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Break The Spell (10)


こんばんは!
非常に久しぶりな、週明けいきなりの更新です。





気分がすぐれない時に限って天気はいい。
空は青く澄み渡り、雲ひとつない。冷たい空気はぴんと張り詰めて、大きく吸い込むと肺が痛いと感じるくらいだ。

「おはようございます!」
テレビ局に入ると、キョーコは元気に笑顔で挨拶をする。
楽屋に行く途中の休憩スペースには先に到着していた社がいて、「おはよう」と笑顔で立ちあがった。

「社さん、今日1日よろしくお願いします」
「うん、こちらこそ。今日は移動も多いしちょっと慌ただしいけど頑張ろう」
「はい!」
笑顔ではきはきとキョーコは返事をしたのだが、社は少しの間キョーコの顔を見つめるとわずかに眉間にしわを寄せた。
「体調大丈夫?なんかちょっと疲れてる…?」
「そうですか?大丈夫ですよ?」
「そう?ちょっと目の回りが赤いような…ん~~~、無理はしないで何かあったら言ってね?」

キョーコは内心どきりとした。
朝起きたら少し目が腫れていたのだ。必死に温めたり冷やしたりして、メイクも普段より少し濃いめにして誤魔化したというのに、さすが有能マネージャーはタレントの様子をよく観察している。

キョーコが必死に平静を保とうとしていると、社はちらりと周りを見てから少し声をひそめた。
「昨日、貴島と食事に行ったんだよね?それは…大丈夫だった?」
「はい、お食事だけして帰りましたから、何も問題ありません」
「そっか…うん、それならいいんだ」
キョーコは着替えのために楽屋に向かい、社はスタジオ入りまでの間に仕事をこなす。


蓮もそうだけど、キョーコちゃんも琴波さんも自己管理がしっかりしてるから楽は楽なんだよね。


手帳でキョーコと奏江のスケジュールを再確認しながら、社はふいと思考を飛ばした。


自己管理がしっかりしている上に、収録の時も自分に求められる役割は即座に把握して対応するし、奏江は多少クールで人との関わりを持ちたがらないところもあるが、周りとのトラブルもほとんどなく、マネージャーとしてはかなり楽だと思う。
2人分のマネージメントをこなしている社が現場に付いて行かれない事も多いのだが、全く気にされないのがかえって寂しいと思うくらいだ。

だけど…その分抱え込んじゃう傾向もあるんだよな。


先ほど見たキョーコの表情を、社は思い返してみた。
蓮がアメリカに行ってから、自分は蓮のサポートをする気持ちもあってラブミー部メンバーのマネージャーを申し出た。最初は恐縮していたふたりだったが、社長の快諾もあり、蓮が帰るまでの期間限定ということでようやく受け入れてくれたのだ。

そして、そこから先のキョーコの仕事への打ち込み方は、まるで蓮が乗り移ったかのようだった。
プライベートなどそっちのけで仕事にのめり込み、全力でやり遂げていく。しかしその成果あっていまやタレントとしてより女優としての地位を確実なものとしつつある。連続ドラマの出演は毎クール常連というほどだし、映画の経験も着実に積み、舞台のオファーも来ている状況だ。

少し張り詰めすぎじゃないか、と心配になるくらいでもあった。
何せ、親友である奏江の状況も似たり寄ったりで、切磋琢磨するのはいいことだが相手の働きすぎをとめる事などなく、上へ上へとひたすら競い合うように上っていくのだ。
それを考えると、スキャンダルは困るのだが、実は社にとっても貴島の存在はキョーコの息抜きのためにも認めざるを得ないものだった。
認めざるを得ないが、蓮不在の間にキョーコが貴島に恋心など抱いてはほしくない。しかしそんな社の個人的な思いは強制できないし、相手をどう思っているなんてプライベートな事、異性であるキョーコにずけずけと聞けもしない。

けど、貴島の事でキョーコちゃんが悩んだり困ったりするって考えにくいよな…
貴島が本気かどうかは知らないけど、キョーコちゃん自身はうまい距離で付き合ってるみたいだし、明らかに恋愛感情はなさそうだし。うん、なさそうだし…多分きっと。そう!だって、キョーコちゃんは頑なにラブミー部にいるじゃないか。

…それにこのタイミング……やっぱりキョーコちゃんの様子がおかしい原因は蓮か?
考えてみれば仕事のギアが一段上がったのも蓮がアメリカに行ってすぐだったし。


以前ならば、蓮がアメリカに行く前ならば、キョーコが蓮について悩んでいるなんてことを聞いたら、不謹慎ながら社は喜んでいただろう。少しでも蓮のことを気にしている、しかも異性として。そんな兆候、つかみたくてもつかめなかったのだから。

しかし今は少し事情が違う。社は薮蛇になるだろうかと、キョーコにも蓮にも恋愛に関することを問いただせずにいた。
ネットや情報番組で何回も目にした写真。サングラスをかけた蓮にべったりとくっついたサーシャ。サーシャの肩に蓮が腕を回しているように見えるものだってあった。蓮がアメリカにいる間、3回は報道されたんじゃなかろうか。
パパラッチが撮った写真は完全にプライベートと思えるものだったし、サーシャが出したコメントは蓮と仲がいいと公言するものだった。なぜか蓮のコメントはどこにも見当たらなくてその真意ははっきりと分からなかったのだが。


蓮~~…お前大成功して帰ってきたんだから、もういいんだろう?なんでキョーコちゃんに意思表示しないんだよ!
できない理由があるのか?お前まさか、本気で乗り換えたのか?
きっとキョーコちゃん、お前が帰ってくるまで待ってたと思うぞ?そうじゃなかったら、ラブミー部なんて卒業してるはずだよな?気がついてくれよ、蓮!
どうすんだよ、貴島が本気になったら本当に掻っ攫われるかもしれないぞ。いいのかー!?


もし蓮がハリウッド女優と本気で付き合っているのならば、再来週からどんな顔して付き合えばいいのか、この怒りにも似た感情をどうやり過ごせばいいのかと、社は痛む胃を抱えていた。「大食いとかゲテモノ食いとか、今まで断ってた苦手ジャンルの仕事つっこんでやろうかな?」とマネージャーの権限を悪用することすら、頭をよぎるのだった。


マネージャーが担当タレントについて(主に仕事以外であるが)あれこれと思い悩んでいる間、当のタレントの方は着替えを済ませて鏡に映った自分の顔をぼうっと眺めていた。

見慣れた顔。
少し疲れているような鈍い目の光に、自信なさげに下がった眉毛。メイクをしても自分自身には隠しようがない。

「比べ物にならないわよね…」

昨日蓮の楽屋にいたサーシャは、きりりと凛々しく上がった眉毛に強い瞳の色の持ち主だった。
スタイルは比べようもないし、あちらは十代の頃から世界的に有名で人気のある女優だ。蓮と共演するという事を知ってからなんとなく気になって過去の映画を見てみたのだが、体当たりのアクションだけではなくしっとりとした演技でも魅せる演技派だということがよく分かった。

けど、自分より素敵な人だったら割り切れるかって言えば、そうでもないんだな…

ため息が出そうになって思わず飲み込む。
人をうらやんだって何もならない。悔しければ自分が高みに上ればいいのだ。

って言ってもね…素材の問題はどうにもならないわ…

身長はこれ以上伸びそうにないが、メリハリのある体型になるにはどうにかやりようがあるのだろうか。
…いや、これからどんなに頑張ったって、蓮が向こうを選んだ以上、もう意味はないではないか。

がくりと肩を落としたところでカバンの中から微かなバイブの振動が聞こえ、キョーコはカバンからスマホを取り出した。
「敦賀さん」という文字が表示された画面を見た瞬間動悸が速くなる。キョーコは目を閉じ胸に手を当てて、ひとつ深呼吸をして気持ちを落ち着けると電話に出た。

「もしもし、最上です」
『お疲れ様、最上さん、今大丈夫?』
「お疲れ様です。はい、少しでしたら」
はきはきと答えるが、耳から入ってくる柔らかい声が体の中でぐわんぐわんと響く気がする。

『うん、ごめんね、すぐ済むよ。ちょっと会って話がしたいんだ。昨日はダメだったけど、今日か明日はどうかな』
「今日は終わりがちょっと遅くて、22時回りそうなんです。明日も……ごめんなさい、同じくらいですね」
声が上ずらないよう、キョーコは必死だ。いつもの自分の調子を保とうとするが、それがどんなものかも分からなくなりそうになる。
『じゃあ…もし君が嫌じゃなければ、今日の仕事終わったあと少しだけ時間をくれないかな。遅くて申し訳ないんだけど』
「はい……それは大丈夫ですけど」
『よかった、ありがとう。現場はどこ?迎えに行くよ』
「そんなご迷惑をっ…!」
『昨日言ったよね、試運転に付き合ってほしいって。それも兼ねてるんだ。だから気にしないで』
「はあ…わ、わかりました」
いつもの柔らかい調子ではあるが、キョーコは蓮の声に若干の違和感を感じる。しかしその違和感がなんだかはっきりとせず、キョーコは請われるままに今日の最後の仕事があるテレビ局の名前を伝えた。

『ありがとう。多少遅くなっても気にしなくていいから。収録が終わったら横の細い通りに出てもらえるかな』
「はい、分かりました」
キョーコは何とか表面上は冷静に、おそらくいつも通り、蓮との会話を終えた。

通話を切ってから、糸が切れたように目の前のカウンターに突っ伏す。

話って何?何なの?
聞きたいような聞きたくないような…!
ああ私、いつもと同じように話せてたかしら。もう敦賀さんから電話が来ただけで焦っちゃって…!

そしてふと気がついた。
蓮の声の違和感。
それはそうだ、"焦り"。どこか焦っているような、冷静さを失っているような。
いつもよりちょっと強引なような。

いつもって何よ、大体直接会話するのなんて何年振りよ?

キョーコはバシバシと自分のほっぺたを叩くと勢いよく立ち上がった。
とりあえず今は仕事だ。余計な事を考えている暇もない。
きりりと女優の顔になったキョーコは、勢いよく楽屋のドアを開け、背筋を伸ばして歩き出した。


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コメントコメント


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心拍数が・・・・

二人の気持ちがすれ違わないと良いな~なんておもってみたり
ドキドキします!!
続き楽しみにしてます!!

イズミ | URL | 2015/06/17 (Wed) 14:29 [編集]


Re: 心拍数が・・・・

> イズミ様

すれ違いもまたドキドキしていいのですが、すれ違い過ぎると不安になります。
両片想いって切ないですね。
ぼちぼちつづけていきますのでぜひまた遊びに来てください!

ぞうはな | URL | 2015/06/17 (Wed) 22:38 [編集]