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きみと恋をする方法 (21)


とりあえず続きー。





季節は夏に差し掛かり、LME学園の生徒たちは夏服へと衣替えして軽やかな印象だ。


「いっやーーー、意外だったなあ」

今日この人の口からこのセリフ(または類似の言葉)を聞くのは何回目か。
久遠はそう思いながら苦笑気味に社を見た。

「まったく、社さんは最上さんがどんな人だと思ってたんですか」
「いやさぁ…性格がどうって訳じゃなくて、あんな大勢の前であそこまできっぱり言える子じゃないと思ってたからさ」
「本人、『生まれ変わる』って言ってたじゃないですか。それに、もともとはきはきした人なんですよ、今まで少し遠慮していただけで」
「まあなぁ」
久遠と社は放課後、生徒会室にいる。

この日は午後の授業時間を使って生徒会役員の候補者による演説が行われた。役員に立候補した理由や意気込み、当選したらどうしたいか、などを熱く語る場であるが、会計に立候補したキョーコの演説は他の候補者と少々毛色の違うものだった。

入学式にも同じ壇上に立ったキョーコであったが、この日は少し4月とは印象が違った。
長く後ろで束ねていた黒髪は肩くらいの長さにばっさりと切られ、色も明るい栗色。
新入生代表挨拶は原稿を読みながら行われ、真面目で几帳面な印象を与える固い表情だったが、この日のキョーコは受け止め方によってはやや挑戦的と思われる笑みを浮かべ、原稿もなしに自分の言葉で語った。

曰く。
今までの生徒会会計はかなり厳密に適正に管理されてはいるが、支出に対する観念が甘いと。

過去十数年分の出納帳をさらってキョーコは調べ上げたのだ。
備品や消耗品、文化祭の小物、什器など生徒会から校外に発注される全てのものは10年以上前から少数の特定の業者に集中している事、そしてその価格は年々上昇している事。それが他の業者に比べても割高である事。
その取引先はもともと教師や生徒など学校関係者の血縁が営んでいるためか、取引はゆるかった事。
その他にも、無駄と思われる項目をキョーコはピックアップして説明した。

「学校、ひいては保護者の方々のお金から成り立っている生徒会活動費です。無駄な支出は出来る限り減らしたほうがいいでしょう」

力強く言い切ったキョーコは、すぐに表情を緩めると言葉を付け加えた。
「もちろん、単純に出て行くお金を減らせばいいという事ではありません。節約できた分は部活の活動費や文化祭費として有効に活用したいと思います。皆さんからの要望に、もっと応えられるようになるかもしれません」


「あそこまで言われたら、期待しちゃうよなあ、みんな。自らのハードルも上げちゃってるけど…」
「確かにそうですね、具体的に提言されればやってくれると思われますね」
「その上現役役員の推薦付だ。まあ何かない限りキョーコちゃんの次期会計はかたいだろうなー」
「確定ではありませんが、今日の反応見てても…俺もそう思います」
社の言葉に久遠も頷く。

キョーコが立候補を決めてからの行動は、久遠にとっても少々予想を上回っていた。
長い髪をばっさり切って『グジグジするのはやめます』と生まれ変わりを宣言したと思ったら、暇を見つけて生徒会室にこもるようになった。何をしているのかと問えば、「今会計担当されている先輩に意見する訳ではないのですが」とあれこれ問題提起をされ、気がつけば久遠も一緒になって調べる事態になっている。

「現会計としては耳が痛いだろうけどな」
笑いながら久遠の顔を覗き込む社に、久遠は嫌な顔もせずにさらりと返す。
「いえ、最上さんの言っている事は真っ当な事ですからね。今まで問題にしなかったことが問題なんですよ」
「しかしキョーコちゃんの経済観念ってえらく発達してるよな」

それは久遠にとっても同じ気持ちだった。
久遠は生徒会の収支を調べているときに不思議に思ってキョーコに聞いたのだ。なぜそこまで支出にこだわるのかと。キョーコの答えは非常にシンプルだった。
「私、意味のない無駄遣いは我慢が出来ないんです。中学から家計の管理をしていますから」
キョーコの生活費は、滅多に帰らない母親から定期的に銀行口座に振り込まれるお金と自身のバイト代から出されていた。
母親からの振込みは学費や光熱費、家賃をまかなうとそう多くは残らないため、キョーコは必然的に節約する癖がついているのだ。お金は無限にわいてくるものではない、有効に使わなければいけない、という信念が骨の髄まで染み付いている。

「大変ですけど、いつかはっていう夢があれば辛くないんですよ」
にっこりとキョーコは言った。いつか自分の収入で憧れの化粧品を買うのだと、うっとりと宙を見つめながら。

まいったな…

久遠は自分とキョーコの状況が似ていると言った事を今さらながら少し恥ずかしく思った。
親がなかなか家に帰ってこない、という状況は確かに似ているかもしれない。けれど何一つ不自由なく、金銭的にも困ることなく過ごしている自分と、家のあれこれに責任を持って暮らしているキョーコとでは違いすぎる。


「よかったじゃん、久遠君としては1年間キョーコちゃんと一緒に活動できるなぁ~~」
久遠の思考はにやけたような先輩の言葉で中断された。
「まだ投票はこれからですよ」
「そうだけどさーー。2人ともまあ間違いはないだろ」
「油断は禁物です」

表情も声の調子も冷静な久遠に、少し意地悪な笑みを浮かべると社は聞いた。
「なんだよ、今から喜びすぎないようにしてるのか?」
「何がですか」
「キョーコちゃんと一緒ってところだよ」

久遠は真顔のまま社の顔を見返す。
「いえ別に…誰が一緒でも役割をちゃんと果たすだけですから」
「嬉しくないのか?一緒にいられる堂々とした口実ができるってのに」

ふむ、と久遠は腕を組んで考える素振りをした。それからにっこりと笑うと口を開く。
「やはりあまり関係ないですね。本当に一緒にいたければ、生徒会なんて口実抜きで頑張りますよ」
「じゃあ早いところ頑張れよ。なんだよグズグズしやがって。まだキョーコちゃんの気持ちが分からないから積極的になれないなんてこと言わないだろうな」

じとりと細めた目で社に睨まれ、久遠は笑顔のままあっさりと返した。
「いえ、心配は要りませんよ」
「だけどお前、最近心変わりかなんて噂されてるらしいぞ?」
「心変わり?なんでまた」

怪訝な顔をした久遠に、社は少々得意げに事情を語った。
あれだけ頻繁に1年A組の教室に足を運んでいた久遠が最近はそれほど顔を見せないと、1年の女子を中心に噂になっていると言うのだ。「やっぱりね。あんな何の取り柄もなさそうな子に久遠君が構うなんておかしいと思ったのよ」などとここぞとばかりに言い放つ人もいるとのことだった。

「情報元は百瀬さんですね」
「ああ、逸美ちゃんもちょっと心配してたぞ、キョーコちゃんのことも」
「まあ大丈夫ですよ、そんな根拠もない噂、放っておいて」
「でもさ」
「大体、毎日のように生徒会室で顔合わせてるのに、教室に行く必要もないじゃないですか」
「へ?」
「別に誰かに見せたい訳でもないですし、むしろ人がいないところでゆっくり話せる方が嬉しいんですよ?瑣末な行動だけ捕らえられてあれこれ言われても別になんとも思いませんが」
「お前…さっきと言ってる事違うじゃないか」
「違いませんよ?生徒会の責務はそれはそれです。一緒に役員になれることで副次的な効果があることは否定しませんが、なければ別に機会を作るまでですよ」

しれっと言い放った久遠を、社はまじまじと見つめた。
「お前なんだか…そんな奴だったっけ?」
「俺は一切変わってませんが」

ああそうか、異性に執着したこいつを初めて見るってだけなんだ…

それにしても本人にアプローチしないとはもどかしい。
「だったら、とっとと告白しろよ、キョーコちゃんに」
「ダメですよ、選挙にスキャンダルは悪影響です」

やれやれ、とバカにしたように自分を見る久遠に、社はごくうっすらと殺意を覚えたのだった。


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