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きみと恋をする方法 (17)


こんにちは!ぞうはなです。
わお、とうとう更新が週末にずれこんだ!

とりあえず続きです。





勉強会の成果は確かにすごかったようだ。
キョーコはそれほど血眼になって試験勉強をしたわけでもなかったと言うのに、中間テストが終わってみれば3科目で学年トップを取り、総合順位欄にも「1」という数字を見つけていた。


「最上さんはもしかして頑張りすぎて当日実力が出せないタイプ?」
生徒会室での最後の勉強会の後、久遠に聞かれてドキリとした。何で分かったんだろう、と戸惑っていると久遠は笑って続けた。
「やっぱりそうか。毎回の予習の度が過ぎてるからね…今回の試験範囲はもうほぼ頭に入ってるから、前日の夜は早めに寝ないとダメだよ」
「は…はい!」
ぴしりと背中を伸ばして返事をしたキョーコに久遠は優しく笑いかけ、そしてキョーコはその笑顔を見るだけでなんだか胸が苦しくなってしまった。


中間テスト終わっちゃったし…勉強会ももうないもの…

テストが終わった後の少し気がゆるんだ教室。
授業の合間の短い休み時間にキョーコは両肘を机についたままぼんやりと考え、「はっ」と我に返る。

「私今何を考えたの?」

週に3回の勉強会は定期テスト直前限定だ。テストが終わってしまえばまた次の期末テスト前までは開催されない。人目を気にせず久遠と話せる数少ない機会も終わり。自分はそれを少し寂しく思っている。

キョーコはそんな風に自分の考えを分析したが、「ばっかみたい」とそれを打ち消す。


もうバカ。
ショータローで懲りたはずでしょ?
しばらくは勉強と部活と…そうよ、高校生らしい生活を送って青春を取り返すんだから。

ごくごく普通な女子高校生の思考回路であれば、高校生らしい生活、青春とくれば筆頭に上がりそうなのは恋愛だ。
キョーコはそれを知りつつも、あえて『恋愛』についてはばっさりと思考からそぎ落としている。大体自分の生活から青春らしさを奪ったのは盲目的に尚を慕ったからに他ならない。また同じような事が起こっては本末転倒。

しかしキョーコはまだぼんやりとしか気づいていなかった。自分の中の理屈と感情は必ずしも仲がよくはないという事を。
キョーコは理由が分からない、すっきりしない自分の気持ちに少しいらつきつつも、きちりと次の授業の教科書を準備して教師の到着を待ったのだった。


『久遠、どうだ学校は?』
「父さんがこっちに来てからそれほど経ってないんだから、そんなに変わらないって」
『行事予定を見れば球技大会だの中間テストだのイベントはいっぱいあっただろうが!うむ、日本にいればなあ…』
「球技大会も中間テストも生徒だけの行事だからね。こっちにいたとしても学校に来るのはやめてほしい」

久遠は父親からの国際電話を受けながら、冷静な声で父を戒めていた。
なにかと子供に関わりたがるこの父、いや、母もだから両親か。つくづく駆けつけられない距離にいることが多くてよかったと思う。大体、高校にもなって授業参観がある訳でもないし、運動会も見に来てほしくはない。来年は行事予定を渡すのを止めた方がよさそうだ。久遠は心に誓う。

『分かっているさ。しかし来週は何もないのか…なかなかうまく合わんな』
「何で来週?」
ぶつぶつとこぼされたクーのセリフを聞いて久遠は少し目を見開いた。こちらに戻る用事があるのだろうか?
『ああ、来週一度日本に戻る事になってな。とはいえ一泊でとんぼ返りなんだが』
「こんなにすぐには珍しいね」
『得意先の企業のフランス支社長が訪日するからと、アテンドに指名されたんだ』
「父さんが?」
『ああ。日本びいきの人で、来るたびにうまい店に連れて行ったら味をしめられたらしい。…そうだ、それでな、久遠に聞きたいことがあったんだ』
「俺に?」
『ああ…その支社長との付き合いは長くてな、そろそろ接待用の手持ちの店リストがつきかけているんだ。ガイドに載っているような星付きの店もすでに制覇しているらしい』
「うん…」
クーの説明を聞いていても、自分に聞きたい事にどうつながっていくのか、久遠にはさっぱり想像がつかない。その分野にかけては久遠の知識はクーの足元にも及ぶわけがない。

『それでひらめいたんだ。あの店があったじゃないかとな』
「…どの店?」
『この間ジュリと3人で行った、あの旅館の料亭だ。あそこはまだ出来たばかりだし、取材や雑誌掲載は一切受けない方針らしい。庭も見事だし、支社長の気に入る事間違いなしだ』

久遠は瞬間的に着物姿のキョーコを思い浮かべていた。そしてその連想が間違っていない事をクーの次の言葉が裏付ける。
『店の予約はもう取れたんだが、できればこの間のあの子に応対してもらいたくてな。ほら、お前と同じ高校の。支社長は大和ナデシコへの憧れもまた強いんだ。彼女がついてくれたら満足度が上がることは間違いない。久遠、頼めないか?』
「俺が最上さんに直接?仕事が絡む事だし、女将さんに頼んだ方が早いんじゃないの?」
『忙しい女将を電話口まで呼ぶわけにもいかないだろう』

久遠はふうっと息を吐き出すと壁に掛けられたカレンダーに視線を走らせる。
「来週のいつ?」
『金曜だ』
「最上さんは俺たちが行ったあの後バイトを減らしてて、今は木金だけお店にいるみたいだよ」
『おおそうか!ならちょうどいいな!』

受話器の向こうから喜んだ声が聞こえたかと思ったら、少しの沈黙がその後に続いた。
『久遠…お前なんでそんな詳しく知ってるんだ?』
「なんでって本人に聞いたから」
さらりと久遠は答えるが、クーはしつこく疑問を重ねる。
『お前もしかして、あの子と個人的な付き合いがあるのか?学年は違うと言っていたな?』

再び静かに息を吐き出すと、久遠は平坦な声で疑問に答えた。
「最上さんは成績も優秀でしっかりしてるから、次期生徒会の役員に推薦したいと思って声をかけてるんだ」
『なんと、さらに素晴らしいな。なるほど、お前がそういうならとても優秀な子なんだろう』
「一応伝えてはおくけど、無茶はさせないでほしいな。その支社長さんはその…大丈夫なの?」
『心配ない、まかせておけ!』
機嫌のよさそうな父の声に、久遠は少しだけ言うか言うまいか考えてから慎重に声を出した。
「それから…最上さんに余計なことを言うのも絶対になしで」
『…わかった』
少しだけあった返事までの空白に父親のにやりと笑った顔が見えた気がして、久遠は「逆効果だったか」と少しだけ後悔しながら電話を切った。


月曜日の昼休み、キョーコの元を訪れた久遠はいつも通り真っ直ぐにキョーコの元へと向かった。
「こんにちは」
久遠が訪れる事がすっかり当たり前になってしまったキョーコは笑顔で挨拶をしたが、久遠の顔を見て少し首を傾げる。
「どうなさったんですか?」
「どうって?」

反射的に聞き返した久遠だが、内心は少しドキリとする。キョーコはほんの少しだけ躊躇ってから、口を開いた。
「ごめんなさい、ちょっとなんだか悩んでると言うか…少しいつもと違うように見えて」
久遠はもやもやを吹き飛ばす一言にぱっと満面の笑みをみせた。
「当たりだけど…そこまで分かってくれるんだ、嬉しいな」
「いえそんな!ご、ごめんなさい、変なこと言って」
「ううん、全然」

久遠はキョーコの慌てた様子を気にせず、空いているキョーコの前の席にすとんと腰を下ろす。
「悩んでいると言うか、君に謝らなくちゃと思って」
「何をですか?」
「金曜日…うちの父が行っただろう?事前に伝えてはいたけど、失礼がなかったかと心配だったんだ」
「ああ、そのことですか!失礼だなんてそんな。ご満足いただけたか、ちょっと気になっていたんです」
「満足も何も、大満足だったみたいだ…帰ってきてから父が興奮してたからね」
「そうなんですか…よかったです!」
「きっとあのフランス支社長が来日したらまたあの店に行きたがると思うよ」
「ほんとですか?きっと女将さんも喜んでくださると思います」

にこりと笑ったキョーコの顔を見つめると、久遠も笑った。
「よかった。それを聞いて安心したよ」

口を閉じると急に久遠が自分を見つめたまま真面目な顔になり、キョーコは自分の心臓がどきりと大きく音を鳴らしたのを聞いた。


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