SkipSkip Box

きみと恋をする方法 (12)


こんばんは。
いやぁもう、週に1回でも更新出来ればいいかぁ(開き直り)。

ちょっとキリが悪い気もしますが、できたところまでー。




「親しくなんてありません!大体あいつはいっつも自分勝手なことばかり言って、私のこと見下してますし」
「恋人に見下されるのが好きなの?」
「だからっ!恋人なんかじゃありませんってば!」

キョーコは興奮して眉を吊り上げ、普段の礼儀正しさをやや崩したように久遠に食って掛かった。しかしぐいと顔を近づけられて思わず身を引いてしまう。
「じゃあ、何?どんな関係?」
「どんなって…えと、幼馴染…です」
「幼馴染?」
「はい。家が近所で親の仕事の都合でよくあいつの家に預けられてて…」
ああ、と久遠は何かに気がついたように声を上げた。
「君が働いている旅館の息子か」
「え」
「この間両親と食事に行ったとき…あの旅館の女将さんからちょっとだけ聞いたよ。君と息子さんに跡を継いでほしいって言ってた」
「ぬあっ!女将さんそんなこと……!」

キョーコはあからさまにうろたえた。久遠は再びずいとキョーコに近づき、キョーコは反射的にまたもや身を引く。
「継ぐってことは幼馴染じゃなくて許婚じゃないの?」
「違いますってば!だいたい跡継ぐなんて話、私も直接言われた事ありませんし決まってる訳じゃなくて」
「でも可能性はあるんだろう?」
「ついこの間、無くなりましたっ!」
きっぱりと言い切ったキョーコは、言葉と同時に少し引けていた体を立て直して胸を張るようにした。久遠との距離は近いが、きりりとその顔を真っ直ぐに見返す。

「どういうこと?」
「あいつが拒否しました」
それからキョーコは張っていた肩を少し落とすと、目線を下げて声のトーンを落とした。
「私もその…そんな将来もいいなぁ、なんて夢見てましたけど……」
久遠の眉がぴくりと動いたが、キョーコはそれに気づかずもう一度久遠を睨みつけて胸を張る。
「けど目が覚めました!あんなバカに尽くすのはもうこりごりです!あいつのおかげで今まで遊べもせず理不尽ないじめも受けて散々でしたけど、私は今から青春を取り戻してみせるんです!」

ふん、と言い切ったキョーコを久遠は目をしばたきながら見つめると、顔を背けて「ぷふーーーーっ」とふきだした。
「何で笑うんですか~!」
キョーコは笑われた事で少し恥ずかしげに頬を染め、精一杯の抗議を声にこめる。
「ごめんごめん。いや、『青春を取り戻す』だなんて、年寄りみたいなこと言うから」
「だって…!」
「うん分かった。そうか、じゃあ君はもう不破君とはなんでもないってことだね」
「『もう』も何も最初からなんでもないんです」
「放課後も少しは時間が自由になった?この間言ってたのはそういうことかな」
「あ…はい。その、女将さんが仕事の量をかなり減らしてくださって…それに今まではおこずかい程度だったんですけど、4月からかなり多めにバイト代も出してもらえることに」
「そう。それなら、自分のために時間も使えるね」
「はい…あの、ですけど」

キョーコは少し物言いたげに上目遣いで久遠を見る。久遠はにっこり笑うと答えた。
「時間が自由になるからと言って生徒会をやると即答はできないって言いたいのかな」
「その……」
「うん、それは時間をかけて考えてくれればいいよ。もう少し生徒会の事も知ってから判断してもらいたいし」
声の調子も目の色も柔らかい久遠の様子に、キョーコはほうっと肩の力を抜いた。

さっき怒っているように見えた様子は今は掻き消え、キョーコは自分の勘違いかと心の中で自分を納得させる。いや、見間違いや勘違いではないと思っているものの、今はそれについては考えない方がいいのだと、本能に近い部分が警告を囁くのだ。

「生徒会のことは別にして、君の『青春を取り戻す』手伝いを俺にさせてもらえないかな」
「は……?」
さらりと吐かれた久遠のセリフに、あれこれと考えていた事が吹っ飛ぶほどキョーコは驚いて呆けた顔で聞き返してしまった。あまりにアホ面だと気が付き、慌てて顔に意識を戻しつつ言葉を添える。
「いえそんな、こんなくだらないことに先輩のお手を煩わせる訳には…!」
「さっきの君の言葉、『あいつのおかげで理不尽ないじめを受けた』って言ったよね。靴を隠されたり嫌味な事を言われたりするのは、彼が原因で嫉妬を受けてたんじゃないの?君が不破君の幼馴染で親しいからと言う、それだけの理由で」
「あ」
真剣な顔で言い含めるように言われてキョーコは思わず片手で口を覆った。勢いでうっかり口を滑り出てしまったのだ、人に告げたい事ではなかったのに。

「やっぱりそうか」
「そ、それだけとは…分からないんですけど、私にも人をイライラさせるところがあるのかもしれません…」
「何があったとしてもいじめは正当化できないよ」
「はあ…」
もごもごと口ごもったキョーコに、久遠は素晴らしい笑顔でにっこりと笑った。
「最上さんはもしかして、自分に自信がないのかな。自信をつけるためにも今までできなかったことをやってみるのはいいと思うよ」
キョーコは久遠の笑顔をしばらく凝視した後、慎重に口を開いた。
「それは、生徒会のことを仰ってますか」
「いやだな、俺のことを性質の悪いセールスマンみたいに」
キョーコの言葉を受けてくすりと笑ってみせた久遠の笑顔は、直前の笑顔とは少し違って見える。
「ともかく、『青春を取り戻す』手伝い、俺にさせてね」
「そ、その言葉を何回も繰り返さなくていいです!恥ずかしいですから!!」
「恥ずかしくはないよ。じゃあ、これからもよろしく」
よく分からないけれど差し出された久遠の右手に、キョーコは思わず自分の右手を重ねてしまったのだった。


どういう意味なのかな…

授業の合間の短い休み時間。
キョーコは自分の右の手の平をぼんやりと眺めながら久遠の言葉を思い出していた。

『青春を取り戻す』手伝い。

自分が勝手に言っている事なのに、久遠は何かを手伝ってくれると言うのだ。けど、その取り返すべき青春って具体的にはなんだろう、とキョーコは自問した。

今まで自分ができなかったこと。

それはいくらでもある。
とにかく小さい頃から旅館の手伝いばかりをしていた。時間が空けば尚にくっついて回り、尚がいない時はこっそり包丁を握ってカツラ剥きの特訓をしたりもした。
どれもこれも尚や尚の両親に気に入られたいがための行動だったのだが、自分にとっても気に入られる事が究極の喜びだったので何も疑問になど思わなかった。

けれど気がついてみれば尚は素っ気無く自分を拒否し。
女将さんも自分と尚をうまくまとめて跡を継がせることを諦めてしまったように見える。
放り出されて今更「自由にしていいよ」と言われても、自分は自分のために時間を使う術を知らないのだ。

強制されてたわけじゃなくて自分がやりたいって言ってやってたんだから仕方ないんだけど。

最上キョーコって本当に中身がないんだな、とキョーコは改めて心の中で呟いてみた。

「青春ってなんだろう?何したら青春なの?」

ぼうっとしていたら声に出してしまっていたらしい。

「どしたのあんた、熱でもあるんじゃないの?」
急に聞こえた声に振り返ってみれば、横に立った奏江が驚いたような呆れた顔で自分を見ていた。


関連記事

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する