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君の魔法 (15)



湖畔は大騒ぎになっていたが、さすがに普段から統率の取れた近衛隊。指揮官たちはすぐに自分を立て直し、事態の収拾へとテキパキと指示を飛ばしていた。

マリアはすぐに引かれてきた馬車に乗って王城へと戻っていった。二人が抱き合ったまま動くことが出来なくなっていたので、キョーコもまたマリアとともに連れて行かれた。私に任せておけ、というヒズリのウインクとともに。
貴族達も念のため少数の護衛をつけて次々と帰って行く。その場に残っている人数はだいぶ減ってきていた。

レンはついさっきまで魔方陣が浮き出ていた場所で、短剣で地面を掘り返していた。もう線や模様は跡形も残っておらず、すっかり元の花の群生だけがそこにあったのだが、レンが予想したとおり、掘り返したところからは水晶のような石で作られた小さい玉が出てきた。

「それは、さっきの男の杖に付いてたのと似てるな」
しゃがみこんだレンを後ろから覗き込んだヤシロが感想を述べた。
「そうですね…おそらく、同じものか、似た性質をもったものでしょうね」
レンは立ち上がりながら答える。

こんなものが埋め込まれていたと言うことは、あのローブの男はここにマリア姫が来ることを事前に知っていたと言うことになる。それだけではない。マリア姫がこの花のところへ足を踏み入れることまで予想されていたのだ。
相手は、ローブの男だけではないことは確かだ。しかも、その素性を隠そうともしていないようにも思える。

「でも、一体、あの男の目的はなんだったんだ?」
ヤシロは不思議そうに首を捻った。先ほどの光景は確かにすさまじいものだったが、収まってみれば特に何が起こったわけでもなかった。マリアとキョーコは半分意識を飛ばしていたが、なんとか無事で済んでいる。これからまだ何かが起こるのだろうか?

「まだはっきりとは分かりませんが……あの男が仕組んだこととして片づける訳にはいきませんね…そろそろ片をつけましょうか」
レンの表情はいつもと変わらなかったが、ヤシロはその声に怒りの波長を感じ、思わず後ずさったのだった。


レンはすさまじい速さで馬を駆って王城に戻ると、すぐにテンの元を訪れた。
それからレンは続いて王とヒズリに面会を請い、いくつかの要請を行う。二人ともレンの来訪を予想していたようで、話は早かった。話を終えたレンは早々に退出するとまた次の目的地へと足を向ける。

忙しく動き回るレンをようやく見つけて走り寄ると、ヤシロは早口でまくしたてた。
「レン!マリア様やキョーコちゃんの様子を見なくていいのか?」
「二人は無事なんでしょう?」
「確かに体に異常はないって言ってたけど、二人ともぐったり意識をなくしちゃってるんだよ!」
「医者とテンさんにお任せしていますので大丈夫です。俺は、しばらくこもりますからあとお願いします」

にっこりと氷の微笑をひとつくれて、レンはすたすたと歩き去った。残されたヤシロはぽつりとつぶやく。
「こもるって…どこへ…?」


湖畔での出来事から3時間ほど経った頃。
王城の一つの会議室には、王に招集をかけられた貴族達が集められていた。大半はキツネ狩りに参加して現場を目撃した者たち。それ以外に集まっているのも、王家と近しい有力貴族だった。
その場の者たちは、おそらく今日の事件のことで集められたのだと予想はしたが、何を言われるのかが分からなかった。犯人の男はヤシロの手でその場で捕らえられた。マリア姫はどうやら無事だったようだし、一応解決したのではないか。
男達は落ち着かない気分でこそこそと周りの者と話をしていたが、ドアの開く音でぴたりと静まった。

ドアから、ローリィ王と、王につき従ってヒズリが入ってくる。
王は一番奥の椅子までゆっくりと進むと、どっかりと腰を下ろした。通常、ヒズリは王のすぐそばの席に座るのだが、なぜだか今日は一番入口に近い、いわば末席に陣取る。何か様子が変だと、貴族たちは少し不安になりつつも王の言葉を待った。

「あー、帰る早々集まってもらって悪いな」
ローリィはいつものような気さくな調子で声を発した。場の緊張感が少しだけ緩む。
「まあ、大方予想はついてるだろうが、今日の昼、マリアが魔方陣に巻き込まれて神の召喚が行われた」
さらりといきなり本題に触れたので、何人かが息をのむ声が聞こえた。

「神の召喚で実際何が起こったのかは……正直今は分からん。なにせ当事者が『2人とも』意識がないもんでな」
昼間の事態を目撃していない数人からざわりとざわめきが起こった。
「ああ、一人はマリア、もう一人はマリアの護衛についてたキョーコ・モガミだ。女だてらに近衛隊にいる変わった奴だから、話くらいは聞いたことあるだろう」

「それで、だ」
少しざわついた室内をローリィはじろりと見渡した。途端にまた静寂が戻る。
「魔方陣に2人を巻き込んだ犯人はその場で取り押さえられたんだが…」
ローリィの視線はヒズリへと移る。
「そいつの後ろに黒幕がいるだろうというのが、ヒズリの意見だ」
今度こそ、盛大に部屋中がざわついた。

(私のせいですか)
(面倒だからお前から説明しろ)
という会話がヒズリとローリィの間で目線でかわされる。

仕方なく、ヒズリは咳払いをひとつすると、席を立った。
「あー…私と言うか、私の部下から進言がありましてね。まあ、折角だから本人から説明してもらおう」
ヒズリはそのまま扉へと進むと細く開け、外を確認してから大きく開けはなった。

扉の外には長身の黒髪の青年が立っていた。
青年は昼間の格好のままで、穏やかな笑みをその顔に浮かべている。
「失礼いたします。近衛隊レン・ツルガです。ヒズリ様の命で参上いたしました」
そのまま優雅な足取りで会議室に入ってくる。レンの右腕には古ぼけた分厚い本と丸められた紙が抱えられていた。

「黒幕とは、誰なのかね。なぜ、そう言い切れる」
一人の男がレンに向かって問いかけた。レンの評判は貴族たちの耳にだいぶ前からよく入っている。しかし、有力貴族の子息でもなく、地方の小さな領地をもつツルガ家の、しかも養子だと聞く。どこの馬の骨だか分からないまだ若い男に近衛隊の小隊長など、と怪訝に思う気持ちが声に表れていた。

「ではご説明いたしましょう」
レンは礼儀正しい姿勢を崩さずに説明を始めた。
レンの手の平に数粒の透明な丸い石が現れる。
「これは、昼間の事件の現場から見つかりました」
レンは魔方陣の準備から発動までに必要な手順を簡単に説明した。
「これがあらかじめ埋め込まれていたということは、犯人は今日国王一行があの場所で昼食を取ることを知っていた、そして更に、マリア様があのような場所を好んでいることを知っていた、ということになります」

一同からうめきのような声が漏れる。

「しかし、結局何も起こらなかったではないか。何のためにあんなことをしたというのかね」
別の貴族が声を上げた。

「表向き、マリア様が寝込んでいる以外、何も起こっていないように見えますが」
そこで言葉を切り、レンは抱えた本をテーブルに下ろすと、丸めてあった大きな紙をテーブルの上に広げた。

「これは私が現場で見た魔方陣の模様を書きとったものです」
紙には何重かの円と、その間を埋める図形や模様が細かく描かれていた。
「何箇所かあいまいな部分がありますが」

一同は目を見開いて紙の上の図形を見つめた。
これを、全部覚えて書きとっただと?

「この魔方陣は、神との契約を結ぶためのものです」
レンの声は冷たく感じられるほどに静かに響いた。
「それこそが、犯人の目的だったのです」


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