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きみと恋をする方法 (15)


こんばんはー!ぞうはなです。
うう、今週もすでに木曜日……こそりと続き投下です。





「わぁっ。可愛い!久遠君、それどうしたの?」

久遠が包みから取り出した物を目ざとく見つけて声を上げたのは生徒会室にいた逸美だった。

「もらったんだ」
「もらった?誰に?」
「最上さんに、お礼だって言われて」
「へぇ~、キョーコちゃんに会ってたからお前今日は遅かったのか」
すかさず社が2人の会話に茶々を入れる。

「違います、体育館で部長と話してたんですよ」
少し呆れ顔で久遠は言葉を返す。すると久遠の後ろを通りかかった副会長の黒崎が久遠の手の中の物をひょいと後ろから取り上げた。
「なんだこれ、バスケットボール?」

黒崎がつまみあげたのは茶色の球体がぷらぷらと揺れるキーホルダーだった。
柔らかい皮のような素材でできた球にはこげ茶の糸でステッチが入っていて、その模様はまさしくバスケットボールだ。
「そうですね。俺がバスケ部だからかな」
「手作りなのか?最上ってのは器用なんだな」
「手芸部に入ったらしくて」
「へぇ」
黒崎の手から小さなボールを取り返して久遠はそれをひっくり返しながら眺めた。ボールの底近くにはステッチと同じこげ茶色の糸で小さく"K.H"と刺しゅうされている。

「お礼って、何のお礼?」
社に尋ねられ、久遠は緩みそうになった頬にぴしりと力を入れた。
「あー…部活紹介の冊子をあげた事ですかね」
「そんなことで?」

確かにやったことはそれだけだけど、『青春を取り戻す手伝い』の一環だからかな…。

久遠は心の中で思ったが、そんな事情はここにいる人たちに話すような事でもない。
「最上さんは律儀で義理堅いんですね」
「じゃあ俺にもこの間の生徒会紹介のお礼に何か作ってくれないかな」
「あれはだって、こちらが勝手にした事ですし」
「そんなこと言って、俺が自分と同じように扱われるのが嫌なだけだろ」
何かを含んだような社の言葉に、逸美はかすかに首をかしげる。黒崎は興味があるのかないのか、微妙に笑みを浮かべてその場を離れると自分の椅子に戻った。


「でもさ、部活始めたってことは時間ができたってことか?もともと生徒会は時間がないって断られたんだろう?」
さすがに眼鏡の副会長は細かいところまで意識が行き届いている。早速キョーコの状況分析をして久遠に尋ねてきた。
「まあそうですね。少し余裕が出来たそうですよ」
「じゃあお前、しっかりじっくり勧誘できるじゃないか」
「それは嫌がられない程度に…あ、まだ会議始めないんですか?」
久遠は話をぷっつりと切ると社を促す。社はその場でのそれ以上の追求を諦めると目の前の資料に目を落とし、不在の会長に代わり役員会議の開会を宣言した。


「あ」
登校時間帯、キョーコの口の中でこぼれた声はそれほど大きくもなく、周りの人間には聞こえない程度だった。

体育館での朝練から授業へと移動するらしい一団が、げた箱から昇降口に向かう列と交差するように進んでいく。キョーコはちょうどその一団が通り過ぎた後に廊下へと上がる形になった。
笑いながら歩く数人のグループの中には他よりも背が高く髪の色が明るい男子の姿が混ざっていて、朝から女子の視線を集めている。
キョーコは少し立ち止まってその後ろ姿を見送った。女子から熱い眼差しを浴びせられている先輩はキョーコには気付かずに2年の教室のある校舎へと歩いていくが、その肩には大きめのスポーツバッグがかけられていて…

わぁっ!

キョーコは心の中で悲鳴を上げ、不自然に顔を伏せると自分の教室にダッシュで駆け込んだ。バン!と大きな音を立ててカバンを机に置いたため、隣の生徒がちらりと顔を上げてキョーコを見る。

大きく息を吸って吐いて。
深呼吸をして気持ちを落ち着けるとキョーコは咳払いをして自分の席に腰を下ろした。カバンを机の横に掛け、まだ空席の前の机を見つめながら先ほど見た光景を思い起こす。


あれ…
そうだったわよね?

久遠が肩にかけていたスポーツバッグ。
黒くて大きいそのバッグはいつも久遠が部活の時に使っているものだ。ふと目に入ったバッグの持ち手の付け根。確かにそこには茶色いくて丸い小さな物体が揺れていた。


キーホルダー、つ、使ってくれちゃってるの?
そりゃあ…そりゃあ、もし使ってくれればって全く思わなかったわけでもないけど。
でも、勢いで、部室であの布の端切れを見た瞬間なんとなくバスケットボールっぽいなって思って作り始めちゃっただけなのに!
ど、どうしよう?もしかしてもらったからには使っているところを見せなくちゃ、なんて義理で嫌々付けてくれてたら…
それに、使ってくれてるの見てやっぱり分かったわ。先輩にああいう幼稚な安っぽい物は…に、似合わないのよ!!


「どうしたのあんた?」
呆れたようにかけられた声がキョーコを現実へと引き戻した。
「へ?」
頭を抱えていた腕を解いて顔を上げれば、少し驚いたように自分を見おろしてくる奏江と目が合う。

「あ…おはようモー子さん」
「おはよう。朝からなにやってんの?」
「い、いや…なんでもないの」
ごしょごしょと言ってから再び久遠の鞄に揺れる小さなボールの画を思い出して顔が熱くなる。
よく分かっていた。勢いで渡してしまって後悔や恥ずかしさがあったのだが、それ以上に久遠が受け取ってくれて、それにとどまらず使ってくれて自分は嬉しいのだ。

「ちょっと熱でもあるんじゃないの?顔真っ赤よ!それに目も潤んでるし…!」
「だ、大丈夫、なんでもないから~~!」
キョーコは周りの注目を集めつつも、チャイムとともになんとか友人を席につかせることに成功したのだが、時折思い出しては顔を赤面させて1人身もだえていたのだった。


「で、さ、久遠」
「なんですか、そんな険しい顔して」
その日の放課後、なぜだか社は部活に向かおうとする久遠の前に現れて廊下の隅へと久遠を引っ張って行っていた。
「お前、本気だろうな?」
「いきなり何の話ですか?」

んーーー、と口をヘの字にしてしばし躊躇した後、社はおもむろに口を開く。
「逸美ちゃんに聞いたんだ。キョーコちゃんって中等部の頃から同級生の男子との噂があるって」
「ああ、不破…君の事ですか」
なんだ知ってんのかよ?と社は肩の力を抜いた。どうやら社も逸美に聞いて初めてその話を知ったらしい。

「でも、許嫁らしいって…キョーコちゃんもあいつの家に入ったりするのを目撃されてるみたいだぞ?」
「幼馴染と言うのは本当ですけどね。最上さんは不破君の家で働いてるんですよ。だから時間がないと言っていたんです」
「え……お前どこまで知ってるんだ?」
「俺もそれほど根掘り葉掘り聞いた訳じゃありませんけど、正式な許嫁ではないと言うことくらいは」
「そ、そうか、そうか…ああでもお前、だからって気を抜いたりすると…」

ホッとしつつも慌てて窘めようとする社に、久遠はきっぱりと答えた。
「大丈夫ですよ。そういえば社先輩、中間テスト前の勉強会、最上さん呼んでいいですよね?」
「ああもちろん。まあいいや、お前がそう言うなら俺も安心だ」

じゃあ、と手を上げて去ろうとする社を久遠は呼びとめた。
「先輩、なんで急にそんな話を?」
「あー…」
社は振り返ると久遠の肩に掛けられたスポーツバッグを指差す。

「今まで何もらってもニコニコお礼だけ言ってそれで終わりにしてたお前がそんなことするんだ。キョーコちゃんは特別ってことだろう?」
納得した顔の久遠に笑いかけると社は去って行った。

「やれやれ、本当に社先輩にはあれこればれてるな……まあでも本当、のんびりしすぎてもな…」
久遠は自分のバッグに揺れる小さなキーホルダーを見おろすと、ひとつ頷いて体育館へと向かった。


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