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きみと恋をする方法 (7)


こんばんはー!ぞうはなです。

しばらく、こんなペースですー!





変なところ見られちゃったなぁ…

キョーコは歩きながらため息をついていた。
一部の女子からくだらない嫌がらせを受けるのは今に始まった事ではない。むしろ、中等部からの関係が続いているからこそと言える。
奏江は「やり返せばいいのよ」と言うのだが、嫌がらせの原因も内容もくだらなさ過ぎて同じレベルまで落ちるのも煩わしい。特に最近では何を言われてもされても心には響かなくなっているので問題ないのだ。今日みたいに物が隠されたり捨てられたりすると困るのだが。

でもいいんだもんね。ショーちゃんとのことを嫉妬されてるってことだもん。


キョーコは長く続く塀についた裏の通用口から大きな旅館の敷地に入った。
毎日ここに通い、仲居としての仕事をするのはキョーコの日課になっている。最近では旅館ではなく新しくできた料亭の方にいるため、拘束時間も短く定休日には休む事もできるのは有難い。

気を使ってくれるのは嬉しいんだけど、ちゃんとお世話になった御恩返しは出来てるのかなあ…

キョーコは考えながら飛び石を渡って旅館の母屋へと近づく。

「ったく、いい加減にしてくれよ!」
旅館の裏側から中に入ると若い男のイライラと怒鳴るような声が聞こえてきた。

あ、ショーちゃんいるんだ!

キョーコの顔がぱっと明るくなる。

なかなかキョーコがこの旅館で顔を合わせることのない旅館の1人息子、不破松太郎。
小さい頃からこの旅館を営む夫婦に預けられる事が多かったキョーコは必然的に同い年である松太郎と一緒に遊ぶ事も多く、いつしか恋心を抱くようになっていた。
思えば松太郎の旅館でせっせと働いているのだって、少しでも松太郎と関わっていたいからだし、その親である女将と板長に好かれたいからだ。成長した松太郎は親に付けられたその名前を嫌って勝手に『尚』と名乗り、最近ではなかなか家にも帰ってこずキョーコとも一緒にいてくれないが、こうして顔を見られるチャンスは無駄にしたくなかった。

「こんにちは」
女将に挨拶しようとキョーコが廊下から和室を覗き込むと、背中を向けて立っていた尚ががばっと振り返った。

「キョーコ、おめーのせいでもあるんだからな!」
「な、何?いきなり…」
突然ものすごい勢いで突っかかられてキョーコは少し後ずさる。

「いつまで図々しく人んちに上がりこんでるんだよ!もうガキじゃねーんだから自分の面倒くらい自分で見られんだろうが!」
「松太郎!あんたキョーコちゃんになんてこと言うのっ」
部屋の奥にいた女将がすかさず息子をたしなめるが、尚は母親の言葉など耳にいれずに言い募った。
「ったくよぉ、おめーみてーのに付きまとわれる俺の身にもなれよ!学校が同じってだけでうざいのに」
「しょ、ショーちゃん、何の話なの?」
「おめーが迷惑だって話だよ!いいか、言っとくけどな、こいつとくっつくなんて事、何があっても有りえねー!俺の将来は俺が決めるし、付き合う女だって選ぶ権利があるんだよ。誰が好き好んでこんな地味で色気のねー女!」

キョーコに背中を向けて母親に向かって叫んだ尚のセリフだったが、それは後ろに立つキョーコの胸に深く突き刺さる。
「おめーもいい加減自分の立場に気づけ。うろちょろされんの迷惑なんだよ」
はき捨てるように言うと、尚は足音高く部屋から出て行った。

キョーコは去っていく尚を振り返ることもできず部屋の入り口に立ちつくした。女将が立ち上がり困り顔で話しかけてくる。
「ごめんなさいね、キョーコちゃん。あの子あんな事をキョーコちゃんに言うなんて…幼馴染で気心が知れてるからってまったく八つ当たりして!」
「……」
「ちょっと流れでこの旅館の跡継ぎの話になっちゃって。あの子にその気がないのは分かってたんだけど」
「……」
俯いて黙ったままのキョーコに女将は続ける。
「キョーコちゃんがこの旅館のために一所懸命になってくれてるのに、あの子は分かってないのね。ごめんなさいね、でも本心じゃないと思うから」
「いえ…いいんです。あ、私着替えてこないと」
ふるふると首を振ったキョーコはあえて明るい声で部屋をあとにしようとした。しかし女将に「キョーコちゃん」と呼び止められて振り返る。

「ごめんなさいね。私たちもキョーコちゃんにだいぶ甘えちゃってて。松太郎だけじゃなくてキョーコちゃんだって高校生で遊びたい盛りなのにね。…板長ともずっと話してたの。高校生活って短いんだから、もうお手伝いはいいのよ」
「でも私……」
「松太郎が好き勝手してるのにキョーコちゃんだけ働いてもらうわけにもいかないし。ね。」
「はあ……」
キョーコは少し困惑したが、女将の言葉には曖昧ながらも頷くしかなかった。


はああああぁぁ…

旅館の通用門から外に出たキョーコは大きくため息をついた。
外は既に暗い。住むアパートに帰っても部屋は誰もおらずもっと暗いのだと思うと心がずしんと重くなる。


分かっては、いたのよね。
だってショーちゃん、他の人と付き合ってたし。

仕事の前に尚が叫んだ言葉が繰り返し繰り返し脳内で再生される。
尚にとって自分にはこれっぽっちも価値がないと本人に目の前で言われるのはさすがにショックだが、尚が自分の事を好きでいてくれると思っていた訳でもなかった。
中等部の時、放課後の校舎裏で他の女子生徒とキスをしている尚を見たことだってあった。

それでもいつかはって思ってたのは……単なる願望?妄想?なんなのかな…


無視されても見下されても、家来みたいな立場でも、尚の一番そばにいるのは自分だと信じて疑わなかった。
尚の好きなものも嫌いなものも自分は知っている。格好悪いから人には知られたくないと言っている好物のプリンだって、自分なら買ってこっそり渡してあげることができる。尚は自分にだけは素の姿を見せている。

だからきっといつかは報われる。

そう信じてどんな辛い状況にも耐えてきた。尚のそばにいる事で発生する、他の女子からの嫌がらせにもくじけなかった。けれど、今となってみればそう思い込みたかっただけなのかもしれない。

何かが自分の中でぽきりと折れた気がした。
それはきっと尚の罵倒の言葉を聞いた瞬間ではなく。それを頭の中で、心の中で反芻して自分で納得した時。それまで見ない振りをしていたひびやほころびが、ついにがらがらと崩壊したような。


そう考えると、申し訳ないからと尚の母親である女将から料亭での仕事の頻度をごっそりと減らされたのはタイミングがよかった。
昨日までの自分なら、やりたいからやらせてくれと縋ってでも仕事を続けただろう。けれどなんだか、今はもうどうでもよくなっていた。

何だろう…なんだか……大きな穴が開いたみたい…

キョーコはもうひとつため息をつき、短い距離を時間をかけて、ゆっくりと暗い自分の部屋へと帰って行った。


「それでは球技大会の実行委員会を行います」
生徒会長のよく通る声が教室に響く。
この日、球技大会の委員会が招集され、各クラスの代表と生徒会役員が一堂に集まっていた。

「毎年恒例の行事ではありますが、1年生は初めてですし実施の要領について説明します」
生徒会長が中心になるのかと思いきや、この行事は小規模な事もあり会計である久遠が主体となって進めるという。
放課後の教室で開催された委員会は久遠の主導でさくさくと進んでいった。

会計って予算とかお金の管理だけやるんじゃないんだ…
私にはこんな風にまとめていくのってとてもじゃないけど自信ないわ。

そこまで考えてからキョーコはぶんぶんと勢いよく首を左右に振った。

何考えてるのよキョーコ!
だから、立候補なんてしないし生徒会役員なんてとんでもないでしょう!危ないわ、なんでそんな事考えちゃうのよ!!

はっと我に返ると黒板の前に立つ久遠やそのほかの生徒の半分くらいがこちらを見ている。

「??」
訳も分からずきょろきょろと周りを見返すと、「どうですか?」と久遠に聞かれキョーコはパニックになる。

し、しまった!変な事考えて聞いてなかった…!!

「ご、ごめんなさい、聞いていませんでした…」
「やっぱり?」
キョーコは申し訳なさそうに答え、久遠は軽く笑うと怒りもせずキョーコにしたであろう質問を繰り返した。
「毎年一年生のクラスがほとんど勝ちあがれないので、何かハンデをつけようって話なんだけど。一年生の立場で何か案はありますか?」
「案…」

キョーコは少しの間考え込むと、慎重に口を開いた。
「球技大会は部活をやっている生徒はその競技への参加は禁止でしたよね?」
「そうだね、毎年それはルールになってる」
「では、一年生だけはその禁止ルールを外すのはいかがでしょうか」
「ふむ」
久遠は黒板の方に向きを変えるとすぐに向き直った。
「ハンデとしてはいいかもしれないけど、クラスごとに部活の人数が違って今度はそちらで不公平が出ないかな?」
「でしたら、たとえば5人まで、と決めたらどうでしょうか。同じ競技に集中させるか分散させるかはクラスごとに戦略を任せるという形で。一年は外部からの進学生もいますし、お互いを知る機会にもなりそうですし」
「なるほど、面白いかもしれないね」

久遠が他の生徒に賛否を求め、キョーコの意見は異論もなく受け入れられた。


び、びっくりしたけど…よかったぁ……ああもう、気をつけないとキョーコ!

ほっと胸をなでおろしたキョーコは、興味深げな笑顔を浮かべて自分を見ている久遠には気づく事が出来なかった。


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