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海と陸の物語 (7)


こんばんはー!ぞうはなです。
ううん、本当に放っておくと長くなる… もう少しだけ、続きます。





強い風を受けて帆はいっぱいに膨らみ、船は順調に航海を進めています。
船室から甲板に出てきたレンは強い風と眩しい太陽の光に目を細めました。そのまま操船作業をする船員を縫うようにして進み、手摺にもたれて海を眺めます。

「大丈夫か?」
しばらく1人でじっと海を見ていると、後ろからヤシロが声をかけてきました。
「何がですか?」
「俺に誤魔化しても無駄だって。何かあったんだろ?」
問い返したレンにヤシロは苦笑気味に返してぽんと肩を叩きます。
この人には敵わないな、と思いつつレンは小さく笑いました。
「何もないですよ、問題はありません」
「へぇ~~。あの人魚の一件以来ずっと、なんかピリピリしているように思えるんだけど?」
「気のせいですよ」
「そう?俺、お前がまだ帰らないって言い出すんじゃないかと思ってたんだけどな」
「……」
カマをかけるようなヤシロの言葉に、レンは無言で視線を水平線に向けました。
「それが何だ?一転してあっさり帰るって言い出したからな。どんな心境の変化なんだって思ったんだよ」
「まあ…もう滞在する理由がないってだけですよ」
「人魚のことも?」
「…これ以上いても進展がなさそうですし」
「ふぅん。まあ、いいんだけどさ」

言いながらヤシロはレンと同じ方へ目を向けました。何気なく遠くの空と海を眺めていましたが、やがて表情を曇らせます。
「レン、あの雲怪しくないか」
「…ええ、俺も今そう思いました。あっという間に追いつかれそうですよ」
「まずいな。来た時と違って今は陸が遠いぞ」
「そうですね」
2人の見る方向にはどんよりと黒く垂れ込める雲がありました。会話をするうちにもどんどんとこちらに向かって迫ってきているようで、空はあっという間に暗くなります。空気の湿り気が多くなってきて、ごうっと音を立てて突風が吹きつけ始めました。

船員たちもすでに異変に気がついていました。帆をたたみ進路を変更するためにばたばたと走り回っています。
「レン、今度は邪魔にならないように中にいないと」
「分かってます、昼間なので察知が早くてよかったですよ」
2人は船室へと戻りました。波が荒く船を揺らすため廊下を真っ直ぐ歩くのも難しくなってきています。

「ほんとにこの辺りは天気の変化が急だな」
「そうですね。無事に乗り切れるといいですが」
会話をする2人の耳をつんざくように雷鳴が響き渡りました。小さな窓から外を覗けば、すでに空は一面の黒い雲に覆われています。
やがて大粒の雨が降り始め、船は大きく上下に揺られながらなんとか姿勢を保って嵐の中を進んでいきました。

船は波にもまれて大きく持ち上げられたかと思えばどすんと波間に落ちます。あちこちがギシギシときしんで、少しでも気を抜いたらひっくり返るかばらばらにされてしまいそうです。
どす黒い雲はどこまでも続き、近くでも遠くでも白い稲光が雲を渡り、そのたびに生木を引き裂くような大きな音が響き渡ります。

人魚にひどいことをしたから海の神が怒ったかな…?

小さな窓から黒い雲を眺めていたレンはそんなことをふと考え、自嘲するように笑いました。
このまま船が転覆して投げ出されたら、この海で眠る事になるかもしれない。キョーコは気がつかないだろうが、同じ海にいられたらそれもいいのかもしれない。そんなことを考える自分が少し不思議でしたが、それは何よりも先に考えてしまった事です。しかし、思考にふけっていたレンはふと顔を上げました。

先ほどから絶え間なく降っていた雨が急に弱まった気がします。
船の揺れもまだ強いものの、突き落とされるような上下動がややマシになってきました。風の音も少しだけおさまったか、と窓にくっついていたレンは急に目を見開きました。
「これは…」
思わず呟いたため、部屋のソファに座って船酔いでぐったりとしていたヤシロが顔を上げます。
「レンどうした?」
「歌が聞こえる……」
「歌ぁ?」
ヤシロは怪訝な顔でレンを見ましたが、レンはどこか遠くを見るような表情でしばらくたたずむと、はじかれたように廊下へと駆け出しました。
「あ、おいレン!」
慌ててヤシロは呼びかけますが、レンは振り向きもしません。しかしヤシロにはあとを追う気力は無く、「どうしたんだよ…」と呟くだけでした。

全速力で甲板へと出たレンは、左右を見回しました。
船はまだ大きく揺れているのですがレンはそれをものともせず手摺から身を乗り出して波を見つめます。
「クオン様、危ないですよ!お下がりください」
船員が慌てて静止しますが、レンは構わずに聞き返しました。
「今、歌が聞こえてこなかったか?」
「歌?あ、そういえば女の声みたいな音が聞こえたような気がしましたが」
「どちらの方から?」
「こっち…かなぁ……でも、風の音じゃないんですか?だって女の声が聞こえるわけ…」

その時、風の音にのってまた歌声のような音が聞こえてきました。レンと船員は思わず目を見合わせます。
レンは手摺から落ちそうなぐらい身を乗り出すと、波間に何かを見つけました。そして、無言で靴を脱ぐと躊躇なく海へ身を躍らせます。ざぶん、としぶきを上げてレンの体が海中に消えました。

「わああぁぁぁ!クオン様!!」
船員が驚いて叫ぶと、周りにいた男たちが何事かと振り向きました。
「クオン様がう、海に!」
「また落ちたのか?」
「違う、飛び込んだ!!」
すでに波も雨もだいぶ落ち着いていたので、船員たちはわらわらと右舷へ集まってきました。先日レンが落ちたときは夜だったので探しようがありませんでしたが、今は昼。雲が垂れ込めて暗くとも、海面を見渡す事はできます。

「あそこだ!」
1人が指差した方を見ると、レンらしき黒い頭が波間に浮かび、懸命に泳いでいるのが見えます。とりあえず無事だとホッとしながらも船員たちはなぜレンが飛び込んだのか不思議でなりませんでした。

しかし、理由はすぐに分かりました。
「あれはなんだ?」
1人が目を細めて身を乗り出しながら言います。その視線の先にはレンの姿があり、さらにその向こう、どうやら人が海から顔を出しているようです。栗色の頭がレンの方へと動いているのが見えました。


「レンさん!何てことするんですか!!」
自分の体を支えながらオロオロと叫んだ声にレンは答えようとしましたが、うっかり海水を飲んでしまってげほげほと咳き込みました。
「何って…君が見えたから」
「理由になってません!まだ波も高いんですから、無理したらダメです」
驚き困った顔をしてレンをたしなめたのはキョーコでした。自分は波をかぶろうが沈もうが平気ですが、レンは下手すれば死んでしまいます。懸命にレンを船へと戻そうとしますが、レンはまったくそのつもりがないようです。

「だけど…俺がこうしなければきっと、君は姿も見せずに船を見送ってただろう?」
キョーコは口をつぐんでしまいました。レンの言っている事は確かに正しいのです。自分は沖までずっとレンの船を追ってきましたが、船が無事に嵐を越えた事を確認したらそのまま帰るつもりでした。レンが無事でいてくれたらそれでいいと思っていたのです。

「やっと分かった。やはり君は、海を鎮める歌を歌えるんだね。そして、その歌で俺を助けてくれたのは君だ。今日もこの間も、それから10年前も」
「じゅ、10年前?」
「そう。俺前にも話したよね。人魚に命を救われたって。あれは絶対に君だ」
「私、あなたを助けた事なんか…」
「10年前、まだ君が幼い子供だった頃だ。俺ももちろん子供だった。君は小さいとき、髪の色が黒くはなかった?」
キョーコの胸がどきりと鳴りました。
人間を助けた事、確かにまだかなり小さい時に一度だけありました。その時の経験から、キョーコは人間に近づかなくなったので間違いありません。けれどそのときに助けた男の子は…

「君の髪が栗色だから今の今まで考えてなかった。けど、俺もその時は金髪だったんだから髪の色が変わることだってあって当然だったんだ」

金髪?まさか??

キョーコは目をまん丸に見開いてレンの顔を見てしまいました。


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