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君の魔法 (13)

だらだらと続いていますが、ようやく佳境に入ってきましたー
ここからも一気にはいきませんが、根気よくお付き合いいただければm(__)m





マリアは昼食を食べ終わると、早速キラキラと目を輝かせて周囲の散策を始めた。
このところ宮殿にほぼこもりっきりで、マリアには外出の機会がほとんど与えられていない。たまにレンにわがままを言って連れ出してもらうことはあったが、こっそりと短時間のことが多かったので、伸び伸びと遊べるのは本当に久しぶりに感じられた。
嬉しくて、マリアはドレスの裾をひるがえしてバタバタと走り回る。キョーコも嬉しそうなマリアの様子を喜んで、一緒に走って付いてまわっていた。

ふと、マリアの目が湖畔の一角で留まった。そこには小さな白い花が群生して広がっていて、大きな白いクッションのように見えていた。マリアは迷わず足をそちらに向けて走り出す。
「お姉さま!見て見てー!雲が浮かんでるみたいよ!!」
白い花の絨毯の真ん中でマリアはくるくると回って見せ、キョーコはそんなマリアを絨毯のふちでニコニコと見守っていた。

そんな二人の姿を、王を始めとする人々はほほえましく思いながら眺めていたのだが、違う意図をこめた瞳もまた、マリアの姿を見つめていた。少し離れた林の中で、マリアの動向をじっと観察していたその人物は、口の端に笑みを浮かべる。
「さすがに近くにいる人間は行動パターンを知っている…」
それは、痩せて頬のこけた1人の男だった。目立たないように頭からすっぽりと茶色いローブをかぶり、節くれだったその手には長い杖が握られている。杖には小さい水晶の玉をつなげた飾りがぐるぐると巻きつけられていた。
男は杖をマリア姫の方向にかざすと、口の中でぶつぶつと何かを呟き始めた。

男の杖の水晶が光り始めると同時に、マリアが遊んでいたその場所にも異変が起きた。
花の絨毯の縁に沿っていくつもの白い光の点が地面に現れ始めた。不思議に思う間もなく、点と点の間が光でつながって、一つの大きな光の円が出現する。

マリアとキョーコが事態を把握できずにいる間に、初めの1つの円の完成を合図にするように、別の円が何重にも同心円状に表れていった。そして、円がいくつも描かれると、円と円との間に今度は複雑な図形や字のような模様が浮かび上がる。
円の中心にいるマリアの周りにも、不可思議な直線や模様が次々と光で描かれていった。

事態を最初に把握したのは王の元にいたヒズリだった。
ヒズリは勢いよく立ち上がると、マリア姫のいる場所に起こっている状況を確認し、すぐさまその原因となる魔法の発生元を探し出す。そして、馬に乗っている二人の部下の姿を確認し、大声で叫んだ。
「レン!ヤシロ!向こうの林の中だ!」

二手に分かれて周囲の警戒を行っていた二人は、振り向くとすぐに状況を見て取ってヒズリの意図を理解したが、近くにいたのはヤシロだった。すぐさまヒズリが示した方に馬を向けて駆け出す。目を凝らすと、暗い林の中に小さな光がチラチラと見えた。
「あれか?」

林の中は木や草が込み入っているため、広場との境目で馬から飛び降り、手綱を手近な枝に引っ掛けると迷わず林に飛び込んだ。と、目の前をオレンジ色の炎が掠めていって、咄嗟に身をかわす。
息をつく間もなく次々と火の玉が降り注ぐが、ヤシロはなんとかかわしながら、太い木の陰に隠れつつ間合いを詰めていく。
「火事になったりしたらしゃれにならないぞ…」
思わずぼやくが、火の玉はヤシロがかわすと消滅していっているようだった。

相手は戦闘に慣れている訳ではないようだ。
フードの下から辛うじて見えている目は落ち着かなく辺りを見回し、肩で息をしながら少しずつ後退していく。
ヤシロは息を整えると、飛び出すと同時に剣を抜いた。先ほどから見ていると、杖の水晶が光ったり消えたりを繰り返すたびに火の玉が飛んできていた。

あれをどうにかして奪えれば…!

ヤシロは杖を目掛けて飛び掛るが、届くかと思った瞬間、目の前に一気に炎が燃え盛った。
火の壁にあおられて、たまらず飛び退る。

「あっちーーーー!なんだ、これ!!」

火の玉はともかくとして、火の壁はどうしたらいいんだ?
ヤシロが攻めあぐねていると、「お待たせしました」という聞きなれた声が斜め後ろから聞こえた。
思わずヤシロが振り返ると、レンは既に剣を抜いて構えている。その剣の先端には青い光がともっており、レンは狙いを定めると剣をまっすぐに火の壁に向かって突き出した。

「ぎゃっ」という叫び声が聞こえるとともに火の壁が掻き消える。
壁が消えた向こう側では、男の持っていた杖が砕け散り、水晶の玉がばらばらと飛び散る。尻餅をついた男が憎々しげにレンを見上げた。レンが1歩近づくと男は後ずさるそぶりを見せたが、林の向こう、マリアのほうをチラリと見やって勝ち誇ったように笑った。
「術は、完成した」


ヤシロとレンが馬を駆り始めたその時、一方のキョーコは、目の前で起こった不可思議な現象にしばし思考停止したが、すぐに立ち直るとマリアに向かって声をかけた。
「マリア様!危険ですのでこちらにいらしてください!」
キョーコはギリギリ光の円の外側にいたのだ。しかし、マリアは力なく首を振った。
「お姉さま…あ、足が、動かないの…」
恐怖で身が竦んでいるのか何かの力が作用しているのかは分からないが、マリアを呼び寄せるのは無理なようだった。キョーコは覚悟を決めて、円へと足を踏み出す。が、押し戻されるような圧力を感じてよろけてしまった。

何度やっても見えない壁に阻まれて、これ以上マリアのところに近づくことが出来ない。周りには近衛隊員たちもばらばらと集まってきてはいたが、キョーコ以上に近くに寄れないらしく、何かを叫びながらも遠巻きに見ている状態だ。

でも、マリア様を一人にはできない…!

円の真ん中で、不安げな表情でキョーコを見ているマリアが見える。
もう一度行ってみようと決めたところで、円や模様の光が一気にその強さを増す。光の柱が、天に向かって伸びていくかのようだ。キョーコは何も考えず、腹に力を入れると地を蹴って円の中へと飛び込んだ。



レンとヤシロは男の言葉で、思わずマリアの方に視線を移した。
マリアをその中心に置いた光の円はまばゆい光を放ち、光の柱ができる。そして、レンの目の前で、光の壁に向かってキョーコの体が吸い込まれるように消えた。

「なんだ??」
ヤシロが思わず呆然とするほど、今までに見たことが無い光景だった。
レンは男を強引に立ち上がらせると腹に一撃を食らわせ意識を奪った。それから「頼みます」とヤシロに言い捨てると、光の柱に向かって全力で走り出す。しかし、その疾走はすぐにヒズリによって止められてしまった。

「待て、レン!」
「ヒズリ様!ですが、マリア様とキョーコが」
「分かってる!しかし、今は圧力が強すぎて外からはどうにもならん。それよりも、ちょっと聞け!」
レンはぎりっと奥歯を噛み締めて、ヒズリの顔をにらみつけるが、ヒズリはそれに構わず続ける。
「あれを作ったのはお前たちが捕らえた男なのは間違いない。だが、発動させた魔力は別のところから来ている」
「別?」
「ああ…さっきの光がはじける前まではさほど強い魔力は感じなかった。それが、一瞬別からの力の流入があったと思ったら一気に膨れ上がった」
だいぶ離れた場所にいるレンのところにも、はっきりとその力は伝わってきていた。邪魔しようとする者を拒むような、そんな圧力だ。
「あの男には仲間がいるってことですね」
「そういうことになる。しかも一瞬感じた方向からすると、おそらく身内だ」
ヒズリは話しながらちらりと目線を近衛隊の大勢がいる辺りに向けた。

レンは舌打ちすると呆れたように言い放った。
「誇りをなくした人間が混ざってるとは考えたくないですね…集団にまぎれれば分からないとでも思っているんでしょうか」
「そうでないことを分からせなければいかんな……さて、少しは落ち着いたか?」

レンは思わずヒズリの顔をまじまじと見つめてしまった。
「なんだ、気がついてなかったのか?お前、刺し違えても構わないってな怖い顔してたぞ」
「は…申し訳ありません」
ヒズリはにやりと笑いながらレンの肩を叩いた。
「常に冷静なお前がそこまで必死になる理由は色々ありそうだな…まあいい、行くぞ」


マリアとキョーコがその中に入ってしまった光の柱の周りでは、近衛兵たちがなすすべも無く立ち尽くしていた。
なにせ、目に見えない何かに邪魔をされて、キョーコが最初にいた円の外側までも辿り着けないのだ。何をどうしていいのかも分からず、今まで見たことも無い光景をただただ呆然と見るしかない。

その集団のやや後方に、ぼそぼそと会話を交わす二人の男の姿があった。うちの1人、ミロクが感心したように言った。
「うまい具合に俺の魔力を飛ばしたな」
「俺は見ることと飛ばすことくらいしか出来ん。魔方陣発動の魔力など、ないものでな」
答えたのはレイノだった。マントの下で、腕に巻いていた小さい石の連なる長い数珠をそっと内側のポケットにしまいこむ。

「それだけ出来れば十分だろ。しかし、さすがに反応早かったな・・・万が一を考えて役割を分けておいて正解だ」
視線の先には、意識を失ったまま林の中からヤシロに引っ張り出されるローブの男の姿があった。

「しかし、あの女が中に入っちゃったの、大丈夫なのか?・・・まあ、ここまでくれば、あとは結果が出るのを待つだけか」
ミロクがいささかホッとしたように言った。
「・・・俺は結果はどうでもいい。あのお姫様がどんな光景を見せてくれるのか・・・それが見たいだけだ」
レイノの素っ気無い返答に、ミロクはハイハイ、と肩をすくめた。
「さて、あの男が言ったことが正しければ、そろそろショー本番の始まりだ」

そうして、二人は揃って視線を光の柱の方へ向けた。
光の柱は急速に出力を失い、段々と薄くなっていっているように見える。そして、やがて中に二つの人影がぼんやりと見えてきた。


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