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きみと恋をする方法 (19)


こんばんはー!ぞうはなです。
久しぶりの週前半更新!





いい天気~…

のどかに広がる青空を見上げて心の中で呟いてみるものの、それは現実から逃避しようとする心理に過ぎないとキョーコはどこか冷静に気がついていた。


自分の住むエリアの隣の街にある公営体育館。
税金を潤沢に投入したと思われるその場所は新しく綺麗で大きい。優雅なフォルムを持つ大きな建物の中には立派な観覧席付の大アリーナがあり、その下の階には剣道場だの柔道場だの、更にはトレーニングジムまでもが完備されて市民に開放されている。
館内だけでなく全体的な敷地もゆったりと広く、体育館の周りにはゆるい傾斜のある芝生広場が広がり、すり鉢状になった底の部分には水場が作られて噴水からしぶきが上がっていた。

梅雨入り前の暖かい日曜日の昼時、芝生広場では近隣の親子と思しき人々や子供たちが思い思いに腰を下ろしたり走り回ったり水で遊んだりしている。さらに今日は高校バスケットの地区大会のため学校ごとの揃いのジャージに身を包んだ高校生もたくさんいて、それぞれが小さいグループを作っている。
その光景の一部だと思えば、自分の置かれている状況は傍から見てそれほど違和感はないはずなのだが、自分自身が抱く強烈な違和感はそうそう簡単には拭い去れなさそうだった。

芝生にちまりと座ったキョーコの隣には、久遠がいる。そして久遠は自分が作ったおかずをつつきながら、自分が握ったおにぎりを頬張っている。今キョーコの眼前に広がる光景は、ほんの数日前までは予想もしたことのないものだ。

「本当に最上さんは料理がすごく上手なんだね」
タッパーに詰められたおかずをまじまじと眺めながら感心したように呟く久遠は柔らかく優しい笑顔を浮かべていて、キョーコはいちいちドキドキしてしまう。

なんなのかしら、このシチュエーション…誰かに見られたらきっと誤解される…!

慌てるキョーコだが、バスケ部の面々にはすっかり見られているのだ。昼のこの時間帯は自由時間であるため、少し離れたところで昼食を取っている部員の姿が見える。彼らはキョーコのことに触れることはなかったが、静かに2人から適度な距離をとるあたり、やっぱりなにか勘違いされているのだろうとキョーコは落ち着かない。早いところ訂正をしたいのだが、肝心の久遠が何も言わないのでキョーコもでしゃばった真似ができないのだ。

「あの…お腹もたれるといけませんから、無理して全部食べなくていいですよ。ちょっと量が多かったかもしれませんし」
遠慮がちに様子を伺うキョーコに、久遠は笑いながら頷く。
「うん、分かってる、大丈夫だよ。ああ、できれば試合じゃないときにゆっくり食べたかったな。なんて、お願いしておいて言うことじゃないね」
「あ…いえ、ありがとうございます」


キョーコは久遠から試合観戦を打診されたその日、帰宅してから渡されたメモを開き、律儀に久遠に電話をかけていた。
「電話をして」と言われた手前かけないのは失礼、というキョーコの思考を読んだ久遠の作戦勝ちとも言えたが、そこからの展開は久遠にとっても少し出来過ぎではあった。

『試合はメモで渡した通り、準決勝が午前中で決勝は午後なんだ。1日拘束するのも申し訳ないからどっちかでもいいよ』
「…もし午前で負けたら午後は試合がないんですか?」
『うん』
「では準決勝から行きます」
『一応両方勝つつもりではいるよ?』
「はい、ですから2試合見たいんですけど…決勝まで見て行ってもいいですか?」
『もちろん、それはこっちからお願いしたいな。それなら、お昼一緒に食べられるかな?あの体育館の周り住宅街で何もないから、コンビニで買って食べる感じになるけど』
「え、お昼抜けて大丈夫なんですか?」
『ああ、それは平気。どうせ昼は一度解散して適当にする事になるから、俺もそっちの方が楽しいな』
「…ええと、それでしたらもし御迷惑でなければ、お昼何か持って行きましょうか」
『え?持ってきてくれるって…』
「た、大したものは出来ないんですけど…!」
『…もしかして作ってきてくれるってこと?それは嬉しいな、ぜひお願い』

思ったよりも弾んだ声を出した久遠が喜んでくれたようなのが嬉しくて、ついキョーコは弁当を作って持参する約束をしてしまった。今朝起きて台所に立った段階でやっぱり迷惑だったのでは、と逡巡したので、本当に喜んで食べてくれているようでホッとする。


「お弁当持って来てくれるって聞いたとき、準決勝で負けたらその後気にせずゆっくり食べられるな、なんて思ったりもしたけどね」
「えええっ?」
久遠の言葉は冗談と分かっているが、それでも予想外のことを言われてキョーコは本気で驚いた。
「ちらっと思っただけ」
「けど、快勝でしたよね」
「みんな気合入ってるからね。この大会こそはって」
豪快におにぎりにかぶりついた久遠は真剣な表情だ。確かに午前の試合は皆気合が入っていたと思う。もっとも相手チームだって同じくらいの決意で臨んできているのだから、あっさり蹴散らしたという事は実力も差があったのだろうが。

「先輩もすごかったです。大活躍でしたね」
「そうかな?ありがとう。それほど出なかったけど」
「いえ、先輩に交代してすぐ、なんだか雰囲気が変わった気がしました」
キョーコはバスケの試合を真剣に見たことがなかったため、あくまでも全くの素人として感じただけだ。けれど、それまで拮抗していたゲームが、久遠が立て続けに相手のシュートを止めたために一気に流れを変えたのだ。それはその後の展開にも少なからず影響しているように思えた。

球技大会でのサッカーの試合でも久遠の華麗なボール捌きに目を奪われたのだが、さすがに部活動としてやっているバスケはその比ではなかった。ただでさえも背が高いのにそのジャンプ力はゴールリングに届くほどだし、ドリブルは巧みだし、素早いモーションで繰り出されるシュートは、相当の率でリングに吸い込まれていたと思う。

学校で騒いでる子達って、先輩のこの姿も見たことあるのかなあ…

練習ならともかく団体で試合観戦などしたら、黄色い声援で大騒ぎになって周りに迷惑だと思う。
ああ、だから先輩は他の人に試合のことは教えないって言ってたんだ…けど、こんなのちょっと調べたら分かっちゃいそうな?

「最上さんが応援してくれた声、聞こえたよ」
「す、すみません、つい…」
キョーコは顔を赤くして小さくなる。周りやベンチからのものにまぎれて声援を送ったつもりだったが、やはり自分もゲーム展開にエキサイトして大声になってしまっただろうか。
「ううん、聞こえて嬉しかったんだ。2試合目も応援お願いしたいな」
「は、はい…!」

なぜ今日はいつも以上に人の心に攻め入ってくるのだと、キョーコはドキドキする気持ちの原因を久遠に責任転嫁した。柔らかく甘い笑顔と言葉がキョーコの心拍数を上げてしまうのは、自分の気持ちではなく久遠の態度にあるのだと。

「でも『先輩』って呼ばれるんじゃ、誰を応援してくれてるのか分からないよ。決勝ではちゃんと名指しで応援してくれる?」
「な……!」
「最上さんはいっつも俺の事『先輩』としか呼んでくれないよね。ちゃんと俺にも名前があるんだけど」
「…知ってます」
「じゃあちゃんと呼んで」
「は……はい、頑張ります」
「今言ってごらん」
「お、応援の時でいいですよ!」
「なんで今言えないの」
「なんで今言う必要があるんですか!」


2人のそばで昼食を取っていた他校の生徒達は少なからず思っていた。

「こいつら決勝前にいちゃいちゃしやがって…!」

けれどLME学園高等部バスケ部のセンターとしての久遠の評判は近所の高校には知れ渡っていたため、誰も文句など言える訳もなく悶々と、ある意味羨望の視線を送るしかなかったのだった。


試合終了後、キョーコは1人電車に揺られていた。久遠は反省会のため、まだ体育館に残っているはずだ。
日曜の午後の各駅停車は人も少なく、1人物思いにふけるに適した静かな車内だ。


すごいなーー…本当に勝っちゃうんだもん。

試合前、久遠に尋ねてみたら、決勝の相手はなかなか勝てない強豪校だと言うことだった。
実際に試合も準決勝とは違って点を取り合う接戦が続き、キョーコはこの日、初めて久遠の厳しい表情を目にした。相手チームのきつい当たりに汗だくになりながら、それでも積極的にボールを取りに行き、仲間に声をかけながらがつがつと体をぶつけ合う姿を見て、思わず手に汗を握ってしまった。

いつも涼しげで穏やかな笑みを絶やさず、一度はちょっと怖いような面を見た気もするが、それ以降もごくごく穏やかで優しく接してくれていた久遠。
その久遠が、今日の試合の時は闘志むき出しで相手にぶつかっていっていた。
なぜかその姿を思い出すとぎゅぎゅっと胸が苦しくなる。

また新たな面を見ちゃった…
どうしよう、何か私…変よ?

キョーコは眉間に皺を寄せて考え込んだまま、電車に揺られていった。


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コメントコメント


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ギュギュッ(*´∀`*)

久遠の闘志むき出しの顔にキョーコと同じくギュギュッとやられてしまいましたぁ。
これって、久遠の作戦勝ち?
キョーコの気持ちがゆっくり傾いてる今が攻め時!と久遠に耳打ちしたい心境です。
続きを楽しみにしています(*^^*)

ゆうぼうず | URL | 2015/03/11 (Wed) 06:46 [編集]


Re: ギュギュッ(*´∀`*)

> ゆうぼうず様

いつも余裕な顔しか見せていない先輩が、闘志むき出しだったら…
やっぱりきゅーん!としちゃいますよね!(ただしイケメン(略))

キョコさん、すっかりやられてしまいましたが、まだ自覚したくない病です。
ここで持ちこたえるキョコさんってある意味すごいと思います。

ぞうはな | URL | 2015/03/12 (Thu) 21:54 [編集]