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Break The Spell (11)


こんばんは、ぞうはなです。
続いて珍しく、あまり間隔あけずの更新!(反動が怖い!)





「あーー蓮?」
社はびっくりして声を上げた。
朝一の仕事終えたキョーコと雑誌取材を受けるために立ち寄った事務所で、廊下の向こうから歩いてくる大男を見かけたのだ。

「社さんお疲れ様です」
蓮は社の前で立ち止まると軽く頭を下げた。

「おお、お疲れ。今日は仕事は?」
「今の時間帯少し空いてるんです。このあとまた移動します」
「何でまた事務所に?」
「松嶋さんと来週の予定の確認に、ですが」
「来週?来週ってまだお前映画のPRイベントなんかが入ってるだろうに」
「ええ、とはいえ結構空いているので打ち合わせは前倒ししてもらおうかと」
「何で俺に言わないんだ」
ぶう、とむくれた社に、蓮はきょとんとした表情を作る。

「だってまだ社さんは最上さんと琴南さんのマネージャーじゃないですか」
「そりゃそうだけど、すぐに一緒に仕事するんだから同じだろうが」
蓮はまじまじと社のふくれっ面を見ていたが、やがて「ああ」と何かに気がついたように呟き、くすくすと笑い出した。
「何がおかしい」
「いえ。すみません、俺すっかり向こうの流儀に慣れちゃって」
「え?」
「マネージャーを契約前に動かすなんて事、しないですから」

社も表情をゆるめて納得したように頷く。
「ああ、そういう事か。けどお前、まだあっちの契約あるとはいえ、相変わらずLMEの所属なんだからな。寂しいこと言うなよ」
「すみません」
「そういえば、向こうじゃマネージャーつけなかったんだって?」
「映画しか仕事がないですからね。仕事取ってきたり管理したりする必要、なかったんですよ。PRや取材の方は皇貴さんが全部采配してくれましたし」
「まあ、そうか…そう言われればそうだな」

社はきょろりと周りを見回す。
「んで、今日は1人なのか?サーシャさんは?」
「彼女は昼に雑誌のインタビュー受けて午後はオフだそうです。俺は別なので抜けてきました」
「へーーー。"抜けて"ねぇ」
物言いたげに社は目を細め、蓮は肩をすくめた。
「すみません、何かとお騒がせして」
「俺に謝るなよ、相手が違うだろう」
ふん、と目をそらした社に、蓮は尋ねた。
「最上さんは一緒じゃないんですか?」
「いや、今日は1日一緒だ。雑誌取材までちょっと時間があるから、会議室で昼休み中だよ」
「どこの会議室ですか」
「教えない」
即答した社に、蓮は少し怪訝な表情を作る。

「社さん?」
「彼女今朝ちょっと元気がない感じだったんだ。あんまり気を乱したくないからな、触れないでくれ」
「俺と会うと最上さんの気が乱れるんですか」
社はゆっくりと顔を上げて蓮の目を見る。
「さあ?」
その口から吐き出されたセリフはにべもなかった。


本当に教えてくれないとはな……

蓮は少しだけ周りを気にしながら静かな廊下をゆっくり歩く。

さすがに全部ノックして歩くわけにもいかないな。
しかしあの社さんの反応を見ると、最上さんは今日俺と約束したことは社さんに伝えてないのか。

廊下の壁には無表情な扉がいくつか並び、プレートに会議室の名前が書かれている。社は奏江の方の用件があると、蓮と入れ違いに俳優セクションへと向かった。野放しにされたところを見ると、キョーコとの面会を禁止された訳でもなさそうだ。影響をよく考えた上で好きにしろ、というところか。

蓮はふと足を止めた。
今日キョーコと会えると分かっているのに、なぜ自分は今ここで彼女の姿を探しているのか。


やっぱり、最上さんが絡むと俺には余裕なんて無くなるんだな。

3年以上も違った環境にもまれ、人種も何もかも違う人々とも付き合って仕事をやり遂げてきたと言うのに、自分ときたらあの少女の…いやもう少女ではないが、キョーコの前に立つと、積み上げてきたものを全て剥ぎ取られて裸で立ち向かわなくてはいけない気分になる。
キョーコの一挙手一投足に過敏なのも、これだけ離れていたと言うのに相変わらずだ。いやむしろ、離れていた分感度は上がっているかもしれない。

進歩がない、とため息をつきながら足を進め、蓮は廊下に面した会議室のドアの一つが半分ほど開いているのに気がついた。
さりげなく中をうかがうと、ワンピースとロングブーツを身につけた女性の後姿がドアの合間から見える。背中を見せて座っている女性の髪は栗色のセミロング、机にはドラマの台本らしきものと食べかけの弁当。
顔は見えないが、キョーコに間違いない、と蓮は確信した。

蓮は周りに人気がないことを確認してから、物音を立てずにドアの前に立ち止まる。
声をかけようか逡巡しながら様子を伺うと、どうやらキョーコは何かをぶつぶつと呟いているようだ。さすがに小声なので何を言っているかは分からないが、蓮は何をしているのかが気になって、ノックのために半分上げかけた手を下ろした。

キョーコはやがてフルフルと小さく首を横に振ると、机に突っ伏すように頭を下げる。その瞬間、目に入ってきたものに驚いて蓮はぴくりと肩を震わせた。
キョーコの下げた頭の向こうに見えるもの、それは見間違いのしようがないほど自分にそっくりな顔だ。ただし、実物よりはだいぶ小さい。

蓮は動揺しながらも物音を立てないようにそっとドアから離れる方向へ後ずさった。
今見たものはおそらく、だいぶ前のマリアとキョーコ主催のパーティーでキョーコからマリアにプレゼントされた自分の人形、あれと同じものだ。マリアが抱きしめていたものよりはだいぶ小さかったが。

俺の人形を最上さんが自分で作って自分で持っているのか?

蓮は無意識に片手で口の辺りを押さえていた。
驚きがもたらした衝撃がおさまると今度はキョーコがどんな気持ちで自分の人形を持ち歩いているのか、知りたい気持ちが湧きあがってくる。

そういえばちょっと見えたあの人形の服…映画の中で着ていたものに似てたか?

崩れそうになる表情を必死に押さえながら、蓮はなんとか駐車場の自分の車へと避難したのだった。


「おせぇよ」
仏頂面で言われて、キョーコはうっかり「ごめん」と言いそうになり慌てて言葉を飲み込んだ。
「何よ、あんたと約束した覚えもないし時間通りに入ってるんだけど?」
キョーコは負けじと憮然とした表情を作って目の前に立つ男に言い返す。局のスタッフが、ぎょっとして2人を振り返りつつ通り過ぎた。

キョーコの楽屋の前に立っていたのはその人気を不動のものにしているアーティスト、不破尚だった。
事務所での雑誌取材を終えてドラマ収録のために訪れたテレビ局で、会うなり不満を言われてもむっとするだけだ。キョーコはハエを追い払うようにしっしっと手を振って幼馴染にどくように指示する。
「ほら、あんたに構ってる暇なんてないんだからとっととどいて、邪魔なのよ」
「お前あのすかし野郎と会ったのか?」

人の話も聞かずに全然関係無い話題を怒り口調で話し始める尚に、キョーコの眉間の皺が深く刻まれる。
「誰よすかし野郎って」
「わかれよそんくらい!敦賀の奴に決まってんだろが」
「またあんたは先輩に対してそういう…」
「会ったのか?」
「…会ったわよ。だから何」

ギン、と睨むキョーコにひるみもせず、尚はぐいと顔を近づけた。
「あの野郎、ハリウッドのなんとかっていう女優とべたべたしてなかったか」
「サーシャ・カーニー。世界的な女優の名前くらい覚えなさいよ、いくら脳みそがひび割れてたってひからびてたって」
「さっき2人でいるところ見たんだよ。あいつらバカなんじゃねーのか?公衆の面前でいちゃいちゃしやがって」

どこの昭和親父よ、とキョーコはため息をついて腰に両手を当てる。
「いちゃいちゃだろうがなんだろうが関係無いじゃないの、相変わらずバカの言いたい事は分からないわ」
「お前はいいのか」
「はあ?」
急に表情が厳しくなった尚に、キョーコは内心どきりとしながら少し大きな声を上げた。

「あいつがあの女とくっついて、お前はいいのか」
「何で私にそんな事聞くのよ」

キョーコは真っ直ぐに尚の顔を見据えると言い放つ。
「私がどうこういう事じゃないわ。いいも悪いもない」
立っている尚を押しのけるようにドアを開け、キョーコは楽屋に滑り込むとばたんと音高くドアを閉めた。


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