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君の魔法 (12)



キョーコの魔力の発動は、暴走した1回の後またぱったりと収まってしまった。
テンに、あの時の気持ちを思い出したらどうかしら、と言われ、やってみようとしたらなぜかレンの腕の中の心地よさを思い出して真っ赤になってしまったりと、思うようにはいかなかったのだ。

明らかに、キョーコは意識してしまっている。しかし、当のレンはキョーコのことを名前で呼ぶようになった以外、態度に変化がないように見える。

やっぱり、考えすぎよね…?だ、大体、図々しいわよね…?
ツルガ様、もてるもの…あんなの、誰にでも言ったりしたりするってことよね…

レンの見たことのない表情を見て、言葉を聞いて、2回も抱きしめられて、その日は夜中ベッドで悶絶するほど恥ずかしかった。なのに、翌日以降顔を合わせても本人は全く気にしていないようなので、キョーコは自分だけ意識してしまっている勘違い女になったような複雑な気分だった。


そして、慌ただしい準備が終わり、キツネ狩りの当日。
朝から抜けるような青空で、ピクニック日和だった。

王やマリア姫のための馬車や馬、荷物が用意される中、近衛隊の面々も最終確認に余念がない。大掛かりになりすぎないよう、最少人数で王たちの供をするため、配置に神経を使っているのだ。と言っても、イベントは力いっぱい楽しむことをモットーにしている王の機嫌を損ねないため、警備の男たちは普段のラフな格好ではなく、正装に近い装飾の多い服をまとっていた。

中でもレンは黒を基調として金糸をあしらった上下揃いの服を嫌味なくさらりと着こなして、男たちからも感嘆の声が上がるような有様だ。実は本人が好きで着ている訳ではなく、王直々にテン経由で押し付けてきた服だったのだが。

レンは自分の小隊の配置を確認しながら、マリア姫の元へ向かう。
今日は1日中、マリアのそばにはキョーコが張り付く算段となっている。そろそろ最終確認をせねば、とその姿を探しながら歩いていると、言い合うような声がどこからか聞こえてきた。

「モー子さぁん、やっぱり似合ってないのかなあ」
「そんな訳ないでしょ!ちゃんと似合ってるから自信持ちなさいよ!」
「だって、さっきからみんなに呆れたような顔で見られるよ~」
「もーー、違うわよ、見惚れられてるの!何言ってんのあんた、鏡見たんでしょ!」

何事?と思っていると、マリア姫がぱたぱたとレンの元へ走り寄ってきた。
「レン様!?きゃあ、すてきー!!」
「ありがとうございます、マリア様。マリア様も素敵なドレスですね。よくお似合いです」

マリアはうふふ、と喜んでくるりと回って見せた。
マリアのドレスは深緑のベルベットに白の繊細なレースがふんだんに使われているものだった。外に出ることを前提としているため、ボリュームが抑えられたラインになっている。上に羽織った白いふわふわの外套が可愛らしい。
「今日はね、皆でお揃いなのよ!」
確かに周りのお付きの女官たちもマリア姫と同じ色のドレスをまとっている。こちらはマリア姫よりボリュームも飾りも控えめで、テンがしっかりマリア姫を主役にデザインしたことが伺えた。
「お姉さまもとっても素敵になったの!って、あれ?どこ行っちゃったのかしら」
マリアがきょろきょろと周りを見回し、あっいた!と声を上げてから大声で呼んだ。
「おねーさまーー!こちらにいらして!!」
レンがマリアの視線を辿って振り返り、そこで止まった。向こうから、恥ずかしそうに俯き加減の少女が小走りでやってくる。

キョーコの服装は真っ白いブラウスに、マリアと同じ深緑のスカートだった。外套はマリアと対照的に濃いグレーでかっちりしている。乗馬用のスカートは丈が長く、裾からはこげ茶色のヒールが低いブーツが覗いている。動きやすさを重視してか、スカートのシルエットはシンプルだが、適度なひだが取られていて、それが優雅なラインを描いていた。
そして、髪はきゅっと纏め上げられ、付け毛なのか、控えめなポニーテールになっている。うっすらとほどこされた化粧が、キョーコの顔をいつもより若干大人らしく、しかし可憐な美少女へと変えていた。

腰に細身の剣を下げているので辛うじて護衛の人間だと分かるが、普段のキョーコと同一人物だと分かる者はまずおらず、しばらく考えてやっとその正体が分かると、今度はその変身ぶりに驚いて皆呆けたように見つめてしまう。その視線をひしひしと感じて、キョーコは(やっぱり変なのかしら)と悩んで恥ずかしがってしまっていたのだ。

キョーコがちらりと顔を上げると、正面から見つめていたレンと目が合ってしまった。

うう、なんか呆れたような顔で見られてる…やっぱり変なのかな…
ああでも…… ツルガ様、真っ黒なのに格好いい…… 夜の王子様みたい…


キョーコはレンの格好に見惚れて妙なことを考えていたが、見惚れていたのはレンも同じ。


ドレスとかスカート着てるところを見たこと無かったけど、こんなに綺麗になるんだ… あんまり人目にさらしたくないな…


「レン様?」という不思議そうなマリア姫の声で二人が同時に我に返る。それから一瞬の空白を置いて、二人は何もなかったように表情を戻し、マリア姫の警備の話を真剣に始めた。
そんな二人を、キョーコの後ろから歩いてきていた女性が腕組みをしてじっと見つめていた。キョーコと同じ部屋に住む、黒髪の女官、カナエだ。
カナエが見ている前で二人は身振りを加えながら今日の予定などについて話し合っている。やがて話が終わり、キョーコがその場を離れようとすると、レンがキョーコの腕を軽く引き、キョーコの耳元で何かを囁いた。がばっと顔を上げてレンを見るキョーコの顔は、あっという間に赤くなる。レンはそれを見て満足げに微笑むと軽く手を上げて去っていった。

「何あれ……いつの間に…?」
最近キョーコの様子が何か変なのには気づいていたのだが…やっぱりそこか。
カナエは眉間にしわを寄せてぼそりと呟いた。
「あれじゃ、次にキョーコが酔っ払ったときには任せられそうに無いわね…」


狩りの場所は城から馬車で1時間ほど行ったところにあった。
近くに大規模な農園が広がり、すぐそばには湖が見える。男たちは丘に生える木々を縫って馬を走らせたり、犬を使って動物を追い立てたりしてその技を競う。国王一行以外にもヒズリなど貴族の男やその家族たちが参加しているため、辺り一帯賑やかだ。
しかし、どこから連れてきたのか、国王の腕から飛び立った大型の猛禽類がそれなりの大きさのキツネを文字通り鷲掴みにして優雅に戻ってきたときには、一行全員がしばらく言葉を失ったのだった。


お昼時になり、一行は湖畔へ移動した。ここでは既に別動隊が天幕を張り、食事の準備をしていた。
「私お腹ペッコペコよ!」
マリアはすっかりはしゃいで馬車から飛び出すと、天幕に向かって駆けていく。キョーコやその他の女官も慌てて後を追いかけて、あれこれと世話を焼き始める。他の集団も適当に場所を定め、それぞれがのんびりと昼食を取り出した。

レンは集団から少しだけ距離を置いて、ヤシロと二人、話をしていた。
ヤシロも今日はベージュで統一された服装に身を包み、蓮と対照的に柔らかい雰囲気を醸し出している。二人が並んで立っている姿は誰から見ても様になっており、貴族の若い女性達はじりじりと近づくチャンスを伺っていた。

ところが、そんな二人の会話ときたら。

「レ~~ン~~~。最近なんかキョーコちゃんのお前を見る目が変わった気がするんだけど~~?」
「…なぜここでその話題なんですかヤシロさん……」
「気がついてないとは言わせないぞ。なんか言いたげな目でじーっとお前のこと見てることが多いじゃないか!」
「そうですかね…」

正直、レンはまともにキョーコの顔を見ると挙動不審になりそうで、ここのところあまりじっくりキョーコの顔を見ていない。今日は不意打ちで見つめてしまって、自分を保つのが大変だったのだ。
「なんかしたんだろ~~。今まで全くそういう素振りがなかったのが急に変わったんだからな」

何もしていないとは言い切れない状況だっただけに、レンは一瞬言葉に詰まった。

「あ、やっぱり…」
「ヤシロさんに何か言われるようなことはしてませんよ」
「そうなのか?するなら早めにしとけよ。今日のキョーコちゃん見て張り切っちゃってる奴、絶対いるぞ」
「ヤシロさん、なんだかひどい言いようですね」

立ち止まって話をしている二人に、タイミングを見計らって女性達が近づいて来ようとしているのを察知し、レンは傍らの木につないでいた馬の手綱を取る。

「さて、一応周りを見ておかないといけないですね」
「話を切るってことは、ほんと怪しいよなあ…」

疑い深い目を向けながらも、ヤシロも周辺の様子見のため、ひらりと馬にまたがった。
レンはちらりと天幕に目を向け、キョーコがマリアと一緒にいることを確認する。

あそこにいる限り声をかけに行く男もいないだろうしな…

レンは職務に気持ちを切り替えると、ゆっくりとあたりを警戒しながら馬を進めた。
しかし、その後ろ姿をじっと見つめている目は、少し離れた林の中にあったのだった。

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