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おぼろづき (9)


こんばんは!ぞうはなです。
最終話、まただいぶ長くなりましたがなんとか終わりまでこぎつけましたー。
ちょうど今日は満月の皆既月食でしたね。

さてさて風月様、とっても素敵なリクエスト、本当にありがとうございました~~。





「逆に…疲れちゃったかも……」

ぐったりとキョーコは病院の玄関を出た。
大きな病院であれこれと色々な検査を受けたため、すっかり日が落ちてしまっている。待たされながら複数の検査を受けるのはかなり疲れることで、それでも今日分かった範囲では何も異常がなかったので、とりあえずはよかったかな、とキョーコは前向きに捉える事にした。

病院のアプローチを歩きながら見れば、道にはひっきりなしに車が行きかい歩道は街灯に照らされて明るい。
当たり前の光景が当たり前に受け取れず、キョーコは少し考えにふけってため息をついた。

敦賀さんも「戻れたみたいだ」って言ってたし、あれは私の夢じゃなかったのよね?
だって敦賀さん、コンタクト外れてたし…

けれどスタッフに助け出されてみれば蓮が持ち出したはずの本物の刀は蓮の腰にはなく、館に置いて来たはずの模造刀が近くに転がっていた。履いていたはずの草鞋もなくて、つまりは「戻ってきた」と思ったものの、向こうの世界で持っていたはずのものは無い状態で2人はセットの瓦礫の下から引っ張り出されたのだ。

同じ夢を2人で見てたの?

それだって普通に考えればありえないことだが、タイムスリップよりはまだ現実味があると思う。
けれど蓮と数日に渡って逃げたあの山や里は夢と断言してしまうにはあまりにも生々しく記憶に残っている。風景だけじゃない。口にした食べ物の味、炎に照らされる中でのあの経験だって…

キョーコは自分の顔が熱くなっている事に気づいてプルプルと頭を振る。
蓮はどうしてるだろうかとふと思い、顔を上げたところでキョーコは近づいてくる人影に気がついた。

「お疲れ様、検査どうだった?」
「お、お疲れ様です!あのはい、お蔭様で異常なしでした!」
声をかけてきたのは蓮だった。ここ数日ですっかり見慣れた着物姿ではなく、ジャケットを着たこれこそいつもの蓮のスタイルなのに逆に新鮮に思える。
そして、すでにコンタクトを入れなおしたのだろう、蓮の瞳は黒に戻っていてキョーコは少しの安堵を覚えてしまう。
「そうか、よかった」
「本当に…庇っていただいてありがとうございました。あの、敦賀さんの方は…」
「ああ、俺も異常なし。痛くもかゆくも無いしね」
「そうですか…よかったです!あ、あの、もしかして待っていてくださいましたか?すみません、私そうとは知らずに…!」
ほっと胸をなでおろしてからぎょっとして顔を青くするキョーコを、蓮はじっと見つめる。
その表情がやや怒っているように見えて、キョーコはたちまち居心地が悪くオロオロとしだしてしてしまった。

「あの…敦賀さん、怒ってらっしゃいますか…?」
こうなるとキョーコにはなんとか蓮に機嫌を直してもらうしかない。おそるおそる、遠慮がちに聞いてみた。
「ああ、いや…怒ってはいないよ」
蓮は否定で返したが、そのまま言葉を継いだ。
「怒ってはいないけど、ちょっと他人行儀だなって思ってね」
「たにんぎょうぎ?」
キョーコは訳もわからずオウム返しに聞き返す。蓮は苦笑に近い笑みを浮かべた。
「他人行儀だよ。俺はもう、ただの先輩じゃないつもりなのに」
ぼふん、と音を立ててキョーコの顔全体が真っ赤になった。それから少し考えて、おずおずと声を出す。
「あの…本当に、夢じゃない…んでしょうか」
「ああ。俺はそう思ってるけど。…そうじゃなきゃ、俺と君が同じ経験をしたことの説明が出来ない」
「でも、刀とか草鞋とか…あの山の中で持っていたはずのものが全部消えていて」
「そうだね…俺もそれは不思議だったけど。俺たちがこっちに帰ったのと同時に、あるべきものがあるべき場所に戻ったのかもしれない」

まだ少し自信が持てない顔で自分を見るキョーコに、蓮は両手の手の平を見せた。
「これ見て。明らかに山の中を歩いてるときについた傷だ」
覗き込むと、指の節や手の平に細かい擦り傷や切り傷が複数ついている。確かに日常生活でこんな傷がつくようなことは考えにくい。
「それに、君にもあるはずだ」
にっこりとエセ紳士の笑顔になった蓮をキョーコは訝しげに見た。
「何がですか?」
「この辺」
蓮は自分の胸の上辺りを親指でとんとんとつつく。
「俺が付けた跡、気がつかなかった?」
「つけた跡……?」
訳が分からないという顔で、キョーコは無意識で自分の胸の上、蓮に示された場所を手で押さえた。

「あの夜、ふと印をつけたいって衝動に駆られて。一応見えない場所にしたんだけど」
「あの夜って…!もしかして…」
「そう、それほど強くはして無いけど、まだそんなに時間が経ってないから残ってるはずだよ。君はそれどころじゃなかったから気がつかなかったかな」
「な、な、な…」
「帰ったら見てみて。…いや、君がよければ一緒に確認してもいいよ」
「ご、ご遠慮申し上げます!」
「…ほら、他人行儀だ」
「そういうのは他人行儀とは言いません!」
はは、と軽く笑ってから蓮は表情を改めた。少し恥ずかしそうにふくれていたキョーコも蓮の表情の変化に気がついて不思議そうに蓮を見る。

「だから…あの数日間の出来事は、俺にとっては夢じゃない。現実だ」
「はい…」
「俺の言った言葉も誓いも、そのまま受け取ってもらいたい」
「……はい。あの、私も同じです」
ぽそぽそといつもより少し小さい声でキョーコは答えた。その自信なさげな様子に蓮は笑みを浮かべる。
「もちろん、君が色々聞きたい事があるって言うのは忘れてないよ。けど話し出すとすごく長くなるし、まだ俺自身整理がついている訳じゃないから…順を追ってでいいかな」
「は、はい!もちろんです!」
今度は少しホッとした様子でキョーコは頷いた。

蓮の気持ちを聞いて自分も打ち明けてしまって、そしてあんな状況になってすぐに元に戻ってきて…あわただしすぎてゆっくり考える事も出来ずに混乱の坩堝にいる。こうやって改めて蓮から確認の言葉がもらえて嬉しいのは確かだ。
けれどそう、蓮の事情がまだ分からず、そのあたりのもやもやがどうしても解消しない。何よりも蓮とコーンの関係が気になって仕方ない。何を言われても蓮への気持ちが揺るがない自信はあるのだが、でもやっぱり。

「とりあえず、俺も君も今日は上がりだから送るよ」
「ありがとうございます。あ、でも敦賀さん車…」
「そう、スタジオに置いて来ちゃってるんだ。けどここからそんなに遠くないし…」
そういうと蓮はすっと手を出した。
「山の中歩くよりは楽だと思うし、車まで一緒に歩いてくれるかな」

差し出された手は先ほど見たとおり傷だらけだ。それはスタイリッシュな出で立ちの蓮の姿とは不釣合いで。
それでもキョーコは蓮の手を見つめて思う。

この手があの数日間ずっと、自分を引っ張ってくれた。励まして、守ってくれた。
あの極限状態で気持ちが揺るがないほど頼もしく、優しく、強く。
きっとこの手はこれからもずっと…。

「はい」
キョーコが笑顔で差し出された手をつかむと、そのままキョーコは引き寄せられた。ぎゅっと強く抱きしめられてびっくりしたが、その体はすぐに解放される。
「うん、やっぱり夢じゃないよ。この感触、同じだ」
「そ、そんなの確認しなくても…」
「ここまでが夢だったら本当、がっかりするからね」

蓮は笑ってキョーコの手を引いたまま歩き出した。
キョーコは他人の視線が気になるが、幸いこのあたりは通行人も多くなく、蓮は帽子をかぶっているのでとりあえずよしとすることにした。追われる心配をせずに手をつないでゆっくり歩けるのがじんわりと幸せだ。
握られた手の感触を温かく感じながら、キョーコは空を見上げる。空の低い位置には少しだけ欠けた月がはっきりと見えた。
「こんなにはっきり見えるのに、月の光が明るく感じませんね」
「そうだね…こうやって改めて見ると、街が明るすぎるように思えるな。土の匂いも風の音も、あの世界の方が鮮明だったね」
「ほんとに」

じいっと月を見つめるキョーコの横顔を見ながら、蓮が尋ねる。
「むしろ戻らない方がよかった?人の目を気にせず一緒にいられるし」
キョーコも視線を蓮の顔に向けた。
「そ、それはあの…敦賀さんは平気なんですか?電気もない生活」
「キョーコがいればどこでも平気だよ。あんなに綺麗な朧月を一緒に見られるなら、あの時代の暮らしも悪くはないかな」
さらりと述べられた答えに、キョーコはおろおろと視線をさまよわせる。そんなキョーコを楽しそうに見つめながら蓮は付け足した。
「ああでも、一緒に寝るならやっぱりベッドの方がいいかな」
「ま、またそういうことを!」

すると何故か蓮は真顔になってぼそりと呟く。
「……大丈夫、しばらく自重するから」
「はえ?」
蓮は少し気まずそうにぼりぼりと頭をかいた。
「その…もしあの、そう言うことになったら全力で責任取るから……一応その、できるだけの対策はしたけど対策になってない気もするし…」
呆けたように蓮を見つめたキョーコの顔が一気に赤くなる。
「た、多分大丈夫ですから…!」
「でも全面的に責任は俺にあるから、絶対に隠したりしないでほしい。君との子供だったらすぐに生まれたって嬉しいんだ」
「ありがとうございます…」
キョーコは戸惑いつつも少し照れくさいような嬉しいような複雑な心境でお礼を言った。

2人はやがて撮影スタジオの駐車場に辿り着く。
車のドアを開けてもらいながらキョーコは月を見上げた。
「京子姫と久乃丞さん、ちゃんと逃げ切れたでしょうか」
蓮もキョーコの視線を追うように空を見る。
「大丈夫だよ」
それからキョーコの横から素早く顔を近づけるとそっとその唇に自分の唇を重ねた。
「なっ。敦賀さんっ?」
「俺達と京子姫たちの運命が似たものだったら…彼らの幸せを願うなら俺たちが仲良くすればいいんだと思わない?」
「そういうものでしょうか」
「そういうものだろう。って、関係なくても俺は君とずっと一緒にいるけど」
蓮はキョーコが乗り込んだ助手席のドアを閉めると回り込んで運転席に体を入れた。
「…もです」

「うん?」
キョーコの小さい声が聞き取れずに蓮は聞き返す。
「私も、ずっと一緒にいたいです。敦賀さんと」
「…ありがとう」
蓮は微笑んでもう一度キョーコにキスをした。
そしてそれから、車はゆっくりとなめらかに走り出したのだった。

(おしまい)





(ほんの少しのおまけ)
「でも敦賀さん…」
「"敦賀さん"は他人行儀だな」
「う……でもそれ以外に呼び方が……"コーン"…?」
「……ごめん。それは今はやめてほしい」
「大体敦賀さんだって、あの崖のところで私の事"最上さん"って呼びましたよ」
「ああ、咄嗟に呼ぶとそうなっちゃうのか。ごめんね、ちゃんといつでも"キョーコ"って呼べるようにするから」
「い、いいです別にそうしてほしいって訳では…!」
「遠慮しなくていいよ、"キョーコ"」
「も、もう……!」

ちゃんちゃん。

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コメントコメント


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面白かった~!

こんばんは。お話、すごく面白かったです!のんびりした里山の中にいても切れ味そのままではまる蓮さま、素敵です!キョーコちゃんも武家の姫様で、可愛いながらも凛としたところがあって、良かったです。
いわゆるパラレルではないけれど、時代物パラレルのような不思議な空間、しばし土のにおいや草木の香りを現代よりも身近に感じたお話でした。どうもありがとうございました。

genki | URL | 2014/10/08 (Wed) 23:38 [編集]


祝☆完結!!!!

とっっっっっっっても素敵なお話にして下さって本当に本当にありがとうございましたー!!!!
あと一話どんなお話なんだろうとドキドキしてたのです!本当に最後はほんわかなりました!!
持ち物はなくなってたけど、傷やキスマークは残ってるんですね(*´艸`)
二人だけの秘密の勲章ですね♪

リクエスト叶えて下さってありがとうございましたー!!

風月 | URL | 2014/10/09 (Thu) 00:52 [編集]


よかったです🎶

記憶があるまま戻れてよかったです。
時をかける少女では知世ちゃんの記憶は消されて切ない気持ちになりました。
2人の距離も縮まったし、さぁ次はどの時代に⁈(笑)

ケロ | URL | 2014/10/09 (Thu) 11:33 [編集]


Re: 面白かった~!

> genki様

わああい、ありがとうございますー。
蓮さん、どんな格好でどんな場所にいても「敦賀蓮」なんでしょうね。って、途中で久遠も混ざりましたが。
キョコちゃんも何だかんだで強いんですよね。とてもいいカップルだと思います!
実際は昔に戻っちゃったら文明の利器は何もなくて生活は大変なんでしょうけど、空気はおいしくて五感がフルに働きそうだな、と思いながら書かせていただきました~~。

ぞうはな | URL | 2014/10/09 (Thu) 20:10 [編集]


Re: 祝☆完結!!!!

> 風月様

ご期待に沿えましたでしょうかー?
もう、自分がお気に入りの書き手さんからのリクエストって本当にドキドキですね…
いただいた筋が完全に出来上がっていたので、ぞうはなはただなぞるだけでしたが。

傷もキスマークも含めて、2人だけの秘密でいきなり親密になったら社さんもビックリしそうですね。
本当にリクエストありがとうございました!!

ぞうはな | URL | 2014/10/09 (Thu) 20:13 [編集]


Re: よかったです🎶

> ケロ様

コメントありがとうございますー!
あ、「知世ちゃん」って言っちゃいましたね(最初の映画だ)

記憶無くなっちゃったら蓮さん勿体なさ過ぎですよね…
根性で思い出すに違いないですね。
次飛ばされたら2人でダメ息つきそうで、でもしっかり乗り越えそうです。

ぞうはな | URL | 2014/10/09 (Thu) 20:17 [編集]


完結おめでとうございます~

コメント乗り遅れですが、更新ごとにストーカーさせていただきました!
極限状態で一気に距離が近づいた二人(ええもう、ゼロ距離ですよね!)に狂喜乱舞し、現代に戻るタイミングも戻った後のやり取りも身悶えモノでした。

・・・・後日談的にいきなり親密というかヤリマシタオーラ出す二人に当てられる不憫ヤッシーとかうっかり妄想しちゃいますね♪

霜月さうら | URL | 2014/10/10 (Fri) 02:44 [編集]


Re: 完結おめでとうございます~

> 霜月さうら様

コメントありがとうございます~~!
ほんともう、一気に距離がゼロになりましたね…
身もだえていただけて本望です!

そう、落ち着いて考えてみればあの甘い数日間を過ごしたのは2人だけで、周りの人はセットが倒れた直後に助け出しただけなのに…いきなり甘甘モードになってたらびっくりですよねー。
後日社さんは「え、なんで?なんか…ええええ?」なんて言ってそうです。

ぞうはな | URL | 2014/10/10 (Fri) 20:35 [編集]