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海と陸の物語 (1)


こんばんは!ぞうはなです。
すっかりご無沙汰してしまいましたーー。(一週間ぶり!)

他のリクエストのお話がなかなかうまくいかなくて、こっちを先にする事にしました。

本日は2周年リクエストで、あひる様、イチゴ様のリクエストを失礼ながらひとつに融合させていただきました。
あひる様のリクエストは「パラレルでおとぎ話ベースの王子様やお姫様が出るお話」、
イチゴ様のリクエストは「コミックスの中表紙にあったような人魚姫関連のお話」。

ということで、おとぎ話「人魚姫」を題材にしたパラレルとなります。
すでにあちらこちらのマスター様が題材にされていますが、なにか被りがあったらごめんなさい!

いつも通り、おとぎ話のベースはどっかにうっちゃってます~~。
さてまた何話になるか不明ですが、いってみまーす。





それはある夜のことでした。

突然に起こった嵐の中、一隻の客船が陸に向かって進んでいました。船は大きく頑丈で豪華でしたが、荒れ狂う波の中では小さな木の葉のよう。船の上では乗組員たちが懸命に大きな声で指示を飛ばし、走り回り、船を立て直そうと努力しています。
ようやく陸の明かりが見えてきて乗組員たちが少しだけホッとした直後、一際緊張した大声が甲板に響き渡りました。

「お、おおおぉい!レン様が落ちたぞ!!!」
「なに!どこだ!」
「右舷だ、右舷!」
「だめだ、暗くて見えないぞ」

乗組員たち数名が甲板の手摺に寄りましたが、下手すれば自分も落ちかねない上、今は船を沈没させないことで手一杯です。必死に目を凝らしますが暗く荒れた波間には何も見えず、彼らはどうすることも出来ずにともかく懸命に船を操りました。

しかし乗組員たちが目を離したすぐあと、荒れ狂う海面には銀色に光る鱗が波を縫うように現れました。
その姿は波に飲み込まれかけている1人の男に近づくと、その体を下から支えます。
「あら…水飲んじゃったのかしら……気を失っているわ」

波間に顔を出したその人物はぽつりと呟くと周りを見回しました。その顔は少しあどけなさの残る少女のものです。
船はなんとか姿勢を保ったまま陸に近づいています。もう少し進めば浅瀬になるため、そちらは心配なさそうです。
しかし自分が支えてみた男は、遠目では分からなかったのですがえらく大きな体を持っているようです。荒れ狂う波の中で1人では平気でも、自分よりふた周りほど大きなこの体を抱えていくことはさすがにだいぶ難しそうでした。

「かといって…うっかり助けちゃったのにこのまま放置して溺れさせちゃうのも可哀想だし…」
ううむ、と考え込んだのち、少女は自分に言い聞かせるように決心しました。
「うん、ちょっとくらいの手助けならしてあげてもいいわよね。うん、命だけ、命だけよ」
そう言うと海面から出した顔を気持ち上に向け、じっと目を閉じます。少ししてその口からは不思議な美しいメロディが流れ出しました。
荒れ狂う風と雨の中でもメロディは不思議なほど響きます。
そしてまもなく風と雨は弱まり、波の高さも先ほどの1/3くらいになってきました。
「うん、これくらいなら大丈夫」
歌を止めた少女は頷くと、気を失った男の顔が水面から出るように気をつけながら船の後を追うように泳ぎだしたのでした。


「た、助けるんじゃなかったかも……」
嵐はすっかりやみ、すでに空には月や瞬く星がたくさん出ています。
後悔のつぶやきは海から顔を出した少女の口からこぼれ出たものでした。少女は男の体を支えたまま海岸までたどり着いていました。少し向こうの港には、先ほど男が落ちた船が停泊の準備をしているのが見えます。
少女は肩に担ぎ上げて支えていた大きな体をそばの平らな石に仰向けに寝そべるようにそっと下ろすと、大きく息を吐きました。おろした男の体は下半身がまだ海に浸かったままでしたが、少女はそれは諦める事にしました。
海は温かく、これから潮は引くはずですし、放っておいても男の命を脅かすようなことはないでしょう。なによりも、少女には石に上がって男の大きな体を引っ張り上げるようなことはできっこありません。

少女は自分の顔を男の顔に近づけました。
月明かりだけではあまりよく見えませんが、男は黒い髪をもち、なかなか整った顔をしているようです。
しかし少女は特に顔の造作には興味を持たず、男の呼吸が安定していることを確かめました。

「さて、ここまでしてあげれば十分よね!お姉さまに怒られない内に帰らないと!」
少女は身を翻すと軽くジャンプして頭から海に飛び込みました。指先から続いて腕、頭、むき出しの背中…そしてその後きらりと光って海の中に消えたのは、銀色の鱗に覆われた下半身と半分透き通った大きな尾びれでした。


嵐が過ぎ去った後の夜明け、海岸沿いの道には着飾った1人の少女の姿と、それにぞろぞろとつき従うたくさんの人の姿がありました。
少女の頭上には従者によって美しい刺繍で飾られた大きな日傘がかかげられ、朝日の光から少女を守っています。

少女はこの国の国王の一人娘であるルリコ王女でした。
王女は美容と健康のために毎日散歩をするのがいいと侍従医から言われ、ここのところ散歩を日課としているのです。最初は城内を歩いていたのですがすぐに飽きてしまい、最近ではこの海岸沿いの道がお気に入りです。ただ、王女はその透き通るような白い肌が自慢だったため日焼けを警戒して、日の出くらいの時刻に日傘付で外に出ることにしていました。

ふわふわの羽根がついた扇子を持ち、日傘の下を歩いていたルリコ王女はふと何気なく視線を海の方にやって、磯に倒れている男性に気がつきました。
「あらやだ、誰か倒れてるわ」
眉をひそめた王女の声に一行が目をやると、確かにそこには1人の男性が仰向けに倒れています。
王女がそちらに向かって歩き出したため、従者達は慌てて男性へと近づきました。従者達は男が死んでいるかと思ったのですが、声をかけると男はうめき声を上げて目を開けました。
「ここは……」

男は体を起こして陸の方を振り返りました。
男が振り返った、ちょうどその正面に歩み寄っていたルリコ王女は驚きました。
男は艶やかな黒髪を持ち、切れ長の目、すっと通った高い鼻、形のいい唇、シャープな輪郭と、どれをとっても驚くほど美しくそれでいて男らしくきりっとしていて、しかもがっちりとした体つきです。
海に半分浸かっていた為頭も着ているシャツもびしょびしょでしたが、それがまた"水も滴るいい男"を体現していて、ルリコ王女はなにげなく前髪をかき上げた男にほうっと見惚れてしまいました。

「助けていただいてありがとうございます」
男が膝をついて礼を述べたため、ルリコははっと我に返りました。
「べ、別に…!」
男に微笑みかけられ、ルリコはそっぽを向いて扇子で赤くなった顔を隠します。ルリコ王女の横では、やや険しい顔の侍従長が男に問いただしました。
「貴殿はなぜこんなところにいるのだ?遭難者か?」
男は微笑みを浮かべたまま、ちらりと周囲を見回しました。そして、少し離れた港に停泊している船を確認すると視線を戻します。
「このようななりで大変失礼いたしました。私、レン・ツルガと申します。あの停泊中の船に乗っておりましたが、昨晩の嵐で船から投げ出されまして」
一同はどよめきました。この辺りの海域は急に天候が悪化して大嵐になることがたびたびあるのです。昨夜もかなり大波が立ち、あの波の中に投げ出されて生きて岸までたどり着いたことは奇跡に等しいと思われました。

それに侍従長には気になることがあります。眼鏡を直しながら慎重に尋ねました。
「あの船は、海向こうのヒズリ国の王子の船だと聞いております。そして昨晩遅くに王子がまさに海に投げ出されたと。まさか貴殿は…」
侍従長の言葉に男は首をすくめると苦笑しながら答えました。
「ああ、ご迷惑をおかけしておりましたか…あなたが予想されたとおり、私はヒズリ国のクオン・ヒズリです。しかし今回の寄航は王子としてではなく職務のため、今の私はレン・ツルガなのです…どうぞ、ご内密にお願いいたします」

「クオン王子は金髪でいらっしゃいませんでしたか…?」
直接会ったことはないけれど、海を挟んだ向こうの大陸の王子の話はルリコの耳にも入っています。ルリコ王女が不思議そうに尋ねると、レンは笑いながらその形のいい唇に長い人差し指を当てました。
「ええ、ですが色々と面倒が多いので調査の時はこのなりです」
そしてレンは王女一行に助けてもらった礼を丁寧に述べると、船に戻るからと辞去しました。レンの笑顔と所作にすっかりのぼせ上がってしまったルリコ王女はそれでも何とか、あとで王宮を訪ねてもらう約束を取り付けてレンを送り出したのでした。


もう少し太陽が昇って王女がお城に戻ったころ。
レンが倒れていた浜辺の少し沖合いの穏やかな波の間に、チャプンと音を立てて頭が1つ浮かび上がりました。
岸からはあまり見つけられないその距離から、二つの瞳はきょろきょろと浜辺の様子を伺います。どうやらそこには何も無い様子。
波間に浮かんでいた頭はその辺りに人気が無いことを確認すると滑るように磯の大きな岩に近づき、水から跳ね上がるようにしてその全身を現しました。
岩に座ったのは1人の人魚。長い髪を無造作にたらし、自分の尾で水をぱしんと巻き上げてあたりに虹を作ります。
「いないってことは、目が覚めて戻ったって事よね?」
人魚が座った岩は大きな岩に遮られ、浜辺から見通すことは出来ませんが逆に浜辺の様子を見ることもできません。しかし港には昨日嵐にもまれていた船が停泊しているのが見えますし、男の姿が消えているという事は意識を取り戻したという事でしょう。これ以上心配することは無いはずです。
「そうよ、私が気にすることじゃないじゃない、人間なんて!」
思い切るように人魚はもう一度尾を思いっきり振りました。水しぶきが跳ね、虹ができてあっという間に消えました。

人魚は昨夜、なんとなく嵐にもまれた船の様子を見に行っていました。
別に何をするつもりも無かったのですが、ついうっかり人間が海に落ちるのを目撃してしまい、気がつけばその体を支えて助けていたのでした。
人魚は過去の経験から、人間全般に対してあまりいい感情を抱いていませんでした。ただ一組の親子を除いては。
なのになぜ、溺れそうな男を助けてしまったのか、自分でもよく分かりません。

「別に偶然よ。だって人間なんて、嫌いだもん」
ぽつりと呟いた途端、からり、と岩の向こうから石が落ちる音がして、人魚はハッと振り返りました。
岸から見えないからと気を抜いていました。しかし今の音は明らかに……
やはりそこには人がいました。少し長い黒髪の男が、驚いた顔で岩の向こうから顔を出しています。

「君は……」
話しかけられて人魚は慌てました。しかし海に逃げようと視線を転じ腰を浮かしかけた瞬間、「待ってくれ!」と大きな声で呼びかけられ、びっくりしすぎて動きを止めてしまいました。
「待って、何もしないから!」
人魚は不安げな顔で男を見ました。無意識にじりりと体が後ずさりします。
気がつけばいつの間にか男は大岩を越えて人魚の座る岩に続く岩場の上に立っています。これ以上近づかれたらどうしよう、と人魚が思っていると男は少し離れた岩の上で足を止めて膝をつきました。
「驚かせてゴメン。俺は昨日、沖で嵐に巻き込まれて船から落ちたんだ。そして、誰かに助けられてここまで運んでもらった。誰が助けてくれたのか、もしかしたら俺が倒れてたこのあたりに来れば分かるかもしれないと思って…」
怪訝な表情で自分を伺う人魚を見て、男は途中で言葉を止めました。

そのまましばらく考えて、男はもう一度口を開きます。
「君は、俺の言葉が分かる?」
人魚は固い表情のままこくりと頷きました。
男はそれを見るとホッとしたように表情をほころばせました。
「よかった。俺はレン・ツルガ。君の名前は?」

「…キョーコ」
人魚のキョーコにとって、人間と言葉を交わしたのは実に10年ぶりのことでした。


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コメントコメント


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きゃ~っ

人魚のお話ですねっ!
今回は最初からクオン王子、レンさんとビジュアルも名前も使い分けてるのがオープンになってて、どんな設定が隠れてるのか楽しみですー!
一話目からなぞもたくさん…続きが待ち遠しいです。

霜月さうら | URL | 2014/10/15 (Wed) 23:51 [編集]


Re: きゃ~っ

> 霜月さうら様

始めちゃいました、人魚のお話ー!
はなっからおとぎ話っぽさが薄いですが、始めちゃったからには突っ走りますー。
どうもうちの王子様は悪事を企んでいる(?)時は黒髪でレンを名乗る傾向が…

ぞうはな | URL | 2014/10/16 (Thu) 21:49 [編集]