SkipSkip Box

きみと恋をする方法 (24)


こんばんは!ぞうはなです。
今週の更新は勝手ながらこの1本。続きは来週になりますー。





午後の授業に向けての予鈴が校内に響き渡る。

キョーコは廊下を教室に向かって歩きながら、うんうんと考え込んでいた。

結局今日の話し合いの最後には社まで巻き込んで、かなり深い事情まで教えてもらっていた。
学園と生徒会の歴史は長く、その変遷を踏まえなければ分からない手続きや関係性もよく分かって、キョーコはなんとなくこれからやるべきことが見えてきた気分になっている。

けど、まだ理解しないといけないことも多いし…年度初めの予算配分が一番大変だって言うしなあ…


遣り甲斐があると捉えるか、大変だと捉えるかは自分次第だ、とため息をついたところで、教室から飛び出してきた女子と肩がぶつかり、キョーコは抱えていた弁当箱を1つ落としてしまった。

「あ、ごめん」
「いえ、すみません」
軽く謝罪を交わしたが、向こうはキョーコの顔を認めると「なんだ」と小さく呟いた。キョーコも弁当箱を拾い上げて改めて相手の顔を見る。それはよく尚にまとわりついている女子グループの主要メンバーの1人だった。

今までの相手の態度やされたことを思うと、キョーコもあまり好意的な反応を返す気分にはならない。
好んで争いたいわけでもなく単純に関わらない方が得策だとその場を去ろうとしたが、あいにくキョーコは結果として相手の機嫌を盛大に損ねることとなってしまった。

キョーコはあまり相手の方を見ないようにしていたので気づかなかったのだが、女子の後ろには同じグループの他の女子数人と、更にはキョーコの幼馴染もいたのだ。

「尚、行こ」
キョーコに対するのとは全く違う、媚びるような声を女子は出したのだが、尚はそれを聞いてなかった。じろり、とキョーコを眺めるとぶっきらぼうに口を開く。
「なんだ、それ」
「…何がよ?」
「それだよ!」
「は?」
尚のつり上がった目が凝視するその先を辿ってキョーコは自分の体を見おろす。そこで初めて、両手に抱えた2つの弁当箱の存在に気がついた。
「なんで弁当箱2つも持ってんだよ!」

直前までキョーコは真剣に生徒会の会計について悩んでいたのだ。
この昼休みに久遠と社に教えてもらったことを思い返しながらどうするのが最善な策なのかとそれはこの上なく真剣に。
だから尚に言われても何のことやらしばらく考え込んでしまった。

「なんでって…2人分作ったからだけど」
「誰にやった?」
なぜ目の前の男はこんなにイライラして自分に怒鳴ってくるのか。キョーコの頭はまだ完全にモードが切り替わらず、尚が何に怒っているのか理解が出来なかった。
「…先輩だけどそれがなに?」
「先輩ってどの!」
「…なんなのよ、私が誰に作ろうと…」
「聞かれたことに答えやがれ!」

怒鳴りつけられて、ようやくキョーコの思考が戻ってくる。
超が10個くらいつきそうな上から目線の物言いに、キョーコのこの相手に対しては今や決して太くも強くもない忍耐の紐は簡単に千切れた。
「はああ?なんであんたにえらそうに言われなくちゃいけないのよ、この俺様男!」
「んだとぉ?答えられねーっつーのかよ!」
「あんたにえらそうに聞く権利なんてないって言ってんのよ!」
「ぐだぐだ言い訳するって事はやましいことがあるってことだろうが!」
「ないわよ、そんなもの!あんたと一緒にしないでくれる?」

誰も口を挟めないリズムで機関銃のようにやり取りされる内容に、周りは言葉を失った。特に中等部からこの学園にいる1年の女子生徒たちは、ある程度この2人の関係を知っているはずだった。
けれど。

キョーコはもっと、王子様を見るような目で尚を見て、いつもニコニコとやや遠慮がちに尚に接していたのではなかったか。
尚はもっとクールで、こんなガミガミと頑固親父のような物言いはしないのではなかったか。


呆然と周りが見守る中、2人の言い合いはヒートアップする。見ているものにはそれが夫婦喧嘩のように見えてくるから不思議だ。


バンッ

眉を吊り上げたままの尚が、思いっきりキョーコの顔の横の壁に片手をついた。
さすがのキョーコもそんなことは初めて尚からされたため、壁に背中をつけて動きと口を止める。その顔には一瞬恐怖の色がよぎった。


(壁ドン!)
(リアル壁ドンだ!)
(でもなんだか、あんまり憧れるシチュエーションじゃないかな、これ)
(迫っているというより脅してる?)

口出しできない周囲の生徒たちは心であれこれ思いながらハラハラと2人を見守る。

「…で、結局お前は今日誰とどこで昼飯食ったんだよ」
「……」
なぜこの幼馴染はそんなことにいつまでもこだわるのか。意味は分からないが、その険しい表情にいつもと違う怒りを感じてキョーコは無意識に唾を飲み込んだ。

「キョーコ!」
「なによもう、うるさいわね。生徒会の引き継ぎをヒズリ先輩と生徒会室でやってたのよ!」
「…それでなんでお前があいつに弁当作ることになるんだ…しかも、2人でだって…?」
尚の声は地を這うに低く押し出される。じりり、と尚はキョーコの顔の横に手をついたまま自分の顔を近づける。見ていた女子生徒の1人が小さく声を上げるが当の2人は周りの状況はまったく目に入らない。

至近距離でガンつけ合いをしながら、2人はお互い一歩も引かない。
「あいつって何よ、先輩に対して失礼じゃない」
「はっ。あんな奴、敬う気なんて起きねーよ。ごそごそ裏で動き回りやがって」
「何よ、裏って?」
怪訝な表情になったキョーコに、尚は少しひるんで口をつぐんだ。しかしすぐに気を取り直してじろりとキョーコを睨む。
「ちょっとちやほやされてくらいでいい気になってんじゃねえぞ!ったく、あんなチャラチャラした男に踊らされや…」
尚のセリフは最後まで言い切れなかった。その口を、いや口だけでなく顔の下半分を弁当箱の底がべちっとふさいだのだ。

「ヒズリ先輩はチャラチャラなんてしてないわよ!本当にすごい人なんだから!その程度の見た目"だけ"でいばってるあんたとは大違いなんですからね!!」
鼻まで打たれてのけぞった尚をどんと押しのけると、キョーコは鼻息荒く言い切って自分の教室へと向かった。
口元を押さえながらもなんとか痛みから立ち直った尚はキョーコを追いかけようとしたが、本鈴が鳴り響いてその機会を逸する。

「…尚~~、移動しないの?」
「……わぁってるよ」
恐る恐る女生徒から掛けられた声に尚はぼそりと応えたが、その目は教室に消えていくキョーコの姿を睨みつけたままだった。


ほんとにもう、いい加減にしろっつーのよ!

翌日の昼、生徒会室にたどり着いたキョーコの怒りは再燃していた。
昨日は午後の授業を受けながら何度も尚のむかつく顔や言葉を頭の中で再生し、その都度メラメラと怒りに燃えていたキョーコだったが、一晩たってなんとか種火程度にはなっていた。
午前中の休み時間、女子グループが通りかかった時に座っていた椅子をがつんと蹴られた気もするが、そちらを見る気分にすらならなかった。あのバカのせいでまた買いたくもない恨みを余計に買ったかと思うと怒りはつのる。

悪い事をしているつもりはないが、またいちゃもんをつけられるのも嫌だったので今日は作った弁当2つを小さな紙袋に入れ、キョーコは幼馴染に会わないように昼休みの開始と同時にダッシュで生徒会室に駆け込んだ。
生徒会室には誰もおらず、キョーコは椅子に腰掛け昨日の続きの準備を始める。2つの弁当箱を見ていると、またもや昨日の記憶が蘇ってくる。


ホントにあいつと先輩とじゃ大違いよねっ!
私がどこで誰とご飯を食べようが、あんなにあいつに文句言われる事じゃないってのよ。
あいつは一体、私がどうすればいいって言うのかしら。
ふん、どんなこと言われたってあいつの言う事なんて聞くつもりはないけど。
あんな脅しなんかにひるむとでも思ってんの?
ああ~~~、ホントに腹が立つ!!


かっかと頭に血を上らせているキョーコの顔に、不意に影が落ちた。
あれ、暗い?と見上げようとした瞬間、背後から体の両脇を通って腕が伸び、大きい両手が机に突かれてキョーコの体は机と何かに挟まれる。

「あいつって、誰?」
耳元で低く呟かれた声に、キョーコはぞわわっと全身の毛が逆立つのを感じた。


関連記事

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する