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きみと恋をする方法 (6)


こんばんは!ぞうはなです。
うはーー、ご無沙汰になってしまっておりますー。

とりあえず、続きですー。





「抗議って何かな。何か、君を怒らせるようなことした?」
相変わらずにこやかな久遠をキョーコは下からぎろりと睨みつける。
「分かってらっしゃるでしょう、何をしたか」
久遠はすっと目を細めるとその秀麗な顔をすいとキョーコの顔に近づけた。美形は近くで見ると迫力がある。キョーコは無意識に少しだけ身を引く。

「誤解があっても困るから、ちゃんと教えてほしいな」
「……球技大会の実行委員の事ですよ!」
ああ、と気がついたように久遠は一度は近づけた顔を元の位置に戻した。
「なんで?だって実行委員やってくれるって言ったじゃないか」
「言ってません!どうするか決めかねてて、クラスで決めるときに考えようと思ってたんです!なのに…」

キョーコは思い出してしまった。何度思い出しても恥ずかしい。

今日のホームルームで担任の椹が言ったのだ。
「今日は球技大会の実行委員を1人、クラスから出したいんだが」
立候補を待つのかと思いながら周りの様子を伺ったキョーコを打ち砕くように、椹は続けた。
「最上さんに意欲があるみたいなんだが、他に我こそはってやつはいるか?」

そんな奇特な人、いる訳ないじゃないのよ!

俯いてふるふると体を震わせるキョーコに、久遠は不思議そうに問いかける。
「なんで進言したのが俺だって分かったの?」
「椹先生に聞いたんです」
「ああ。そんなに実行委員嫌だった?」
キョーコはがばっと顔を上げると一息に言い切った。
「自分の意志と反して、やる気満々で手を上げる形になったのが嫌なんです!!」
「結果的にやるなら同じじゃないの」
「同じじゃありません!クラスでそんな風に目立ちたくないんです」

ふうん?と首をかしげた久遠に、キョーコはまたイラッとした。
しかしふと気がつく。目の前の先輩は、その風貌から考えて、どこにいても何していてもきっと目立つ。存在感を消す事などまず無理なくらい。そうすると、目立つのが嫌だなどとは言っていられないのだろうか。
「でもさ、生徒会役員はもっと目立つよ」
「…知ってますし、立候補する予定はありません」
「なんでそんなに目立つのが嫌なの?」
「べ、別にそういう訳じゃないですけど…!」

キョーコの怒っていた表情が一瞬消えたのを久遠は見逃さなかった。
「目立つ目立たないは別にして、イベントや行事を企画したりするのは嫌い?」
「…取り立てて好きとか嫌いを考えた事がありません」
「だからやっぱり、やってみるのがいいよね」

にこりと笑いかけられて、キョーコはうぐぐと言葉に詰まる。顔がいい上に弁が立つとは何事か。眩しいほどの笑顔で理路整然と説得されるとなぜだかむかむかと腹が立つ。
「任命された以上、実行委員はやります!ええ、きちんと全うしてみせますとも」
「そう、それはよかった。さっそく来週から委員会が始まるから、一緒に頑張ろうね」
ぬぬぬ、とクオンの顔を睨みつけてから「失礼します!」と頭をきっちり下げ、来た時と同じくらいの足音を立ててキョーコは去って行った。


後姿がどすどすと遠ざかるのを見ながら、久遠は笑い出したいのをこらえていた。
この学校に入学してから、女子生徒にここまで真正面から突っかかられたのは初めてな気がする。自分が微笑んでも近づいても全く異性として意識することなく、きちんと主張してくるのも。
それに結局キョーコは役を引き受けると決めたらちゃんと責任を持って取り組むつもりらしい。

うん、やっぱり役員の素質満点だよ。

けれどそれ以上に、久遠は自分がキョーコとの会話を楽しんでいる事に気がついた。
どうも自分に寄って来る学校内の女の子たちは話しづらい。会話が成り立たないわけではないが、色々と気を遣ってしまうのだ。
それは相手に誤解させないようにだったり、言葉の端はしに山ほど乗せられてくる相手の好意を測りつつやんわりと勢いをそぐためだったり。
ようは、『もてる男は辛い』という事なのだが。

最初に会ったときのキョーコは自分に遠慮していたのか、怖がっていたのか、少し控えめだったような気がする。けれども少し慣れてくれたのか、今のキョーコとの会話はなんだか楽しかった。自分に対する媚とかアピールが何もなく、すぱりと真正面から言いたいことを言われた。

もうちょっと慣れたらもっと楽しくなるかな?

久遠はそう考えながら練習へと戻る。キョーコがこの久遠の心の声を聞いたら、「止めてください迷惑です!」と言ったに違いなかった。


翌日の放課後、久遠は授業が終わったあと部活に向かうために外の渡り廊下を校舎から体育館へと向かっていた。
体育館に入ろうとして目の端のほうを人が通っていくのに気づき、本当に何気なくそちらをちらりと見た瞬間、久遠はそれがキョーコである事に気づいた。

相手が普通に歩いていれば気にも留めなかっただろう。けれどキョーコはきょろきょろと何かを探すように周囲を見回しながら、時には通路脇の植え込みを覗きながら歩いているのだ。それに、キョーコの進んでいるその先にはゴミ捨て場しかない。
球技大会の実行委員会の会合まで話しかけるきっかけがないな、と思っていた久遠はその機会を逃さなかった。

「あれ最上さん、何か探し物?」
少し体をかがめていたキョーコはびっくりしたように体を起こして振り返った。
「ひ、ヒズリ先輩…!」

「久遠だよ」と訂正してから久遠はちらりとキョーコを見下ろした。
キョーコは帰る途中なのかカバンを抱えているが、足元は上履きだ。校門は校舎から見て体育館と反対方向なので帰るとしたら上履きのままこの辺にいるのはおかしい。

「帰るところ…でもなさそうだよね」
「いえ、なんでもないですよ」
キョーコはにこりと笑うと「先輩は部活ですよね、お気になさらずどうぞどうぞ」と久遠を遠ざけようとする。
その笑顔をどこかで見た気がして、久遠はじいとキョーコの顔を見つめた。

「な、なんですか…?」
じっと見つめられるとさすがに気まずくて、キョーコはおどおどと聞く。しかし久遠は答える事もなく少しだけ眉をひそめ、しばらくしてから「ああ」と思いついたように声を上げた。
「そうだ、あの料亭だ」
「はいっ?」
「何か隠してる事あるのかな。俺に言えないようなこと?」
「いえ、何も隠してる事などありませんよ」
「そうかなぁ。どうにも笑顔があの料亭で見た、業務用の笑顔に見えるんだけど」
「そんなことありません」
言いながらキョーコは目をそらす。なるほど、上手に嘘がつける子ではないようだ。

「まだ部活までは時間があるから手伝える事だったら手伝うよ」
「だから何でもないですってば…」
久遠を見上げたキョーコの視線が久遠の顔から少しずれた。同時に少し目が見開かれる。

何かあるのか?

久遠はキョーコの視線を追うように振り向く。
「あ」とキョーコがそれを止めようと無意識の声を出したが、久遠の目はそれと同時に奇妙なものを視界に入れていた。

自分の後ろには校舎の外壁があり、校舎の外壁には当然ながら窓があり、その他の雨どいやら配線やらがあるのだが。雨どいが縦に伸びるそこに、白い外壁とは異なる色合いのものが挟まっている。ぱっと見てそれがなんだかは分かる。だが、その状況がよく分からなかった。

壁と雨どいを支える金具に挟まっているのは茶色のローファーだった。無理やり突っ込まれたのか、靴はややひしゃげたように変形している。

久遠は改めてキョーコを振り返り、視線を下のほうに移動させた。キョーコは少し気まずい顔をしていて、その足元には白い上履き。

なんとなく事態を想像しながら久遠は軽めに声をかけた。
「あの靴、もしかして最上さんの?」
「はい……」
躊躇いながらも返事をしたキョーコに、久遠は無言で振り向くと慎重に靴を抜き取る。久遠ですらいっぱいに手を伸ばさなければ届かない高さに突っ込まれた靴は、少し汚れて傷がついてしまっているようだ。
「ありがとうございます」
「いや……最上さん、大丈夫?これやった相手、わかってるの?」
「え」
久遠はキョーコの足元にしゃがみこみ、きちりと靴を揃えてから顔を上げて尋ねた。その顔が少し厳しいものになっていたため、キョーコはどきりとして返事に詰まる。

そういえばいつもニコニコしてるから…こんな厳しい顔って見るの初めてかも?


キョーコは質問されているのにそんな事を考えてしまい、慌てて頭から久遠についての思考を追い出した。
「いえ、別に気にしてないからいいんです」
久遠が置いてくれた靴を片手で持つと、少ししかめっ面をして反対の手で靴についてしまったゴミやほこりを払う。

キョーコの表情には軽蔑が表れているもののどこか冷めた様子で、落ち込んでいたり悲しんだりはしていないようだ。
「今はそれでも、嫌がらせがエスカレートするかもしれないよ」
「いいです別に、大体予想がつくことしかしてきませんから」
「でもどうして…?」
呟くように言った久遠に、キョーコは取り繕うに笑ってみせた。

「さあ、私にもわかりませんけど、本当に気にしてませんから大丈夫なんです!すみません、見つけてくださってありがとうございました」
キョーコは深くお辞儀をすると「では」とくるりと背中を向けるとスタスタと来た道を戻って行く。
躊躇いもなく背中を向けられ、こちらを気にすることなく立ち去られて、久遠はしばしその後ろ姿を見送ってしまったのだった。


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