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おぼろづき (2)


こおんばんはーー。ぞうはなです。
さてさて、風月様のリクエスト第2話目。さっそくどうぞ。





「ダメです!絶対にダメ!!お願いですから、それだけは…!!」
困った顔の男たちが自分を見おろしてくる。中には怒りの表情を浮かべている者もいて、自分の立場が絶対的に強いものではないと、キョーコはどこかで冷静に認識していた。
「姫様!ですがその男は姫様を危険な目に…」
「いいえ、これだけは絶対に譲れません」
キョーコは低い、地から這うような声で、それでもしっかりと男たちの先頭に立つ初老の男性の顔を見据えて言った。

日が暮れてあたりは暗くなり、キョーコの険しい顔を照らすのは館の中庭の隅に置かれた松明のオレンジの明かりのみだ。キョーコが膝をついたすぐ後ろにはむしろが敷かれ、荒縄で体の自由を奪われた蓮が座らされている。


「…わかりました」
初老の男性は一歩キョーコの方へ踏み出すとため息交じりの声を出した。
「京子様の嘆願に免じて、今この場でその男の首を落とすことはしませんが…」
少しほっとした表情を浮かべたキョーコに対し、少し表情を厳しくして男性は言い渡した。
「明日お屋形様がお戻りになります。その男の処遇と京子様のこれからはお屋形様にお任せいたしますからそのつもりで」

お屋形様って…つまりは京子姫のお父さんってことよね。
この人の言葉からすると、その人が戻ったとしてもあんまりいい結果は望めないの?

考える間もなく男性の厳しい声が飛んだ。
「この男を地下牢へひったてい!姫様は部屋へお戻りください。出てはなりませんぞ」
キョーコは蓮と強制的に引き離される。縄で強引に引っ張られる蓮から「心配しないで」とかけられた言葉と笑顔が逆に不安を増すが、キョーコはその場は引き下がるしかなかった。


今は…何時くらいなんだ?

蓮は板張りの床にあぐらをかいたままあたりを見回した。
牢屋の格子は木で出来ているが、太く堅い木材がしっかりと組み合わされていて簡単には抜け出せそうにない。見張りはその場にはおらず、壁際の小さな行灯の揺れる炎だけが暗く弱々しい光で室内を照らしている。
中庭からここへ放り込まれた後はずっと1人で、どれくらい時間が経ったか定かではない。牢屋にぶちこむのなら縄を解いてほしいところだがそれは叶わず、後ろ手に縛られたまま座るのは体勢としてかなり苦しい。

最上さんは無事かな…?
この時代は女性の地位は高くないはずだから姫君だと言っても好き勝手できた訳でもないだろうし、その辺はうまく立ちまわれただろうか?
あそこまで身を投げ出してかばってくれるとは思わなかったな…下手すれば自分の身も危なかったと言うのに。
しかしこのままいくと明日には…

キョーコの捨て身の懇願のおかげで捕えられてすぐに打ち首になる事は免れたが、この館の人々にはこれ以上自分を生かしておく理由がない。どうにか逃げ出すタイミングがないだろうか、そう考えていた蓮の耳に、地下牢への入り口の階段を下りる微かな足音が聞こえてきた。

「…つるがさん?」
こそりと囁きながら低い入口から顔を出したのはキョーコだった。
「最上さん?」
驚いた蓮が声を上げると、キョーコは少し上の様子を伺ったのち、笑顔を浮かべて格子の前までやってくる。
「よかった、ご無事ですか?」
「俺は大丈夫。ここに入れられてからほったらかしにされてるよ。君こそ大丈夫?ここの姫と間違えられたまま?」
「はい、と言っても、私もそれほど周りの人とたくさん話した訳ではないんですけど」
キョーコは格子の出入り口の頑丈な錠に目をやると、持ってきた大きな風呂敷包みをそこに置いて座りこんだ。

「京子姫のお世話をしてるお花さんって方と話が出来て。それで色々分かったんです」
京子姫はやはりキョーコと瓜二つの女性のようだった。キョーコは自分を京子姫だと思って心配してくれた花と言う女性に、記憶を無くしている、何も分からないと言って事情を聞くことに成功していた。

京子姫は近々別の武将の元へ嫁ぐことが決まっていたのだという。
もちろん京子姫の意思ではなく、国力を強化するための政略結婚だったのだが、相手は京子姫よりも相当年上で、すでに正妻がおり、更に過去に娶った女性が複数人病死しているという、京子姫にとってはどれを取っても喜べる状態ではなかった。
それでも京子姫は家のためにと嫁ぐことを決心していたのだが、実はお互いに気持ちを寄せ合っている男性がいたのだ。そして、つい数日前にその男性と共に姿を消したということだった。

「ということは俺はその男に間違えられている?でもここに俺を連れてきた人は少し俺を怖がっているようだったな」
キョーコの話を聞いて考え込んだ蓮に、キョーコも首をかしげてみせた。
「それがその…その男性と言うのがちょっと変わった人だったらしくて」
「変わった人?」
「はい。背は敦賀さんくらいに大きくて、髪と目の色が薄かったと。どうも金髪碧眼だったみたいです。なんでこんなところにそういう人がいたのか、分からないんですけど」
蓮は内心どきりとした。京子姫がキョーコにそっくりだったように、男も自分の素の姿と瓜二つだったという事か。
「この館の裏山は天狗様の山だそうで、その人は天狗かもしれないって皆さん思われていたそうです。その方自身もあまり他の方と深く関わらなかったようで…」
「なるほど、天狗か。それで納得がいったな」
「なにがですか?」
「ここに連れてこられる間、周りはびくびくと俺の様子を伺ってるみたいだったんだ。『お前は久乃丞か?別人か?』と聞かれて、答えずにその男の顔を見返したら、目をそらされたんだけどね」
「もしかして術で姿を変えていると思われたんでしょうか。下手に刺激したら天狗の術をかけられるとか?」
「そんな感じかもしれないね」
ううん、と考え込んだキョーコの耳に上階からの話し声が聞こえて、キョーコは一気に我に返った。

「ああそうだ、こんなところで話し込んでる場合じゃありませんでした!」
立ち上がると胸元から一片の金属片を取り出し牢屋の格子に近づく。
「明日までここにいたら、敦賀さん間違いなく殺されてしまいます。夜のうちに逃げましょう」
「最上さん、どこから鍵まで持ち出したんだ。見つかったら君だって殺されてしまう。さっきも助かったけど、そこまでしてくれなくていいんだ。君は君の身の安全をはかってくれ」
慌ててキョーコを止めようとする蓮に、キョーコはふと手を止めると少し不機嫌に言った。
「何を仰るんですか。私の身がどうなろうと、敦賀さんが殺されるようなことは絶対にダメです!」

がちゃり、と音がして錠が外される。キョーコは笑顔を浮かべた。
「絶対に無事にもとのところに戻りましょう」
蓮はしばしキョーコの顔を見つめると、小声でぽつりと呟く。
「どうして?どうして君は、そこまで俺に…?」
キョーコは蓮に真剣な顔で見つめられると急にうろたえだした。しかし何かを思いついたようにきりりと表情を改める。
「どうしてって、そんなの当たり前じゃないですか!あの、えっと、そう!敦賀さんが戻らなかったら、日本の芸能界はかけがえのない宝を失う事になるんですよ!そんなの私、耐えられません!!」
「宝ってまさかそんな」
「ご自分の価値をご自分で分からないなんてもったいないですよ!」
「ああまあ、それはいいよ…」
蓮はうなだれると小さくため息をついた。
ほんの少しでもキョーコの行動の理由に期待をした自分が愚かだったのだ。分かっているはずなのについ期待をしてしまうなんて、本当に自分の恋心と言うのは厄介なものだと自嘲する。
それでもなんでも、キョーコはこうして助けに来てくれた。そして、気持ちがどうあれ今は2人でいられる。先の見えない逃避行であったとしても。

蓮は気を取り直すと無理やり笑顔を作った。
「とにかく助けてくれてありがとう。もちろん君も一緒に行くよね?」
「はい!私もここにいたらどんな目に合うか分かりませんし、ご一緒させてください。逃げるための準備は万全ですから」
キョーコは傍らの風呂敷包みをぽんと叩いた。その目には諦めを知らない光が輝いている。普通の女の子だったらこの非常事態におろおろして座り込むだけかもしれないのに、この少女はどこまでも前向きで逆境に強いらしい。
「君はすごいね。本当に感心するよ」
蓮は縛られたままですくりと立ち上がる。
「とんでもない!敦賀さんが一緒だと思ったらなんでもできるって思えちゃうだけです。敦賀さんのおかげなんですよ」
真意はともかく、キョーコの言葉はやはり蓮の気持ちを揺さぶるらしい。少し緩みそうな表情を蓮は必死で引き締めた。

「あ、縄を切らないと」と風呂敷包みに手をかけたキョーコに、「大丈夫」と蓮は一言答えた。軽く腕をゆすると手品のように縄がほどけて足元にぱらりと落ちる。
「いざと言うときのためにね、すぐ抜けられるようにしておいたから」
手首を軽くさすりながらさらりと言いのける蓮の表情は普段どおり冷静だ。
「すごいのはどっちですか」とぼやくキョーコの声は蓮には聞こえなかったが、2人はとにかく早急にこっそりと、牢屋を抜け出す事にしたのだった。


数分後、蓮とキョーコの姿は館の裏にあった。
闇にまぎれて、と思っていたのだが予想外にあたりは明るい。誰かに見られればすぐに怪しいとばれそうなものだが、今のところは静かだ。
「さて、じゃあ天狗と言われたからには天狗の山に入ろうか」
軽い調子で蓮が言うのでキョーコはほとんど不安を感じることはない。キョーコが持ち出した荷物は蓮が背負い、2人の足元は草鞋でしっかりと包まれている上に笠まで手に入れ、ついでに蓮の腰には簡素であるが本物の刀が吊られている。
「大丈夫でしょうか?」
「ここにいるよりはいいよ。天狗が恐れられているなら山狩りも躊躇ってくれるはずだしね」

今はまだ気づかれていないが、蓮は見張りに立っていた男を1人、音も立てずにのしてきている。男が目を覚ますか、物陰に横たえられたその体に誰かが気がつけばすぐに追っ手がかかるだろう。
蓮が差し出した手をキョーコがおずおずと取り、2人は歩き出した。

「月って明るいんですね。影が出来るほどだなんて」
日暮れから時間が経ち、満月が高く昇りはじめている。雲ひとつない夜空は月明かりで満たされ星はあまり見えず、キョーコは照らされるその明るさに驚いていた。
「そうだね、街にいると気がつかないけど」

2人は会話を止めて黙り込んだ。
つい数時間前までは、自分たちは夜でも明るい都会の撮影スタジオで機材に囲まれていたはずだった。それが今は、電気すらない夜の道を月明かりを頼りに山に入ろうとしている。

ここはどこなのか、今はいつなのか、なぜこんなことになったのか。
何ひとつ分からなければどうすれば元に戻れるかもさっぱり分からない。

ただひとつ言えること。
今この場にいるのが1人ではなく、つないだ手から伝わるぬくもりが何より愛しくて心強い。
この人と一緒なら、きっとどんな運命でもなんとか乗り越えていかれる。

2人はお互いにそんなことは口に出せなかったが、確かに同じ想いをしっかりと胸に抱いたまま、うっそうとした山の中に足を踏み入れていった。


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コメントコメント


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はぅ!

もう素敵です〜!!
風月の描いた拙いストーリーがぞうはな様マジックでどんどん素敵に♪
そして、またタイトルも素敵っ!!
続きも良い子で待ってます♪
3話まで出たら風月のとこでご紹介させて頂いていいでしょうか?(*´艸`)キャ

風月 | URL | 2014/09/22 (Mon) 22:59 [編集]


Re: はぅ!

> 風月様

ありがとうございます~!
いやもう、ストーリー読み返す内にあれこれ妄想が…。
書いてみたらあら、蓮さんもキョコさんもサバイバル得意に。
もう少し続きますので見捨てないで下さいね~。

ご、ご紹介??
こんなんでお恥ずかしいですがもう煮るなり焼くなりっ!よろしくお願いします!!

ぞうはな | URL | 2014/09/23 (Tue) 13:42 [編集]