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おぼろづき (8)


こんばんは。ぞうはなです。
次で終わりますー!





男たちは刀を抜いて構え険しい表情を浮かべながらも、蓮に対して非常に警戒しているようだった。
「その目、お前やはり久乃丞だな…ば、化けおってなんと面妖な…!」
「やはり物の怪だったか!」
「京子様をこちらに渡せ!」
口々に蓮をののしるが、闇雲に切りかかろうとはしない。

蓮は黙って立っていたが、一同をゆっくりと見渡すと カツン、と軽く手にした長い棒を地面に打ちつけた。
男たちは音にぴくりと反応し、刀を構えなおしてじりりと間合いを計る。

「物の怪だと思っていながら向かってくるとは勇気があるな」
キョーコの耳に届く蓮の声には言葉とは裏腹な嘲りの色が混じっている。ここまで背が高く緑の目を持つ男に自信たっぷりに言われたら、普通の神経の持ち主ならば戦意を喪失するだろう。
しかし2人を追って来た男たちはそれなりに腕に覚えのある者らしい。一瞬その顔に恐怖が浮かぶが、それをねじ伏せて刃先で蓮を牽制する。

「京子様、その男に耳を貸してはなりません。すぐにお戻りになれば、お屋形様も今回のことは不問に…」
「私は戻りません」
最年長の男が視線を転じてキョーコに話しかけるが、キョーコはきっぱりと断った。
「なんと罵られようと決めたのです。私はその方から離れません」
姿勢をぴんと正したキョーコは少し強めの口調でぴしゃりと言い切る。何も言わずに久乃丞になりきってみた自分に即座に合わせてくるキョーコに、蓮は心の中で頷きながら笑みをこぼした。

「お互いのためにも、このまま戻って『取り逃がした』と報告してくれるのが一番だけど?」
「黙れ!数々の恩知らずな行い、その身であがなってもらうぞ」
蓮の提案を耳に入れることなく言い放ち、1人の男がゆっくりと足を運んで前に出た。
「やはり話し合いは無駄か」
蓮も表情を引き締めるとゆっくりと棒を両手で構える。

キョーコは姿勢と表情を崩さないまま内心では両手を合わせて祈っていた。
蓮の腰には館から出る際に見張りの男から奪った刀が下がっているはずだ。なのに蓮はそれを抜こうとはせず、長い木の棒を武器と決めたようだ。いくら長くしっかりしているとはいえ男たちが構える濡れたような光を放つ刃に歯が立つのだろうか。

前に出た男が足を踏み出そうとした瞬間蓮が動いた。
強く一歩を踏みこみ、目に見えないほどのスピードで棒の先端が綺麗な円弧を描いて男のいる場所をなぞる。男が棒の先をかわして体勢を立て直した時には間合いに蓮が飛び込んでおり、刀を振る間もなくしたたかにみぞおちを突かれて後ろに吹き飛んだ。

他の男が色めき立って刀を振り上げようとしたところにまた間髪いれず棒が振られた。攻撃の出鼻をくじくその見事なタイミングに男たちは表情をさらに険しくする。
「まだここを立ち去るのに遅くはないが、続けるか?」
「ふざけるなよ…!」
落ち着いて問いかけた蓮に、もう1人の男が怒りでふるりと震える。そして気合いを入れるように腹から雄叫びをあげ、刀を構えながら蓮へと踏み込んできた。
しかし蓮は男を避けることなく自ら間合いを詰める。男の真正面から一気に近づくと、まさに振られようとした刀の根元に棒を合わせた。棒から木屑が散るが、男の刀は完全に押し返されて男は体勢を崩す。

「敦賀さん、うし…」
叫んだキョーコの声は途中で止まった。
蓮の後ろから近づいたもう1人の男が刀を振り上げたところで、蓮は振り返りもせず棒を真っ直ぐ後ろに打ち込み、男の胸を打ってうずくまらせる。蓮の視線は完全に前の男の方へ向けられていたので、キョーコも打たれた男も「後ろに目がある!?」と驚きおののくほどだった。
しかも体勢を立て直した前の男が攻撃に転じる前に棒は蓮の手に戻り、やはり攻め入る隙はない。


すごい…敦賀さん…
確かにカインの時も身のこなしや喧嘩慣れがすごいと思ったけど…相手が日本刀持ってる武士でも関係ないの?


その姿が圧倒的な存在感をもって見える。この場で抱くには不謹慎だと思われそうだが、信頼感と安心感と色々な感情が湧いてしまってキョーコは胸が苦しくなった。

しかし、完全に蓮と対峙する2人の男に意識を奪われていたため、キョーコは自分の身に危険が迫っていることに気付かなかった。
2人の前に姿を現さなかったもう1人の男がこっそりと林の中を潜んで進み、キョーコのいる木の横の藪から急に飛び出してくる。刀を抜き恐ろしい形相で自分へ向かってくる男に、キョーコは悲鳴を上げた。反射的に向きを転じて開けた斜面の方に走り出す。

蓮もキョーコの悲鳴に振り返った。目の前の男にありったけの力で棒を打ち込んで転ばせると、全速力でキョーコの元へと向かう。
しかし蓮からのキョーコの距離は追う男とキョーコの距離より遠く、瞬間的に蓮は焦りを覚えた。

キョーコが斜面を滑り落ちるようにしながらそこにある木を回り込み、男がキョーコに手を伸ばした週間。

ずうぅん

腹に響くような低音とともに地面が震えた。
その場の全員の顔に恐怖がよぎる。しかしキョーコを追った男はすぐに気を取り直すと再びキョーコに追いすがり、キョーコはその手を逃れて斜面を下がり、石に足を取られた。
ちっと舌打ちをしてさらにキョーコを追おうとした男の体が横に吹き飛んだ。振動にも躊躇せず追いついた蓮が遠慮なく男の胴を横に蹴飛ばしたのだ。

男はもんどりうって倒れるが蓮はそちらは全く気にせずキョーコのみを視界に入れる。
「最上さん!」
呼びかけに顔を上げたキョーコが斜面をずり落ちながらも蓮の伸ばした手をつかもうと腕を伸ばした。

ずうぅん

2人の手が触れようとしたその時、再び大きい音が響いた。
蓮とキョーコの体は大地に弾かれるように宙に浮く。あまりにあり得ないその状況にパニックになりつつも、蓮は必死にキョーコの腕をつかんだ。
空を落ちながらもキョーコの体を抱え込み、更に素早く周りを見渡して手頃な枝を見つける。
一度枝をつかめば落下の衝撃が緩和できるかもと咄嗟に考え、キョーコの体を抱えた腕とは反対の腕を伸ばした。しかし、またもや振動が体を揺らして世界がぶれる。

「???」
枝をつかみ損なった蓮は違和感に気付いた。
すぐそこに地面があるはずなのに体は落下していく。そしてぐわんぐわんと大音量の耳鳴りが聞こえてきた。

まさかっ?

蓮は両腕で固くキョーコの体を抱きしめると目を閉じた。



「…京子ちゃん!京子ちゃん?」
「いくぞっ。せえのっ…」
「あっ、敦賀君!大丈夫か?」

もやがかかったような頭がすっきりしてくると同時に、口々に叫ぶ声が遠くから耳に入る。
瞼の向こうが明るくなったと思ったら体に乗っていた重みも取り除かれ、体の自由がきくことに蓮は気がついた。腕の中にしっかりと抱き抱えたものがもぞりと動いて、そういえばキョーコを抱えて落ちたんだっけと思い出し、それから自分の名前が呼ばれた事を認識する。

蓮はうっすらと目を開けて目の前を見る。木くずが散らかるのは木の床で、視線を下に移せば自分が下にしくような形で抱きかかえているキョーコの顔と外れて落ちているキョーコの長い髪のカツラとが目に入った。
その瞬間蓮は自分が撮影中のスタジオにいる事に気がついた。何よりもキョーコ以外の声で名前を呼ばれた事がその証拠だ。しかし同時に、この数日の出来事が夢であったと言う感覚にも陥る。
なぜなら今は、おそらく自分が倒れてくるセットの壁からキョーコを守ろうと、壁とキョーコの間に身を入れてかばったその直後だと思えるからだ。

「ここは…?」
腕の中のキョーコが呟いた。
「最上さん、大丈夫?」
「あれ…私……」
少し緩めた腕の中で体の向きを変えたキョーコは周りを見回して驚いた声を上げた。
「…元に戻った……?」
それからキョーコはハッとしたように蓮を見る。蓮は少し笑みをこぼすとキョーコに答えた。
「戻れたみたいだね」
その言葉を聞くとキョーコもホッとしたように表情を緩めて蓮を見る。しかしすぐに「あ」と声を出した。周りにはすでにスタッフが押し掛けて蓮の体に乗ったセットを次々とどかし、他のスタッフが2人に懸命に声をかけてきている。
キョーコは蓮に顔を近づけると焦ったように耳打ちした。
「敦賀さん、目を開けちゃダメです…コンタクトが!」
ああ、と蓮は頷くとその腕に力を込めた。
「ありがとう…やっぱりあれは、夢じゃないよね?」
「はい。夢じゃないですよね」
頷き合い、それからようやく2人は周りに助け起こされた。

「敦賀君大丈夫?」
「ああ、大丈夫です。ちょっと目にゴミが入って開けられないですが」
「体は?痛いところは」
「それは大丈夫です」
「でも念のため病院に…!」

「京子ちゃんは体は…」
「いえ、私は敦賀さんが庇ってくださったのでどこも何もないです」
「けどとりあえず検査は受けた方がいいよ」

そうしてその日の撮影は中断し、2人は病院へと向かうことになったのだった。

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コメントコメント


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きゃー!!

もうもうっ!!戻り方も素敵です!!
あの絶体絶命のピンチ状態でキョーコちゃんを何としてでも守ると抱き締める蓮様が素敵過ぎー!!

次回がラストなんですか?!京子姫と久乃氶がどうなったのかも気になりますー!!

風月 | URL | 2014/10/07 (Tue) 00:15 [編集]


ようやく

全て読ませてもらい、連載中のお話に追いつきました‼︎
時を超えるお話は大好物です、わたくし。時をかける少女も何回も見ました、古っっ(≧∇≦)
戻っちゃいましたね、、ちょっぴり残念(笑)
続き楽しみです。

ケロ | URL | 2014/10/07 (Tue) 14:11 [編集]


Re: きゃー!!

> 風月様

おお、戻り方OKですか?よかった…!
蓮さん、もうキョコさんしか見えてません!

次回、多分(←おい)ラストです~!
色々と決着が…着くのだろうか…

ぞうはな | URL | 2014/10/07 (Tue) 20:10 [編集]


Re: ようやく

> ケロ様

追いつかれましたか、たくさんお読みいただいてありがとうございます。
「時をかける少女」!だいじょぶです、リメイクもされてる事ですし。
戻らなかったら戻らなかったで蓮さん大暴走してキョコさんが可哀想な事になったかもしれません。
いや、どっちにしても可哀想なのかもしれません。
次回きっちり終われるように頑張りますー!

ぞうはな | URL | 2014/10/07 (Tue) 20:13 [編集]