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きみと恋をする方法 (18)


おこんばんはー。ぞうはなです。

早速、つづきー!





キョーコと久遠はしばらくの間無言で見つめあってしまった。
教室の中はざわざわしているが、2人の間には無音の時間が過ぎる。そのプレッシャーに耐えられずキョーコが言葉を探した瞬間、久遠が少し頭を寄せて口を開いた。意識的なのか無意識か、やや声も潜める。

「全然違う話をしてもいい?」
「は、はい!」
なぜだかキョーコは無意識にぴしりと背筋を伸ばす。
「お願い、なんだけど」
「はい」
「今週の日曜日、地区大会の試合があるんだ。もしよかったら、見に来てくれない?」
「試合ですか…?あ、はい!日曜日なら大丈夫ですけど」
「ほんとに?」
「はい、仕事もないですし」
「…よかった!日曜は地区大会の準決勝と決勝で…勝てれば次の大会に進めるんだ」
「だ、大事な試合じゃないですか…!」
「そうだよ。特に三年生は負けたらここで引退だ。負けられないんだよ、まだ」

自分の説明を聞きながら げげげ、という青い顔をして自分を見るキョーコに、久遠はくすくすと笑いをこぼした。
「最上さんが見に来てくれたら俺、頑張れそうなんだ」
「わわ、私ごときがそんな…?」
「本当だよ。それにこの前はサッカーだったけど、バスケも見てほしいと思って。バスケの方が、ちゃんと実力出せるから」
久遠がやわらかく笑うと、キョーコは青かった顔色を徐々に赤くしてとまどまと周りを気にする。
「でもあの、私なんかよりその、応援したい人だって…」

ぼしょぼしょと語尾は尻つぼみになるが、久遠はそこで諦めなかった。小さくなるキョーコを追いかけるようにさらに頭を近づける。
「いつも試合の場所や時間は他の人には言わないんだ。うるさくされても困るし、相手にも迷惑になるし。けど、最上さんにはできれば応援に来てほしい。一人で来にくかったら誰か一緒に来てもらってもいいし」
「あの…応援はぜひ、行かせていただきたいんですけどでも…」
「なに?」
戸惑って自分の顔を見たキョーコに久遠は優しく聞いた。キョーコはしばらく躊躇うが、ようやくこそりと口を開く。
「サッカーの時も思ったんですけど…私の応援ごとき、役に立ちますか?」
「もちろんだよ!そう思うからこうやってお願いしてるんだ」
「はあ…」
まだ戸惑いの表情のキョーコに久遠は畳み掛けた。
「君の頑張ってる姿が、いつも俺の励みになる。俺も負けないって思うし、いや、負けないと言うより、一緒に頑張りたいって思うよ。だからお願いしてもいいかな?」
「は、はい!」
「ありがとう!」
キョーコがしっかりと頷いたのを見て、久遠は席から立ち上がった。制服のポケットから二つ折りにしたメモ用紙を取り出すとキョーコの手の下にするりと差し込む。
「これ、試合の場所と時間と俺の連絡先。細かい事連絡したいから、メールか電話がほしいな。携帯持ってるよね?」
「はい一応」
「うん、じゃあお願いするね」

じゃあね、と笑顔で軽く手を上げると、久遠は足取りも軽く教室を後にする。
残されたキョーコは周りの視線を感じていた。特に同性の生徒たちの視線が自分の手元の小さな紙片にすべて注がれているような錯覚に陥る。

いえいえ、気にしない、気にしない…

キョーコは心の中で呪文のように呟きながら、けれどその場で中身を見てはいけない気がして、メモ用紙を開くことなくカバンの奥のほうへとしまいこんだのだった。


久遠は足取りも軽く校舎の階段を降りて行った。
1年生と2年生の教室は隣の棟にあるため、自分の教室に戻るには一度下に降りて渡り廊下を渡らなければならない。ここ最近は意識的にキョーコがいる1年A組の教室を訪れているため、この往復は久遠にとって当たり前のものになっている。

とりあえず来てくれるって言う返事はもらえたし、携帯の番号も渡せたし…

実際に電話やメールをくれるかどうかはキョーコ次第だが、先輩に言われた事を無視するようなことはないだろうという予測を久遠はしていた。
キョーコの礼儀正しさや義理堅さにつけ込んでいる気もするが、そうでもしないとこの距離は一向に縮まらない。色々画策するのも別に悪い事ではないだろうと、久遠は自分の行動に折り合いをつけて自分を納得させる。

久遠が階段の踊り場で階段を折り返したところで下から登ってきた男子生徒が「あ」と声を上げ、久遠はその声が自分に向けられている気がして視線を声の方向へやった。

「久遠ヒズリ…」
ぼそりとこぼされた自分の名前を呟く声はなぜか低く怒りがこもったもので、久遠は頭の中で考えていた事を一旦端に押しやってにこりといつもの笑みを浮かべた。
「何か用かな?不破君」
しっかりと相対するのもサッカーの試合以来で久しぶりだが、久遠もその顔は覚えている。何よりもキョーコの想い人だった相手なのだ。忘れるわけもない。

尚ははなから喧嘩腰で久遠につっかかってきた。
「済ました顔しやがって、親を使ってキョーコに取り入ろうだなんて、やり方が汚いんじゃねーの?」
「親を使う?なんのことかな」
「しらばっくれんなよ!あんたの父親が先週うちの店に来たって、あんただって知ってんだろ」
「ああ、その話か」

やれやれと久遠が頭を振るとさらさらの金髪がそれにあわせて揺れ、きらきらと光る。尚はむかっとしながらその優雅な動作をかき消すように片手を大きく振った。
「やり方がせこいんだよ」
「心外だな、俺の父親は仕事の一環であの店に行ったに過ぎない。俺は何の関係もないんだけど、大体それで俺が何をしようとしてるって言うのかな」
「はあ?まだそんなこと言うのか?キョーコを指名した上にお袋に余計な事言ったじゃねえか」

尚は久遠を睨みつけるが、久遠は落ち着いて笑顔を崩さない。通りがかった生徒たちは何事かと足を緩めて耳を傾けているようだ。
「俺の父が何か失礼なことをしたというなら謝るよ。だけど俺は何も関係無いな。父が最上さんを指名したのは以前あの料亭を利用したときの対応が素晴らしかったからだし、父が俺の事をあれこれ外で言うのは…正直俺も少し迷惑してるけど、何を言ったのか俺は知らない」
「んだと?」
「大体俺の父が俺の事を君の親に言ったとして、なぜ君がそんなに怒るんだ?」
「あんたのことだけじゃねーよ!べらべらと、キョーコが役員候補だとか、なんだとか、そんな事まで話しやがって。そこまでしてキョーコをおだててどうしようっつんだよ」
「言葉が悪いな。うちの父は単純に最上さんに感心して褒めたに過ぎないよ。そこまで言うなら聞くけど、君は君のお母さんから何を言われたんだ?」

尚は久遠を睨んだまま黙り込んだ。しばらく逡巡してから重い口を開く。
「んなこたぁどーでもいいんだよ…ともかく、キョーコにちょっかい出すのはやめろ。あいつに生徒会だなんて、そんな気ねーんだからよ」
「なぜ君がそんなことを言う?」
いつしか久遠の表情から笑みは消えていた。尚の言葉をもらさず受けて真っ向からはっきりと言い返す。
「ああ?俺はあいつのことをよく知ってんだよ。あいつが迷惑がってるから俺があんたに…」
「そんなことを君が代弁するのは君の勝手であって親切ではない」
「なんだと…?」
「それはそうだろう。本人から相談を受けた訳でもないのに勝手にしゃしゃり出てくるのはかえって失礼じゃないのか?最上さんは自分で考えて自分で決められる子だよ」
「勝手にって言うけどな、あんたと違って俺はあいつをよく知ってんだよ。生徒会なんて人前に立つような派手な事をしたがる奴じゃねえって事もな」
「君が今までに見てきて知っている姿が、これから先もずっとそうとは限らないよ。もっとも、俺も無理強いをする気はない。ちゃんと活動を理解してもらって、本人が納得してくれたら推薦しようと思ってる。それでもダメなのか?」

「…なんであいつにそんなに拘るんだよ」
冷静に述べられ、それでも尚は納得がいかない顔で聞いた。久遠はその質問を待っていましたとばかりに最大限の笑顔を見せる。
「俺が知っている一年生の中で最上さんが一番ふさわしいと思ってるからだよ。ああだけど、最近話しかけてるのは別に生徒会に立候補しろと迫ってるからじゃないよ」
「どういうことだ?」
「色々話してみて、最上さんと一緒にいるとすごく楽しいって事がよく分かったんだ。もっと知りたいし、仲良くなりたくてね。それは別に構わないだろう」
「……はっ、あんな奴のどこが?」
「君がどう思おうが自由なように、俺がどうしようと自由だろう」

久遠は言い終わると足を踏み出して尚の横を抜ける。しかし隣に並ぶとぴたりと足を止め、少し表情を険しくして尚の顔を見た。
「最上さんの事をよく知ってると豪語するなら、彼女の置かれている状況も把握して当たり前じゃないのか。俺から見ていても少々不愉快なんだ。お前が放置するなら俺が手を打つ」
「何の話だよ?」
「本当に分かってないのか」
一瞬凄みを増したように見える久遠の瞳の奥の光に尚は少し気圧されたが、本当に心当たりがなく「だから何がだよ!」とイライラと声を荒げた。

「なるほど、よく分かった。それなら何もいう事はないよ」
久遠は再度笑ったが、その笑みは少し冷たく嘲るようなものだった。尚は驚いて去っていく久遠の後姿を見送ったが、別の生徒に軽く答えた久遠の笑みはいつも通りのもので、冷たさなどはどこにも残っていない。

しばし呆然と立ち尽くしてしまった尚だったが、やがてふつふつと怒りが湧いて来る。

あいつ…堂々と喧嘩売っていきやがった!


どこが品行方正な上級生だ、とんだペテン師だぜ!と心の中で吐き捨ててみるものの、それは傍から見てみれば負け犬の遠吠えでしかなさそうだった。



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