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Break The Spell (19)


こんばんは!
暑いですがお話は1月(といってもどうにも気分が…)

ではでは続きです。




RRRRRRRRRRRR……


しばらく続いたコール音が途切れると、少しの空白のあと空々しい女性のアナウンスに切り替わる。

やっぱりダメかぁ…


どうやら今日は本人と話をする事は出来ないようだ。
かといってメッセージになんと吹き込めばよいのか分からず、1時間前に電話をかけた時は留守番電話に切り替わると同時に電話を切ってしまった。

着信だけ残して何も伝言がないというのは失礼かもしれない。
キョーコは迷ったが、ピーと言う留守番電話のメッセージ録音開始を知らせる音が聞こえると「最上です。また改めて電話します」とだけ吹き込んで通話を終わらせた。

キョーコは待ち受け画面に戻ったスマホの液晶をぼんやりと見つめると、そのままばたりと後ろに倒れた。ベッドがその体をしっかりと受け止め、スプリングがかすかにきしんだ音を立てる。

スマホの画面によると、つい数分前に日付が変わったようだ。
今日は試写会のあとに映画配給会社主催によるパーティーがあるということは聞いているが、今は何をしているのだろうか。まだ蓮とサーシャが一緒なのかと思うと仕事だとは分かっているものの楽しくはない。

けれども今のキョーコの頭を占めるのはそんな事ではなかった。
サーシャのことが瑣末なことと思えるほどの衝撃。それをキョーコは今日の夕方に行われた試写会で味わった。嫌でもあの場面は鮮明に頭の中に蘇る。

映画の中でしつこい追っ手に追われる蓮とサーシャ。
敵は狂気に突き動かされ蓮とサーシャを執拗に付け狙い、そんな敵の卑怯な罠にはまって人の多い街中で2人は追い詰められていた。

なんとか身を隠しながら移動していくうちに2人は大きなデパートに入り込む。
今ここで追っ手に見つかる事は、周囲の何も関係ない人を巻き込んだ大惨事を引き起こすことと等しい。そう判断した2人はそれぞれがデパートの売り場をコソコソとめぐって変装をするのだ。

サーシャはニットの帽子を目深にかぶり、マタニティドレスを着て腹部にクッションを詰めベビーカーに人形を積み込み、蓮は金髪のカツラをつけカラーコンタクトをしてフォーマルスーツを着込む。
そのシーンはややコミカルに描かれて、お互いにお互いが誰だか分からずにすれ違うという場面も盛り込まれていたのだが。

キョーコの視線は変装後の蓮に注がれてしまった。
だってスクリーンに大映しになったのはどう見たって"コーン"だ。グアムで会った成長後のコーン。

瞬時にキョーコは「いや、コーンが姿を敦賀さんに似せてたから…」と思いなおしたのだが、同時に蓮の言葉も蘇ってきた。

"もしかしたら君に怒られるかもしれなくて…いや、間違いなく君は怒るな"

それって…??


混乱の中でなんとか最後まで試写を見切ったのだが、やはり自分が引っかかるシーンはそれ以外にはなかった。
そりゃあ、サーシャとのラブシーンなどもあったのだが、映画の中のそんなシーンで怒るような思考回路をキョーコは持ち合わせておらず、きっとそれは蓮も分かっているはずだ。

キョーコはベッドに仰向けに寝転んだまま、もう一度思考を整理する。

映画で変装した敦賀さんはコーンそのものだったわよね。変装なら眼の色なんて違っていいはずなのに、なぜだかあのグリーンの瞳。敦賀さんはコーンの姿を見たことはないから、どんな見た目か正確には知らないはず。
それに敦賀さんは言ってた。私が怒るかもしれないって。

やはり何回考えてもたどり着く先は一緒だ。
それはつまり、蓮がコーンを知っている、いやそれどころではなく、コーンが蓮だと、そういうことだ。

確かにグアムでコーンと会ったときには蓮もグアムにいたはずなのだから、辻褄は合う。
姿かたちや声が一緒なのだって、同一人物であれば当たり前だ。

けれど分からない事の方が多い。
自分は子供の頃にコーンに出会っているのだ。そして間違いなく、子供の頃のコーンとグアムで会ったコーンは同一人物だった。コーン本人でなければ知りえない事を、大人のコーンは知っていた。
まさか自分と蓮は子供の時に会っているというのか?そんな偶然、起こり得るのか?

それに、蓮は黒い髪と黒い瞳を持っている。もし子供の頃に出会ったコーンが蓮なのだとしたら、蓮の本当の姿は金髪碧眼ということになる。その本当の姿をずーっと隠して生活しているというのか。何のために?
そしてなぜ、蓮は今の今まで真実をキョーコに隠しているのか。

キョーコはベッドの上でごろりと横向きに転がった。

ううん、だけど敦賀さんは全部話してくれるって言ったから。
だから、これからもずっと内緒ってことではないもんね。

しばらく考え込んでから、キョーコは今度は反対向きにごろりと向きを変える。

だけど、なんでこんなに長い間何も言ってくれなかったのかしら?
私がコーンに会いたがってるの知ってたはずなのに。それに、サーシャさんが私の知らない事を知ってるみたいなのもなんか気になる…

うーんうーんと考え込みながら、キョーコはベッドの上でごろごろと転がり続けたのだった。


ぶぶぶぶぶぶぶぶ。

なにやらお腹の上が振動している…
キョーコははっと目を覚ました。どうやらベッドの上で転がっている内に眠ってしまったらしい。スマホをつかんで体の上に置いたまま寝ていたようで、意識が戻るとキョーコはスマホに目をやった。
部屋は明るいままで、時刻は午前2時を回っている。掛け布団の上に寝ていたせいだろう、体もだいぶ冷えてしまっていた。

「も、もしもし?」
"敦賀さん"の表示に慌てて電話を取ったが、寝起きのせいか少し口が回らない。
『…ごめん、もう寝てたよね』
「いえ、うとうとしてただけで、大丈夫です」
『連絡が遅くなってゴメン。でもやっぱり、今日のうちにちょっとだけ話しておきたくて。ほんのちょっとだけいい?』
「は…はい」
『試写見てくれたかな。それで電話くれたんだと思ったんだけど』
「はい、拝見しました」
キョーコは体を起こすと自然とベッドの上に正座する。電話の向こうからは雑音が聞こえるので、蓮はまだ外にいるようだ。

『それで、どうだった?』
「すごく面白かったです。もう最後まで腕に力が入りっぱなしでした」
『そう…楽しんでもらえてよかった』
「けどあの、途中のシーンが少し気になってしまって」
『俺が変装するところかな』
「はい……」
『うん、君が言いたいことは分かるよ。俺が君に怒られるかもしれないって思ったのも、あのシーンの事だ』
「やっぱりその……」

"敦賀さんがコーンなんですか?"と素直に聞きたいが、なぜだかすっきり言葉が出てこない。キョーコが逡巡しているうちに電話の向こうから声が聞こえてきた。
『君が疑っているとおりだよ。君が別人だと思っていたふたりの人物は、実はひとりだったということ』
「………」
さらりと言われて、咄嗟に何も言えずにキョーコは口だけ開けてフリーズした。
『それだけは先に伝えておこうと思って。細かい理由は帰ってきてから話す。長くなりそうだし直接顔見て話したいしね』
「…わかりました。明日アメリカに行かれるんですよね」
『そうだね、午前の便でニューヨークに向かう。終わったらLAに移動して、公開日の次の日には帰るよ』

"移動はずっとサーシャさんも一緒ですか?"という疑問をはじめとして、蓮を問いただしたい様々なことが頭にわいてくるが、キョーコは全てを飲み込んで一言だけ口にした。
「お気をつけて行って来て下さい……帰られるのをお待ちしてます」
『ありがとう……最上さん、怒ってる?』
「え?いえ、怒ってませんけど……」
唐突に聞かれたのでキョーコはきょとんと目を丸くしてしまった。

『ほんとに?』
「はい。怒ってはいませんけど…正直なところ、まだ混乱してます」
『あー…そうだよね、ごめん。そうだ、ひとつだけ。実は俺の事情の大雑把な事を、映画の関係者は少しだけ知っているんだ』
「え?」
『撮影中にばれた、というのが正しいかな』
「ああ……」
『だから君にだけ秘密にしていた訳でも、共演者にだけ明かした訳でもないということだけ、覚えておいて』
「はい…?」
『映画が公開されたら事情が公になる可能性もあるんだけど…とにかく帰ったらすぐに会いたい。帰るときに連絡するよ』
「は、はい、分かりました」
『じゃあ、遅くにゴメンね』
「いえ、あの、…行ってらっしゃいませ」
『行ってきます…君の写真、撮っておいてよかった。行ってる間のお守りにするよ。少しは寂しさが埋まるかな』
「おまもりっ…?」
『うん、じゃあおやすみ』

キョーコは通話が切れたスマホの画面をしばらく呆然と見つめる。
「敦賀さんのバカ…しばらく寝られないじゃないのよ…!」

腹立ちまぎれに投げられたスマホはぽすりと枕に着地する。
キョーコは帰ってきたら絶対質問攻めにするんだから!と考えながら、布団にぐるぐるとくるまった。


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