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きみと恋をする方法 (9)


ひっさびさの更新ですー!
前のお話、忘れられていないかしら…。





キョーコが担当し、結局は久遠にも手伝ってもらったトーナメント表はその日、体育館の壁に貼り出されていた。
すでに数試合が終わっているため、球技大会実行委員の手によって勝者を示す赤い線が上へと書き加えられ、同じ体育館では現在も試合が続けられている。

2日間の午後の授業時間を使っての球技大会はかなりの盛り上がりをみせていた。
競技は男子がサッカーとバスケ、女子がバレーボールとバスケに分かれていて、グラウンドや体育館で同時に試合が行われているため、人の移動がかなり激しい。

「ええっと…サッカーは今何試合目だっけ?」
「さっき3C-2Dが終わったから、今やってるのがこの試合かな?」
「あれ?その結果、まだ聞いてないかも」
体育館の隅に置かれた長机のところに、自分の試合がなく手の空いた実行委員が入れ代わり立ち代わり訪れては委員としての仕事をこなしていく。勝手の分からない1年生に上級生が指示を出す事で運営は問題もなく回っていた。

キョーコはジャージ姿で体育館からグラウンドへと小走りに移動していた。
前の試合の得点情報がなぜか委員のところに伝わっていないため、確認する必要があったのだ。グラウンドではすでに次の試合が始まって、大勢の観客がピッチ脇から声援を送っていて賑やかだ。

キョーコは2年生の大会委員をつかまえると声をかける。
「大杉さん、試合結果ってどうでした?」
「あ、ごめん!2-0で3Cの勝ち」
「分かりました、ありがとうございます」
「ごめんね~~。次の試合見始めたらつい…」
こちらをちらりとしか見ずグラウンドに釘付け状態の大杉を見て、キョーコは不思議に思って視線をグラウンドへと移した。試合はもちろんクラスの人間が応援したりもするので常に観客がいるのだが、それにしても今のこの人だかりは尋常ではない気がする。
試合は確か、1年D組と2年B組の対戦のはずだ。

あ……
そっか、先輩は2Bだっけ…

グラウンドの中を駆けて行く男子生徒の中に、キョーコは久遠の透き通るように光り踊る金色の髪を見つけていた。

そして気がつく。
グラウンドの周りの声援は、かなりの率でその金髪の先輩に向けられているものだ。すさまじい人気、とキョーコは認識を新たにする。そんな先輩の後釜として生徒会に立候補するなど、針のむしろだと言う認識もまた新たになってしまうほどだ。
そしてまた気づけば、別の集団が違う人間に対してもキャーキャーと黄色い声を上げている。

両方の声援がぶつかるようにひとつになったのは次の瞬間だった。

後方から山なりに大きく出されたパスを、久遠がうまく受け取って前を向く。
その前に少し距離を置いて、対戦チームの1人が立ちふさがった。

「キャーーー!久遠~~~~!」
「尚ーーー!頑張ってーー!!」
いつもの笑みを少し浮かべたような顔で足元にボールを置いたまま周囲に視線を走らせる久遠と、その久遠を睨みつけるように両手を少し広げて構える不破尚。

久遠は少し静止すると大きく体を右に振り、ついで左に向かってボールを蹴りだした。
フェイントには引っかからず尚が追随、と思った次の瞬間、久遠の体は尚の右側をすり抜けていく。なぜか反対側に蹴りだされたはずのボールも久遠の足元に戻っている。慌てた尚は少し体勢を崩しながらも片足を久遠に伸ばすが、更にそれもかわして久遠はドリブルで走り出した。
尚は「させるかよ!」と小さく叫びながらほぼ体当たりのように久遠に体をぶつけるが、10cm以上大きなその体はまったく揺るぐことがない。ごちゃごちゃとまとわりつくコバエをあしらうかのように翻弄し、久遠はさらに前線に走りこんでいたクラスメイトの足元に鋭くパスを出した。
パスを受けた男子のシュートはゴールポストに当たり、観衆からは「ああ~~」というため息が漏れ、男子は「わりぃ!でもナイスパス!」と走って戻りながら久遠と拳をこつりとあわせる。

「バスケ部じゃ…なかったっけ?」
ぽつりと呟いたキョーコのセリフは隣でピッチを見つめる大杉の耳にも届いたようだ。
「ねーー!最上さんもそう思うよね!!何やってもすごいんだもん、久遠君…」
ほうー、と熱っぽく息を吐き出す大杉の目は横目で見てもしっかりハートマークで、うっとりと見つめるその先にはクラスメイトに声をかけながら笑顔で走る久遠の姿がある。

キョーコは久遠から生徒会役員の話を受けてから、少しだけ気になって久遠の噂に耳を傾けていた。
高校からこのLME学園に入学してきたのは、高校入学直前まで親の仕事の都合で海外にいたから。そのせいか、見た目を裏切らず英語が堪能で、他の教科もかなりいい成績を修めている。
スポーツ万能で、所属している部活のバスケはもちろんのこと、体育の授業で触れる全ての競技で他人よりぬきんでている。
性格は温厚で誰にでも当たりがよく、先生の覚えもめでたい。現在、特定の誰かと付き合っている形跡はないが、学校外に美人で年上の白人彼女がいると言う噂もちらりと聞かれる。


そんな完璧な人間、いる訳ないじゃない。

心の中でそっと思ってみる。
傍から見た久遠はかなり完璧に近い。容姿は言うまでもなく、その外見を鼻にかけないナチュラルな振る舞いも他人に対する気遣いも。そのままならばロボットか何かかと思うくらいだ。
けれどたまたま呟いてしまった言葉に対して見せられたいつもと違う笑み。キョーコの脳裏にはそれがどうしてもこびりついて離れず、落ち着かない気分になる。

しかしキョーコはまだ気づいていなかった。
あれほどいつも気にして可能な限り視界に入れていたかった幼馴染。世界一格好いいとうっとり見つめていたその姿は久遠と並ぶと幼いガキ大将にしか見えず、キョーコはどちらかといえば久遠を目で追っている時間の方が長かったのだった。


ピッピーーーーーーーー!

長く吹かれたホイッスルが試合の終了を知らせる。
久遠はTシャツの袖で額の汗をぬぐうと他の面々と共にピッチ中央に整列した。

「ありがとうございました」
なぜか斜め前に立っている対戦チームの男がこちらを睨んでいるように見えたが、特に気にすることもなく久遠は足を体育館へ向けた。
「久遠、サンキュな、助かったよ」
後ろから追いついてきたクラスメイトが久遠の肩を軽く叩いて笑いかける。
「いや、美味しい球をもらっちゃってこちらこそありがとう」
「はは、本気で入れるつもりが止められただけだよ。けどダメ押し3点目はやりすぎだったかな」
「手を抜いても仕方がないからね、いいんじゃないかな」

そっか、と呟いたクラスメイトはちらりと後ろを伺う。
「しっかしあいつ、不破だっけ?何か妙に久遠につっかかってきてたよな」
「不破…?」
「ああ、お前がマッチアップした相手。てか、一方的に向こうが来てただけだけど」

久遠はつい先ほどまで対戦していた下級生チームの男子の顔を思い出した。いやに敵意をむき出しにされていたのは感じていたが、特に害はなかったので完全に放置していたのだ。
「ああ、俺からボールを奪いたくてしょうがないって感じだった」
「久遠ほどじゃないけど1年の女子にキャアキャア騒がれてたみたいだしな。けどいいところを見せたかったんだったら残念だったよな」
久遠は曖昧に笑う。確かに相手はえらく久遠に絡んできていたが、幸か不幸か、サッカーのテクニックについては自分には一歩及ばなかったように感じられた。

だが久遠はそこには触れずに一言感想を述べるにとどめた。
「勝ちたかったんじゃないかな?」
「その割にゃ無茶なスタンドプレーが目立ってたぜー?」
「まあいいさ、結果としてこっちが勝てたからね。準決勝は明日だね」
「ああ、明日もよろしくな!」
クラスメイトは軽く片手を上げ、二人は分かれた。久遠はそのまま体育館に入り、実行委員の机へと近づく。

「1Dと2Bの試合、終わったよ」
「見てましたー!3-0で2Bの勝ちですよね?久遠先輩大活躍だったじゃないですか」
少し顔を赤らめながら答える1年生の委員はうっとりと久遠を見上げた。
「ありがとう。女子の試合はあといくつ?」
「今日は今やってるので最後です」
久遠は顔を上げた。
目の前のバレーボールコートでは女子の試合が繰り広げられている。久遠は向こう側のコートの選手の中にキョーコの姿を見つけた。
こちらのコートの選手が打ったアタックを相手チームの1人が何とか拾ったが、ボールは山なりに大きくコートからそれて飛ぶ。
「どいて!」
キョーコは叫ぶなりダッシュしながらボールを受けてコートに戻すと、勢いのまま体育館の壁に激突した。
「大丈夫っ?」
「平気平気」
ぶつかった肩をさすりながらもすぐさまコートに戻りプレーを続けるキョーコを見て、久遠の顔には無意識にうっすらと笑みが浮かんでいた。


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