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きみと恋をする方法 (25)


こんばんはー!ぞうはなです。
さて、なんとか更新。続きをどうぞ。





「先輩!?」

振り返ろうにも見上げようにも肩に何かがかすかに触れている感覚があり、キョーコは硬直してしまった。
目に入るのは男らしいがっちりとした手と腕だけだが、左耳の辺りにさわりと髪がこすれてあまりの距離の近さに卒倒しそうだ。

「あいつって…不破君のことだよね」
「私…何か言いましたか?それに先輩、いつここに?」
この人はいつの間に自分の後ろに来たのだろうか。そしてなぜ、心の声が聞こえているのだろうか。キョーコは真剣に悩み戸惑う。

「何言ってるの…ドアを開けたってびくとも反応しないし、難しい顔して大きな声でブツブツ言ってるし」
呆れたように吐き出された吐息が耳に当たるとまたもやぶるっと震えそうになる。なんとかこの体勢を解いてもらえないだろうか、とキョーコは頑張って身じろぎしたのだが、相手はその思いを感じないのか感じていてその上でわざとなのか、机についた両手をどけようとはしない。
「不破君と何があった?」
「何も…何もございません!」
「脅しって何のこと?」
「何も…!」
がちごちに緊張しながらもキョーコは懸命に否定した。のだが。

「…君は俺に隠し事をするの?そんなに知られたくない事?」
「いえっ、そんな…」
「じゃあ、話してくれるよね」
至近距離から耳に流れ込んでくる低音と横から覗き込まれるような視線に、キョーコはあっさりギブアップした。


「ふうん…」
昨日の昼休みの話を聞きだして、久遠は肘をついて少し遠くを見ている。
キョーコは久遠の作る檻(?)から解放されていたが、精神的にはまだまだ拘束されている気分で緊張していた。
声にやや不機嫌な空気が漂っているのは気のせいか。ともかくキョーコは膝に手を置いてびっしり背中を伸ばして久遠の様子を伺っている。

昨日と同じく斜め前に座る久遠は無表情だ。呆れているのか怒っているのか興味がないのか、キョーコはその真意を測りかねていた。
「不破君のは随分と自分勝手な主張だね」
「そ、そうなんです!だから私、頭にきちゃって…」
「今まで最上さんは不破君に弁当を作ってたの?」
「毎日ではありませんが…中等部の頃はあいつの家が忙しいときにたまに」
「高等部に入ってからは?」

久遠の問いに、キョーコはフルフルと首を横に振った。
「中三の頃友達にからかわれたらしくて、それ以来作ってくるなと。…今は頼まれたって作りませんけど」
「そう…自分が拒否したのに人に作るのはダメ、か…ふうん」

くすりと冷めた笑みをこぼした久遠は組んでいた足をほどくと少しキョーコの方に体を向けた。整った顔で口元だけがつり上がると何かをたくらんでいるように見えてしまう。そんなことを思いながら久遠の横顔をぼうっと見ていたキョーコは久遠と目が合ってどきりとした。
「まあ確かに、不破君にとっては君に弁当を作ってもらえる権利を他人に取られるのは面白くないのかもしれないね」
「え…そうですか?だってあいつ、私の作った弁当なんて田舎臭くて食べられないってよく言ってました」
「また、素直じゃないんだな……まあ、弁当に限った話じゃないよ」
「???」

ぽそりと吐かれた言葉の意味が捉えきれず、キョーコは顔中に疑問符を貼り付ける。すると久遠はふわりと笑って自分の前に置かれた弁当箱に手を乗せた。
「俺は君の作ってくれる弁当が美味しいと思うし大好きだ。こうして作ってもらえて嬉しいよ」
「ご迷惑では…ないですか?」
「迷惑?どうして?」
「だってその…無理やり私が作るって言っちゃったようなものですし」
「とんでもない!できればいつだって食べたいと思うよ」

久遠が笑いかけるとキョーコはほころぶような笑顔を見せた。
「よかった…!すごく嬉しいです、美味しいと思っていただけて!うん、板場で怪我しながら頑張った甲斐がありました!」

ガッツポーズを作ったキョーコがふと見ると、久遠は肘をついてややうなだれ気味だ。
「あれ?どうしました?」
「いや……」
ふうっと息を吐くと、かりかりと頭をかきながら久遠は顔を上げた。
「俺が君の料理を食べたいと思うのは、美味しいからだけじゃないんだけどな」
「へ?」
「もちろん、すごく美味しいよ。ほんと、高校生が作る料理とは思えないくらい。…けど、いくら美味しくても最上さんが作ってくれるのじゃなきゃ意味がない」
「え……?」
「ねえ、最上さんは不破君にはもう作らないって言ってたけど、このお弁当を食べられる権利、俺だけに独占させてくれない?」
「ええええ?」
「ああもちろん、女の子は構わないよ。他の男には手作り弁当あげたりしないでほしい」
「な、なんで…?」
「君がそんなことしたら、俺もちょっとイライラしちゃうかもしれないから」
「え……?」
目を丸く見開いてキョーコが久遠を見る。
2秒ほど無言で見つめあったところで「がらりっ」と音を立てて部屋の引き戸が開いた。
キョーコは入ってきた社に目をやったため、久遠が寸前にぴくりと上げかけた腕を静かに下ろしながら小さく小さく舌打ちしたことには気がつかなかった。


へにょり。

顔が緩みそうになってキョーコは慌てて黒板の文字へと意識を集中させた。

何を喜んでるのよ全く…

ふわふわとしている自分の心に言い聞かせてみるものの、昼休み中の久遠の言葉が繰り返し頭の中で再生されてしまう。

自分の作ったお弁当を喜んでくれて、他の男に作らないでくれなんて、なにやら独占欲による言葉に聞こえて仕方がない。
それに、久遠は自分の弁当箱を覗き込んできた社の「その卵焼きうまそう。一口くれよ」という要求を、あっさりと却下したのだ。
「ダメです。自分のを食べればいいでしょう」
「なんだよケチ!購買の焼きそばパンよりキョーコちゃんが作ったのの方がうまそうじゃん」
「うまそう、じゃなくてうまいんですよ。当たり前ですからそんなものと比べないでください」
「だから俺にも」
「ダメです」

にべもなく社を追い払った久遠はしっかり味わいながら最後まで残さずに食べてくれた。
笑顔のお礼もつけてくれた。

なぜだろうか、あの久遠のやや無邪気にも思える笑顔を思い出すだけでキョーコの心はうずうずしてしまう。


いつでもいくらでも作ってあげたいだなんて、そう思っちゃうのはよくない兆候よね。


献身と言えば聞こえはいいが、そのせいで自分は尚にいいように使われていたのだ。
単なる使い勝手のいい便利屋だったんだ、と思う事は嬉しい事ではないが、二度と同じ轍を踏まないために反省は必要だろう。
しかし尚はなぜ、「お前が勝手にやってたんだろう」という突き放すようなことを言うくせに、キョーコが久遠に弁当を作っただけで激怒するのか。

ったく自分勝手すぎるのよ。何様のつもり?

むむっと溜まったマグマが膨らんだところでキョーコの脳裏に久遠の笑顔がよぎる。

そっか…

久遠はキョーコに対して嬉しい反応をくれる。
会えて嬉しい、美味しい、楽しい、と。

そっか…

ふふ、と思わず笑みがこぼれてしまい、キョーコはまた慌てて顔を引き締めると何かを誤魔化すようにノートに向かった。


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