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きみと恋をする方法 (10)


おはようございます、ぞうはなです。
そして早くも10話目。もたもたですみませーん。





「最上さんはなんにでも一所懸命だよね」
球技大会の1日目終了後、実行委員は翌日の軽い打ち合わせを行った。解散後に唐突に話しかけられ、キョーコは目をぱちくりさせてセリフを言った久遠の顔を見る。
「は…?そうです…か……?」
「うん。今日のバレーボールの試合、少しだけだけど見たよ。壁に突っ込んでたよね」

あ、とキョーコは少し恥ずかしそうな顔をする。
「つい必死になっちゃって」
「ぶつかったところ平気?」
「頑丈ですからなんてことありません」

でもバレーボール上手だよね、と笑う久遠に、キョーコは眉間に皺を寄せてぼそりと言葉を返した。
「ヒズリ先輩ってバスケ部ですよね」
「…久遠だってば。そうだけど?」
「下手なサッカー部より上手じゃないですか?先輩のサッカー」
「あれ、見てくれたの?」
「す、少しですけどたまたま…」
少し目を見開いて自分を見つめた久遠に、キョーコはふいと目をそらした。久遠のプレイを目にしたのは偶然だったが、その後見惚れるように目で追ってしまったことはなぜか知られたくないと思ってしまう。
「明日うちのクラス、準決勝と、それに勝ったら決勝なんだけど応援してくれる?」
「へ?」
思わぬ不意打ちにキョーコは間抜けな声を出してしまった。

「お、応援ですか…?」
「うん。最上さんのクラスの試合に重なっちゃったらしょうがないけど、空いてたら是非応援してほしいな」
「それは…構いませんけど、その、私なんて行かなくても今日もものすごい応援されてたじゃないですか」
やだな、と久遠はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「誰からの応援でもいいって訳じゃないんだよ」


「く~~~お~~~ん~~~~」
ビブラートがかかったようなニヤけた声が久遠を呼び止める。
体育館での打ち合わせを終え、無人の教室で制服に着替えて下校しようと下駄箱にたどり着いたところで眼鏡の副会長に発見されたのだ。
「なんですか変な声出して」
呆れたようにしかめっ面を作った久遠は近づいてくる社のニヤニヤ顔にため息をついた。どうもこの先輩はなんとかして自分の突っ込みどころを探したいらしい。からかわれるネタは大体予想がついているが、久遠はしらばっくれる事に決めた。

だが、1年先輩の社は久遠の普段の行動を他の生徒より知っているせいか、追随の手を緩めようとはしない。
「お前珍しいよなー。女子の後輩に自分から話しかけちゃって、『応援してくれ』だなんて」
キャーーッと女子のようにはしゃぐ先輩は、クールで知的と呼ばれるその印象からはかけ離れたキラキラした瞳で期待をこめて久遠を見てくる。

「なに盗み聞きしてるんですか、まったく」
「聞こえてきただけだっての。ああいう話は2人っきりでしろよな」
「別にたいしたこと言ってないじゃないですか」

やれやれと頭をかく久遠を、今度はじとりとした目で社がにらむ。
「そう思うならお前、他の女子に対しても言ってみろよ同じことを」
久遠はぴたりと動きを止めると社の顔をまじまじと見た。
「いつもはそれすらも避けてるだろうが。大体お前がにっこり笑って『おはよう』って言うだけで女子がうっとりするんだ。滅多な事を言える訳ないんだよな」
「それは……」
「トーナメント表だってキョーコちゃんが1人で書いてるのを手伝ったってお前言ってたけどさ。2人っきりになるなんて普段だったら絶対しないじゃないか」
久遠は反論できずに黙り込む。その瞳の奥に戸惑いが見えた気がして、社はおや、と不思議に思った。
「お前なんだ、無意識にやってたのか?」
「…いや、完全に無意識って訳でも」
「キョーコちゃんがそれくらいされても『久遠先輩ってもしかして私のこと…?』なんて思わない子だって分かっててやってるんだろ?」
「最上さんは俺の事『久遠先輩』なんて呼びません」
ふてくされたような久遠の反論に ぶは、と社は吹き出した。
「反応するのはそこなのか?なんて呼ばれてんだよ」
「『ヒズリ先輩』ですよ。それで訂正するとただの『先輩』になります」

社は再び「にやあ」としか形容できない崩れたような笑みを顔全面に浮かべる。
「ほんっと珍しいよなお前。そんな細かいところを気にしてふてくされるなんて」
「ふてくされてなんていません」
「けど、大体誰になんて呼ばれようと気になんてしたことないだろ?」
「それはそうですけど…」
久遠はふいと遠くを見ると、上目遣いで自分を見ながら挨拶をして行く同級生に軽く応えて、それからぽつりと呟いた。
「よく分からないんですけど、なんか気になるんです。まだ俺も最上さんの事よくは知らないんですけど」
「知ればいいじゃん」
「まあ…そうですけど」
「次の役員候補に推したいって言う大義名分があるだろうが。大体お前、お前の顔で女の子と親しくなるのに躊躇するなんて言っても説得力ないぞ」
「躊躇してるわけではありません」
「じゃあなんだ?」
「……」

久遠は真顔でしばらく考え込んだ後、ぼそぼそと歯切れ悪く答えた。
「最上さんにどう思われてるのか分からないから近づきにくいというか」
「お前、それを躊躇といわなくて何て言うんだ」
無駄にもてる男は案外ダメだな、と社は目の前の見た目と自信が比例しない男の困惑顔を醒めた目で見つめたのだった。



そして翌日の放課後。
残るものも少ない教室を後にしたキョーコは、廊下の曲がり角で足を止めた。
階段の踊り場で退屈そうに壁にもたれて立っているのは尚だ。何も言わずに通り過ぎようとキョーコは一瞬考えたのだが、向こうは自分の姿を認めると壁から体を起こして不機嫌そうな表情でこちらを見る。
「なに?」

尚はキョーコをじろりと見ると呆れたようにわざとらしくため息をついた。
「お前なんか勘違いしてねーか?」
「何よ勘違いって」
自分でも驚くほど冷たい声が喉から飛び出してくる。尚の家の旅館で、尚の母親である女将の前で暴言とも言える言葉を受けてから、キョーコは極力尚との関わりを避けていた。
幸い旅館内の料亭での仕事が週に2回ほどに減らされたこともあり、キョーコは学校外では尚に会わずに済んでいた。
学校ではクラスも違うし自分から話しかけなければ尚は積極的には寄ってこない。いや、教科書を忘れただの自分の都合で話しかけられる事はあるのだが、ここしばらくはそれもない。

尚につき離されてキョーコが感じたのは最初は悲しみや絶望だったかもしれない。だが落ち着いて考える内にそれは段々と怒りに変化していた。考えてみれば自分は小さなころからずっと、尚に尽くして尽くして、それでも都合のいいように使われてきたのだ。
ようやくそれに気がついて、今までの自分のバカさ加減と身勝手な尚に対する怒りをふつふつと心の内側に抱えてきた。

けれど遠目にその姿を見るくらいではその怒りはくすぶるくらいで済んでいた。
そして今日この日、キョーコはその怒りが表層へと持ちあがってくるのを自覚している。

「生徒会役員になろうなんて考えてるんじゃねーだろうな」
「はあ?なんでそんな事聞くの?どうだっていいじゃないの」
怪訝な顔で聞き返すキョーコに尚はムッとしたようだ。
「お前みたいのがなれる訳ねーだろって、恥かくまえに忠告してやってるだけだっての」
「いちいちそんな忠告いらないわ。判断は自分で出来るし、あんたになんか言われることでもないもの」

「ふん…やっぱりお前勘違いしてるだろ」
「だからなんなのよ!」
キョーコは尚の浮かべた意地悪な笑みに苛立ちを覚える。言いたい事があればはっきり言えばいい。そう考えて尚を睨みつけた。
「生徒会の役員さんにちやほやされて、舞いあがってんじゃねーのか」
「はあ?なにそれ」
思い当たる節もなく、キョーコは思いっきりバカにした声を出してしまった。
「お前からかわれてバカにされてんだよ、早く気付けよ、ったく…」

ため息交じりに『やれやれこれだから』と言わんばかりの尚の態度に、キョーコは内心の怒りの炎がさらに燃え上がるのを感じた。


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