SkipSkip Box

きみと恋をする方法 (5)


こんばんは。ぞうはなです!
うう、更新間隔があき気味なのに話もなかなか進まない…

諦めて、ぼちぼち参ります。





「やあ、最上さん」
水曜日の午後、5時間目後のHRが終わって間もなくかけられた声に、キョーコは全身を緊張させる。
クラスメートは目を見開いてキョーコの方を見たり周りとこそこそ話をしたり。反応は様々だが、一部の女子生徒の表情を見てキョーコは少し気が重くなった。あとでどんな対応をされるか、考えなくても分かってしまう。

カバンを持って教室に入ってきたのは久遠だった。
先週にした約束をしっかり覚えていたらしい。それにしても2年生だって授業があっただろうに、よくこの速さでここに来たものだとキョーコは感心してしまう。
「こんにちは、ヒズリ先輩」
キョーコは礼儀正しく挨拶をしたが、久遠はその美しい顔を少しだけゆがめて渋い表情を作る。
「ヒズリ先輩は…やめてほしいな」
「え、どうしてですか?」
「苗字で呼ばれる事に慣れてないから」
「は…?」
「みんな久遠って呼んでくれるんだ。だから最上さんもそうしてくれると嬉しいな」
「は……あの…久遠先輩?」
「…うん」

少し恥ずかしげに首をかしげ、上目遣いに恐る恐る自分の名前を呼んだキョーコに、久遠は少しドキリとした。
この間両親とともに訪れた料亭ではキョーコは営業用のスマイルを貼り付けてベテランのように落ち着いて話していたが、今日は高校生らしいあどけない表情だ。そのギャップを改めて認識するとなんとなく引き込まれてしまう気がする。

「先輩?」
聞かれて久遠ははっと我に返る。表面的にはにっこりといつものそつのない笑みを作った。
「うん、じゃあ行こうか」
そしてキョーコは拒否する事も出来ず、ものすごく目立つ先輩に先導されて生徒会室まで行くこととなった。


なんかちょっと…気まずいかな……

先輩の背中をぼやりと視界に入れながら、キョーコは少し居心地が悪かった。

まさか仲居の仕事をしている時に学校の生徒に会うとは思ってもみなかった。しかもこんな目立つ人に。
キョーコが働く旅館は高級旅館のため、あまり未成年の姿を見ることはない。それに近辺に住むこの学園の生徒やその家庭にとっては、ほど近い旅館に宿泊する必要性など全くない。
けれど最近オープンした料亭ならば食事のために客が来るのだから可能性は少し上がってもおかしくはなかった。キョーコはそれについては全く考えていなかったのだが。

予約の名前からもしかしたら家族かもしれないと考えたものの、名前と人数しか聞いていなかったキョーコは本人の姿を見て少なからず動揺したのだ。けれどお客さまに対する不手際の謝罪に入った部屋で先輩に挨拶する訳にもいかず、結果的に久遠の存在を黙殺するような状態になっていた。

あんなところで会うなんて…学校の人にはあんまり知られたくなかったな…
それに、先輩は挨拶がなかった事に怒ってないかしら?

「この間はどうも」
キョーコがぶつぶつと考え込んでいると前を歩いていた久遠が少し振り返ってキョーコに話しかけてきた。
「は、はいっ?」
キョーコは慌てて返事をする。
「あんなところで会うと思わなかったから驚いたよ」
「は、はい…すみません、あのご挨拶も出来ずに」

キョーコの謝罪に久遠は笑った。
「なんで謝るの?最上さんきっちり仕事してたよね。いやなんだか、学校でこうして見るのとは全然雰囲気が違って驚いたよ」
「え?そ、そうですか?」
「うん、なんだろう、ベテランって言うか、なんていうのかな。もう本当にプロの仲居さんって感じだった」
「すみません…!」
反射的に謝ったキョーコに久遠はぷっと吹き出す。
「また謝った…でもあの姿見て、ますます俺は最上さんを役員に推薦したくなったな」
「ええっ?ど、どうしてですか…!」
「ああいう機転がきくってのは、本当に優れた資質だと思うから」


1時間後、キョーコは1人で校門に向かって歩いていた。顔色は心持ち悪い。

どうしよう…これ以上足突っ込んだら抜けられなくなるわ…!

久遠に連れられて行った生徒会室はウェルカムムードだった。久遠から聞いていたのだろうか、扉を開けた瞬間にこやかな笑顔の眼鏡の副会長に迎えられ、何の弁解をする間もなく流れるように生徒会のお仕事について説明をされ、あれこれと感心しながらうっかり聞き入ってしまった。

「5月の球技大会、ぜひクラスの実行委員をやってほしいな」
帰り際久遠に言われ、思わずきょとんとその顔を見返してしまった。
球技大会は今年初めての生徒会主催の行事だという。実行委員をやれば生徒会役員とともにイベントを主催する側になるので、より生徒会の活動を体感できるという事なのだが。

私、一言も生徒会役員やるなんて言ってないはずなのに…!
なんなの、あの役員さんたちの勧誘と言うか巻き込み方と言うかの、うまさは!!
会長さんはてきぱきしてたし副会長さんはにこにこしてたけど案外強引なところがあるし書記さんは親切だったわ…もう一人の副会長さんはなんだか遠巻きににやにや眺めてただけだったけど。


自分は活動に費やせる時間がないのだと、説明はしたはずだった。
けれど「毎日来なくても大丈夫」「出来る中でやればいいだけだよ」と一切取り合ってもらえず、なにやら今日1日でさらに後押しされてしまった気がする。

でも…役員って推薦もらったとしても、結局は選挙で投票されないとダメなのよね?
立候補…投票……やだ、これ以上そんなことで悪目立ちしたくないわよ…
そうよ、ただでさえもうこの学校ではうんざりする事があるんだから。

生徒会にも久遠にも、あまり関わらない方がいいとキョーコはこの時考えていたのだった。


翌日の放課後、ぶすっとむくれたキョーコは体育館に向かって歩いていた。
地面を踏みしめるようにズカズカドスドスと歩く姿は『私怒っています』と宣言しているようで、周りの生徒たちも何事かとじろじろと見るが、当の本人は全く眼中に入っていないようだ。

やがてキョーコは校庭に向かって開け放たれた体育館の扉にたどり着くと、じろりと中を覗きこんだ。
キョーコはHRが終わると同時に生徒会室に行ったのだ。しかしそこにいた黒崎に「久遠なら今日は部活だぜ」と教えられ、そのまま勢いでここまで来てしまった。

体育館では男子バスケ部が練習の最中だ。ダムダムとボールをつく音が響き、キュキュ、という靴音もそこに混じる。
キョーコは体育館の中をぐるりと見回して、求める姿を見つけた。探していた相手、2年生の金髪の男子生徒はちょうどシュートを打とうとしているところだった。

体育館の中ほどから軽快に走り始めた久遠はスピードに乗ったところで手を上げながら「ハイ」と声を出し、出されたパスを受け取るとゴール下に走りこみながらジャンプする。真っ直ぐに伸ばされた腕から柔らかく投げ上げられたボールはゴールに吸い込まれ、シュートを打った本人はこれまた柔らかくふわりと着地した。

キョーコは一瞬、怒りも忘れてその姿に見入ってしまった。
制服を着ているとあまり分からないが、久遠の体は腕も脚もしなやかな筋肉に覆われた、繊細なつくりの顔からは想像できないほどのアスリート体型だ。よく見れば肩幅もがっちりしているし、胸はかなり分厚い。

顔が王子様みたいだから細いのかと思ってた…ちょっと意外だなあ……

ほけっと眺めていたら、視線を感じられたらしい。
キョーコが見ていたその人は、体育館の入り口から顔を覗かせているキョーコに気がついて笑顔を作った。

「やあ最上さん。どうしたの、見学なら中に入っていいよ」
「ちちち、違いますっ」
「あれ、もしかして俺に用があった?」
う、とキョーコは言葉に詰まったが事実そうだったし渋々ながらも頷いた。頭に血が上っていたためにあまり気がついていなかったが、よく考えてみればやっている事は追っかけみたいなものだ。

いやいやいや、とキョーコは頭を横に振る。

違うわよ。私は別に目をハートにしてる女子とは違って、文句を言いに来たんです!

けれど目の前に近づいてきた先輩は心なしか嬉しそうに見えるのがまた頭にくる。
違うんですからねっ!

「用事があると言えばあります」
「なに?」
「用事というか、抗議です!」
キョーコはびしりと人差し指を目の前の先輩に突きつけたのだが、面白そうに笑みを作られてしまいイライラがつのる結果になったのだった。

関連記事

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する