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海と陸の物語 (3)


こんばんは!ぞうはなです。
ちょろりと家人の目を盗んでの更新です~
ごめんなさい、拍手お礼記事は明日書かせていただきます!

てことでとりあえず続きー。





キョーコと出会ってから4日目の朝。

レンは昨日までと同じ場所で朝日が昇るのを眺めながらキョーコを待っていました。今のところキョーコは毎日姿を見せてくれているため、キョーコがやってくる時刻よりも早めにレンが岩場にいるのは日課のようになりつつあります。
キョーコが来てくれるだろうかと考えると気がせいてしまうのもありますが、ルリコ王女の早朝の散歩が日課になっているので、海岸の道でばったり出会って付きまとわれることを避けるため先に姿を隠している、という理由もあります。

少しずつだけど…慣れてきてくれてるよな?

レンは自分に問いかけてみました。

毎日違った花を持参してキョーコの髪に挿し、たわいもない話をして。
ようやくキョーコはレンに対して笑顔を見せるようになりましたし、口数も少しずつではありますが増えてきました。人間に対しての恐怖や怒りがあるのは過去の経験からでしょう、完全に取り払うのは難しいでしょうが、レン個人に対しては警戒心を緩めてくれているように見えます。
その証拠に、昨日はレンがキョーコの隣の岩に腰掛けても避けたり嫌な顔をされることもありませんでした。

人魚はレンが考えていたよりもずっと、人間に近いようでした。
言葉の理解は完璧ですし、人間の暮らしぶりについても伝聞ではあるものの、おおまかなことは把握しているようです。海の中の暮らしには独特な文化があり、人間には無い不思議な儀式や神秘的な慣わしがあるようでした。

レンは毎朝ここでキョーコに会うのを楽しみにしていました。
最初に「気が向けば」と言われていたので、毎日姿を現すまでは少し気持ちが落ち着きませんし、沖から波が近づいてくると顔がほころんでしまいますし、自分の話を興味深げに聞いてくれるとずっと話をしていたくなります。

人魚に魅入られるってたまに聞くけど、こういう事なのか…?

人魚を調べようと海に乗り出して帰ってこなかった人の話は枚挙に暇がありません。
レンはそのことを思い出して自戒しつつも今朝もいそいそと岩場に来てしまっていました。そしてやはり、沖から波が近づくと自然と笑みがわいて来てしまったのでした。


「泳ぎ方、ですか?」
「うん。どういう風に泳いでどれくらい速いのかなって思って」
「あんまり意識したことありませんけど…」
今朝も交わされる会話の中、レンに振られた話題にキョーコは考え込みました。
自分は人魚の中では泳ぎの達人と言うほどではありませんが、人間に比べたらまったくその質は違うはずです。
「一緒に泳いでみてもいい?」
「え、レンさんがですか…?」
うん、と頷くとレンは上着とシャツを脱ぎ、靴も脱ぎ捨てて海へと飛び込みました。キョーコが呆気にとられている内に、レンは抜き手を切って少し沖へと進むと笑顔でくるりと振り返ります。
「おいで」
呼ばれて、キョーコは笑みをこぼすと頭に挿したピンクの花を傍らの石の上にそっと置きました。それからしぶき1つ上げずに水にするりと入ると、ぐんと尾びれを一振りしてあっという間にレンの隣に並びます。
「やっぱり間近で見ると本当に速いな」
感心したようにレンがこぼすと、キョーコも笑いながら言葉を返しました。
「私も驚きました。レンさんって泳ぎお上手なんですね」
「え、どうして?」
不思議そうに聞き返したレンに、キョーコはおかしそうに笑います。
「だって、船から落ちて気を失ったってことは、泳げなくて溺れたのかなって」
「ああ…」

レンは恥ずかしそうに目をそらしました。
「この前は…船のマストをたたんでて、風で煽られたロープでこの辺を激しく打ったんだ」
レンは首の後ろをさすってみせます。確かにそこにはうっすらと赤い跡が残っていました。
「目の前が真っ暗になって甲板から転げ落ちた…と言っても、あの嵐の高波の中じゃ、意識があってもやっぱり溺れていたかな」
「そっか…水の中で息が出来ないと波を避けて潜るのも無理ですね…」
「潜るのも得意?」
「出来ないと家に帰れません」
「それはそうだったね」
それから2人は潜り始めました。キョーコの方がもちろん水の中では自由に泳ぎまわれるのですが、レンも負けじと海の底の貝を拾ってみせたりします。

しかしレンは目の前をふわふわと泳ぐキョーコに目を奪われていました。
朝日が差し込む海の中、キョーコの鱗はキョーコの泳ぎにあわせるようにキラキラと光り、長い髪は水に漂い、表情は生き生きとしています。そのむき出しの肌も水の中ならばそれが当たり前のようです。

度々息継ぎのために水面に上がらなければいけない自分が間抜けに感じられるくらい、レンはずっと水の中でキョーコを眺めていたいと言う気持ちになったのでした。


ざばぁ、と音を立ててレンの頭が水の上に浮上して来ました。
ようやく岩場に取り付いて上半身を持ち上げると、大きく肩で息をします。泳ぎは得意な方ですが、ずっと息を止めて潜ることを繰り返していたためレンはかなり体力的に消耗していました。

あとから顔を出したキョーコが心配そうにレンに近づきます。
「大丈夫ですか?」
はあはあと荒く息をしていたレンですが、大きく深呼吸をして息を整えると笑顔で頷きました。
「大丈夫。ああ、こうしてみると人間って水の中ではなんて役に立たないんだろうね」
レンの顔をじっと見つめてキョーコはぽつりと言います。
「人魚は海の中では速いですけど、陸に上がったら水の中の人間よりもっとひどいですよ」
「そうかな?でも人魚は水から上がっても苦しくなったりはしないよね」
「息は出来ますけど…」
レンが体を海から引き上げて岩に座ったのを見ると、キョーコも隣の岩の上に飛び上がりました。
「水からずっと離れていたら干からびてしまいますし、陸の上じゃ移動も出来ません…」
「そうか…」
「はい」
キョーコの表情がどこか寂しげに見えて、蓮は不思議に思いながらもキョーコに笑いかけました。
「人間も海では生きられないからね。それぞれ住む場所にうまく適応した体に進化してるんだ」
「そうですね…」


このお花も海に入れちゃうとすぐしおれちゃうのよね…

キョーコはだいぶ陽が高く昇ってから、すみかである海の底に向かってゆっくりと潜っていきます。
レンにもらった花は綺麗ですが、海の中に持ち帰るとほどなく散ってしまいます。手の中でゆらぐピンク色の花を残念そうに見つめながらキョーコは海の底に辿り着いたのですが。

「キョーコ、ここのところ毎日どこに行ってるの」
「も、モー子姉さん!」
キョーコは慌てて振り返りました。咄嗟に手を体の後ろに回し、花を相手の目から隠すようにします。

険しい顔で腰に手を当てているのはキョーコの姉であるカナエでした。姉と言っても一緒に生活する家族の中で年が近いというだけで、血はつながっていますがキョーコの直接の姉ではありません。
カナエは長い黒髪を優雅に漂わせ、白い肌は透き通るような大人っぽい美形の人魚です。

「…人間に近づいて、痛い目見るのは自分だって分かってるでしょう」
「……見てたの…?」
少し肩を縮めて、キョーコは上目遣いでカナエの様子を伺います。
「こそこそと人目を盗んで出かけていくんですもの、見なくたって分かるわよ」

「…ごめんなさい」
しゅんとして謝るキョーコに、カナエはひとつ呆れたように息を吐き出しました。
「あんただって分かってるんでしょ?人間なんて野蛮でひどい奴らだって」
「で、でもモー子姉さん…」
「でももだってもないわよ!」
「う……」
ぴしゃりと叱られ、キョーコはますます小さく竦み上がりました。
「忘れたの?キョーコ。あんたも私も今まで何回捕まりかけた?捕まったが最後、不老長寿の妙薬だとか言って殺されて食べられちゃうのよ!」
普段であれば真っ青な顔で震えあがるキョーコが、カナエの言葉を聞いても今日は唇を噛んでじっと黙っています。
「でもその…人間の皆が皆そういう人ばかりって訳じゃ…」
「またそうやってすぐ他人を信じる!あの男があんたを油断させようとしてるって、そうは考えないの?」

カナエの言葉にキョーコは顔をがバリと上げました。
「やっぱり見てたのね」
「当たり前よ。あんなに人間と仲良くして。もう、その神経が信じられないわ!」
「でもレンさんは私を捕まえようとか食べようなんて思ってなくて…!」
「何にせよあんな野蛮な奴らのところにあんたがノコノコ出かけていくのをハイそうですかって見守る訳にはいかないのよ」
「モー子姉さん……」
カナエは怒った表情ですが、自分の事を心配してくれている事はとてもよく分かるので、キョーコは何も言えなくなってしまいました。

「あんたはしばらく朝出かけるのは禁止よ。いいわね!」
キョーコは手の中の小さな花をそっと握りながら、小さく頷くしかありませんでした。


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コメントコメント


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あら〜

仲良くなって来たのに外出禁止ですか
(>人<;) モー子さん、ひどい。
ワンピースに出てくる人魚は年を取ると尾が割れて二足歩行してますよね、きょこちゃんは割れて欲しくないなぁ〜(笑)
続き楽しみにしてます‼︎

ケロ | URL | 2014/10/22 (Wed) 09:59 [編集]


Re: あら〜

> ケロ様

モー子さん、しっかりキョコさんの行動チェックです。
ワンピースの二足歩行人魚…ココロばあさんですね!
尾が割れる割れない以上に、あの強烈なキャラが一気に押し寄せてきてしまって「キョコさんああはならないで!」と思ってしまいました…!

ぞうはな | URL | 2014/10/22 (Wed) 20:12 [編集]


モー子さんは心配性…でしょうかねぇ
でも出禁を言い渡され、キョコさんは律儀にしたがっちゃうんでしょうね。そして蓮さんはもやもや…。
会えない時間が自分の気持ちの整理や気付きに繋がるんでしょうか?

霜月さうら | URL | 2014/10/22 (Wed) 20:44 [編集]


Re: タイトルなし

> 霜月さうら様

モー子さんは心配性なんでしょうねえ。
キョコさんの純粋さやひたむきさを知っているからこそ気にかけているのかもしれません。
そしてそう、キョコさんはおどおどと律儀に言う事聞いてしまいました。

会えない時間に整理できるといいんですけどどうもキョコさんは考え過ぎてしまう節がある?
前途多難でございます…

ぞうはな | URL | 2014/10/23 (Thu) 22:39 [編集]