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きみと恋をする方法 (16)


こんばんはー!ぞうはなです。

うーん、さすがにダラダラ進め過ぎー。





「勉強会…ですか?」
「うん。定期テスト対策の」
不思議そうな顔で尋ねるキョーコに久遠は笑顔で答える。
昼休みや放課後、1年A組の教室に金髪で長身の先輩がいる光景はさほど珍しいものでもなくなっていた。
最初はキョーコの事を「先輩に媚を売っている」だの「男好き」などと陰口をたたく者もいなくはなかったのだが、どう見ても一方的に久遠が押しかけて来ている状況は誰の目から見ても否定できなくなってきている。
何せ久遠は真っ直ぐにキョーコの元へ向かうと様々な用件で話しかけ、用が済むとまた真っ直ぐに帰っていくのだ。そしてキョーコの受け答えは先輩に対する礼儀を全く欠く事なく、つまりはキョーコを貶めたい人間の付け入る隙はないという事だった。

「生徒会役員に代々受け継がれてる対策ノートがあって。それに上級生は先生ごとの出題傾向をよく分かってるからね」
「でも私生徒会役員じゃ…」
「そう言うと思ったけどそれは気にしなくていいよ。実は俺も去年のこの時期に社先輩に誘ってもらって参加してたし」
「はあ……」
「最上さんは成績優秀だから必要ないと思うかもしれないけど、かなり試験勉強の効率が上がるからいいと思うよ」
「いえ私もちゃんと頑張らないと……でも、先輩も成績はかなりいいって聞いてますけど」
「勉強会の成果が出てるからね」

まだ不思議な顔をしているキョーコに久遠は笑うと少し声をひそめて言葉を足す。
「生徒会役員だから勉強ができるって訳でもないんだけど…でもほら他の生徒の手前、赤点とって追試や補習なんてさすがにまずいだろう?」
確かに代々の生徒会役員は先生にも頼りにされ、全校生徒の模範と言われることも多い。いくら成績が条件ではないとはいえ、なんとなく理屈は分かる。
「最上さんはどの教科が苦手?」
「…数学と生物はちょっと頑張らないとって思ってますけど」
「ちょうどいい。その辺りは社先輩の得意分野だよ」
「そうなんですか?」
「明日の放課後に第1回があるんだ。ぜひ出てほしいな」
「本当に私が行ってもいいんですか?」
「もちろん。明日授業が終わったら迎えに来るよ。生徒会室でやるからね」
「あ、ありがとうございます。って、私自分で行かれますよ?」
「いざその時になって遠慮されても困るから。じゃあ約束だね」
「は…はい……」


一方的に約束を取り付けて久遠が帰っていき、ようやく緊張を解いてため息をついたキョーコのところに奏江が近づいてきた。
「最近かなり積極的ね」
「積極的って何が?…え、もしかしてヒズリ先輩のこと?」
「そうよ。随分気に入られてるじゃない」
キョーコは久遠が去って行った戸口の方向をちらりと見ると、ふるふると首を振る。

「分からないけど…役員に立候補してほしいってまだ思われてるのかな」
「それだけじゃないでしょ」
呆れたように返されたセリフにキョーコは「え?」と奏江の顔を見た。
「どっちかと言えばそっちは口実じゃないの」
「…どういう事??」

やだ、ほんとに分かってないの?と奏江は驚き顔になる。相変わらずきょとりと自分を見返してくるキョーコの顔には全く嘘がない。これはダメだ、と奏江は諦めつつも呟いた。
「これじゃ先輩も苦労するわ…」
「え、なに?何で…?」
「なんでもない。知りたかったら自分でちゃんと気がつきなさい」
「……何を…?」
奏江は素っ気無く去ってしまい、取り残されたキョーコは情けない顔でその後姿を見送るしかなかった。


勉強会が終わったのは夕方の5時ごろになってからだった。
「よし、今日はここまでにしようか」
社が声をかけると皆ふうっと息を吐いて筆記用具や教科書を片付ける。キョーコはかたりと椅子を鳴らして立ち上がるとぺこりと頭を下げた。
「たくさん教えていただいて今日1日でかなり前進しました。ありがとうございます」
「いやあ、キョーコちゃん教えたことをすぐ理解するからやっぱりすごいよ。また次回も来てね」
はあ、とキョーコは首を傾げてからきょろりと周りを見回した。黒崎を除く生徒会役員全員と、次の会長候補だと紹介された緒方という2年生男子しかいないその場には、1年生は自分ひとりだ。しかも自分は立候補の意志を固めてもいない。

「あの…図々しく参加させていただいてしまってよかったんでしょうか…」
「え?なんで?全然構わないよ」
社に軽く笑われて、ううん、とキョーコは少し考え込んだ。
「ですけど私…そのまだ、はっきり立候補するって決められてなくて…」
「大丈夫だよ最上さん、それを言うなら僕も同じだから」
緒方がにっこりと笑ってキョーコに答えた。初対面時、やや儚げな印象を与えるその人が会長候補だと聞いてキョーコは少し驚いたのだが、話してみれば芯のあるしっかりとした人のようで、キョーコはつくづくこの部屋における自分の場違いさを感じていた。

「そうなんですか?」
「そう。それにこの勉強会は基本的に自由参加なんだって。自ら生徒会室のドアを叩く気があればね」
「久遠目当てが大量に押しかけたら困るから、積極的な告知とか声かけはしてないけどな」
「来てもひたすら勉強してるだけですからね」

口々に言われてキョーコは ほほう、と納得した。という事は。
「じゃあここで教えていただいた傾向とか対策をクラスの人に話してもいいってことですか」
「もちろんだよ!内緒にしてる訳でも独占したい訳でもないしね。それに、結局は自分でちゃんとやらないと点には結びつかないんだから、楽して点取ろうって人には役に立たないんだ」
にこやかに答えてくれた社に対し、キョーコはうんうんと頷いた。

確かに今日教わった各教科の出題傾向は、今学期の学習の要点とどこの部分の理解を求められるか、ということだった。その傾向が分かれば効率よく学習が出来るが、この問題が必ず出る!という、丸暗記すれば済むようなものではない。
それでもキョーコは今まで闇雲に教わった範囲を網羅的に復習して頭に叩き込んでいたので、要点を絞るだけでも負担は相当軽くなる。

「だからもし、羨ましい、ずるい、なんて言う人がいたらさっき渡したプリントをコピーしてあげたっていいよ。と言っても学年トップの最上さんに『ずるい』なんていう人いないだろうけどね」
社の言葉にキョーコは曖昧に微笑んだ。


そして勉強会が終わった帰り道。
なぜかキョーコは久遠と並んで歩いていた。
「最上さんの家はあの旅館の近く?」
「はい、すぐそばのアパートです」
「あそこから自転車で通っているのはすごいね」
「そうですか?あまり時間も変わりませんよ」
2人は主に久遠がキョーコに質問を投げかける形で会話を交わしながら駅への道をたどる。

「一緒に帰らない?」と久遠から声をかけられたのは下駄箱でだった。勉強会終了後久遠は生徒会室に留まるように見えたのに、気がつけば後ろに立っていたのでキョーコはびっくりしたのだ。
「電車だよね?」
「はい、今日は」
「今日は?いつもは違うの?」
「いつもは自転車なんです。でも今日は朝雨が降っていたので」
「ああ確かにそうだったね。そうか、それなら今日はラッキーだったな」


何がラッキーなの?
先輩が?
…まさか!でもどういう意味??私が??いや、ニュアンス的にそうじゃなかったわよね?

見慣れた道を歩きながらキョーコはぐるぐると考えてしまっている。
しかし久遠はしょっちゅう自分のクラスに話しに来てくれるが、こうやって会話をしてみると驚くほど何を話していいか困る。久遠があれこれと話題を振ってくれるのでキョーコは少しホッとしていた。

「でもなんで、最上さんはずっと旅館で働いてるの?ご両親は何を?」
物心ついたころには尚の旅館で仲居の真似事をしていたと言うキョーコに、久遠はまっすぐに尋ねた。
「私…父はいないんです。母は仕事で家を空ける事が多くて、だからあの旅館は私の第二の家みたいなものですね」
へえ、と相槌を打った久遠は笑顔で口を開いた。
「俺とちょっとだけ似てるかな、その状況」
「え?似ている…って?」
「俺の両親は仕事でほとんど家にいないから。家にいないどころか海外にいる時間の方が長くて」
2人は駅に到着し、家の方向が反対のためそれぞれのホームに分かれる前に立ち止まる。

「この間料亭にいらした素敵なご両親ですよね」
「ありがとう。父は貿易関係の仕事だし、母はデザイナー。なんで日本に家があるのか不思議なくらいだね」
軽く笑う久遠に、キョーコは納得したように頷いた。
「そうか、高校に入る前には海外にいらしたってのはご両親の仕事のご都合なんですね」
「あれ、俺が海外にいたって知ってるの?」
「あ、そのあの、先輩の事はクラスの子たちも色々話してるので…!」
キョーコはうっかりこぼした言葉に反応されて慌てる。自分の知らないところで自分の事を探られるのは気持ち悪いかもしれない。

しかし、予想に反して久遠が見せたのは満面の笑みだった。
「よかった。俺最上さんには全く興味もたれてないかと思ってた」
「はい?」
聞き返したタイミングでキョーコの乗る方面の電車到着のアナウンスが聞こえてきた。
「電車来るよ。じゃあまた明日」
「は、はい!」
ホームに上る階段を上がりきった頃には、キョーコの心臓は走ったせいなのかそれとも別の理由でなのか、やけにバクバクと速く強く打っている気がした。


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