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海と陸の物語 (12)


こんばんは!ぞうはなです。

更新が遅くなったというのに最後の一話はエピローグ的なもので長さも短めです。
イチゴ様、あひる様、リクエストありがとうございましたーーー!
リクエストの趣旨にお答えできたかすこぶる不安ですが、お受け取りくださいませ!





王宮の庭に暖かい風がひゅうっと吹き、キョーコは思わずドレスの裾を手で抑えました。
「人間ってほんとに色々面倒よね…」
ぼやきつつも足元にくんくんと擦り寄ってくる子犬に思わず笑みをこぼし、その小さな頭を指でくしゅくしゅとなでてからキョーコは再び足を前に出します。

キョーコがここにやってきてから一週間が経過していました。
魔女テンの魔法の薬の効き目は本物で、キョーコの腰から下にはもう鱗は1枚もなく上半身と同じ白い色の脚が2本あり、どこからどう見ても人間の姿になっています。
けれどキョーコは歩いた事がないため、なかなか左右の足を交互に出す事が出来ませんでした。頑張って練習を続け、ようやく普通に歩く事ができるようになったので、この日は初めて1人で庭に出てみていたのです。

キョーコが困ったのは足の動かし方だけではありませんでした。
どうにもこの『洋服』というものは窮屈で仕方ありません。洋服を着ないで人前に出ることは恥ずかしい事なのだと聞いても今までの生活からぴんと来ず、たくさんの人の前に出て初めてなんとなく理解をしました。
さらにいえば尻尾が足に変わってからレンにベッドに連れ込まれて……理屈だけでなく全身で人間としての羞恥と言うものを理解して、キョーコはなんとか洋服にも慣れるべく奮闘しています。

「キョーコ、ここにいたんだね」
少し離れたところから声がかけられて、キョーコはぱっと振り向きました。
足元を一緒に歩いていた子犬がだっと駆け出していち早く声の主にじゃれ付くのが少し羨ましいですが、キョーコは一歩ずつしっかりと踏みしめて声の主のところまで遅れてたどり着きました。
「歩くのスムーズになったね。すごい上達だ」
「ありがとうございます。やってみるまでこんなに大変な事とは思いませんでした」
「それは仕方がないよ」
にっこりと優しい笑顔を見せたのは金髪の王子でした。

帰国して少しするとレンの髪は茶色を経て金髪に変わり、同時に目の色も黒かったのが緑になり、そうしてみるとなるほど、あの時の少年の面影があるような気がします。
テンが調合したのは昆布や若布などの海草エキスをこれ以上無理と言うほど凝縮した薬らしく、それを服用すると髪や目の色が十日間ほど黒くなるのだとキョーコは聞きました。
金髪に戻ったレン、いやクオンは王子として立ち振る舞いも気品に溢れているのでキョーコは少し気後れしましたが、ここに来て以来クオン自身もそれからクオンの両親であるクー王も王妃ジュリエラもキョーコにとてもよくしてくれています。

「疲れてない?」
クオンは傍らのベンチにキョーコを座らせると問いかけました。
「それは大丈夫です!」
「もう少し慣れたら、一緒に国中を見に行こう。君が見た事ない景色がいっぱいあるから」
「山とか、森ですか?」
「うん、それに川も滝も他にもたくさん。美味しいものもあれこれあるよ」
「すごいですね、楽しみです」
笑顔を見せるキョーコに、クオンは少し嬉しくなっていました。

初対面の時は言葉が通じているかすら分からず、ほんの少しの間顔を合わせただけでした。
再会したときはキョーコは人間の事を毛嫌いしていて。それでも少しずつ話したり一緒に泳いだりもできて。
そしてなによりキョーコは自分の命を何回も救ってくれた恩人で、そして今はこうして隣に座って穏やかに会話をする事ができます。

クオンはキョーコの頭に大きな手を乗せるとくしゃくしゃと撫でました。
「そして、海にも行こう。そうそう、君たちがかつて住んでいた場所を教えてほしいな」
「少し記憶がおぼろげですけど、大体なら」
「そもそもどうして住む場所を移したの?人間が煩わしかった?」

キョーコは んん、と上を向いて考えこみました。
「それもあったかと思いますけど、一番の原因はサメだったみたいです。あの辺に気性の荒いサメの群れが住み着いちゃって…」
「それがいなくなったら、君の家族はまたこの国のそばに住んでくれるかな?」
「そうですね。今の家より環境はいいし…あ、でも、人間と仲良くできれば、ですけど」
「そうだね、それもある。でも早速調査を始めよう。もし家族がそばにいれば、君もその方が嬉しいよね」
「けど私、もう人魚じゃなくなっちゃって……」

少し寂しげに眉を下げたキョーコを励ますようにクオンは立ち上がるとその手を取りました。
「君の家族だって、君が人魚である事は関係なく家族として大切に思っていると思うよ。それにキョーコの存在はすごく重要なんだ。これから人間と人魚が対等な関係を築くためには」
「そんな、そんな大役とても私には…!」
クオンは笑いながらキョーコの手を引いて立ち上がらせます。
「大丈夫。君はここにいてくれたらいい。そしてこの暮らしを楽しんでくれたらいいんだ。父も俺も、それから周りの人間も、今まで君たち人魚にしてきた愚かな行為を反省して、そして未来を作るために全力を尽くすよ」
「ありがとうございます。私も、できることはさせてくださいね」

笑顔になったキョーコを、クオンは腕の中に閉じ込めるとしっかりと抱きしめました。
「じゃあずっとずっと、俺のそばにいてください」
「そ、それは当然ですからそれ以外で…!」
「今はそれだけでいいよ」
ひょいとクオンの腕に抱き上げられたキョーコのドレスの裾が尾びれのようにひらりと揺れます。足元でぴょこぴょこと跳ねまわる子犬と共に、2人は笑い合いながら宮殿の中へと入っていきました。


それから数ヵ月後、東の大陸そばの海原には10年前のように人魚の姿が見かけられるようになりました。
人魚たちは人間の船に積極的に近づく事はしませんでしたが、以前のようにすぐに逃げる事もなくなりました。もっとも、国の王子の船が近づいたときだけはたくさんの人魚たちが姿を現して、王子の妃と親しく言葉を交わしていました。
時には妃が海に飛び込み人魚と共に泳ぐ姿も見られたということです。

王子と妃はやがて王と王妃になり、穏やかに国をおさめました。
そしてそれ以降、この国の王家にはひとつの宝物ができました。

愛と忠誠の証であると言うこの宝物はきらびやかな装飾が施された短剣でした。短剣は一度も使われることなく、何代目かの王妃の人魚の血とともに代々受け継がれていったという事です。


(おしまい)

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コメントコメント


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完結おめでとうございます!!

堪能させていただきました!蓮さんの自覚してからの押しの強さが印象的なお話でした。キョコさんが人間にたいして警戒心が強いとこういうヘタれない蓮さんだとうまくキョコさんを手繰り寄せてくれますよね!
それからテンさんの渡した短剣が国宝(?)になるとは!キョコさんは使うはずないと分かっていても、王家にとって宝であり戒めでもある存在になったんでしょうね。
素敵なお話をありがとうございました!

霜月さうら | URL | 2014/11/20 (Thu) 03:50 [編集]


Re: 完結おめでとうございます!!

> 霜月さうら様

最後までのお付き合い、ありがとうございますー!
へたれで有名な(?)蓮さんですが、コーンとしての振る舞いなどを見るに、きっとしがらみがなく相手の気持ちも確認できたらえらく強くスムーズに押すだろうな、という予想(願望)の産物でした。

そうです、戒めもこめて、短剣は王家に伝わって行ったという事です!
でも夫婦げんかで刃物でたらこわいな~~~…

ぞうはな | URL | 2014/11/20 (Thu) 20:12 [編集]