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Frantic Chasing (後編 2)


こんばんは!ぞうはなです。
続きが遅くなりまして申し訳ありませんでしたー!
今日で完結です。花様、リクエストありがとうございましたーーー。

ではどうぞ。





「あの…大変ご馳走様でした」
キョーコは深々と頭を下げた。少し日本語がおかしい気もするが、そう言わなければ気持ちが表せない。キョーコが礼を述べた相手は財布をしまいながら笑顔で返事をした。
「いやいや、そんなに恐縮しなくて大丈夫だよ」

ドラマの話もしたいしぜひ一緒に、と撮影中に誘われて、キョーコは丹羽と食事に来ている。ほんの少しのキョーコの躊躇を見越したように「2人きりは嫌だろう?」と共演の俳優も一緒だったのだが、最後のコーヒーが出るタイミングで俳優は用事があると退席してしまい、結局は2人きりだ。

女性に人気だというフレンチコースの綺麗な彩りの数々の皿はどれもこれもキョーコの舌と目を十二分に満足させたし、丹羽が話してくれた過去の失敗談やドラマ撮影の苦労話は非常に興味深く、キョーコは楽しい時間を過ごせたと思う。

しかしキョーコがどこか気分的に落ち着かないのは場所のせいだろう。
スタジオ近くのレストランに行くのかと思っていたら、丹羽の車は都心のいわゆるラグジュアリーホテルと呼ばれる高級ホテルの車寄せに滑り込んだ。促されるままに連れて行かれたのは低層階にある豪華なインテリアのフレンチレストランで、適度に薄暗い照明、ギャルソンの恭しいお辞儀に戸惑いを覚えてしまった。
丹羽も、丹羽と仲がいいという共演俳優も普通にしていたし、どうやら丹羽はこのレストランの常連のようで支配人らしき男性と軽く言葉を交わしていた。そのためキョーコもなんとか頑張ってその場にいたのだが、つくづく自分は庶民なのだと、改めて認識できたのはよかったのか悪かったのか。


「どう?うまかったろう?」
気軽に聞かれて、キョーコは深く噛み締めるように感想を述べた。
「それはもう、驚くほど美味しかったです…」
「はは、そこまで言ってくれたら誘った甲斐があるな」
自分のためにこんな高級なところに誘ってくれたのだと思うと、キョーコは精一杯笑顔を作ってお礼を言うしかない。
「うまいのはいいんだけど、こういう店って結構飯食うのに時間かかるんだよな」
「そうかもしれませんね…」
腕時計に目をやりながらこそっと言った丹羽に、キョーコは頷きながら答えた。ワインを飲み、会話を楽しみながらゆっくりと進む食事にあわせて皿が運ばれてきたため、食事が終わって店から出るまでに2時間以上かかっていた。

「少し遅くなっちゃったんだけどさ。もうちょっと時間大丈夫?」
「え?」
すっかり帰る気でいたキョーコはきょとんと丹羽の顔を見た。時刻はすでに10時をまわっている。明日は遅い時刻とはいえ午前中からまたドラマ撮影が入っているし、できれば台本もさらっておきたい。しかし断ろうと口を開きかけたキョーコにかぶせるように、丹羽は笑顔で言葉を続けた。
「いやね、実はさ、2つ先のクールのドラマの話があって。正確には俺のじゃないんだけど、京子ちゃんにぴったりの役があるんだ。京子ちゃんがよければ、俺から推してもいいって思っててねぇ」
「あ、そうなんですか!そんな、ありがとうございます」
キョーコは慌ててしっかりと頭を下げる。
「こんなところで立ち話もなんだから、ちょっと移動しようか。上の階の方が景色もいいし」
「上の階ですか?」
「そう。ほらこっちこっち」
キョーコは丹羽に促されるまま体の向きを変えた。レストランの入り口からすぐそばにエレベーターホールがあり、ちょうど到着して扉を開けた箱に流れるように乗せられ、気づけばドアは閉まってエレベーターは静かに上昇を始める。

上の階って…ラウンジとかそういうことかしら?

前に立つ丹羽に尋ねたかったが、エレベーターには他にも人が乗っているし、丹羽はキョーコの前に立って背中を見せているため静かなこの空間では話しかけにくい。
やがてエレベーターは動き出したときと同じように静かに止まり、丹羽はキョーコを振り返るとその腰に手を当てて歩き出した。
「さ、着いた」

エレベーターホールに降り立ってみれば、レストランのあるフロアと同じくらい重厚な内装がキョーコを迎えるが、そこは明らかに客室が並ぶフロアだった。
「え、ここは…」
キョーコは困惑して尋ねるが、丹羽は平然と笑って内ポケットからカードキーを取り出してかざしてみせた。
「ここで飯食うときはいつも部屋取ってんだよ。あの料理をワイン無しで食うのはもったいないし、飲んだらさすがに車はダメだし。誰に聞かれるか分からない場所で先のドラマの話する訳にもいかねぇし、まあちょうどいいだろ?少し寄ってってよ」

さすがにキョーコは内心慌てふためいた。どれだけ経験がなくても、プロデューサーと密室で2人きりと言うシチュエーションがまずいことは理解できる。肩に回された腕がキョーコを廊下の方へ促し、キョーコは廊下を歩き始めたが、部屋のそばまで来て思い切ると立ち止まった。
「あの、今日は帰りますから」
「なんで?別にちょっと寄るだけだよ。俺は君の才能を買ってるんだ。悪いようにはしないって」
「そのお話、今度改めてスタジオでお話しいただければ…」

「京子ちゃん」
丹羽はキョーコの肩から腕を外すと少し固い声を出した。横に並んでいた丹羽の体がふと離れてこちらを向いたのを察して、キョーコは恐る恐るその顔を見上げる。丹羽は無表情のような怒っているような、表情を読みきれない顔でキョーコを見つめていた。
「俺は君がもっと活躍できる女優だと思ってるんだよ。それから君だけじゃない。敦賀蓮、あいつもすげえ役者になるぜ」
こくり、とキョーコは頷いた。それを見て丹羽は少しかがんでキョーコに顔を近づける。
「京子ちゃんも蓮も、その他の君の事務所の役者たちも…俺は活躍の場をあげられる。分かるだろう?」
再びキョーコは頷く。丹羽はにやりと笑ってキョーコの肩に手をかけた。

「京子ちゃんは可愛いだけじゃなくて素直で賢いから俺は好きだよ。さ、部屋でゆっくり話そうか」
しかし、丹羽が少々力をこめてもキョーコの肩は動かない。キョーコは一歩を踏み出そうとしなかった。
「お話は分かりました。私のことを買っていただいてありがとうございます。ですが…」
キョーコの声が止まり、丹羽は横からキョーコの顔を覗き込んだ。キョーコは少し考え、すぐにきっと顔を上げる。真っ直ぐに丹羽を見つめた。
「生意気だということは承知していますが、私は一歩ずつ、実力だけで前に進みます」
「どういう…意味だ?」
「誰かに引き立てていただけば、確かにもっと確実に名前が知れて売れるようになるかもしれません。けど、私はそれは自分の実力だけでつかみたいと思うんです」

ふん、と丹羽は軽く笑った。キョーコの肩に置いた手でするすると肩をなでながら小さな声で囁くように言う。
「君はそれでもいいかもしれないけど、君の事務所のほかの役者はどうなのかな?」
「同じだと…私は信じています。少なくとも敦賀さんはそうしてきたはずです。そして敦賀さんなら、これからもご自分の実力でさらに高みにまで上っていくと」
「言い切れるの?」
「はい」
キョーコの顔は緊張していたが、自信を持ってはっきりと頷いた。その瞳は光をたたえ、丹羽から目をそらさない。丹羽もじっとキョーコを見つめ返していたが、ふと目をそらすとキョーコの肩から腕を外した。
「そうか…」

拒否してしまったが、さて、どうしたものか。キョーコの瞳にふと戸惑いが生まれた瞬間、後ろから大きめな声がかかった。
「最上さん!」
キョーコと丹羽が振り返ると、そこには長身の蓮の姿がある。蓮は足早に二人に近づいてくると前髪をぐいっとかきあげた。
「つ、敦賀さん…!?」
「……」
キョーコは呆然と蓮を見つめながらもなんとか言葉を絞り出し、丹羽は無言で近づく蓮をただただ見るだけだ。

「最上さん、君はまだ未成年だろう?明日も撮影があるんだし、こんな遅くまで外にいるのは感心しないな」
「は、はい!スミマセン!!」
キョーコは弾かれたように姿勢を正し、体ごと丹羽の方に向くと深々と頭を下げた。
「お食事、本当に御馳走様でした。そう言う訳ですので、今日は失礼いたします」
「あ、ああ……?」
丹羽はまだ状況が把握できずに曖昧な返事をしたが、キョーコはもう一度「では失礼します」と丁寧なお辞儀をするとエレベーターホールに向かってすたすたと歩き出す。蓮も軽く丹羽に頭を下げたが、背中を向けようとしたところで声をかけられ動きをとめた。
「蓮…お前なんでここに?」
「さあ、偶然です。あなたが目をかけてくださったあの子は、きっともっと成長しますよ。…では失礼します」
にっこりと蓮は笑って丹羽の前から立ち去った。

蓮がエレベーターホールに着くと、なんとも形容しがたい複雑な面持ちでキョーコが立っていた。
「あの、敦賀さん…」
「うん、帰ろうか。送るよ」
「い、いえ!あの、か、帰れますから。あの、その、ありがとうございました!お、御礼は改めて!!」
ぺこりと頭を下げると、「では!」とキョーコは蓮と目も合わせないまま脱兎のごとく逃げ出した。素晴らしい速さでエレベーターホール脇の階段室に飛び込むと、一目散に下を目指す。
しかしキョーコの努力は無駄になった。1段ずつ律儀に降りるキョーコの上を巨大な影が横切ったかと思ったら、すぐ下の踊り場に音もなく蓮の姿が降り立つ。

ぎえええええええええっ

声にならない叫びを上げてキョーコは立ちすくんだが、下からかけられた声は予想に反して少し勢いのないものだった。
「逃げないでくれないか…これ以上逃げられたら、さすがにへこみそうだ」
「でも私……」
蓮はぎょっとしてしまった。自分を見つめるキョーコの目に見る見る内に涙が溜まったかと思ったらこぼれ落ちてきたのだ。
「私…もしかして事務所の皆さんにご迷惑を……」
「落ち着いて最上さん」
蓮はゆっくりとキョーコに近づくとそっとその頭を撫でる。
「丹羽さんに何を言われたのか大体想像はついてる。だけど心配はいらないよ」
「だって…」
「テレビ局の一プロデューサーとうちの社長、どっちが強いか分かってる?」
「…あ……」
「落ち着いた?怖かっただろう。もう大丈夫だ」
蓮に柔らかく笑われてキョーコも笑顔を作った。ごしごしと目をこする手を止められて、どこから取り出されたのかハンカチがそっと頬に当てられる。

すん、と鼻をすすりあげるとキョーコはようやく落ち着いたのか肩の力を抜いた。
「でも敦賀さんどうしてここに?」
「君が丹羽さんと食事に行ったと聞いてね…何かあったら困るから」
「ありがとうございます。でも…」
「共演者が丹羽さんの噂をしてた。ここは彼がよく使うホテルらしいんだ。"こういう時"に」
「え…?」
「さすがに部屋までは分からなかったけど、俺も運が良かったな。上から順番に覗いていったらちょうど最上さんに会えた」
蓮は笑顔で手を差し伸べた。
「さて、このまま下まで降りようか」
「はい…」
キョーコがおずおずと手を出すと温かく大きな手に包まれる。2人はゆっくりと長い長い階段を下りていった。

「なるほどね。やっぱり逃げてたのは気のせいじゃなかったのか」
「ごめんなさい…」
「いや、そんなこと言われたら仕方ないよ。理由が分かってほっとした」
「ほっと…?」
「最上さんは何も気にすることはない。それに、丹羽さんが何を言っても実力で黙らせればいいんだ。君の言った事は間違ってないよ」
「ありがとうございます」
「ついでにスキャンダルもドラマに悪影響なんて出ないって、試してみる?」
「試してって…」
「ちょうどここロビーの階だから。このまま出てったらきっと試せるよ」
蓮は笑いながらキョーコの手を包んだ指に少し力を込める。

「ちょちょちょっとあの、敦賀さん!」
「冗談だよ。それよりも今はこうやって2人でいる方がいい」
「なっ………でもあの、私も…」
「うん、今日はちゃんと送らせてね」
「はい…」
逃げている時は辛かったけど、捕まってみれば驚くほど安心して。

捕まったらもう、二度と逃げられないんじゃないのかしら…

そんなことを思いながら、キョーコは自分の手を包む温もりを感じつつゆっくりと階段を下りていったのだった。

(おしまい)

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コメントコメント


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ありがとうございました*^-^*

良かった!無事、キョコちゃん救出!一安心しました。
私以上に蓮さんが心の底から一安心でしょうね。
探してる間の蓮さんの焦燥感を想うと…全くもう丹羽め!ぎゃふんと言え!

捕まって驚くほど安心して、もう二度と逃げられないんじゃ…と予感を抱くキョコちゃん。
その予感、当たってそうだなぁ…(笑)

近いうち、捕獲されるだろうキョコちゃんを想像して一人ニマニマしてます。きゃー♪(ニマニマ)


ステキなお話、ありがとうございました~♪*^-^*

花 | URL | 2014/09/18 (Thu) 00:22 [編集]


Re: ありがとうございました*^-^*

> 花様

楽しいリクエスト、ありがとうございましたー!
蓮さん、探してる間にどれくらいだったかと言いますと
(大体想像がつくので記述は省きましたが)
車の性能を最大に引き出すくらいだったと。
きっとタイヤから焦げ臭い臭いがしたでしょう。

キョコさんしっかり捕まって、丹羽さんはお手上げ状態になったと想像していただければと思います!


ぞうはな | URL | 2014/09/19 (Fri) 07:47 [編集]