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きみと恋をする方法 (22)


こんばんは!
うーーん、何話になるのーー!
続きです。






「最近来なくなったと思ったのにまた復活したのね」
少し不満げにもらしたのは、左手で髪をするりと耳にかけたその仕草もクールに決まっている奏江だ。
キョーコは丁度おにぎりにかぶりついたところで、声を出さずに目線とかしげた頭の角度で奏江に「なにが?」と問いかける。
「もー、やあね、あんたの所に通ってくる先輩よ」

奏江の言葉に「ぬむっ」とむせそうになったキョーコは必死に口の中のものを飲み込み、ようやく口を開いた。
「通ってって…!違うわよ、そんな」
「何よ慌てちゃって。最近あんたもちょっと挙動がおかしいのよ」
「そんなことないってば」
口ではさらりと言ってみるものの、キョーコは目線が泳いでしまう。
「あんたが生徒会の勧誘だって言い張るからそう言うことにしといてあげたけど、もう今日が結果発表なんだから関係ないでしょ」
「そうだけど……」

キョーコが選挙準備をしている間、久遠は確かにこのA組の教室にはあまり来なかった。周囲も少し憐れむような目でキョーコの事を見ていたが、実際はキョーコは毎日のように放課後の生徒会室で久遠と顔を合わせていたし、忙しかったので誰に何を言われようと気にしてはいなかった。

何よりキョーコ自身、久遠が教室に通ってくるのは勧誘のためだと思おうとしていたのだ。生徒会室で生徒会の話が出来れば、それ以上久遠がキョーコに接触する理由はない。だから教室に来ない事はなんら不思議ではないと。

しかし立候補者の演説も終わり、投票も済んでキョーコの生徒会室訪問が終わると同じタイミングで、また久遠の教室通いは復活したのだ。


けど…あの時とんでもないこと事言われたような気もしたけど……それ以降は何もないもんね。
笑顔が前より神々しい気がするのも、セリフが思わせぶりな気がするのも、気のせいよね?そうそう、気のせいよ気のせい。


キョーコの心中は複雑だ。
久遠の神々しいほどの微笑みにさらされて、まず最初は心臓をわしづかみにされるような息苦しさを感じてしまった。よくよく考えてみればそれは、自分の心臓が急激に飛び跳ねたための痛みだと分かり、なぜ飛び跳ねてしまったのだと首をひねるばかりだった。
けれど久遠に会う頻度が上がれば上がるほど、キョーコは自分の感情と向き合わざるを得なくなっていた。

あれほど恋愛は置いておいて青春を満喫するのだと思っていたのに。

恋愛は、自分にとってろくな結果をもたらさないと分かっているのに。

久遠が会いに来てくれると自然に笑顔になってしまうし、心がウキウキとしてしまうし、今やこの胸がきゅうっとしてしまう感覚すらなんだか嬉しい。


だ、だめよ、だめだってばキョーコ!


だって、分かっているのだ。
ごくたまに校内で見かける光景、久遠が他の女子生徒と話している時のことをキョーコは思い起こした。

久遠と話している女子生徒は、皆こらえようもなく嬉しそうな、うっとりとした表情をしている。その割合たるや九割九分。一分はキョーコの知る限り、奏江くらいのものではないだろうか。
きっと久遠は皆にあの甘い笑みを振りまき、あんな誤解されそうなことを言って回っているのだ。そうだ、そうに違いない。天然タラシはこれだから困る。立っているだけでもてるというのにこれ以上何が必要なのだ。

そして、他にもよく分かってしまった事もある。
久遠が親しげに他の女子生徒と話しているだけで、今度は違う痛みがキョーコの胸を襲う。


あれは…あれはそう。


否定したいが嫌というほど思い知ってしまう。それは、だいぶ前。放課後の校舎の裏でキスシーンを目撃した時のものと同じ痛みだ。


だーかーらっ!ダメなんだってば!


ぶぶぶぶん、とキョーコは頭を振った。
「やあね、往生際が悪い」
「そ、そんなこと…!」
真っ赤な顔を見られて、キョーコは情けない顔で弱々しく否定をした。ここで認めてしまったら最後、自分はまたバカな歴史を繰り返す事になってしまう。それだけは…!


「最上さん!」
よく通る声が教室の入り口から聞こえ、キョーコはまた「どっきん」と鳴った心臓の音を傷みと認識しながら顔を上げた。
「はいっ」
「来て」
早足で教室に入ってきた久遠に手首を取られ、キョーコは握っていたおにぎりを慌てて置いて引っ張られるままに立ち上がった。
「なっなんですか?」
「なんですかって、今日は開票日だよ」
「えっ。もう結果出たんですか?」
「集計はだいぶ前に終わってる。ついさっき、結果が貼り出されたらしいんだ」
選挙管理委員会は候補者以外のメンバーで構成されているため久遠は関わっていなかったのだが、社から直接連絡をもらったのだ。

「ど、どうでしたか…?」
「俺もまだ見てない。人に聞くより自分の目で見たくない?」
階段上でキョーコを振り返った久遠は気がついたようにキョーコの手首を離した。熱かったその手首にあたる空気がひんやりと涼しい。
2人は階段を降りて1階校舎中心の掲示板前にたどり着き、キョーコはそこに貼られた大きい1枚の紙をおそるおそる見た。

「副会長: ヒズリ 久遠」

上から順番に見れば、緒方の名前の下によく目立つカタカナが見える。そしてキョーコは視線を順に下げて。

「会計:最上 キョーコ」

またもやカタカナが目に入り、キョーコはじっと自分の名前を見つめた。

「おーー、2人とも早速見に来たか。当選おめでとう!9月からの運営、よろしくな!」
にこやかにやってきたのは社だ。ぽん、と久遠の背中を叩き、キョーコに気付かれない角度でにやりと笑う。

「受かってる…」

掲示に目をやったままキョーコの口からぽそりと漏れた呟きに、社は『受験みたいだな』という感想を抱きつつもキョーコに笑いかけた。
「会計の候補者は2人だったけど、ここだけの話キョーコちゃんかなり圧勝だったよ。あの演説が効いたかな」
「ありがとうございます…いえ、先輩が推薦してくださったおかげです」

キョーコはしばらくぼんやりと掲示を見つめ、やがて実感がわいてきたようだ。
「そっか、当選したらそこから始まりなんですね……なんだか緊張してきました。今さらですけど、本当に私に務まるんでしょうか」
「大丈夫だよ」
久遠はにこりと笑ってキョーコの横に立ち、真剣なキョーコの眼差しを見おろす。
「全部1人でやる必要はないし、俺も一緒に役員するんだから、分からない事は何でも聞いて」

キョーコはしゃきりと背筋を伸ばすと真っ直ぐに久遠の顔を見上げた。
「は、はい!あの、ふつつかものですが、よろしくお願いいたします!」
久遠はほんの数秒間固まると、無意識に左手で右腕をぎゅうと掴んだ。無表情な久遠の顔をキョーコが?マークを浮かべながら覗き込む。
「先輩?」
「…ん、ああ。いえこちらこそ。よろしくね」
ゆっくりと腕から左手を離して右手を差し出す。キョーコが握ったその手は、暖かく力強かった。


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