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君の魔法 (11)



テンとともに去るキョーコの姿は、少し離れたところからもじっと観察されていた。
少し離れた建物の陰でこっそりと会話を交わす二人の男の姿があった。

「ふふ、やはり思ったとおり興味深い女だな。面白い・・・」
笑うようにつぶやいたのは、泣きぼくろの男、レイノだった。
「お前がそんなこと言うのは、珍しいな」
レイノに答えるのはストレートの長髪の男。
「あそこまで黒い魔力を見るのもなかなかないからな。・・・正面から見てみたいものだ」

長髪の男はレイノをじろりと見やって釘を刺した。
「おいレイノ、最大の目的を履き違えるなよ。・・・女に構うのはいいが、お姫様が先だ」
「ふん、分かっている。・・・俺は美しいものを見てみたいだけだ」
レイノはゆらりと体を揺らして歩き始めた。
「・・・ああでも、ミロク」
「なんだ?」
「あの女、うまくやればお姫様と一緒に面白いもの見せてくれるかもしれないぞ?」
レイノの顔には冷たい笑みが浮かんでいた。


レンが二人の後を追って魔女の部屋にたどり着くと、キョーコがテンにペタペタと触られながらチェックをされているところだった。とりあえず無事のようでホッとするが、道中何が起こったのかを聞かされたのか、キョーコは顔面蒼白で今にも泣きそうな表情をしている。
「うん、大丈夫!相変わらず魔力は渦巻いてるけど、キョーコちゃん自身も問題はないわ」
テンの明るい声にも、キョーコは「申し訳ありません」とひたすら謝っている。

「過ぎたことをいつまでも気に病むより、これから先を考えることに時間を使った方がいいんじゃないのか?」
レンにぴしゃりと叱られて、ようやっとキョーコの謝罪の嵐は収まった。しかしまだ顔は青い。レンはため息を一つつくと、少し声の調子をやわらげた。
「無意識で起こった魔力の暴走を、君が気に病む事はない。誰が怪我をした訳でもないんだから、心配しなくていい」
ふんわりと微笑んだレンを見て、やっとキョーコが体の力を抜いた。

結局、テンにも暴走の原因は感情が高ぶったことによるものだろう、という推測以外は何も分からないようだった。
「やっぱり神官の力に近いものを感じるんだけど、さっきのは魔法と言うより生霊よね」
あんなの初めて見たわ、とケラケラ笑いながらテンが言う。
笑い事じゃありません、とキョーコはげっそりしていたが、次また同じような状態になったら、と気が気ではない。
すると、
「また同じことになったら?そん時は、またレンちゃんにぎゅうしてもらえばいいんじゃない?」
と、事も無げにテンが言い放ったため、キョーコとレンはこれ以上テンに何か言われる前に、と慌てて退出した。

しかし、揃って外に出たものの、お互いに気まずくて顔を合わせることが出来ない。


だってだって・・・!気がついたらすごく居心地がいい暖かい何かに包まれてて!
なんだかいい匂いもしたし、安心したって言うか、気持ちよかったって言うか・・・!?
やだっ、何考えてるのキョーコ!!ツルガ様に失礼じゃない!


あれは、そう、不可抗力だ。
それ以外に収める方法を考え付かなかったらしょうがないじゃないか。
でも、抱いた感触が細くて柔らか・・・って!


二人は目線を交わさないままそれぞれが思考にふけっていたが、そういえば、とレンがキョーコに尋ねた。
「さっきのあの髪の色が薄い男が、君の許婚なのか?」
「ひえぇ!?あ、・・・は、はい・・・・・・一応…」
「君がああいう状態になったのは、あの男と接触したから?」
キョーコは何だか、初対面の時のような恐ろしい波動をレンから感じているような気がした。いや、気のせいではなさそうだった。あの時よりももっと冷たい風がレンの方から吹き付けてくる。

「えぇっと、結果的に、そういうことになるかと」
「なぜ?彼は、君に会いに来た?」
「い、いいえ!!違います!私がさっきあいつに会ったのは、本当に偶然で…!」
レンは はぁっとため息をついた。
「それでどうして、魔力を暴走させるまでに彼のことを『憎い』と思うんだ」

憎い、と思うのはそれくらい相手に強い執着を抱いていることと同じと思える。
つまり、キョーコにとって許嫁は嫌いではあってもまだ心の大きな部分を占める男なのではないか。

「だって…!」
キョーコは悲痛な顔でレンの言葉にかみついた。
「だって、あいつ、うちの家の管理している金の細工品を、なぜだかフワ家の名前で王城に納めに来てたんです。次期当主が直々に持ってきたんだと、堂々と!私との結婚でモガミ家のものを奪い取る気なんです…あの細工は、あの細工の技術は父が考えたものなのに…!」

キョーコの目からはたはたと涙がこぼれ落ちる。
「悔しいんです……私にもっと力があれば、そんなこと言わせないのに!!…なんで母があんなバカの言いなりになってるのか、それも訳が分かりません…」
キョーコはぐいっと手の甲で涙をぬぐった。
「絶対に、絶対にあいつの言いなりなんかになってやらないんです!私のことバカにしてるクセに、結婚してやるんだからありがたく思えとか言うクセに、私と結婚しなければ手に入らない物を一番欲しがってるのは、他ならぬあいつなんです。それなのにあのバカ、私があいつと結婚したがってるとか…」

レンはキョーコの肩に手を添えると、そっと自分の胸に引き寄せた。
「そうか……悔しい気持ちを思い出させて、すまない」
「いいえ…いいえ、ツルガ様のせいじゃありません」

しばらくレンは黙っていたが、ぽつりと言った。
「何か、俺が力になれること、ないかな?」
大人しくレンの胸に頭を預けていたキョーコは、がばっと顔を上げる。覗き込んでいたレンはあやうく顎に頭突きを食らうところだった。
「そ、そんな、恐れ多い!!ツルガ様はもうたくさん私の力になってくださってます!」
「そうかな?」
「はい!剣の指導もたくさんしていただいてますし、それからそれから、魔法のことでもお世話になっています!これ以上を望んだら贅沢すぎます」
「うぅ~ん、そうかもしれないんだけどね…」
レンはなんとなく言い淀んでいる。
キョーコは何かおかしなことを言ったかしら?と目を瞬かせて首をかしげた。

う…そんな顔で見ないでほしいな…まだ、涙で目がうるんでるし…

レンは動揺を無理やり隠して言葉を続けた。
「俺は、もっと、上官としてじゃなくて、キョーコの力になりたいんだ」
キョーコは一瞬フリーズして、その後盛大に赤くなった。
「な、今、名前…じゃなくて、いや、あの?」
おろおろとレンの懐から離れようとしたが、がっちりと肩を抑えられていてそれは叶わない。

「ねぇ…覚えておいて」
レンはキョーコの目を真正面から見据えて、言い聞かせるように言った。
「俺は、君の味方だ。いつでも、どこにいても。…頼ってくれると、うれしい」
そして、キョーコの頭をぽんぽんと優しく叩くと、「そろそろ見回りの時間だ」と去って行った。

「な、何なの…」
キョーコは思考が停止したまましばらく赤い顔で立ち尽くしていたため、さらりと去って行ったレンの耳が赤くなっていたことには気がつけなかった。

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