SkipSkip Box

君の魔法 (16)


こんばんは。
今日もご訪問まことにありがとうございます。

更新、ですが…せ、説明の回になってしまいました……





「ここにお集まりの皆さんであればその存在くらいは耳にしたことがおありでしょうが、人と神との契約は、この世で神の力を行使する者を特定すると言う意味合いがあります」

レンの声は室内に響き渡っていた。
声には不思議な威圧感があり、丁寧な物言いであるにもかかわらず、誰も口を挟む気にはなれなかった。
「そして、このLME国でされた神との契約は、公にされているものとしては先々代の王が行ったものが最後となります」

レンの声より更に低いローリィ王の声が、それに答えるように続く。
「そうだな。じーさんは、王として神との契約を行ったが、その後全面的に魔法の儀式をやめて、利用も禁じた」
「貴族の間に散らばっていた儀式に関する書物もすべて回収したと伺いましたが」
「ああ。今は全部まとめて王城の書庫に放り込んであるはずだ。ここにいる貴族当主は鍵を持ってるがな」

レンはうなずいて、先ほどテーブルに置いた分厚い書物の表紙に手を置いた。
「私は王と青の魔女の許可を得て、先ほどその書庫に入りました。そして、魔術に関する書物の中でも王家が所有していたこの本の中に、神との契約の儀式について書かれていたのを確認しました」
一同の目線がレンの手が置かれた書籍へと注がれる。
「さらに、代々の王がしていた神との契約の意味についても、歴史書をみて知りました。先々代の時代までは、この国の守護神との契約が、この国の王たる資格だったのです」

レンは一度言葉を止めて、書物から一同へと目線を移した。
「細かい説明は長くなるので省きましょう。結論から言うと、今日の事件の黒幕は、自分が王になり替わり、神と契約することを企んでいました」
ヒズリと王は無言だったが、他の者たちの間には動揺が広がった。先ほどまで黙って聞いていたが、これは看過できないとばかりに矢継ぎ早に質問が飛び出す。
「神との契約を自分がすることで、王の権利を主張すると言うことか?」
「その可能性は高そうですね」

「そんなことで本当に王を名乗れるのか?」
「それだけでいきなり『新しい王』を名乗っても誰にも相手にはされないでしょうが、神との契約を盾に、国王と次の王位について交渉または脅迫するつもりだったのではないでしょうか」

「神との契約とはそれほどの威力を持つのか?」
「…それは私には分かりません……王家の秘密なのでしょうか、書庫内の書物には一切記述がありませんでしたから」

「しかし、あの魔法陣の中にいたのはマリア姫と護衛の女だ。あの護衛の女が仕組んだと言うことか?」
そういう風にも受け取れてしまいますね、とレンは答えた。
「そうですね。説明を省いてしまいましたが、そこはちゃんとお話ししましょう」
そして、先ほど広げた魔法陣の書かれた紙を示す。
「この魔方陣は概ねこの国の流儀で書かれています。呼び出す神、呼び出す目的が示されている。そして通常は呼び出す人間自身がこの中に入り、自らの魔力で神を呼び出し、契約を行います。ですが、今回、この魔方陣は少し違う使われ方をしました」

「どこが?」と言う声が誰からとも無く発せられる。
「契約を結ぶ人間と、呼び出す人間が一致していないんです……この国の神は、そもそも王族が持つ強い魔力が無ければ契約のために呼び出すことすら出来ない。だから、それ以外の人間がいくら儀式を行っても無駄です。しかし、少し細工をすることで、魔法陣の中に王族の魔力を持つ者が入って神を呼び出し、王族以外が契約を結ぶことが出来てしまいます。…たとえ、神を呼び出す者にその意志がなかったとしても」

「そんなことが…?」
「書庫にはそのような知識は蓄えられていませんでしたが…今日捕らえた男が、自分がW国の人間であることを認めました。W国の王の元で魔術の研究をしていたことも。W国のほうが現在も魔法の研究を続けていて、知識も整えられています。おそらく、男の知識が使われたんでしょう」

「誰が契約を結んだんだ?」
レンの説明をいち早く理解した一人が尋ねた。誰かがマリア姫を利用して神を呼び出したのだとすれば、神と契約した本人が真の黒幕と考えられる。レンは躊躇せずに返答を返した。
「魔方陣に書かれた契約者の名前は…… 『ミロク・ビーグール』でした」

一同の視線が一斉に1人の男に集まった。男は反射的に立ち上がり、大声を上げる。
「し、知らん、私は知らん!なぜミロクの名前が出て来るんだ!私と息子をはめる気か?」
大声を上げた男は、ビーグール伯爵であった。
ビーグール伯爵は言いながらちらりと入り口のドアの方を見るが、そこにはいつの間にかヒズリが立っている。ヒズリはドアにもたれて腕を組み、何気ない様子だが、(この部屋からは逃げられない)と伯爵は瞬時に悟った。

「あの捕らえた男はあなたからの協力依頼の手紙を懐に持っていました。捕まった時のことを彼なりに考えていたんでしょうね。全ての罪をなすりつけられた場合の切り札として。そして、それが今役に立っている」

ビーグール伯爵はじっと足元を見つめていたが、すぐに顔を上げた。暗い笑みがそこには浮かんでいる。
「いいのか?私に対してこんなことをして。息子が神と契約を結んだと言うのなら、私はその力を私に対する仕打ちへの見返りとしてお前に使ってやる!」

レンは呆れたように男を見返した。
「神の力を私利私欲に使うのは感心しませんね…先々代が封印したわけがよく分かりますよ」
「若造が知ったような口を聞くな!」
「…いいことを一つ、お教えしましょうか。神との契約が成立すると、お互いの名前を交換することになります。神の真名を知るのは、契約者のみなのです。あなたが息子さんであるミロクに会えたなら、神の真名を知っているかどうかを聞いてみるとよろしいでしょう」

「……どういうことだ?」
男が呆然としながら聞く。嫌な予感が男の胸に湧いてきていた。

「今日、あの湖畔では魔方陣にはマリア様ともう1人、護衛の人間が巻き込まれました。…まあどちらかと言えば、マリア様のために自ら飛び込んだと言ったほうが正解ですが」
周りの人間も予想外の話の展開に固唾を呑んで見守る。
「魔法陣の力が収まったとき、中の二人は力を使い果たしてほぼ意識を失った状態だったのですが、私がその場に行ったとき、彼女は力を振り絞って私に重大なことを知らせてくれたのですよ」
「重大なことだと?」
「そうです。彼女は神の声を聞いたと。契約者はミロク・ビーグールかと尋ねられたそうです。彼女は咄嗟に、魔方陣で神を呼び出した張本人であるマリア様の名前を伝えたそうです。自分の名前とともに。そして、魔法陣の力が収まる直前に、神の名前を聞いたのだそうですよ?」

「神の名前を聞いただと?」
「それはつまり…」
貴族たちがざわざわと疑問をつぶやく。

レンは肩をすくめて答えた。
「マリア様の意識が戻らなければはっきりとしたことは言えませんが、おそらく契約は神とマリア様の間で結ばれたはずです」
ビーグール伯爵が音も無く床の上に座り込んだ。その他の一同の顔には疑問の表情が浮かぶ。
「その女が神の名を聞いたんだろう?契約者は女の方ではないのか?」
「護衛の者、キョーコ・モガミは代弁者にすぎません」

ローリィ王が笑いながらレンを諌めた。
「おいレン、皆が混乱しちまうから、小出しじゃなくて全部教えてやれ。いずれ分かることだ」
「あまり全部をお話して、無用な心配をされるのも困るのですが…」
レンは実際に少し困り気味の顔でローリィを見やる。その顔を見てローリィは少し思うところがあったが、請合った。
「キョーコ・モガミに対する懸念は俺が責任持って面倒見ると保障するから気にするな」

レンはため息をついて答えた。
「分かりました……青の魔女によると、キョーコ・モガミはW国の神官に匹敵するような、神と会話をする力を持っているそうです。彼女がもし魔法陣の中にいなければ、神は魔方陣から読み取れる名前から、契約者としてミロクを認めていたはずなのですが、意思疎通が出来る人間がいたため、神の気まぐれなのか、彼女に名前を問うたのでしょう」
「それではそのモガミまでもが神の真名を聞いた理由にならないのではないか?」
1人が首を捻りながら尋ねた。
「私もその点が疑問で、歴史をさかのぼってみました。そして、大昔に似たようなケースが見つかりました。王が神官を伴って魔法陣から神を呼び、いわば通訳のような形で神官を介在させたことがあったのです。その時も神官が神の声、真名を聞いたそうです」
一息ついてレンは続けた。
「もっとも、その時は王が神の本当の意志を伝えているのかどうか神官を疑い……処刑してしまったそうですが」

「さて、あとはマリアが目覚めてからだ」
ローリィが重々しく口を開いた。
「ビーグール伯爵は、とりあえず今日は館へ戻れ。処遇は改めて伝える。息子のミロクはどうしてる?」
「わ、分かりません…」
ビーグール伯爵は座ったまま呆然と呟くように答えた。

扉のところではレンとヒズリが小声で声を交わす。
「レン…」
「ミロクには他の隊員がついてるはずですが、撒かれている可能性が高いですね」
「まあそうかもしれんな」

貴族たちはガタガタと席を立つ。皆、複雑な表情でレンやビーグール伯爵を見やっていた。


関連記事

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する