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きみと恋をする方法 (3)


こんばんは!ぞうはなです。
さて、あんまりのんびり過ぎないペースに出来るか?
ちょっと間が空いてしまいましたが、続きです!




その日の授業が終わり、手早く片付けてカバンを手に教室を出たキョーコは廊下に足を一歩踏み出したところで一瞬ぎしりと止まった。
混乱しつつも素早く頭の中で考えをまとめ、何事もなかったように止まった体を再び動かして廊下を歩き出したのだが、希望的観測は見事に打ち破られる事となった。

「こんにちは最上さん。ちょっとだけいい?」
教室を出た廊下の窓際、教室の戸口からは少しずれた位置にいた男子生徒が、キョーコが歩き出した瞬間話しかけてきたのだ。名指しで。

それは昨日掃除時間中に自分を訪ねてきたヒズリ先輩。
中等部から主に女子の間で噂になっていたその人が、何をどうとち狂ったら自分に生徒会役員の話を持ってくることになるのか分からず、昨日はとにかく先輩の前から離脱する事だけを考えていた。とにかく断ればいいだろうと思っていた。何かの気の迷いなら、一度断れば別のもっとふさわしい候補の人を探してくれるだろうと。

「は、はい、こんにちは!」
キョーコは目を合わせないように深々と頭を下げ、頭を上げてからも目線はウロウロと廊下のタイルの上を滑る。

うそ、なんで?もしかしてまた生徒会の話?
むむむ、無理に決まってるじゃないのよ…なんで私?

「昨日あっさり断られちゃったんだけど、やっぱりちゃんと考えてほしいなと思って」
「ど、どうして……」
昨日と同じくおどおどビクビクと自分を見るキョーコに久遠は苦笑した。
「どうしてって、俺は最上さんが生徒会の会計と言う役に向いてるかなって思ったから」
「そんな!そんな訳ないじゃないですか」
噛み付くように声を上げるキョーコに久遠はびっくりして目を見開く。
「なんで?」
「なんでって…私、生徒会の役員の方々みたいにすごくないです…何の取り柄もないしそんな大役…」

キョーコは中等部からのこの学園にいるので、現在の生徒会役員の大半を知っている。

会長の麻生春樹は人やモノをてきぱきと采配し、適材適所を心得ていると評判だ。
副会長の社倖一はクールで落ち着いていて細かいところに目が届き、絶妙の塩梅で会長のサポートをこなす。
そしてもう一人いる副会長の黒崎潮は影の実力者と言われ、鋭い感性と歯に着せぬ物言いで物事を進める。
書記の百瀬逸美は2年生だが、会長副会長の決めた施策を見事にまとめて生徒会からの発行物の大半を取り仕切っている。

そして全員が全員、見た目もまた飛びぬけて優れているのだ。


でも…実はヒズリ先輩の事はよく分からないのよね。

久遠は他の3人の役員と違って高等部からの外部進学らしく、キョーコはこれまで同じ校舎にいたことがなかった。
でもこうやって目の前に立てば分かる。この先輩のビジュアルはこれまた桁外れだ。去年の高等部の文化祭には例年以上の中等部の女子生徒が、いや他校の生徒もが押しかけたと言うし、普段だってこっそり見に来る者も後をたたないという。
高等部から横流しされた隠し撮り写真をお守りのように持ち歩く生徒だっているのだ。

うちの高等部の生徒会って見た目で選ばれるの?
何をとっても私なんかがあんなところ入れる訳がないじゃないの!立候補するだけで身の程知らずって陰口叩かれるに決まってるわ!!

ふとキョーコが気がつけば、目の前の久遠はその碧い目でまじまじとキョーコの顔を眺めている。相変わらず驚いたような表情だ。
「…本気で言ってる?」
「な、何がですか?」
不意に問われて、キョーコは素直に聞き返した。
「最上さんて、入学式で新入生代表の挨拶したよね」
「はい」
「それがどういう事だかも…知ってるよね?」
「は、はあ…」
何が言いたいの?という訝しげな表情をキョーコがしたので、久遠は本当に信じられない思いでゆっくりと首を振ると長く長くため息をついた。

「な、なんですかっ。そんな呆れなくたって」
「呆れもするよ…ここの高等部に成績トップで入学しておいて取り柄がないだなんて…」
蓮の言葉に少しキョーコの表情が悲しげに歪む。
「勉強なんてできたって…」
「え?」
予想外の返答に思わず久遠が聞き返すと、キョーコは慌てて両手をぶんぶんと振った。
「な、なんでもないです!でも本当に、その、私なんかに生徒会のお仕事が務まるとは到底…」

後ろ向きな返事をするキョーコに、久遠の瞳が少し細められた。
「最上さんはそう言うけど。君はそもそも、生徒会がどんな仕事してるか"正確に"知ってる?」
強調された部分に、キョーコは体を少し引くと困った顔で久遠を見る。
「な、なんとなくは知ってますが正確にはその…すみません」
「だよね?知らないのにそういう事言われるのはやっぱりちょっと心外だな」
「は、はい、申し訳…」
「だから1回見学においで」
「へ?」
キョーコは思わず下げかけていた頭をひょこりと上げて間抜け面で先輩の顔を見上げた。

「どんな仕事してるのか、見に来て」
「あのでも私、放課後はあんまり時間が…」
「来週の水曜日はどう?5時間授業だから他の曜日よりは時間があるはずだと思うけど」
「あ…はあ、まあ」
「じゃあ決まり。水曜日の授業終わりにまたここに来るから。よろしくね」
久遠はきらりと光る笑顔を見せると「じゃ」と手を上げて颯爽と歩き去った。その後姿からきらきらと光がこぼれているようで、周りの女子生徒たちが潤んだような瞳でその姿を見送っていく。先ほどまで会話を交わしていたキョーコにも羨望と嫉妬の眼差しが向けられているような気がした。

はっとキョーコが正気に戻ったとき、すでに久遠の姿はそこにはなく、果たして第二ラウンドを制したのは、やや強引な先輩だったようだ。


「あれ、父さん…」
その日の夕方自宅マンションに帰った久遠は、いつも通りに玄関の鍵を開け入ったリビングの入り口で目を真ん丸くして足を止めてしまった。
「お帰り、久遠」
ソファにゆったりと腰掛けた中年男性がにこやかに笑って立ち上がる。

「ただいま…こんなに早く帰るって言ってたっけ?」
「お前に会いたくて帰ってきたんだぞぉ」
久遠の父親であるクー・ヒズリは、二枚目俳優のような落ち着いた魅力に満ちたダンディな男性だ。並べば超美形である久遠に確かに似ているが、久遠の美を"繊細"とすればクーは"豪胆"である。
クーは1人息子である久遠を溺愛している。しかし仕事の都合で海外で過ごす時間の方が圧倒的に長く、たまに微かな隙間を見つけては日本に飛び返ってくるがまたすぐ泣く泣く飛び立っていくような生活を送っている。

自分よりは少し小さいが十分大きな、そしてがっちりとした父親に高校2年生にもなってハグされるのは恥ずかしいが、久遠は父親の愛情がぎっちりと詰まったこの行為だけは拒否しない事にしていた。

「母さんは?」
ようやくたくましい腕による苦しいほどの抱擁から逃れると、久遠は父親に聞いた。
「ジュリは調整がつかなくてな。俺が先に戻ったんだ」
「…怒られなかった?」
「そりゃ、怒られたさ」
天を仰ぐクーの表情を見れば、こちらに来る前にこってり恨みつらみをぶちまけられた事は想像に難くない。しかしクーと同じくらい久遠の母であるジュリエラも忙しいのだ。こればかりは仕方がない。

「けど、ジュリも明後日にはこっちに着くらしいからな。派手に迎えてやってくれ」
「なんで父さんの後始末を俺が…」
「まあそう言うな。息子の務めだろう」
「責任は取らないからね」

冷たいな、と肩を落としてため息をついたクーだったが、ぱっと顔を上げるとすっかり忘れたようにニコニコと久遠に話しかけた。
「そうそう、ジュリが来たら一緒に飯を食いに行こう」
「いつも行ってるじゃない」
「実はな、泊まらないと食べられなかった料理が食べられるようになったんだ」

なんの謎々?と首をひねった久遠だったが、美味しい食べ物についてはクーに任せておけば間違いはない。
短い両親の滞在とはいえ、母親ジュリエラが振舞ってくれる愛情と美味しさが反比例してしまうような手料理から一食でも逃れられるのだ、久遠には否定する理由などなかった。


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