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きみと恋をする方法 (13)


こんばんはー!
細々と、続きますー。





しまった、と思うものの一度出てしまった言葉は取り返せない。
しかし奏江からはキョーコにとっては意外な返答が戻ってきた。

「あんたなんてかなり青春を満喫してるように見えるけど」
「ええっ?」
素で驚いたキョーコに、奏江は呆れ顔を作ってキョーコの机に手をつき、少し顔を寄せる。
「青春じゃないの?恋愛って」
「え……?」

目を丸くして自分を見るキョーコのおでこを奏江はぴしりと指ではじいた。
「知らないとでも思ったの?」
「え、だって…」
「やあね、自覚無いのね。まあ、あんたが隠しても噂は嫌って程聞こえてくるし」
「う…」
「それ以外の青春がほしいわけ?」
「違うの……それはもう、やめたの」
「え?」
怪訝な顔になった奏江は先を聞こうと口を開きかけたが、始業のチャイムが鳴って小さく舌打ちをした。
「後でちょっと付き合いなさいよ」
言い残して自分の席に奏江は戻り、キョーコはもう一度自分の手の平をじっと見つめたのだった。


「へぇ、なるほどそういう事だったのね…」
「うん」
放課後2人は学校最寄り駅のドーナツショップにいた。小さいテーブルを挟んで向かい合って二人は座り、キョーコはようやくあれこれを話し終えたところだ。

かいつまんで説明する事は不可能で、キョーコは幼い頃からの尚との関係を洗いざらい白状する事になったのだが、話してしまえば案外すっきりするものだと自分の心境を意外に感じていた。
けれどこんな話を聞かされた奏江のほうはどう思うだろうか。キョーコはアイスティーに刺さったストローに口をつけながら少しおどおどと奏江の様子を伺う。

奏江は少しだけ考えてからキョーコの顔を見た。
「まあでもいいんじゃないの、あんたが考えて動くのは誰に何か言われる事でもないし」
「う…うん…?」
あっさりと言われてキョーコは肩透かしを食らったような気になった。
「幼馴染ね…小さい頃から近くにいればあることなのかも。だからなんか不破もあんたにはちょっと他の子と違う態度取ってるのね。不破の取り巻きに嫉妬されるのもなんか分かるわ。まあだからといってネチネチいじめる子達はどうかと思うけど」
「けどもう、あんなバカには関わらない事に決めたの」
「それでいいじゃない、すっきりして」
「けど…」
「けど?」
奏江は長い髪を耳に掛けながらキョーコに問う。その顔が自分から見ても美人だわ、と感心し、それから我に返ってキョーコは言葉を探した。

「私…バカみたいにあいつのことばかり考えてたから…その、いざそれを取り除けてみると何にも残らなくて」
「何言ってるのよ」
奏江は顔をしかめてデコピンの構えを取り、キョーコは反射的に両手でおでこを押さえる。
「何も残らないって割にはしっかり勉強してるじゃないの」
「それもその…自分のためじゃないと言うか」
「は?」
「ううんなんでもない…でも、高校生活が勉強だけなんて」
「まあ確かに青春っぽくはないわよね」

奏江も久遠もやたらとキョーコの口から出てしまった『青春』という言葉を使うのが、キョーコにはやたらと恥ずかしい。

「生徒会の活動はダメなの?」
「だってあんなの到底私なんかには…」
「けど、現役員の推薦付って事はほぼ当確ってことでしょ?先輩があれだけ断っても諦めないってのはあんたが出来ると思ってるんだろうし」
「そこが不思議なのよね…なんでヒズリ先輩は私なんかに声かけたんだろう?」
「主席入学だから…」
奏江は呟きつつも視線を上げて考えてから、視線を戻してはっきりと言った。
「いや、きっかけはそうかもしれないけど、あの人あんたのこと気に入ってるんじゃないの?」

アイスティーが気管に入りそうになってキョーコは慌てて飲み込み少しむせた。
「ええ?そんな訳ないわよ」
「なんでよ。そうじゃなきゃ、あんなにしつこくしないでしょ」
「私が理由もなく嫌がってるって思ってるのかも」
「それにしたってよ。よほどあんたにやってほしいのか、あんたにちょっかい出したいのか、どっちかだと思うんだけど」
「……?」

キョーコは言われた事はなんとなく理解しながらも首をひねる。
自分に気に入られる要素など、何もないと思う。大体、役員は拒否しているし、球技大会の打ち合わせでは話を聞いていなくて恥をかいたし、失礼な事も言ってしまっている。
そうでなくたって久遠の周りにはいつも可愛くてお洒落な子達が群れをなしているではないか。久遠が自分に執着する理由などやはり思い当たらない。

「ま、あんたが嫌だって言うなら別に無理する事もないわよ。そうね、あとは部活かしらね」
「部活…かあ」
キョーコは中等部でも高等部でも部には所属していない。
旅館での手伝いもあって自由な時間などなかったし、そもそも諸々の活動費を出してくれと滅多に帰ってこない母親に頼むのも気が重く、頭からすっかり抜けていた。

大体今はもう5月に入ってしまっている。
新入生に対しての勧誘も一通り終わっているし、中等部から引き続き同じ部に所属する生徒も多いので今から動くのは気後れしそうだ。けれど考えてみれば、時間だけはかなり自由が増えている。けど…

「なんなのあんたは。青春を満喫したい割には渋い表情ね」
「だって…」
「何かやりたいことってないの?」
「やりたい事……」
難しい顔で黙り込んだキョーコを奏江は真剣な顔で見つめていたが、優しい調子でキョーコを諭す。
「今から探してもいいんじゃない?まだ高校始まったばかりなんだから。すっきりリセットして、少しでも興味が出来たらなんでもやってみれば?」
奏江の言葉にキョーコはうるうると瞳を潤ませた。
「ありがとう、モー子さん!ううう、嬉しい、大好きー!!」
「っもーーーーー!だからって抱きつかないで!紅茶こぼれるってば!!」
大声と物音で、2人はしばし店内の注目を集めたのだった。


「はい、これ」
翌日の昼休み、周囲の注目を集めながらすたすたと躊躇なく教室に入ってきた久遠が差し出したのは、キョーコにもうっすらと見覚えのある冊子だった。
冊子といっても紙を束ねてホチキス止めした簡単なものだ。表紙には「部活動紹介:求む、新入生!」と大書きされた吹き出しが踊り、各スポーツ競技を初めとした様々な服装を着込んだキャラクターのイラストが描かれている。
「ありがとうございます」
素直に受け取ってから、キョーコは「でもこれ?」と机の傍らに立つ金髪の先輩を不思議そうに見上げた。
「高校生活を充実させるならまずは部活動じゃないかな?最上さんはどこの部にも所属していないよね」
「はい、確かに部活はやっていませんが」
「この冊子、入学してすぐ配られたはずだけど多分もう捨てちゃったでしょ」
「え」
「どうせ部活なんてやってる時間ないし、興味もないしって」
「う」
「もっと大事な事があるからって思ってただろう」
「…どこで見てたんですか」

恥ずかしそうに睨みつけてくるキョーコに答えず久遠は笑うと、一言を添えた。
「まだ部活決めてない1年生もいるし、テニス部以外は部員募集中だよ。考えてみたらいいんじゃないかな」

部活。

奏江が勧めてくれたのと同じく、久遠も自分のために考えてくれたというのだろうか。
そして自分のために、どこからか部活動の冊子を探してきてくれた。

「ありがとうございます。はい、何がやりたいか…考えてみます」
キョーコは素直に頭を下げてお礼を言うと、嬉しそうに久遠に微笑んだ。


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