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おぼろづき (7)

おこんばんは。ぞうはなです。
もう少し、お付き合いのほどを~~。




小屋に1人残されたキョーコは、引き戸が閉まる音を聞くと慌てて立ち上がった。
急いで着物を身に着けて帯を締める。身支度が整うとぺたりとその場に座り込み、両手で頬を覆った。

「なんでこんな事になっちゃったの…?」

自問してみるが、答えは出ない。
追っ手から逃げること、元の世界に帰ることだけ考えていたはずなのに、気がつけば蓮と越えてはいけない一線をかなりあっさりと越えてしまった。

だって敦賀さんが訳が分からない内に…

押し切られたのは確かだった。蓮の気持ちが聞けて胸がぎゅうっとなるほど切なく嬉しかったが、まさかその日のうちになんてそんなこと、キョーコはこれっぽっちも思いもしなかった。

『そんなに…嫌だったの?』

蓮の質問を思い出してキョーコは思わずぷるぷると首を横に振る。嫌悪を抱いたかと言えばそうではない。
驚いたし許されることではないと思う気持ちは今でもあるが、不思議と嫌ではなかった。蓮に求められること、それもどうやら我慢しようとしたけど我慢し切れなくて、というのは嬉しくもあった。

でも…
本当に敦賀さんが私を…?……やっぱり信じられない…
それに何より、敦賀さんってコーンなの?どうして?そんなことって…!

ごちゃごちゃと考え始めてしばらくしてからキョーコはハッと我に返った。
自分が身支度をしている間、蓮は外してくれている。着物もしっかり着たのだし、中に入ってもらわなければ外は寒い。キョーコは慌てて立ち上がり、戸口へと向かった。


がたがたと音を立てて戸が細く開く。ぼうっと月を眺めていた蓮はその音に振り返った。
「あの…すみません、お待たせしちゃって」
「ううん。…着ちゃったね」
「何を言ってるんですか」
キョーコの表情は暗くてしっかりとは見えないが、口調から恥ずかしさと非難の色を感じて笑う。蓮はキョーコをぎゅっと抱きしめるとその頭に顔をうずめた。
「無茶してゴメン。でも…ありがとう」
「…お礼なんてやめてください」
「うん……でも嬉しいんだ。最上さん、これから先、元に戻れたとしても戻れなかったとしても君とずっと一緒にいたい」
「敦賀さん…」
「ダメ?」

もう、またそんな子犬が耳を下げてきゅうんと鳴くような可愛い声出して!

ずるい、と思いながらもキョーコは頬が真っ赤に染まって顔が緩むのを止められない。
「ダメじゃないです」
「よかった」
きゅうう、と抱きしめられると蓮の匂いがする。少し汗のにおいも混じって。
「だけど、聞きたいこともたくさんあるんですよ」
「うん、分かってる。それは追々ね」
「おいおいって…」
蓮は少し誤魔化すようにキョーコの肩を抱いて小屋へと戻った。囲炉裏の火をかき回して薪を足すと、当たり前のようにキョーコの体を抱き寄せて横になる。

「とりあえず寝よう。明日は早めに発たないと」
「またそうやって誤魔化して」
「誤魔化してないよ。話し始めると長いんだ。だから少しずつ、ね」
「分かりました…」
「うん、お休みキョーコ」
「……!」
「キョーコって呼んじゃダメ?」
「……ダメじゃないですけど…」
「うんじゃあキョーコ、お休み」

蓮の腕の中で恥ずかしさと安心感を覚えながらもキョーコは考えた。

京子姫…私も分かった気がする。
あなたがどうして家も何もかも捨てて久乃丞さんと逃げられたのか。

ちらりと見上げると蓮はその瞳を閉じていて、眠っているのかどうかは分からないが穏やかな表情だ。

京子姫、あなたも同じだった?私、ずっと片想いだって思ってた。
まさかその相手が自分を好きって言ってくれるなんて…思いもしなかった。
自分の恋心だけだったら誰にも気づかれないように地獄まで持って行っただろうけど…
「好きだ」って言われた瞬間、今まで感じたことがない欲が出ちゃったみたい。
私もずっと一緒にいたい…離れたくないって…

京子姫は別の男性との縁談も出ていたのでその苦悩はなおさらだろうと、キョーコは考えながらも温もりの中で眠りに落ちていった。

「おはよう」
「おはようございます」
朝、小屋の中は薄暗いがあちこちの隙間から外の光が差し込んできていた。天気はよさそうだ。
なんとなく気恥ずかしくてまともに相手の顔が見られないキョーコと、微笑みをたたえて相手にキスをする蓮。2人の朝は対照的だった。

どうせ今までにたくさん女性と付き合ってるからこういう状況にも慣れてるんでしょーけど!

そう考えてキョーコが軽くムッとしてしまうのも可愛い嫉妬だろう。

お互いにあれこれと思うところはあるものの、2人はてきぱきと身支度を整えて外に出た。後から小屋を出た蓮がしっかりと戸を閉め、キョーコに向かって手を差し出す。
「さて、行こうか」
キョーコはこの日初めて明るい中で蓮の顔をしっかりと見た。
日に透ける緑色の瞳。だけど髪は真っ黒で、分かってはいるもののなんだか混乱する。

差し出した手に対して中途半端に手を上げたままのキョーコが自分の顔を凝視している事に気がついて蓮は笑った。
「そんなに変?」
「いや、変じゃないですけど…!」
蓮はキョーコの手をそっと取ると大きな手で包み込んでしっかりと握る。
「言いたいこととか聞きたいことがたくさんあるのは分かるよ」
「すみません…まだちょっと整理がつかなくて」
「…当然だね。すまない。でも俺は…これだけは確かだ。敦賀蓮としてもコーンとしても君を愛している」

朝からさらっと言わないでくださいますか!

キョーコは耳まで真っ赤っかになってぐたりとうなだれた。どこまでもこの人は心臓に悪い。

「さて、行くか。さっきから麓の方に馬の気配がするのが気になる」
蓮は小屋の脇に立てかけられた自分の背丈ほどの木の棒をひょいと手にすると、杖のようにつきながら歩き始めた。
「敦賀さんは常に冷静ですよね」
多分に皮肉をこめてキョーコは口にする。自分は目の前の事態を受け止めて消化するのに精一杯だと言うのに蓮はすでに周囲にも広く注意を払っているのだ。余裕の差に愚痴の1つも言いたくなる。

「冷静って訳ではないけどね。昨日言っただろう?俺はなんとしてでも生き延びて君とずっと一緒にいたい。そのために出来ることはなんでもするつもりだよ。追っ手に不意打ちされたらそれが果たせなくなるからね」
柔らかく笑った蓮の瞳を目にして、キョーコは胸の中にじわりと痛みのような感情が広がる。

ほら…こんな風に言われて微笑まれたら……拒否なんてできっこないもん。

しかしキョーコの感傷は長くは続かなかった。
蓮とキョーコは山の裏に抜ける道を探したのだが道はなく、急な崖にも阻まれて昨日登った道を戻ることを余儀なくされた。ある程度降りたところでキョーコもはっきりと、山道をこちらに向かって登ってくる人の気配を感じる。2人はちょうど、斜面の脇のやや開けたところに差し掛かっていた。

地元の住民であってほしいと言うキョーコの期待はあっさりと裏切られた。
「いたぞ!」
先頭を歩いていた男が鋭い声を上げる。腰には長い刀が下がり、後ろにも2人の似たような格好の男が見えた。

「下がって」
蓮は短く指示を出すとキョーコの手を離す。キョーコはその手が離れる事に不安を感じながらも少し後退してそばの大木に身を寄せた。

男たちが刀の柄に手をかけ、蓮を半円状に取り囲む。
その様子を見守る蓮の後姿は落ち着いているようだったが、キョーコは消えた手のぬくもりが妙に気になって心の中で祈るように見守っていた。


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コメントコメント


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なんと!!

まさかの追っ手がこんなところにまでっ!!
蓮様のピンチ!!本物の刀に勝てるのか…!!
すごくドキドキします!!
蓮様、キョーコちゃんを手に入れて守りたい想いが更に強固な物になったでしょうからね!!
続きも楽しみにしてます!!

風月 | URL | 2014/10/03 (Fri) 21:59 [編集]


Re: なんと!!

> 風月様

ついに追いつかれちゃいました。
蓮さんここで死ぬわけにもキョコさん手放すわけにもいきませんから、頑張ってほしいところです。
でも恋する男は強いはず。いや、欲に負けた男…???

ぞうはな | URL | 2014/10/04 (Sat) 15:59 [編集]