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Break The Spell (21)


こんばんは!ぞうはなです。
うーん、連休があるとその分更新が遅れます…





夜も遅い空港の到着ロビーは昼間と大差ないほど人が多い。
やっと帰ってきた、と安堵のため息を吐き出す人もいれば、初めて着いた異国への想いを馳せながら一歩を踏み出す人もいるし、久しぶりの再会に喜び合う友人同士の歓声は周りの人をも笑顔にする。

様々な人が到着するはずの待ち人を待ち構えるその場所に、長身の男性が一方通行の自動ドアを通って足を踏み入れた。
男性は濃い色のサングラスの内側から到着ロビーの人ごみを一瞥し、迷わずにその行く先をさだめ足を進める。
「遅い時間にありがとう、ただいまキョーコちゃん」
「お……帰りなさい…」

サングラスをかけていても分かる笑顔の男性に対して、話しかけられた若い女性の方は戸惑いの色を隠せない。
「どうしたの?」
「……敦賀さんなのは分かっているんですけど、うぅん、やっぱりコーンにしか見えなくて」
男性は納得しながらも更に深い笑みを浮かべると答えた。
「コーンとして接してくれて全く構わないけど。そもそも同じ人物なんだしね」
「で、ですけど…!」
キョーコは困りきって男性を見上げた。
サングラスで目は隠れているが、むき出しの頭髪はどこからどう見ても金色だ。キラキラと光って見えるほどの、コーンの姿。
けれど中身は蓮なのだと分かっている。そうすると蓮として、そう、偉大な先輩として接しなくてはならないのだ。けどでも、自分は妖精コーンに対してはもっと砕けた口調で話してきた訳で…。

キョーコはきゅっと唇を引き結んでしばらく男性の顔を見つめると、一つ頷いた。
「いえ、大丈夫です、敦賀さん」
「なんだ、コーンに対するようにに接してくれないの」
できるわけありません!とキョーコは厳しい顔で目をむく。蓮はため息を一つ吐くとサングラスを外して胸のポケットにしまった。

視線はあえて遠くに置いておいたが、キョーコが息を呑む音が聞こえた気がする。
「これでも?」
「それでもです!」
まあ今はどっちでもいいか、と蓮は気を取り直した。後ろに引っ張っていたキャリーケースを引き寄せて体の隣に置くと、改めて目の前のキョーコを見る。
キョーコはベージュのニットワンピースに茶色いロングブーツを履き、脱いだコートを腕にかけていた。仕事場から直接駆けつけてくれたのだと思うと、ついつい嬉しくて顔が緩みそうになる。

蓮はゆっくりとキョーコに覆いかぶさるようにその体を抱きしめた。
「あらためて、ただいまキョーコちゃん。会いたくて仕方なかった」
そして体を少し硬直させたキョーコが何か言う前に、すばやくその頬にキスを送る。
「ちょっ…!」
「単純な挨拶だよ」
「日本人はそんな挨拶はしないって…」
「今の俺にはちょうどいいよね?」

うぐぐ、とキョーコは言葉に詰まった。
確かに目の前の美形の金髪碧眼がそんな行為をさらっとしても全く違和感がない。むしろ、ぺこぺこと頭を下げるお辞儀だの、よそよそしい握手だのの方が似合わないと思う。しかしそう納得してしまうのがどうにも悔しいのだ。
「本当に早く会いたかったんだ。席が空いていてよかった」
蓮はキョーコが言い返せないのを気にせず話を変えた。
「このタイミングで帰ってきちゃって大丈夫だったんですか?」
「もちろん、仕事は全部きっちりこなしてきたよ。ただ、ミスウッズを残してきちゃったから明日までこの姿だ」

その言葉で、蓮の髪色はテンの手で毎回変えられていることをキョーコは知った。
「それで大丈夫なんですか?」
「明日は仕事が入ってないし、こうしていた方が俺だって分からなくてちょうどいい…って、ミスウッズも言ってくれたから大丈夫」

そう言うと蓮は再びサングラスをかけ、キャリーケースを引いてキョーコを促した。
「ここまではタクシーで来たの?」
「いえ、なぜだか社長さんのお付の方が局までお迎えに来てくださって…」
「あ、ごめん。俺が社長にぽろっと言っちゃったんだった」
2人はターミナルから表に出た。送迎の車やバスがごちゃごちゃと集まるその場所に、一際目立つ長い車が静かに停まっている。

気がつけば2人のすぐ横には浅黒い肌の男性が立っていた。
「敦賀様、お帰りなさいませ。こちらお車のキーでございます」
「ありがとうございます。すみません、お手数をおかけして」
「いえ、これも私の仕事ですからお気になさらず」
男性は一礼するとリムジンに乗り込み去っていく。

「NYへは成田から出たんだけど、帰りがどっちの便になるか決まってなかったから車は置いてきたんだ」
不思議そうに自分を見るキョーコにそう説明すると、蓮はキーを持った手で少し後ろを指す。そこには蓮の新しい黒い車があった。
「社長に頼んで運んでもらった。自分の車なら、気兼ねなく君と話ができるからね」
「でも…」
「悪いんだけど、うちに来てもらってもいいかな。君も、俺に聞きたい事がいっぱいあるだろう。約束どおり全て話すよ。君が納得するまで」


キョーコは蓮の顔を見たら自分はそのまま電車で帰るつもりだったのだ。
蓮はアメリカでの強行スケジュールをこなしてすぐに戻ってきている。疲れているだろうし、時差ぼけだってあるだろう。顔だけ見せてその後はゆっくり休んでほしい。そう思っていた。

けれど。

蓮がいない数日の間、あれこれと考えてしまった事もまた事実。蓮の口から説明を受けたいのも本心。
そして、これから蓮は一気に忙しくなるのだ。ゆっくりと時間を取れる事などもうしばらくないかもしれない。

「おいで」
ふと気がつくと蓮はすでに車に辿り着き、キャリーケースをしまい終わっている。助手席のドアに手をかけながら言われると、提案に乗らない方が悪いような気がしてくる。

「本当に大丈夫なんですか?お疲れでは…」
「大丈夫だよ。飛行機ではゆっくりと休んできた。それに、俺も早めに君に全部伝えたいんだ」

あ…そっか、敦賀さんなら飛行機もファーストクラスよね。

少しだけ気が軽くなり、キョーコは「はい」と頷くと、蓮の待つ車へと早足で近づいた。


「俺にまず聞きたい事はなに?」
車が走り出してしばらくすると、蓮が口を開いた。
キョーコは助手席からちらりと蓮を見るが、穏やかな表情の蓮と目があってしまって慌ててフロントガラスへと視線を移す。
「色々あるだろうけど、聞いてくれた事から順に答える。なんでもいいよ」

キョーコはしばらく躊躇っていたが、しばらくして決心したように言葉を発した。
「あの…敦賀さんは…その……妖精ですか?人間ですか?」
「………」
蓮はこわばった表情で黙りこむ。


…なるほど、そこから来たか…

キョーコの思考回路からしばらく離れていたせいか、やや優先順位づけの予想が違っていたようだ。
いや、自分の思考が会えない内に恋愛系に偏り過ぎたか。
そう、キョーコがいくら成人したからって、その思考回路が大きく変わっている訳がないのだ。貴島の影響なのか、切り返しがやや大人になっていたためうっかり失念していた。

どう返そうか。
取り繕っても結果は同じだ。蓮は覚悟を決めた。

「ええと……」
ごくり、とつばを飲む音が聞こえた気がする。

期待…してるんだろうな…がっかりさせることになるけど……嘘をついてもこの先つきとおせるものでもない…仕方ないな。

「ごめん、俺は普通の人間なんだ…これを見て」
ちょうど車は信号で止まる。目を見開いて自分を見るキョーコに、蓮は後部座席に置いたカバンを探ると小さめのノートのようなものを手渡した。


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