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Break The Spell (5)


こんばんは!
なんとかかんとか、続きでーす。





「アメリカには正直辛い思い出が多いんだ。すべて自分のせいだけど、俳優としてやっていかれなかったという事だけではなく、いろんなことがあった。…取り返しのつかないことも」
「…敦賀さんは何歳の時日本にいらしたんですか?」
「15だったかな。ボロボロの状態で逃げるようにここに来た」

さらりと答えた蓮に、キョーコは言葉を返すことが出来なかった。
そんな幼い内からボロボロになるような経験をしてきたとは。蓮は普通の21歳の青年ではないと常々思ってはいたが、蓮の表情を見るだけでもキョーコの思う以上の人生を送ってきたことが想像できる。

普通の日本人の基準で考えればキョーコが17年間の人生で歩んできた軌跡も十分普通ではないのだが、案外本人の感覚は麻痺しているようだ。

「アメリカでのことに蓋をして敦賀蓮として日本で生きてきたけど、過去の自分が許せなくて克服できなくて、闇に飲まれそうなことが何回もあった。特に、蓋を開ける必要があったB.Jは嫌でも自分に向き合わなくちゃいけなくて…君にも迷惑をかけたね」
「いえ、迷惑なんて何もなかったですよ。私は雪花として敦賀さんのB.Jとカインの演技が見られてすごく幸せでしたし」
「あんなに嫌な姿見せたのに?」
「嫌な姿なんて見た覚えはありません。それに、敦賀さんはご自分と向き合って、見事にB.Jを作り上げたじゃないですか!」

食いつくように必死に話すキョーコに、蓮は笑みを浮かべた。左手でぎゅっと右腕をつかみ、「ありがとう」と小さな声で言う。
「けれどそれも全部、最上さんがいてくれたからなんだ」
「私なんてそんな何も!!」
「いや」
慌てて全力で否定するキョーコに、蓮はゆっくりと首を横に振った。
「本当だよ。B.Jの時も雪花が…最上さんがいなければ、俺は自分が満足いくB.Jを作り上げられたか分からない。闇に飲まれて全てを台無しにしたかもしれない」
「……」
キョーコにとっては全くもって心当たりがない。確かに蓮は途中、かなり不安定な状態で揺らいでいたように思えたが、キョーコが何をしたわけでもなく立ち直ったではないか。…唯一考えられることと言えば首にがつりと歯形をつけた辺りだが、そんなものがなんの役に立つんだとキョーコは自分に問いかける。

「もう大丈夫だ、と…思った。けれどふと、最上さんがいなかったらどうなるんだ?って考えてしまった。俺は君に頼りきって克服した気になっているだけじゃないかと」
「まさかそんな」
キョーコは笑おうとしたが、蓮の少し辛そうな顔を見たら笑いは引っ込んでしまった。そしてまた、不安が首をもたげるのが自覚できる。
「一番俺の傷をえぐるだろうアメリカのあの地で…君がいない状態でコリンズ監督と仕事をする。それが出来たらその時」
一気に早口で言った蓮は、気持ちを吐き出すようにはあっと息を吐いた。

「その時初めて、俺は過去を克服したと言えるんじゃないかと思ったんだ」

まじまじとキョーコは蓮の顔を見る。ごく真剣な表情は、蓮の言葉が本心だと告げている。しかしそれにしてもそこまで買いかぶられる存在ではないと、キョーコは疑問を上回るいたたまれなさで身もだえしそうだった。

「単身でアメリカに渡る。向こうでは俺は小さな島国の全く無名の俳優だ。後ろ盾も何もない状態でどこまでできるか。1人でやり遂げられるのか……やり遂げてみたい。そうしたら」
言葉を切った蓮にじっと見つめられて、キョーコは少し首をかしげる。蓮はふっと笑ってキョーコの頭に大きな手を乗せた。
「そうしたら、撮影が終わって帰って来て、君の前に何のわだかまりもなく立てるかな、と思う」
「…今はわだかまりが……あるんですか?」
素直なキョーコの問いに蓮は ああ、と視線を宙に泳がせる。
「うーーん、そうか、ちょっと違うかな。君の前に素直な気持ちで立つことを、俺は許されないんじゃないかとずっと思っている」
「それは…なぜですか?」

キョーコの言葉を聞いて、蓮はくしゃくしゃとキョーコの髪をかき回した。
「アメリカで俺は許されない過ちを犯した……許してはもらえないとは思うけど、きっと俺は相手がどうこうじゃなくて自分の気持ちにきちんと向き合うべきなんだろうね」
「…敦賀さんはご自分に厳しすぎです」
「そうでもないよ」

ふい、と頭から蓮の手が離れる。蓮の顔は少し寂しそうに見えた。
「自分にしたはずの戒めをともすると忘れそうになる。全然厳しくなんてないんだ」
まだキョーコの頭の上空にあった蓮の手が、ゆっくりと動いてキョーコの後頭部に当てられた。そのまま自分の方にキョーコの頭を引き寄せたのでキョーコはバランスを崩して一歩踏み出す。

「…つるがさんっ!」
「日本に帰ってくるまで、俺は君とは連絡を取らない。君だけじゃない、社長との業務連絡以外は一切絶つつもりだ」
キョーコは引き寄せられおでこが蓮の体にくっつく状態になって慌てたが、蓮の静かな声に肩をぴくりと震わせた。

「だけど必ず帰ってくる。その時はもう、迷いとか後ろめたさとか…そんなものは吹っ切ってくる」
「……はい」
「待っててくれなんて言わないけど、必ず戻るから」
「はい、敦賀さんが成功して戻られるのをお待ちしてます」
キョーコはにっこりと笑った。本当は胸が締め付けられて涙がこぼれそうだったが、今できる事は蓮を送り出す事だけだ。

「ありがとう」
蓮はキョーコの頭を抱えていた手をゆっくりと離した。少し迷うように腕は宙を舞い、それから意を決したようにキョーコの背中に回る。
「ごめん…ちょっとだけ、勇気を分けてくれるかな」
「へ…?」
返事をする前に、キョーコの体はすっぽりと蓮の懐に包まれてしまった。何回か感じた事のある温もり。キョーコは慌てたが、蓮の力は強く、がっちりと抱え込まれている。


ああだけどそうよ…敦賀さんのこの温もりは遠いところに行っちゃうんだ……

急に切なくなって、キョーコは蓮にされるがままに短いひと時を心に刻み込んだ。



もうすっかり、あの日の温もりの心地よさは思い出になってしまった。
いや、いつだって思い出せば昨日の事のように思い出せるのだ。けれどそれはキョーコにとっては辛いことで、アメリカで頑張っている蓮を素直に応援できない自分が嫌で、あえて思い起こさなかった。

やっぱり…敦賀さんは特別なんだわ……

3年以上会っていなかったのに、もうすっかりそばにいないことに慣れたのに。

蓮がいない間に自分の時間は回り、とっくに成人もして仕事も自分なりにこなしてきた。芸能界での自分の立ち位置もあの時に比べたら足元がしっかりと固まって、大人になったという自覚がある。

けど…なんだろう、敦賀さんの前に立つと、あの頃に戻ったような気分になっちゃう。


蓮が少し首をかしげたことで、キョーコは蓮の手元をじっと見つめたまま考えにはまってしまった事に気がついた。

「すみません、番号…自分のってどうやって出すんでしたっけ」
必死に誤魔化しながら視線を下げ、なんとか自分の番号を表示してスマホの画面を蓮の方に向ける。

「ありがとう」
蓮は礼を言ってスマホを操作しながらくすりと笑った。
「どうしたんですか?」
「いや…考えてみたら、最上さんと直接番号を交換するの初めてだ」
「あ…」

そうだった。
自分が尚のプロモ出演で演技にけっ躓いた時に無理やり事務所から蓮の番号を聞き出し、蓮は蓮で椹主任からキョーコの番号を入手し、そのまま2人の連絡は続いていた。

なんか、色々思い出しちゃうな…


ぼうっと蓮を眺めていると、「登録できた。鳴らすよ?」と蓮が言い、自分の手の中でスマホが震えだした。
「機種変えてもバイブなんだね」
「め…迷惑になるので大体は…」
画面には未登録の番号が表示され、蓮が発信を止める。

「これで間違いないですよね?」
履歴からたった今着信した番号を呼び出して確認のために蓮に画面を向ける。
しかし、蓮が画面を覗き込んだ瞬間、再びキョーコのスマホは振動を始め、画面は今着信している番号の表示に切り替わってしまった。

「わっ。すみません!」
キョーコは慌ててスマホを引っ込めて半ばパニック気味に電話を切る。
しかし蓮は着信した画面に表示されていた「貴島さん」という名前を、しっかりと目にしてしまっていた。



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コメントコメント


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ぞうはなさん、はじめまして♪ごく最近こちらを発見して一気に全部読ませて頂きました。ええ、それはもう一気に・・・(笑)気が付けば外が白み始めることも何度も・・・イメージを損なわずとても楽しく読めるお話にファンなってしまいました~これからもup楽しみに待っています。

ねぴ | URL | 2015/06/01 (Mon) 11:07 [編集]


Re: タイトルなし

> ねぴ様

ようこそ、おこしくださいました~~。
発見してくださってありがとうございます!

一気読み、そこまで一気に読んでいただけると嬉しいのですが、お身体の方が心配に…
寝不足にならないようお気を付け下さいね。
イメージを損なわないと言ってもらえると、ちょっと勇気が出ます。
どうも最近は更新のスピードも話の展開のスピードも遅くなりがちですが、今後ともお付き合いいただけると嬉しいです!

ぞうはな | URL | 2015/06/02 (Tue) 22:58 [編集]