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きみと恋をする方法 (23)


こんばんは!ぞうはなです。
そうか、頑張って週2のペースか…





どこか現実と受け入れきれないこの気持ちは最近にも味わった、と、キョーコはぼんやり頭のどこかで思った。
目の前、いや正確には真正面ではなく斜め前に自分と90度の角度を向いて久遠が座っているため、そのまつげが長くてきれいなカールを描いているのがよく分かる。

マスカラとかビューラーなんて要らないわよね。

男の人なのにずるいなあ、などと変に感心してしまうのは、これもまた体育館の芝生広場で感じたのと同様、精神的な逃避の1つに違いなかった。

「大丈夫?眠い?」
不意に尋ねられ、キョーコは逃避先から現実へと精神を戻して慌てて返事をする。
「大丈夫です、ちゃんと聞いてますよ」
「そう?時間はあるからね、無理して詰め込むことはないから」
「はい。すみません、貴重なお時間を」
「俺が君を引っ張り出してるんだから謝られる理由はないよ」

少し申し訳なさそうに笑う先輩の顔を見ると、無性に目をそらしたくなる。見たくないのではなく、心がざわつくのが落ち着かないのだ。

久遠とキョーコは昼休みの生徒会室にいる。2人はキョーコが作ってきた弁当を食べながら会計の仕事についての引継ぎ中だ。
他の生徒は室内におらず、遠くから校内の喧騒が聞こえてくる。

通常の役員引継ぎは新役員が正式に活動を開始する9月の初めに行われるのが恒例なのだが、キョーコは会計業務を引き継ぐだけではなく、大きな改革を行おうとしている。
そのためには単純な現業務の引き継ぎに加え、どう進めていくのかを早めに検討する必要がある、と久遠は主張した。更に言えば、会計担当だけで会計業務を100%進めるわけではないので、新副会長として、また問題を放置した形となった前会計として、ぜひともに関わらせてほしいとキョーコは説得されていた。

放課後はお互い部活などがあって時間を取りにくいから、と昼休みにやることを提案したのは久遠だったが、それならばと2人分の昼食を作ることを提案し返したのはキョーコだった。
両親がほぼ家にいない久遠は普段の昼食は購買で適当に済ませていると聞いて、つい反射的にキョーコは試合の日の久遠を思い出してしまった。あの日久遠はキョーコの弁当を喜んでくれた。試合のないときにゆっくり食べたいとも。
その言葉は社交辞令に過ぎないのだろうと8割方は思っていたのだが、何か自分に出来る事はないかという問いに出てきた答えはこれだけだった。

今、久遠は生徒会費の流れを紙に書いてキョーコに説明しているところだ。
久遠の理解は的確で、説明は分かりやすい。簡潔であっても要点を押さえて説明してくれるのを聞きながら、キョーコは惚れ惚れとその横顔を見つめてしまう。

ほんと、すごい人だなあ…


見た目とスポーツなどの才能だけだったらここまでキョーコは感心しなかったかもしれない。そんな男が身近にいた上にその人物は性格的にはナルシストで人を見下して最悪だと最近実感してしまったから。
けれど久遠の色々な面が見えるにつれ、最初はどうせ見た目のいい男なんて、と決め付けていた自分の思考を反省するようになっていた。生徒会の活動もさらりとこなしているように見えるがその会計の仕事は正確で丁寧だし、何事にも責任感を持って真摯に当たっている。

もちろん、気になる点もある。
あの自分の不用意な発言に対して見せたいつもと違う笑み。
あれ以来久遠のダークな面を見ることはない気がするが、それがどこまで深いのか想像できない。

いえ、見なくて済むならそれでいいじゃない、だってほら、私も別にそれほど深く関わるわけでは…


ぶつぶつと心の中で考えていたキョーコは、久遠の手が止まっている事に気がついた。
あれ?と思ってその顔を見ると、久遠はじっとキョーコを見ていて、目が合うとぱかんと口を開ける。
「?」
きょとりとキョーコが久遠を見ると、予想もしない一言が返ってきた。

「食べさせてくれる?その、鶏がいいな」
「はっ?」
反射的にキョーコは聞き返すが、久遠はさも当然な顔をする。
「だってほら、今書いてて食べられない」

確かに久遠はシャープペンシルで紙にあれこれ書きながら説明をしてくれていて、箸は弁当箱に渡して置かれているが。
一度持ち直して食べれば済む話ではないだろうか。

「ダメ?」
しごく当然の思考のはずだったが、甘えるように首を傾げられてキョーコは一気に赤くなった。
「ななな、何を言ってるんですか」
「だってほら、食べさせてくれたら中断せずに説明できる」

中断したっていいんです!口に物入れたまましゃべるのは行儀悪いです!とキョーコは叫びそうになったが、嬉しそうに笑う久遠がなぜだか少しいたずらっ子のような幼い表情に見えて、それはそれでドキドキしてしまう。
「~~~!…どれがいいんですか」
「鶏肉。それ味噌漬けだよね?味の加減がちょうどよくてすごく美味しい」

自分の料理を誉められてしまえばそれ以上キョーコには抗えない。箸を久遠のものに持ち替えようとしかけたところで「そのままでいいよ」と制されて、自分の箸で鶏肉を一切れつまんでおずおずと久遠の口へと運ぶ。
「ふふふ、ありがとう」
久遠はにこりと笑うとゆっくり咀嚼して飲み込み、説明を再開する。しかししばらく話すとまた口を開けた。

「ま、またですか?」
「今度はサトイモ」
「んも~~~」
「食べさせてもらった方が美味しく感じるよ」
「何でですか、意味が分かりません!」
無邪気に口を開けられると文句を言いつつもつい頬が緩んでしまう。
つい先ほどまで久遠の暗い部分について少し思いを馳せていたのに、今度は逆の幼い部分の発見にと揺さぶられているのだ。

滑りやすいサトイモの煮物を慎重に箸ではさんで久遠の口へと運ぶ途中、「がらり」と音を立てて生徒会室のドアが開いた。
「っあー、いたん…だ……?」

入ってきた社の笑顔が硬直したのち、複雑な表情に変わる。
固まったままその変遷をまじまじと観察してしまったキョーコは、とりあえずサトイモを落下させないように久遠の口に突っ込み、それからばちりと箸を弁当箱に置くとものすごい勢いで立ち上がった。顔は真っ赤だ。

「あ!!あの!!すみません、えとっ…!」
キョーコは弁解しようと立ち上がったもののなんと言っていいのか分からず言葉に詰まるが、久遠は落ち着いてサトイモを味わうと口を開いた。
「こんにちは、社先輩」
「ああ……何やってんだ、生徒会室で?」
社の立ち直りは早く、呆れたように久遠をじろりと見やる。
「何って、最上さんに生徒会費の流れを説明してるんですけど」
「ふぅん」

「あの…すみません…」
泣きそうな情けない顔で謝罪しようとするキョーコに対し、社は苦笑交じりに首を振った。
「ああ、キョーコちゃんは気にしなくていいよ。どうせこいつが強要してるんだろうし」
「きょ、強要と言いますかその」
「手が離せないから食べさせてもらってただけです」
「ほら、強要だ」

社は笑って2人から少し離れた席に腰を下ろす。
「キョーコちゃん、そいつの言う事素直に聞くことないからね。ったく、相変わらず腹黒いな」
「ひどいなあ…」

おや?とキョーコは思った。社はどうやら久遠のことを『腹黒い』と認識しているようだ。そして、久遠もそう言われて否定せず、笑っている。


…一体、ヒズリ先輩ってどんな人なのかしら?

興味が湧いて来るが、2人の会話はそこで途切れて久遠はキョーコへの説明を再開する。
久遠の穏やかな笑顔はいつも通りで、キョーコはその後ろ側に隠れている久遠の本当の姿について、ついつい考え込んでしまったのだった。




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