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Break The Spell (12)


こんばんはー!ぞうはなです。
よし、今週(だけ)は更新が順調でした!





「っお前…!人がせっかくなあ…」
尚は閉じられたドアに向かって叫びかけたが、舌打ちして「知らねぇぞ」と呟く。それからようやく、そこに社が立っている事に気づいた。
「ごめんね不破君、キョーコちゃんのこと心配してくれてたのかな」
社に笑顔で話し掛けられて、尚は目をむいた。
「な、ばかなっ。俺はあいつの心配なんてしてねえよ」
「そうかい?」
「俺があいつの事心配したって何もないっつの」

尚は咳払いを一つするときろりと社を睨む。
「あんた、キョーコの前はあの男のマネージャーだったよな」
「あ、ああ。再来週からまた復帰だよ」
社は尚から静かな圧力をひしひしと感じながらも素直に返事をした。

「そうなのか?…だったら!あの非常識な男を何とかしろよ。人目も気にせずいちゃつきやがって、みっともねえったら」
「蓮のことまで心配させてすまないね」
「だからっ!心配なんてしてねえっつの!ただ、目ざわりで迷惑だってだけだ!それになあ」

尚はしばらく言葉に迷ってから口を開いた。
「あいつが…その、尊敬してる相手がひでえ奴だって分かったら目標を見失って……とにかくなあ!タレントの管理くらいちゃんとしやがれ!」
「わ、分かった、すまないね、迷惑かけて。俺も気をつけるから」
社は懸命に尚をなだめた。口に出すと尚がまた怒ると分かっているので言わないが、尚の気持ちはよく理解できる。やはり尚はキョーコのメンタルを心配してくれているのだ。
いや、「してくれている」訳ではなく、勝手に気になるだけだとは思う。おそらくキョーコと蓮との関係も。
けれどそうだとすると1点、社には気になることがある。

「それだけだっ。キョーコにも言っとけよ!」
「ああ、だけど不破君」
「ああ?」と返事をされて、社は思わず質問をやめようかと口をつぐんだ。しかしイライラと言葉を待つ尚にやはり好奇心が抑え切れなくなる。

「蓮のことは俺がちゃんとするよ。けど…君は貴島君の事は気にならないの?」
「貴島?」
尚の眉がふいとつり上がる。しかし「ふーーー」と尚はため息をつき、なぜだか口調は穏やかになった。
「あれはだって…あいつの事はキョーコ、なんとも思ってねえだろう」
「なんとも?」
「ああ。先輩だからってバカ丁寧に接してるけどそれだけだ。盲目的に尊敬もしてねえし、間違っても男としてなんて見てもいねえ」
「分かるんだ。すごいね」
「あいつが分かりやす過ぎるだけだ。大体どっちにしたって俺は心配なんてこれっぽっちもしてねえ!」

尚はなぜだか恥ずかしそうに顔を背けると「ったく時間を無駄にした」とかなんとかブツブツ言いながら立ち去った。

待ち伏せしてたくせに素直じゃないなあ…

苦笑いしつつも、社の尚に対する印象はそれほど悪くはない。
蓮がアメリカに行ってから、尚はたまにキョーコの前に姿を現す。キョーコははっきり言わないが、電話もかかってきているようだ。それがタイミング的にスキャンダルの直後やキョーコの出演ドラマの評判が芳しくないときにうまく重なるので、社は尚がキョーコを気にしてのことだと確信している。
キョーコも尚を歓迎はしていないものの、以前よりも当たりがソフトになったように思える。好いてはいないが以前のような憎悪も少し薄れているようだ。これまた、否定されるのでキョーコには言えないのだが。

掛け合い漫才のようなやり取りはお互いに遠慮がないが、それこそ幼馴染と言う関係性のなすものだろう。一時期はキョーコが尚の元に戻ってしまうのではないかという焦りが社にあったことは確かなのだが、よくよくふたりを見ていると、そういう関係ともまた全然違う空気がある。


しっかし本当に、キョーコちゃんのことよく分かってるんだよなぁ…
その行動が裏目に出ることもあるんだけどさ。
不破はキョーコちゃんのこと、気になってるんだろうなあ。やっぱりそれって恋愛感情なのかな?
このタイミングって事は、やっぱり蓮とキョーコちゃんの間のこと、何かあるって疑ってるってことだよな。


周りがあれこれ勘付いて詮索してガサガサしているのに、当の本人たちが薄い壁を隔てたような感じであることに、社は改めてため息をつく。
けれど今日の蓮はキョーコに接触したがっていたようだった。

あれ?でもやっぱりキョーコちゃんに会わなかったのか、あいつ?


どこまでヘタレなんだと憤慨したところで、先ほど音を立てて閉じたドアが今度は静かにゆっくりと開き、中からキョーコが顔を覗かせた。
「すみません社さん。あいつもう行きました?」
「ああ、もう行っちゃったよ」
「ありがとうございます。…ったく、人のことばっかりいらないお節介を…!」
「不破君もあれでキョーコちゃんのこと心配してるんだよ」
「心配っ?あいつが?やめてください、今日嵐が来ちゃいますよ」
「まあそう言わないで。けどさキョーコちゃん」

表情を改めた社に、キョーコも背筋を正して言葉を待つ。
「これもお節介かもしれないけど、一度蓮と話してほしいな。なんかお互い誤解があったりするかもしれないし」
「ごっ誤解も何も!そんなその、そもそも疑ったり誤解したりするようなこと、ないですよ!」
「んーーそれでもね。実は今日事務所で、蓮はキョーコちゃん探してたんだよ」
「え…?今日事務所で敦賀さんにお会いになったんですか?」
「うん、さっきの雑誌取材の前。だからキョーコちゃんに会いに行ったと思ってたんだけど」
「いえ…今日はお会いしてませんけど……」
事務所にいる間のことを思い返す。しばらく会議室でひとりで休憩し、社が来るまでは誰もたずねては来なかった。うん、間違いない。大体、蓮とは今夜会う約束をしているのだ。わざわざ事務所で探される理由もないはずだ。
キョーコは一瞬、社に蓮との今夜の約束の事を話そうかと考えた。社は昨日のお遣いの件は知っているが、一昨日蓮が会いに来てくれた事は知らないはずだ。しかし頭を瞬間的に回転させた結果、喉まででかかった言葉を飲み込む。

そうよっ。もしかしたら、今夜はサーシャさんも一緒かもしれないじゃないの。
「この人が、俺が将来を誓った人なんだ」なんて、改めて紹介されちゃったらどうするのキョーコ??
明日社さんに「どうだった~?」なんて聞かれたりしたら、なんて答えていいのか分からないじゃないのよ!!


あらゆるシチュエーションを想定しておくべきだと、キョーコはかなり悲痛な決心をする。
それはショックを受けたり傷つく事への予防策だったが、裏返せばうっかり何かを期待してしまう気持ちへの戒めでもあり。キョーコは無意識の内にそんな思考をめぐらせていたのだった。


「緊張…する……!」
キョーコはテレビ局の通用口を出たところで立ち止まり、胸に手を当てて大きく息を吐き出した。なんとかうまく誤魔化して、社は先にテレビ局を出ている。
収録が終わりに近づくにつれ緊張感が増していくなど、テレビ出演を生業にする芸能人としてはいかがなものかと思う。プライベートと仕事の区別がつけられないなんてと、蓮に軽蔑されるかもしれない。

と、うっかり蓮のことを思い起こしてしまってますます緊張感が高まる。
自分は何をこんなに緊張しているのだろうか。一昨日だって蓮が外で待っていてくれて、昨日には楽屋を訪れて…連日顔を合わせているというのに。


話があるって、言われてるからかな…


蓮がいない間あれこれ考えながら過ごしてきた、この3年ちょっとの間の想いにケリがつくのかもしれない。
そう思うから、これほどまでに足が竦むのだろうか。
いや、蓮の話というのはそんな事ではなく、映画やお芝居の話かもしれない。
いやいやでも、さっき思いついた通りサーシャさんが一緒にいる可能性だって…。

ええい、行ってみるしかないじゃないの!
大体、お待たせしてるかもしれないんだから、行くわよキョーコ!


キョーコはテレビ局の外に出ると、敷地の角を曲がり少し細い道に入った。
空は真っ暗だが道には街灯があり、少し先に停まっている車がいやでも目に入ってくる。初めて見る新しい車。フォルムは以前乗っていたものによく似ているが、その車体は艶めいた黒だ。
歩きながら大きく息を吸って吐いて。いつもの表情を作れるように顔の筋肉に意識して力を入れて。

そうして数メートル歩いたところで、滑らかな曲線の車体を街灯の明かりで光らせた車のドアがゆっくりと開いたことに気がつく。
「お疲れさまです、敦賀さん。お待たせしてしまってすみません」
車からのそりと姿を現した男の前までキョーコは駆け寄り、はきはきと声をかけた。深くお辞儀をしてから頭を上げ、ようやく見上げた顔はいつもの穏やかな微笑み。

「最上さんお疲れ様。俺も今来たところだよ。さて、ちょっとドライブに付き合ってもらってもいいかな」
「はいっ!」
返事の声が少し大きすぎたかもしれない。そう思いながらもキョーコは視線を傍らの車の内側へと走らせた。

助手席のドアを当たり前のように蓮が開ける。乗り込みながら車内に誰も人がいないのを確認し、キョーコはとりあえず想像していた最悪の事態はなかったとこっそり安堵のため息をついた。

いやしかし、蓮の話の内容次第ではどういう展開になるのか分からない。
シートベルトを締めながら、キョーコは再び自分の気持ちに気合を入れ直したのだった。

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コメントコメント


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連日の更新、嬉しいです!

ぞうはな様、連日の更新、ありがとうございます!まさかね、とか思いながら、開くと新しく続きがアップされていて、この数日ハッピーです♪お話も佳境に差し掛かりそうで、キョーコちゃんと一緒にジェットコースター状態です。なので、ここで更新が途切れたりとか、ないですよね??←かなりずーずーしいお願い。いえ、ぞうはなさまに負担がかかり過ぎない程度に、更新お待ちしていまーす!どうもありがとうございました。

genki | URL | 2015/06/20 (Sat) 00:02 [編集]


Re: 連日の更新、嬉しいです!

> genki様

コメントありがとうございます!
ちょっと頑張っちゃったのでまたやや頻度は落ちるかもしれませんが、途切れたりはしないですよー。
キョコちゃん、すっかり蓮さんの一挙一動に翻弄されちゃってますが、きっと蓮さんの心の中も同じような。
次の更新までしばしお待ちください~~。

ぞうはな | URL | 2015/06/21 (Sun) 20:05 [編集]