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おぼろづき (5)

おこんばんは~~。ぞうはなです。
もう少し続きますよー。




蓮が掴みどった魚たちは2人の腹に収まった。食事が終わったあとしばらく2人は無言で、蓮の顔もキョーコの顔も揺れるオレンジの光に照らされて、普段とは違う憂いをたたえているようだ。

「どうしたら…元の世界に帰れるんでしょう」
静寂を破るようにキョーコが呟く。2人ともこちらに来てからずっと思っていたことだ。
「そうだね……残念ながらさっぱり分からないな」
「そうですよね」
「……もしこのまま、帰れなかったら…」
あえて口には出さなかった事に蓮が触れた。すでにこちらにきて丸2日がたった。その間帰れそうな気配はさっぱりなく、手がかりになりそうなことも一切見えてこない。もし最初に来たあのやぶ林が元の世界との出入り口なのだとしたら、こうして追い立てられ離れてしまった今は戻ることが絶望的な気もしてくる。
「とにかく逃げ延びて、どこか遠くの村で2人で暮らしたいな」
「敦賀さん…」
「諦めた訳じゃないけど、それでもね。もしもうずっとこのままだと言われたら俺はそうしたい」
「畑を耕して…?」
「そう。鶏でも飼って。途中の村にいた仲のいい老夫婦。あんな風になれたらいいね」
「帰れなかったら……そうですね、それもいいかもしれません」
また少し、沈黙の時間が過ぎる。囲炉裏の火がぱちんと跳ねた。

「実は俺も、久乃丞のことをなんとなく考えていた」
「……」
不思議そうに自分を見るキョーコに対して、蓮はくすりと笑いをこぼす。
「君と京子姫が瓜二つだと言われたように、きっと久乃丞と俺もそっくりのはずだ」
「え、でも…」
「うん、俺の目もそろそろ限界だからこうすれば…」
「???」
疑問を顔に浮かべたキョーコの目の前で、蓮は顔を伏せると目元を指でいじった。それから顔を上げた蓮を見て、キョーコの目がまん丸に見開かれる。

オレンジ色の炎に照らされてよく分からないが、明らかに蓮の目の色は先ほどとは違う。何色かの判別はつかないが、見慣れている蓮の黒い瞳とは違う薄い色。
「敦賀さん、その目の色…」
「さすがにコンタクト付けっぱなしは辛いね。髪も1ヶ月もすれば伸びてくるかな」
キョーコと同じく蓮も温泉に浸かったタイミングでカツラを外していた。黒髪に指を入れて梳くその姿を見ながら、キョーコはごくりとつばを飲む。
「久乃丞さんと同じ、金髪碧眼だって仰るんですか?」
「そう」
「……」
さらりと言い放った蓮に、キョーコは口をパクパクとさせることしか出来ない。

「他人とは思えないよね。君が京子姫のことを心配するのも、きっと自分の身に映して感情移入したからだと思うんだけど。見た目だけじゃない。許されない恋に思い悩んで葛藤する久乃丞のことも、俺には我が身のことのように分かってしまう」
「許されない恋に…敦賀さんも悩まれてるってことですか?」
「そうだよ。俺は人を愛することなんて許されない、大きな罪を負っている」

やっぱりそうなの…?

金色の髪に薄い瞳の色。きっとそれは綺麗な緑色で。
まるで本人ではないかと思うくらい一致した体のパーツ。
過去の罪。
キョーコの中でぱちりとパズルのパーツがはまる。
そして同時に自分の中での京子姫と自分の気持ちが完全に重なった。京子姫の相手は自分にとってのコーンではない。いや、コーンではあったが同時に蓮でもあったのだ。

「だけどね…それでも焦がれる気持ちは止められないんだよ。ダメと分かっていても、愛する気持ちは偽れない」
「誰を…ですか……?」
決して聞けないとずっと思っていた一言がキョーコの口から滑り落ちた。
蓮が想うその人は、自分でない誰かだと思っていた。ずっと。だけど蓮は久乃丞が自分のようだと言ったのだ。そしてキョーコを見つめるその瞳。

今なら、今この場なら聞いてもいいだろうと、炎の暖かさを感じながら思えてしまった。
そして、答えはキョーコが心の奥底に押し込めながらも微かに望んでいた言葉だった。
「俺が愛してるのなんて今目の前の1人しかいない。久乃丞が京子姫を愛しているのと同じように……そこも一緒だから、彼は俺だと思ったんだ」

キョーコは目を丸くしたままただひたすらに蓮を見つめる。
「ごめんね最上さん。まだ当分俺はこんなこと言うつもりじゃなかった…けど」
蓮は長い腕を伸ばすと強引にキョーコの体を引き寄せた。
「明日どうなるか分からない。追っ手に見つかったら下手したら俺は切り捨てられるかもしれない。元に戻れるかも分からない。そう思ったらちょっと久乃丞を恨めしく思ってね」
「い、いきなり何を?」
キョーコは半分以上頭が止まった状態だが懸命に蓮の話を聞いていた。もう処理が追い付かないが、逃避する訳にもいかない。
「同じような状況なのに、あいつは京子姫を手に入れてる。俺は?逃げまどうだけ?こんなに近くに愛する人がいるのに」
「つるがさん……」

会った事もない男をとうとう『あいつ』呼ばわりする蓮。やや不服そうな表情だが懐にいるキョーコにその顔は見えない。

胸が苦しい。それはぎゅうと抱きしめられているからなのか。
キョーコはどきどきと高鳴る胸が蓮に気づかれてしまうことを懸念しながらそれでもその先が聞きたい。

「もし久乃丞が俺にそっくりで、京子姫が最上さんにそっくりで、久乃丞が京子姫を愛しているように俺が最上さんを愛してるのまで同じだったら…もしかしたら君は、俺の気持ちに答えてくれるかなって…そんなことを考え出したら止まらなくなって」
「こ、答えるも何も……!」
「?」
予想と少し違うキョーコの反応に、蓮はその顔を覗き込んだ。火に照らされているせいかその顔は真っ赤に見える。
「私は…私は京子姫と同じなんです。決して恋はしませんし、もし万が一恋心を抱いたとしてもそれは決して人には伝えてはいけないんです。本人に知られるなんてもっての他で」
「ずっと心の底に秘めていた?」
蓮は穏やかな微笑みをたたえて静かに尋ね、キョーコは頷く。誰に対して、ということをキョーコは口にしなかったが、その表情と口調から蓮は確信を持った。
「てことは、久乃丞に先越されたんだな、俺は。彼はもう自分の気持ちを伝えて京子姫の気持ちを知って、そして2人はきっと離れられなくなった」
先を越されたと言っても相手は昔の時代の人間。先も後もないのだが。けれど蓮は続けた。
「こうやって追っ手をかく乱して彼らを助ける代わりに、俺は君への想いを素直に伝える手助けをしてもらって…それでおあいこかな」
蓮は改めてキョーコの体をしっかりと抱きしめた。その腕の内からつっかえつっかえの弱い声が聞こえてくる。
「京子姫は……どうやって自分を納得させたんでしょうか。私と同じだとしたら、きっと姫は素直に認めたりしなかったはず」
「それも同じなんじゃない?久乃丞が京子姫を口説き落とした。俺と同じように」
蓮の腕の中のキョーコの体がぎしりと強張る。
「く、口説き……」
「大体おかしいだろう、俺が君を好きで君もそうだって言うのに、なぜ素直に認めてくれないの?」
「つ、敦賀さん…だって敦賀さんだって」
「確かに俺もずっと留めてきたけど、君の気持ちが聞けたらもう…罪を負い続けてでも止める事はできない」
蓮はゆっくりと体を離してキョーコを正面から真っ直ぐに見据えた。するりと両手が動いてキョーコの両頬を包む。まるで"逃げるな"と捕らえるように。

「つつつつつ、つる……」
「俺は君が好きだ。君は?」
「……は、その…」
「きみは?」

それは質問ではなく尋問。
その手にかかれば誰もが真実を白状せざるを得ないような。


京子姫ぇ……久乃丞さんもこんな強引だったんですかあぁぁぁぁ……


キョーコの魂の叫びは当然ながら届かず、そしてキョーコは尋問の圧力とそれを繰り出す人物の瞳の奥の炎には抗えず。

「わ、私も…敦賀さんが好き…です……」
涙を浮かべての決死の告白がようやくキョーコの口からこぼれると、尋問の主は表情をほころばせた。
「認めてくれてありがとう。よかった、嬉しいよ」
「で、でもあの……私…」
ぐるぐると目を回しながらなおも抗おうとするキョーコの唇に蓮は人差し指を当てた。
「今は余計な事は考えないでいい。こうして2人でいられる事だけ、それだけが大事な事だ」
「はい…」

2人でいられる事だけが大事な事…
だから京子姫も、家の事も何もかも捨てて、逃げたの?
でもそんなこと……?

キョーコにはまだ分からなかった。
京子姫と自分が同じような人間なのだとしたら、それでもやはり全てを捨てて久乃丞との愛を選んだ事に、少しの違和感を感じる。自分ならばやはり、山のように積み上がったしがらみを目にしたら自分の気持ちを犠牲にするのではないかと、段々と自分と京子姫の境目が分からなくなってくる。

見透かしたように静かな声が降ってきた。
「最上さん…今は京子姫の事も考えなくていい。似ているかもしれないけど君と姫は別の人間だ。それに俺と久乃丞も。同じだって俺から言っておいて悪いけど。今だけは俺だけを見てほしい。君だけを見ていたい」

ああ、そっか…
そうね、私は、京子姫じゃない。

こくりと頷いて少し微笑んだキョーコを、蓮はもう一度ぎゅうと抱きしめる。
その腕の中は温かくて気持ちよくて、この温もりを京子姫も感じたのかしらと、キョーコは爆発しそうな自分の心臓の鼓動を聞きながら思った。


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コメントコメント


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ほっこり♪

蓮様ストレートな告白っ!
命がけの恋ですね(≧∇≦)

そして素直に想いを告げたキョーコさん!
これからの二人の進展が楽しみです〜!!

風月 | URL | 2014/09/29 (Mon) 22:02 [編集]


Re: ほっこり♪

> 風月様

蓮様、ちょっといつもと違うシチュエーションが功を奏しましたかね?
それにしても本当、先が見えない状況って一番大事な事だけを考えそうな。
うふふ。

ぞうはな | URL | 2014/09/30 (Tue) 18:10 [編集]