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Break The Spell (18)


おこんばんはです。ぞうはなです。

さて、さっさと続きー。





屋外に設えられたステージに続くレッドカーペットはとても長いものだったが、そろそろ出演者たちはステージの方へとたどり着きつつある。

「京子ちゃん、最後サーシャさんのインタビュー取れれば完璧!時間的にラストだ」
ディレクターに言われ、キョーコが少し離れたところに立つサーシャの方へ顔を向けると、タイミングよく向こうもキョーコを見た。
キョーコがそちらに一歩足を踏み出すと、サーシャはにこりと微笑んで、こちらに向かって歩き出した。それはもはやモデルのウォーキングといってもよく、歩くたびにスリットからすらりと覗く足は色っぽくも筋肉質で、体に張り付くほどの薄いドレスの生地の向こうには引き締まった裸体が見えるかのようだ。

キョーコの元にたどり着くまでに他の取材陣から何回か声がかかったのだが、サーシャはそちらには手を振るだけで真っ直ぐにキョーコのところへとやってきた。

『サーシャさん、ありがとうございます!少しだけお話伺わせてください』
『いいわよ、その着物きれいね。つい見惚れてこっちに来ちゃった』
ふふ、と笑ったサーシャはキョーコの顔を見て少しだけ動きを止めた。
『…ん~、あなたには会ったことあるかしら?』
『あ、はい!つい先日、敦賀さんの楽屋にお邪魔したときにご挨拶させていただきました、京子と申します』
ああ、とサーシャは思い出したように頷くと、カメラの方に向き直る。
『では早速なんですけど…』

やや緊張気味であったが、キョーコによるサーシャのインタビューは順調に進む。キョーコは手早く質問をまとめ、やがて最後の質問をサーシャに向けた。
『今作でシリーズ完結ですが、今までの撮影を振り返っていかがでしたか?』
『とても貴重で楽しい体験だったわ。スタッフも共演者も監督も素晴らしい経験をくれたし、特にレンは最高だった』
『そうなんですね、映画の中でも息のあったお二人でしたけど』
『彼は役者としても素晴らしいけど、ひとりの人間としても男としても完璧に近いわ。そういえばあなた、彼と知り合いなのよね?』
『はい』
『あなたからも彼に言ってくれないかしら。彼は世界中から愛される俳優になれる男よ。日本はいいところだけど、やっぱりハリウッドでこれからも活動するべきだと思うの』
『ハリウッド俳優としても他の方に引けを取らないってことですか?』
『そう、それどころかトップだって取れるわ。ぜひ、あなたからも伝えて』
『は、はい、機会があれば。サーシャさんは直接敦賀さんにそれを仰ったんですか?』
『もちろんよ!えっと…ねえレン!』

サーシャはくるりと周りを見回すと、別の取材を受けている蓮を呼んだ。蓮はちょっと待って、というように手で制するがサーシャは何度も蓮の名前を呼んで最終的には蓮のところまで行って腕を引っ張りつれてくる。
『ほら、いい加減いい返事をしてよ』
『何の話?』
『ハリウッドに活動の拠点を移すって話』
『ああ、それなら俺も答えたはずだよ。当面は主軸を日本に置く。もちろんアメリカでもそれ以外でも、話があればいつでも受けるよ』

蓮の言葉にオーバーなリアクションでサーシャは「Oh」と空を仰ぐが、キョーコはインタビュアーとして蓮に聞いた。
『敦賀さんはハリウッドメインで活動したいとは思われないんですか?』
『そうだね、日本にいたってあちらの映画に出るチャンスはあるから』
『日本に居続ける理由は?』
『映画やドラマや、いろんな経験を次々と積めるからだよ。大作映画だけが俳優の仕事じゃないし、演技の幅は常に保ちたいと思ってる……あと、やっぱり日本は俺を育ててくれた国だから。強い愛着があるから今はまだ離れがたいね』

すると突然、サーシャがキョーコの理解できない言葉で蓮に話しかけた。傍らにずっと控えていた通訳も微かに首をひねるが、蓮は表情を崩さず短く返事をする。
『ごめんね、サーシャはロシア出身だからたまにこうやって冗談でロシア語で内緒話をしたがるんだ』
蓮の言葉はテレビカメラに向けられた説明だったが、キョーコは楽屋での2人のやり取りもロシア語だったのか、と納得しつつ首をかしげた。
『敦賀さん、英語だけじゃなくてロシア語も話せるんですか??』
『うん、まあ少しだけ』
『ふふ、レンと私のバックグラウンドは似てるのよ。そこも運命的なところよね』
サーシャは2人の会話に割ってはいると意味深な笑みを浮かべて蓮の腕に手をかける。すると後ろに静かにたたずんでいたトムが腕時計に目をやった。
『サーシャ、そろそろ時間だ』

『お2人ともお話ありがとうございました!』
キョーコは深くお辞儀をすると2人を送り出し、カメラに向かってまとめコメントを発する。ディレクターからOKがかかって振り向いたときには蓮とサーシャはステージの脇で共演者や監督と話をしていた。

バックグラウンドが似てる…?

インタビュー中に引っかかったサーシャの言葉を、2人の後姿を見ながらキョーコは再度引っ張り出す。
サーシャの笑みは、『あなたは知らないでしょうけど』と言っていたように見えた。テレビカメラの前だったからにこやかで穏やかで飛び切りの笑顔だったが、蓮を引っ張ってきた辺りにも少し意図的なものを感じてしまう。

考えすぎかしら。だってまさか、敦賀さん私のことなんてサーシャさんに話してない…わよね?
でも、サーシャさんは敦賀さんがロシア語を話せる理由を知ってるってこと…?

ああまただ。またもやもやとしたスッキリしない気分が、とキョーコは気を紛らわせようと顔を上げて深呼吸をした。するとステージの周りに大々的に飾られている映画のモチーフが目に飛び込んでくる。

そうだ。

蓮は、あの展望台で抱きしめたキョーコを腕の中から解放してから、とても気になる不思議な事を言っていた。

「プレミアには来るよね?」
「は、はい!なぜかご招待されまして」
「俺が社長に頼んだんだ。とにかく君には、最初にあの映画を見てもらいたい。だから試写は絶対見てくれる?」
「え…なぜまた?もちろん、どっちにしても公開されたら見に行くつもりではいましたけど」
きょとりと蓮を見上げたキョーコに蓮は ふう、と息をつくと、こつりとキョーコのおでこに自分のおでこをくっつけた。

「君とちゃんと付き合うために、俺には君に伝えなくちゃいけないことがまだあるんだ。サーシャのこと抜きにしても」
「伝えなくちゃいけないことって…?」
『付き合う』なんて言葉をさらりと言われると、キョーコの心臓は簡単に飛び跳ねてしまう。しかしなぜだか蓮は少し苦い表情をしているように見える。

「でも全部伝えたら、もしかしたら君に怒られるかもしれなくて…いや、間違いなく君は怒るな」
「…何のお話ですか?」
「まずは、映画を見てくれる?」
「映画に何か関係が……?」
「見たら分かるよ。きっと見たらすぐ、君は俺を問い詰めたくなる」
「え……?」
「説明するよりその方が早いからね。タイミング的にはアメリカから帰ってからになりそうだけど、とにかく俺のことは全て君に話す。その上で君がどうするか、決めてほしい」


うん、そうだった。
映画を見たら何が分かるのか今は分からないけど、敦賀さんは『全部話す』って言ってくれたんだっけ。
きっと、さっきサーシャさんが言った事も含まれるはずよ。それにそう、分からなかったら聞けばいいんだ。
何を言われるのか分からないけど…それで気持ちが揺らぐなんて事ないはずよね…ううん、でも気になる…なんかちょっと怖いかな?

ふと気づけば、出演者たちはステージに上がり、司会者もスタンバイをしてイベントが始まりそうだ。キョーコは自分の役割を思い出して、慌ててステージ横のスタッフへと駆け寄った。

考えている暇はないし、考えたって何が変わるわけでもないもんね。


仕事とプライベートの切り替えも、昔に比べれば早くなった。キョーコは無意識にではあるがあっという間に仕事モードに切り替わり、着実に役割をこなすべくステージ脇にスタンバイする。

実際のところ、大きな花束を抱えてステージに上がったキョーコは俳優たちに絶賛されたし、なぜかステージイベントが終わってからも俳優たちに記念撮影を求められたり構われたりもした。
それには留まらずアメリカのテレビ局にも撮影されたり取材陣に写真を撮られたり、とにかく忙しくて、ゆっくり思いを馳せる暇など確かになかったのだった。


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