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おぼろづき (3)


こんばんは。ぞうはなです。
うーん、何話になるかしら…続きです。





気がつけば空は白み始めている。たくさんの鳥が鳴き始め、山が目覚めたというのが五感で分かる。
キョーコはもぞりと身動きをした。

「おはよう。眠れた?」
「…おはようございます。はい、少しは」
「熟睡は無理だね、これじゃ」
キョーコは蓮の腕の中にいた。あまりの緊張で眠れないと思ったが、さすがに疲れもあってうとうとはしたようだ。
がさがさと起き上がった2人が横たわっていたのは山中の崖下の少しくぼんだ穴の中だ。
蓮がかき集めた落ち葉のベッドは思いのほか柔らかかったが、夜はどんどんと気温が下がって2人は身を寄せ合って眠るしかなかった。

キョーコは座ったまま小さくため息をついた。
これが夢だったらどんなによかっただろうか。馬鹿らしいと思いつつも「やっぱり夢だった」というオチに一縷の望みを抱いていたが、山の朝はしっかりと現実をキョーコに突きつけてくる。

「明け切らないうちに少し進んでしまいたいけど大丈夫かな?」
てきぱきと身支度を整えながら聞く蓮に、キョーコも勢い込んで答えた。
「もちろんです!」
慌てて立ち上がるキョーコに蓮は申し訳なさそうにした。
「ごめんね。ただ、今追いつかれる訳にはいかなくて」
「そんな、謝らないでください!大丈夫です、すぐに行きましょう!」

明るくなってみれば山はそれほど怖い場所ではなさそうだった。夜はフクロウが鳴いたり動物の気配がしたりとキョーコは気が休まらなかったのだが。
「ある程度離れれば追っ手も分散するか諦めるかしてくれそうだしね。とはいえ土地勘がないのはちょっと痛いかな」
「…敦賀さん、なんだかこういうことに慣れてるみたいです。なんでそんなに落ち着いてるんですか?」
「落ち着いてなんてないよ。けど、君に格好悪いところも見せたくないからね」
軽く笑う蓮を見て、キョーコは胸がきゅうと疼くのを感じた。なにが格好悪いところなんだろうか、何をやっても格好がいいくせに、とぼやくように思う。

「何か食べるものがないと動けなくなるからね。少し探しながら行こうか」
「はい」
すっと出された手をキョーコはじっと見た。
夕べ暗い中を歩き回るときも蓮はずっと手を引いてくれた。足元が悪ければ支えてくれたし、道がなければその腕で枝を払いながら道を開いてくれた。寝るときは蓮の腕が枕にもなったし、ずっと抱えてくれるその力強さが何よりも安心できた。その手は落ち葉をかき集めたときにであろうか、少しホコリっぽく汚れている。

清潔な都会でずっと暮らしてたはずなのに…なんでこんなに力強くて頼りがいがあるんだろう?

じっと動きを止めたキョーコに、蓮は心細いのかと少し心配したが、すぐにその手はきゅっと握られた。
「行きましょう。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
そうして2人は朝日が昇る前に歩き出した。


「そろそろ休もうか?」
「いえ、もう少し…」
「疲れすぎると動けなくなるよ。一度休憩しよう」
蓮はそう言うと足を止めた。ちょうど横には綺麗な沢がある。小魚の姿も見えるし少しなら飲んでも大丈夫そうだ。
気丈な声を出していたキョーコだったが、蓮が止まると一緒に足を止めて大きく息を吐き出した。空を見上げて袖で額の汗をぬぐう。
「足は大丈夫?擦れたりしてないかな」
「大丈夫です」
キョーコを休ませるため、蓮はその手を取ったまま沢の横にある大きな岩まで誘導する。並んで腰掛けるとキョーコはかぶっていた笠をはずしてぐるりと辺りを見渡した。
「追われて…いるんでしょうか」
「分からないけど、可能性は十分あるだろうね」
幸いな事に朝からずっと追っ手の気配を感じずに済んではいるが、安心はできない。2人は歩き通して天狗の山を越え、隣の山へと足を踏み入れたのだが、ここは道も踏みしめられているし頻繁に人が通るところであるようだ。

ふと、キョーコは木々の間から見える山肌をじっと見つめた。
「やっぱり…」
「どうしたの?」と蓮もキョーコの視線を追った。山肌には緑の木々と、その間にぽつりぽつりと薄桃色の固まりが見える。
「さっきから咲いてる花を見て思ってたんですけど。季節が…秋じゃなくて春なんです」
「春……」
蓮はキョーコの言葉の意図を理解して口をつぐんだ。
2人が撮影に参加していたドラマは年末特番。撮影時期は晩秋だったはずだ。季節すらも違うという事は、つまり。
「やっぱり…タイムスリップして過去に来ちゃったんでしょうか」
「……信じたくないけど、そうとしか考えられないね…」
「残念です、せめて季節は秋がよかったのに。秋の方が絶対いろんな美味しい実がなってたはずですよ」
「はは、そうだね」
ふさぎこみそうな気持ちを吹き飛ばすキョーコの言葉に蓮は笑った。

しばらく休憩を取った2人は再び手を取って歩き出した。木もまばらな山の中を道に沿って歩くと、やがて開けた山里の集落に出る。
「う…わあ。綺麗ですね」
「ああ、そうだね…」
山里は桜の木に囲まれていた。山桜らしい木には花だけでなく葉も出ているが、風で花びらが舞う様はとても美しい。
2人はしばらく里の入り口でたたずんでいたが、少し遠くの畑で作業をする人影を見つけるとぽそぽそと話し合った。

「こんにちは。あの…お願いしたいことがあるのですが」
「ああん?」
顔を上げたのはよく日焼けした中年女性と、その向こうにいた中年男性だ。声をかけたキョーコは笠をはずしつま先をそろえて頭を下げる。
「何か食べるものを分けていただけませんか?」

木影でたたずむ蓮の元へキョーコが戻ってきた。
「親切に色々と分けてもらえました」
「そうか、よかった。ありがとう」
「いいえ。京子姫の装飾品を少しいただいてきてよかったです。でも、聞いてみたらやっぱりまだそれほど遠くには来てないようですね」
2人はこの集落に追っ手が来ることを見越して、村人と接触するのはキョーコだけと話し合って決めていた。蓮の姿は特徴的過ぎて、追っ手が村人に尋ねればすぐに人物が特定されそうだからだ。

「この道は3つほど山を越えた先にある大きなお寺まで続いているそうです」
「そうか…それで道がかなり整備されているのかな?」
「そうかもしれませんね」
「当てはないけど、行ってみるか」
寄りかかっていた木の幹から体を起こした蓮はキョーコが何やら考え込んでいる事に気づいた。
「どうしたの?何かあった?」
「あ、いえ……実は、今の方に数日前にここに来ただろうと言われまして。その時はえらく大きい男性と一緒だったから覚えてたって。もしかしたら京子姫もここを通ったんでしょうか」
「そうか…同じ道をたどっていると言う事?」
「そうかもしれません。数日前、ということはだいぶ先に進んでいるでしょうけど」
「そうだね。俺たちが捕まったってことは本物の2人はまだ逃げているってことだ」
キョーコはこくりと頷くと、じっとこれからたどる道の先を見つめた。


その夜の寝床は前日に比べればだいぶマシだった。とはいえたまに聞こえる「ぶふふふふん」という声やがさがさと藁を踏む音、なかなか慣れない強烈な匂いなど快適とは言いがたいのだが。
2人は夕方まで歩きとおしてたどり着いた小さな村にいた。とある農家の老夫婦に声をかけ、厩の空いた馬房を寝床として借りている。老夫婦は母屋の部屋で寝てもいいと言ってくれたのだが、やはりあまり関わりを持つとのちのち迷惑をかけるかもしれないので謹んで辞退した。雑穀の混ざった塩むすびを分けてくれただけでもありがたいし、山の中と違って人の気配が近くにあることだけでだいぶ気分が落ち着く。

厩の中は明るい月の光でぼんやりと照らされ、お互いの存在をしっかりと認識できる状態で、蓮とキョーコは並んで藁に寝転んでいた。
「さっきから考え込んでるけど大丈夫?疲れてるかな。何か不安なことや困ったことがあったらなんでも言って」
言葉少なに何かを考えているキョーコに蓮が話しかける。キョーコははっと気がつくとすぐ隣の蓮の方に顔を向けた。
「あ、すみません!いえ、困ったことはないんですけど」
「うん、けど?」
「私たちが間違われた2人のことを考えてしまって…」
「ああ、京子姫と久乃丞って人のことか」
京子姫と逃げた人はそんな名前だったんですね?とキョーコは目をぱちくりしてから続けた。
「私と京子姫が瓜二つだって言われてずっと考えてたんですけど、なんで駆け落ちなんてしたのかなぁって…」
蓮は頭の上で腕を組んだまま答える。
「君が京子姫の立場だったら、しないと思う?」
「んん……細かい事情は分かりませんけど、たくさんの人に迷惑がかかるから我慢してしまうかもしれません。好きな人は変えられませんけど……」
「そうだな…この時代の人の事情は俺たちには分からないけどね」
「はい」
がさり、と音がして蓮が組んでいた腕を下ろした。キョーコがそちらを見ると、蓮は自分の方をじっと見つめているように思える。

「案外、俺が誘拐犯だって言われたの、合ってるのかもしれないな」
「え?」
「もし俺が京子姫のそばにいて想いを抱いていたら…それが高じてどうしようもなくなったところに姫の縁談を聞いたら」
蓮はひとつ息をついた。その表情はしっかりと見えないが、キョーコはなぜかどきりとする。
「京子姫が何と言おうと、無理やりさらってしまうかもしれない。京子姫が自分を好きだって確信できたらだけど」
「ええ…?でも、自分の主君を裏切る事になりますよね?」
「そうだね……けれどきっと、きっとそんなことはどうでもよくなって…姫は自分といるのが一番幸せなんだって都合よく思い込んででも、手放せなくなるかもしれない」
黙り込んでしまったキョーコに、蓮は軽い口調で言い添えた。
「実際にどうだったのかは分からないけどね。逃げた2人にも、色々な事情があったんだろう。けどきっと、久乃丞は姫を守り通すよ。そして自分も生き延びる」
「分かるんですか?」
「自分だったら、だけどね」
会話はそこで途切れた。

キョーコは暗い中で考えていた。

自分が京子姫だったら。
そして自分を連れ出してくれたのが蓮だったら?

久乃丞が金髪碧眼らしいと聞いて、うっかりキョーコは自分とコーンでなんとなく2人の姿を思い描いていた。
妖精であるコーンと一緒にいたいと思っても、それは恋焦がれる気持ちではない。けれどもし、蓮だったら。自分は想いを寄せる相手からの情熱的な誘いを振り切って、不安材料がてんこ盛りの見も知らない男のもとへ嫁げるだろうか。

考えてもしょうがないか…

けれどキョーコはまどろみに落ちる瞬間、自分はこの時代の京子姫と久乃丞の愛を手助けするためにこちらに飛ばされたのではないかと、そんなことを不意に考えたのだった。


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コメントコメント


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きゃー!!

何だか、京子姫と久乃氶の恋の行方もダブルで楽しめそうで、ワクワクします!!
そうですよね!!寝る場所によっては匂いも…!!
勉強になります!!

風月 | URL | 2014/09/25 (Thu) 08:52 [編集]


Re: きゃー!!

> 風月様

さて京子姫と久乃丞はいまどこにいるのやら?
蓮さんとキョコさんはすっかりまだ会った事もない2人に感情移入しちゃってます。
風月さんのくださったリクエストが楽しくて、ついつい話が膨らんでしまいます。
でもついつい戦国時代ってトイレどするんだろうキョコさん、なんて考えちゃったりして…

話のご紹介もしていただきましてありがとうございます!!
なんだか照れます~~~~!

ぞうはな | URL | 2014/09/25 (Thu) 20:10 [編集]