

以前、社に聞いてみようと思って思いとどまった事をキョーコは思い出す。
社も知らないかもしれなかった、蓮の本名。マネージャーにも知らせていないということは、そこに何か不都合があることを示している。アルファベットで記されたその名前をキョーコはドキドキしながら読んだ。

「クオン……ヒズリ…?…クオン・ヒズリ」
キョーコは書かれた名前を小さく声に出して読む。どこかで聞いたその名前は、よく知った苗字の…

「まさかっ??」
「そのまさかだよ」
静かな声に、キョーコは顔を蓮のほうに向けた。
「ええっ。敦賀さん、先生の…?…でも、先生は息子さんが亡くなったって…」
「父はそんなこと言ってた?」
蓮は少々渋い顔を作った。

「あれ…?」
ふとキョーコは思い返す。いや、クーは息子の事を過去形で語っただけだったような。それを聞いて、既に亡くなっていると自分は早とちりしたのだ。
「いえ…先生ははっきりとは仰っていませんでしたけど…」
「あの人にとって息子は15で死んだようなものだからね。君がそう受け取ったのも無理はないと思う」

「はぁ…」と気の抜けたような声を出し、キョーコはパスポートのページをまじまじと眺める。
しばらく無言のキョーコに、蓮はぽつりぽつりと独り言のように語りだした。
「俺はアメリカ生まれだけど、父の故郷は京都なんだ。子供の頃ほんの一時期だけ、父の故郷に帰ったことがあった」
「その時に、川原で私と会った…そういうことですか?」
「そういうこと。君にとっては俺みたいな金髪って珍しかったんだよね。『あなた妖精さん?』て聞かれて、その表情を見たら違うとは言えなかった」
「…そうだったんですね……」

キョーコはパスポートに視線をやったまま、どこかぼんやりとしているように見える。幼い頃の事を思い出しているのだろうか。
蓮は再び口を開いた。
「まさか大人になってから再会するなんて思ってもみなくて」
「本当に偶然…なんですよね?」
「もちろん」
キョーコはやっとパスポートから視線をはがして、蓮の横顔を見つめた。ひとつの謎がクリアになっても、次々と更なる疑問がわいてくる。
「LMEで会った最初から、私が誰だか分かってたんですか?」
「いや?まさかそんなこと考えてもみなかった。思い出したのは、君が"コーンの石"を落としたときだよ」
「…それでも十分前じゃないですか。何ですぐに教えてくれなかったんですか…」

不満げにぶちぶちとこぼすキョーコに、蓮はクスリと笑う。
「あんなに"コーン"をよりどころにしている君に、夢を壊すような事とても言えないよ」
「ですけど…!」
キョーコは反論しかけた。
夢を壊されるよりも、子供のころの蓮のついた嘘をすっかり信じ込んで、それをいい年になってからもひたすら信じ続けていた恥ずかしさの方が上回る。しかも自分はコーンとのあれやこれやを蓮に語り、グアムでの再会を報告までしていたのだ。
しかし、蓮の表情がふいとかげったことでキョーコは途中で言葉を飲み込んだ。

「それに、それ以上に名乗り出られなかった理由がある。それは、俺が敦賀蓮として姿を変えて日本にいたことと無関係じゃない」
「…それも、伺いたかったことですが」
「うん、もうちょっとで着くから、着いたら落ち着いて話すよ。何せ、とても長くなりそうだからね」
「いいんですか?無理にお話していただく事でも…」
「いいんだ。この姿で君に会ったら話そうと、ずっと思いつつ先延ばしにしていたから」
「……」
「それに、恋人に大きな隠し事されるのって気になるだろう?」
蓮は笑ってキョーコを見た。その笑顔は少し意地悪なもので、キョーコはぼぼっと頬が熱くなるのを覚える。
「こっ…!」
「大丈夫、分かってるから」
何が、と言わずとも蓮はキョーコの心情を理解しているようで、キョーコはそのまま抗議を諦めて大人しく蓮の部屋へと連行された。

久しぶりに訪れる蓮の部屋は前とあまり景色が変わらない。よくよく見るとソファは入れ替えられているようだが、他の家具は変わらず掃除も行き届いていて、何年も人がいなかったと言う雰囲気ではない。
キョーコはリビングに通されてきょろきょろと周りを見回していたが、蓮がコーヒーを入れて戻ってきた事でぴしりと姿勢を正した。
「さて、では聞いてもらえるかな。面白くもない話だけど」
蓮はキョーコの隣に座り、キョーコの前にミルク入りのコーヒーが入ったカップを置くと、自分はブラックコーヒーを口にしてから切り出す。真面目な顔で自分を見つめるキョーコを見て蓮は柔らかい笑みを浮かべると、両手の指を組んだ膝の上であわせて語りだした。

蓮の話は両親の事から始まった。
俳優とモデルとして米国内でも有名な両親と、その名前にプレッシャーを感じる自分。
話は妬みややっかみから生まれたトラブル、自分の間違いにより失われた無二の親友の命、失意の中で日本に来た事にも及び、日本に来てからは久遠としての過去を封印し、敦賀蓮と言う人格をずっとまとって今までやってきたということまでを語った。

「俺はここでは久遠ではなくて敦賀蓮だったから、君の大切な思い出を壊す訳にはいかなかったんだ」
一通り語り終わった蓮は少しぬるくなったコーヒーを一気に飲み干した。対するキョーコは真剣な顔で少し俯き、何かを考え込んでいる。
「大切な人を作れないっていうのは、そういう事だったんですね」
下を向いたままぽつりと呟いたキョーコに、蓮は言われたことを反芻すると少し首をかしげた。

「俺そんなことをキョーコちゃんに言ったことあった?」
「…聞いたのは私じゃないです」
「??」
キョーコは肩をすくめると申し訳なさそうに言葉を継ぐ。
「敦賀さんがこれだけ全部お話してくださるんですから、私も白状します」
「…白状?」
「『てんてこ舞いとはどんな舞いなんだ?』と、敦賀さんは聞きましたよね」
蓮はぴたりと動きを止めると口をつぐんだ。それから何かを思い出したように口を開きしばし制止し…それからようやくその喉から声が出た。
「着ぐるみの鶏…?」
「ごめんなさい、あれ…私だったんです」
「そうだったのか…」
蓮は納得してから思い出す。自分は、鶏に恋の相談をしたのではなかったか。

「…俺は、好きな人についての悩みを、本人に打ち明けてたってことか?」
「ええっ?あの時の好きな人って私だったんですか?」
「今さら何を言ってるの…他にいないよ、そんな相手」
呆れたように吐き出され、キョーコは慌てたが、ふと気がつく。
「もしかしてあの時も…?」
「なに?あの時って。もう何でも聞いてくれていいよ。この際だから全て答える」
「えと…敦賀さんが熱を出された時なんですけど」
「ああ、君が看病してくれた時」
「はい。あの時、『ありがとうキョーコちゃん』って仰って…」
「覚えてないけど、間違いなく君の事だな。きっとその時は、京都の事を思い出してたんだ」

さらっと言われるが、キョーコの心臓は蓮の言葉を聞くたびにばくばくと音を立てる。
DARK MOONの時から蓮の想い人は自分なのだと言われても実感がわかない。けれども改めて考えてみればなんとなく、あれもそうだったのか?もしかしてあれも?という事が思い出されて今さらながら自分の鈍感さが恨めしい。

「もうずっと、ずっと君だけを見ていたのに、全く気がついてくれないし、俺なんて眼中になかったしね、君は」
「そ!!そんなことないです!大体、お互い様です!敦賀さんだって全然そんなそぶり見せなかったじゃないですか!」
「俺としては見せていたつもりなのに全く君には響かなかったし。脈のない相手に過度な期待を抱いて、傷つくのは自分だ。俺は君に期待しすぎないようにする癖がついたくらいなんだから」

告白されているはずなのに、ずっと蓮は自分を好きだったと聞いているはずなのに、なぜか呆れられている気がする。しかし蓮の気持ちに気付かなかったのは確かなのでキョーコはそれ以上の反論ができなかった。


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