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Break The Spell (6)


おこんばんはでございます・・・

眠いですが、アップしてから寝ることとします…





車内には静かなエンジンの音だけが聞こえる。
かつて何回も送ってもらったその道をたどるのは、蓮にはちょっと似合わないと思えてしまう、平凡なショートワゴンの車だ。
蓮は帰国直後、とりあえずしばらく使える車をレンタルしたらしい。

渡米前に蓮が乗っていた車よりも小さいためか運転席との距離も近く、さらに運転席と助手席の位置も逆なので、何かと戸惑ってしまう。
「アメリカではどんな車に乗ってたんですか?」
沈黙がいたたまれなくてキョーコは何とか話題を探し出した。

「いや、向こうじゃ運転を禁止されてて出来なかったんだ」
静かに蓮が答える。口調も表情もいつものものだと思えるが、注意してよく見れば、それは「いつもの」ではあるものの、蓮の内側の感情や思考を綺麗に包み隠した外向きのものだ。
「じゃあすごく久しぶりですか?」
「うん。…ああ、心配しなくて大丈夫。運転は忘れてないから」
「大丈夫です、心配してませんから」

キョーコの即答に蓮は少し微笑んだが、そのまま口をつぐんで再度車内に静寂が満ちる。

エンジンも静かだし、曲もかかってないし、社さんもいないし…なんだか居心地が…
アメリカでの事、色々聞きたいけどでも……


蓮にアメリカの話を聞こうと思うと、どうしても映画の映像が思い出されてしまう。
これまで2作が公開された蓮主演の映画の中では、蓮とサーシャは"戦友"とお互いを呼び合うパートナーだ。最初は反発しあっていた2人も、シリーズ1作目の終わりには共に死線をくぐり抜けて絆を確かなものとし、2作目ではぎこちないながらも異性として意識しあい。

日本の番組への出演は限られたものだったが、アメリカで行われるインタビューは常に2人セットで、プライベートでも仲の良い様子をまるで見せ付けるかのようだった。


ダメ…だなぁ……私。


「ここはまだ真っ直ぐでいいの?」
はあ、とため息をついたところで蓮から声をかけられて、キョーコは驚いて前方に視線をやった。

「あ、はい!本当に近くなので、だるまやの手前を1つ左に曲がるだけなんです。あっ、ご面倒ですし、だるまやのところでもいいですよ!」
「大丈夫だよ」
「…すみません」
「それにしても近いんだね。近所に住もうと思ったのは最上さん?それともだるまやの人に心配されたかな」
「んん……両方、ですかね…」
「そう…お互いのためにいいことかもね」

キョーコは2年ほど前からだるまやを出てマンションでの1人暮らしをしている。
京子がだるまやにいると言う噂がネット上に出回ってしまい、だるまやの営業に差し障りが出てしまったのだ。「有名になったって証拠だよ」と女将さんは笑ってくれたが、さすがに迷惑がかかるとキョーコはだるまやを出る決心をした。

しかし営業に支障が出て迷惑なはずの大将がいい顔をせず、結局はスープの冷めない距離に適当なマンションを見つけなんとか決着して今に至る。

「夜にこっそり顔出すと体調を心配されますけど、大将が必ずお惣菜なんかを持たせてくれるんです」
「そうか…まるでお父さんみたいだね」
「ええ、本当によくしてもらって、近所にいるって思うだけで心強いんです」
車は左のウインカーを出して角を曲がる。ゆっくり進んだところでキョーコが「ここです」と声をかけ、車は静かに路肩に停止した。

「本当にありがとうございました」
車を降りたキョーコは深々と頭を下げた。蓮にドアを開けてもらってしまってえらく恐縮している。
「どういたしまして。来週までは割と余裕があるからいつでも呼びつけてもらって大丈夫だよ」
「そんな、滅相もない!」
ぶるぶると首を横に振るキョーコに、蓮はぽりぽりと頭をかいた。
「だって、折角社さんにマネージャーしてもらってるのにそれも俺が取っちゃう形になるし」
「それは当たり前ですよ、元々敦賀さんがいらっしゃらない間限定で、社さんが名乗り出てくださったんですし」
「でも、仕事も増えてるしもうマネージャーがいないと困るだろう」
「いいえ!敦賀さんに比べたら私なんてまだまだなんです!」
キョーコはきっぱりと言い切ったが、蓮が黙って自分を見つめているのに気がついた。

「残念な事にまだ自分で管理し切れるくらいの仕事しかいただけてないんですよ」
再度言葉を重ねると、蓮は何かに気がついたようにはっと顔を上げる。
「そうかな……でもそろそろ考えてもらった方がいいと思う」
「はあ…」
キョーコは返答を濁した。きっぱりと堂々と『マネージャーをつけてください』と言えるのなら、苦労はしない。けれど、堂々と言えない大元となる理由を蓮に尋ねられるのは絶対に避けたいので、反論はできなかった。

「さて、明日も早いんだったね。逆に引きとめた形でゴメン。ゆっくり休んでまた明日頑張って」
「あ、いえそんな!ありがとうございます。敦賀さんこそ、送っていただいてこんな事言うのもなんですけど、お帰りになったばかりなんですから仕事が積み重なる前くらい、ゆっくりしてください」
「ありがとう……じゃあ、またね」
「はい」

キョーコは走り去る車を見送ると、マンションに入った。
オートロックの入り口を抜け、自分の部屋の鍵を開けて中に入る。明かりをつけるとシンとした部屋が空虚にキョーコを出迎えた。

何も聞かれなかったな……


車の中でも何回か考えてしまった事を、キョーコは改めて思い返す。
貴島からの着信は蓮にも見えたはずだ。
キョーコは慌てて切ったのだが、「大丈夫?」「はい、大丈夫です」という言葉を交わしただけで、蓮はすぐに「遅くなっちゃうから」とキョーコを車に促し、そして車の中でも一切貴島については触れなかった。

そりゃまあ、どうでもいいんだろうけど?


蓮がキョーコの交友関係に興味を持つ必要などない。
キョーコが誰と電話しようがメールしようが、自由なはずだ。
分かっているのに、なにか寂しい気持ちが湧きあがってしまう。干渉してほしいのか、蓮に咎められたいのか。いや、自分は何を恐れ多い妄想を抱いているのだ。
ふいと脳裏にハリウッド女優の美しくもきりっとした笑顔がよぎる。

あんな人と3年以上も一緒にいたら…惹かれない訳がないよね……

ぼうっとベッドに腰掛けたまま考え込んでいたキョーコは、はっと顔を上げるとカバンからスマホを取り出した。

さっき電話も取らずに着信切っちゃって、そのままだった!!
い、いけないわ、先輩にまた失礼な事を…!

着信履歴を呼び出して、一番上の番号をコールする。3回ほどのコール音の後、「はいはーーい」という声が聞こえてきた。
「お疲れ様です!あの!先ほどは大変失礼しました!!」
『ああ、いいよお、仕事中だった?』
「いえ、仕事は終わってたんですけどちょっと人と一緒だったので…」
『なんだ~、別に俺と京子ちゃんの仲なんて隠す事もないじゃん』
いやいや、とキョーコは首を振る。今さらだが、この男の言葉はどこからが本気でどこまでが冗談なのかさっぱり判断がつかない。

『男と一緒だった?やだなあ京子ちゃん、俺と言う存在がありながら…』
「もう貴島さん、茶化すのはやめてください」
『ちぇえっ。どうせ俺は本気の彼氏にはなれないんだよ』
「本気の彼女がいらっしゃる人のセリフじゃないですよね」
『だから誤解だって~~京子ちゃん実は焼いてる?』
「いえ全く。それで、電話のご用事ってなんだったんですか?」
『あ、それそれ。いや今さ、ヨシカワの芸人さん達と飲んでんの。京子ちゃんも来ない??』
「…ごめんなさい、もう今家なんです。明日も早いですし、残念ですけど今日は遠慮しておきます」
『…なるほど』

電話の向こうの貴島の声のトーンが少し変わった気がする。しかしとりあえずキョーコは詫びる事だけに集中した。
「お電話いただいていたのに本当にすみません」
『やっぱり男だね。送ってもらったんでしょ?』

顔が一瞬でかっと熱くなった気がした。
「いえその……」
『まあいいや、今度ご飯食べながら話聞かせてくれたら許すよ』

キョーコは半ばパニック気味に電話を切った。
電話を切ってから、「あれ?何で私そんなことを貴島さんに"許され"ないといけないの?」と更に混乱に陥ったのであった。



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コメントコメント


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一体何が…?

こんばんは。まだまだお話の全容が全く読めない、こちらのお話…。一体何があったんだ~!?と気になって仕方がありません。その疑問とは、敦賀さんはキョーコちゃんを何故問い詰めないの?キョーコちゃん、貴島さんと軽くお付きあいしているの?渡米前に少しは近づいた二人じゃないの?おーい、進展に向かって進むんじゃないのか~!?…など、渦巻いてしまっています。鳴門のように。次の更新がもう待ち遠しいですね!どうもありがとうございました。

genki | URL | 2015/06/03 (Wed) 22:59 [編集]


Re: 一体何が…?

> genki様

コメントありがとうございます!
すみませんー!エピソードの出し惜しみをしているつもりはなかったのですが、結果的にそんな展開にー!
確かに嫉妬で問い詰めない蓮さん、異常ですよね…
進展に向かって進むか?な??期待せずお待ちいただければ…

ぞうはな | URL | 2015/06/05 (Fri) 21:25 [編集]