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君の魔法 (17)


2回ほど男くさい会話の回でしたが、やっとこキョコたんを出せました。
書けば書くほど甘さから離れてしょっぱくなっていくのを引きもどすのが大変です…





レンは宮殿の廊下を歩きながら、先ほどの会議室で王から言われた言葉を思い出していた。


お前の力量が認められれば認められるほど、あいつらの危機感は強くなっていくんだ。これからは足を引っ張られることが増えるのは間違いない。
頑固に今のまま突き進むのも別に構わねえと俺は思うが、もう『実』が『名』を追い越してることは自覚しといた方がいいぞ。


王ははっきりと、たいした家柄の出ではないレン・ツルガという人間の能力が、有力貴族たちに警戒されていることをレンに伝えたのだ。確かに、会議後、レンが書庫に入ったことや、王家の魔法について知識を持つことについて王に警告した者は複数いた。

レン自身もやっかみや詮索に始まり、いわれの無い蔑みなど、様々な嫌な思いを十分に経験してきている。今日の事件だって、しっかりした証拠があって本人が認めなければ、自分が疑われてもおかしくは無かった。
貴族たちが家柄にしがみついている姿は滑稽に思えるが、ある意味自分だって…

ふと気がつくと目的のドアの前まで来ていた。
レンは立ち止まり、ドアを軽くノックする。すぐに中から返答があり、ドアを開けて中に入った。

部屋は両手の指では足りないほどある宮殿の客室の一つだった。普段は国賓や王族のプライベートな客が滞在する際に使用されるのだが、今日はその部屋のベッドにはレンの部下である1人の女性が横たわっていた。
レンがベッドに目をやると、大量にある枕を当てて少し体を起こしている女性が目に入った。その前で椅子に座っている一人の男性がこちらを見て立ち上がる。

おや、あの男性は確か以前どこかで…

レンはベッドに近づきながら、椅子の男性にどこで会ったのかを考えた。そして、ああ、と思い当たる。手を差し出してまず男性に挨拶をした。

「こんにちは。前に一度お会いしていましたね。挨拶もせずに失礼しました。キョーコ・モガミの所属する近衛隊の小隊長のレン・ツルガと申します。フワ家の方ですか?」
男性は出された手をしっかりと握りながら返事を返す。短い口ひげをたくわえた温厚な雰囲気を持つ中年男性だ。
「あの一度で覚えてらっしゃいましたか。さすがツルガ様ですね。お噂はかねがね伺っております。私はモガミ家の職人頭をしております、サワラと申します」
サワラはキョーコの魔力が暴走した現場でレンと対面していた。キョーコの許婚の同行者だったのだ。

レンは手近な椅子を引き寄せながらサワラにも座るように促した。そしてベッドのキョーコに目を向ける。

「意識はすぐに戻ったと聞いたが、調子は?」
「ありがとうございます。特に何もないんですけど、体に力が入らなくて…」
キョーコは苦笑しながら答えた。目覚めたとき、自分が宮殿の豪華な一室にいることに気がついて慌てたが、様子を見るのにここが一番いいから!とテンに強く言われ、抜け出すにも体が動かず今に至っている。

「あの状況で力を振り絞ったら、しばらくは仕方がないだろう」
レンは軽く笑って言った。それくらいで済んで幸いだった。もっと大きな力を使わされたであろうマリアはまだ眠ったままなのだ。
それからレンはサワラに向き直る。
「先日お会いしたときはフワ家のご子息とご一緒でしたが、今日はおひとりですか」
「はい、この間は金細工の納品と、フワ家の次期当主のお目通りと兼ねてましたけどね。今日はあのときに依頼された直しと、次の注文の確認で青の魔女様のところに私だけ来たんです。細かい話は私が直接聞かないと分かりませんから。そしたら、お嬢様がなにやら大層な目にあわれたと聞きまして」
キョーコが慌てて口を挟んだ。
「そんな!私がこの仕事を選んでしてるんですから、危ないのなんて当たり前なんです!!!」

サワラは少し困ったように笑いながら答えた。
「まあ、私どももお嬢様が決断されて奥様が折れた時点でもう覚悟を決めてますから」
「サワラさん…覚悟って……」
キョーコは頬を染めてぼそぼそと呟く。家中の反対にあい、無理やり説得して飛び出してきた日のことが思い出された。
「でも、お嬢様のお元気そうな姿を見られてホッとしました。…この間も、お話は出来ませんでしたしね」
「…お、お恥ずかしい姿を……」
キョーコの魔力が暴走したとき、サワラの目にはキョーコが怒りで我を失っていただけのように見えていたのだが、それだけでも十分インパクトのある出来事だった。しかし、今日のキョーコはいつもと変わらないようで、サワラは心からホッとしていた。

「では私はこれで。奥様にもキョーコ様の様子が伝えられますし、よかったです」
サワラは椅子から立ち上がる。見送ろうとするレンを丁寧に押しとどめ、そのまま帰っていった。

ドアが閉まってしばらくしてから、レンが口を開く。
「サワラさんとは親しいのかな。なんだか今の君はとても嬉しそうだ」
「えっ。そうですか?」
キョーコは思わず自分の顔に手を当てながら尋ねた。
「ああ。憔悴してるのかと思ったら、元気そうでよかった」

キョーコは少し黙ってからおもむろに口を開いた。
「今、サワラさんから母のことを少し聞いたんです」
「ああ、なんだって?」
「私、この間ショータローに、ああ、フワ家の跡取りですけど、あいつに会った時、母がモガミ家のことまで全部あいつに任せてるのかと思ったんですけど」
「違ったと?」
「はい。母は、私が根を上げるまでは待つと、言ってくれてるみたいです。あいつ自身は自分が全部やってるって豪語してましたけど、実際サワラさんはお目付け役としてついてきて、取り仕切っていたらしいです」
「なるほど、自由に泳がせてるようで実は手綱は握ってる訳か」
「そうなんですね。それ聞いて、ああまだ母には勝てないなって思っちゃいました」
「その方がまだまだ目標が高くていいんじゃないのか?」
「そう思うことにします…」
キョーコはかくんとうなだれ、レンは笑った。今日初めての、穏やかな時間だった。

「しかし、やっぱり君は『お嬢様』なんだな」
「う…らしくなくて済みません…サワラさんはずっと昔から出入りしてる人なので」
「いや、別におかしいって言ってるわけじゃないんだ。いつもの姿を見慣れてるから、新鮮な感じだよ。…そうか、今日の狩りの時みたいな服装だったら『お嬢様』や『お姫様』でも違和感無いな」
「ツルガ様……もうそれくらいにしませんか…」
恥ずかしそうなキョーコの顔を見ながら、レンは(本当に無事でよかった…)と安堵していた。目の前にいるのに何もできない状況はかなり神経に堪えた。キョーコが魔方陣に飛び込んだことは結果としてはよかったのだが、レン個人としてはかなり慌てたのだ。

「あの…ミロクさんはどうなりましたか?」
キョーコが恐る恐る尋ねた。
「ああ、つけてた兵士は撒かれて行方知らずだ。なぜかレイノという男も一緒にいなくなったらしい」
「レイノ…」
キョーコは郵便物を届けてくれた男の顔を思い出した。なぜか、以前訓練のときに少しだけ話したことがあるミロクより、レイノの方が底知れない人間のような気がする。
「ただ、ミロクの父親のビーグール伯爵は最終的に関与を認めたかな」
「そうなんですか…」
「それもこれも君が神の声を聞いてくれたおかげだ。助かったよ」
「いえそんな!私が何か頑張ったわけでもないですし…本当はマリア様をお助けできればよかったのに」
褒められたと言うのに、キョーコはしゅんとしてしまった。昼間の一件以来、マリアの顔を見ることすら出来ていない。

レンはうつむくキョーコを優しく見つめると、ぽんぽんとキョーコの頭を優しく叩いた。
「君以上に俺も何も出来なかった。君のおかげでマリア様も他の皆も助かった事は事実だよ。胸を張っていい」
キョーコは少し辛そうな顔でレンを見上げたが、レンに温かい笑みを向けられると、「ありがとうございます」とほにゃりと崩れた笑顔になった。

真正面からその笑顔を見たレンは一瞬息を呑んで固まったが、何事も無かったように立ち上がる。
「さて、俺は戻るけど、明日1日は体が動くようになっても休んでるように。これは命令だから」
「は、はい!分かりました!」
キョーコはベッドの上だというのに背筋をピンと伸ばして真面目な顔で返事をした。レンはその様子を見て笑みをこぼすと、少しキョーコの方に身をかがめ、そのおでこにそっと口付けた。

「…………」

「ひえっ!?」
レンが離れてから数秒、キョーコがはじかれたようにおでこを押さえながら奇声を上げる。
「な、な、な、なんですかっ???」
ん?とレンは首をかしげ、早く元気になる魔法だよ、と笑って言ってそのまま部屋を出ていった。

部屋のドアが閉まると、固まっていたキョーコはその音を合図に一気にパニックの渦に巻き込まれる。
「なになに、なんなの!!なんで~~~~!!」
体はなかなか動かないので掛け布団を握りしめてブルブル震えた後、真っ赤な顔で呟いていた。
「…ツルガ様……ずるいですよ……こんな不意打ち反則なんですから…」

一方、ドアの外でも崩れるように壁にもたれかかった男が一人。

何やってんだ、俺は!
動揺したのを隠そうとした結果がなんでおでこにキスなんだ??
どんな神経回路がつながればそうなるんだ、俺??

片手で顔を覆ったレンの耳はキョーコに劣らないほど真っ赤だったが、幸い廊下は無人だった。

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